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出口は……

遅れてすみません!

Make Only Innocent Fantasy代表の三条 海斗です。

さて、EXITISも次の話で最終話となります。

ラストまで全力で行きたいと思います!

まだまだ稚拙な部分が多いですが、最後までおつきあいお願いします。

暗い廊下。

その道を血まみれの軍服を纏い、歩く一人の青年。

彼の歩いた道の後ろには多くの遺体が転がっていた。

みな、その青年と同じ色の軍服を着ている。

そう、彼らと青年は同じ軍の仲間だった。

いや、仲間というのはおかしいかもしれない。

この青年には仲間と呼べるものがいなかった。

そもそも青年は仲間を作ろうとしなかった。

人は裏切る。

幼き日の記憶が青年を狂気に走らせた。

青年が扉を開けると、その部屋にいた人間が青年を見た。

誰かはわからないが悲鳴を上げた。

青年はほぼ一瞬でその場にいた全員を殺した。

血の海が部屋を覆う。

「ついにここまで来たぞ……!」

青年が見つめるモニターには青い地球が映っていた。


 * * * * * 


「由紀! 応答しろ!!」

そう呼びかけても返事はなかった。

一階をざっと見まわしてみたが、由紀は一階にいないようだった。

二階に上ると、血を流し倒れている男の死体が目に入った。

「戦った後か……。」

刀に手をかけたまま進む。

敵がいないとも限らない。

廊下は一直線だった。

その廊下の一番奥、そこに由紀はいた。

「由紀っ!!」

「ほう、来たか。」

「お前は!?」

「私はアンドリュー・ブルックリンだ。」

「お前がアンドリュー・ブルックリンか! 由紀を放せ!!」

「離せばいいのだな。」

アンドリュー・ブルックリンはこちらに向かって由紀を投げてきた。

「くっ!」

俺は由紀を抱きしめて、受け止める。

「ごほっごほっ!!」

「大丈夫か!?」

「大丈夫……すこし、油断した。」

由紀は立ち上がると、アンドリュー・ブルックリンに向き合う。

「気を付けて。彼は……」

由紀の言葉の途中で、アンドリュー・ブルックリンは俺の目の前に飛んできた。

「なにっ!?」

「怜二!!」

「遅い。」

アンドリュー・ブルックリンの拳が俺の腹に叩き込まれる。

俺の体ははるか後方の壁に穴をあけたが、それでも勢いは止まらず、俺は二階から地面に落ちた。

「がはっ!」

『怜二!』

『怜二様!!』

「ぐっ……大丈夫だ……。それより、あいつは……!」

人を超えた身体能力。

つまりあいつは……!

「自分自身にエクシードウイルスを注入したのか……! くそっ!」

俺は勢いよく壁を伝い、二階へと向かう。

二階についた時には由紀とアンドリュー・ブルックリンが戦っていた。

アンドリュー・ブルックリンの手にはサーベルのようなものが握られていた。

「くっ!」

「どうした? “赤き閃光”。」

由紀のスピードにアンドリュー・ブルックリンはついてきていた。

それどころか、由紀を追い詰めているようにも見えた。

「俺も相手だ!」

俺はアンドリュー・ブルックリンにとびかかる。

俺を見たアンドリュー・ブルックリンの眼は紫色に染まっていた。

「はあっ!」

俺は刀を振り下ろす。

だが、その斬撃がアンドリュー・ブルックリンには届かなかった。

気づけば俺の体は宙に浮いていた。

「ぐっ!」

どうやら俺の斬撃がふれる前に俺のことを蹴り飛ばしたらしい。

「くっ!」

俺はもう一度、斬りかかる。

今度は由紀とタイミングを合わせ、斬りかかった。

もらった。

そう思ったが、アンドリュー・ブルックリンは由紀を片手でつかみ、壁へたたきつけると、回し蹴りで俺を蹴り飛ばした。

「がっ!」

「ぐっ!」

ふたりがかりで挑んでも、これほどまでに軽くあしらわれるとは。

「その程度なのか? イギナというのは。」

「ドーピングしている奴が何言ってやがる。」

「ドーピング? エクシードのことか?」

「紫色の目。それがエクシードの証なんだろう?」

「ドーピングではない。立派な実力だ。」

「実力? 人のことを操っておいてよく言うさ。」

「ほう……。私が人を操るだと? 面白い事をいう。」

「とぼけるな。エクシードウイルスはイギナと同等の力を与えられる代わりに命までもが親元のウイルスを注入したお前に操られるウイルスなんだろ? そして、そのウイルスの生成を桔梗 怜史は拒んだ。」

「なるほど。一通りの情報は知りえているようだな。」

アンドリュー・ブルックリンは不敵に笑う。

「だが、一つ分からないことがある。……どうしてお前がエクシードウイルスを完成させることができたんだ? 最初から作ることができたのなら、お前たちはウイルスだけ手に入れればよかったはずだ。それなのに、桔梗 怜史を連れてきたということはお前たちだけでは作ることができなかったということだ。ならば、なぜお前たちがエクシードウイルスを作ることができたんだ?」

「……地下の人間はいい実験材料だったよ。」

「……なに?」

「おかしいと思わないかね。宇宙で作られたイギナミラウイルスがどうして地球の、それも地下都市に蔓延したのかを。」

「……まさかっ! 地下都市中にウイルスをばらまいたのか!?」

「その通りだ! おかげでエクシードウイルスの研究は大幅に進歩した!!」

「そこまでして世界を手に入れたいか!!」

「ああ、手に入れたいとも! そして、すべての人間は私の前に屈服するだろう!!」

「神にでもなるつもりか!!」

俺はアンドリュー・ブルックリンに斬りかかる。

だが、やつはそれを片手に持ったサーベルでいとも簡単に防いでしまう。

鍔迫り合いがおきる。

だが、アンドリュー・ブルックリンの顔色は一つも変わらなかった。

「っ!」

「桔梗 怜史の夢、“04チャイルド”の力はその程度なのか? 私のエクシードの方が勝っているではないか。」

「だが、俺一人が相手じゃないんでね!!」

由紀が後ろからアンドリュー・ブルックリンに斬りかかる。

その斬撃が届くように見えた。

だが、アンドリュー・ブルックリンは振り向くこともせず、由紀を殴り飛ばした。

「がぁ!!」

「なっ!? 由紀っ!!」

「この程度で私を倒せるとは思わないことだ。」

「化け物かよ……。はぁっ!」

「ふん。」

キィンという音が響く。

「はあああああああああっ!!」

素早い連撃を繰り出す。

だが、アンドリュー・ブルックリンは片手に持ったサーベルですべて防ぐ。

「遅いな。」

「くっ!」

俺よりはるかにでかい図体をしているのに、スピードもパワーも俺よりも上だ。

もしかすると、スピードは由紀と同等、もしくはそれより速いかもしれない。

なんにせよ、俺のスピードでかなう相手じゃなかった。

「っ!」

「甘いな。」

サーベルにはじかれ、バランスを崩す。

アンドリュー・ブルックリンはその隙を見逃さなかった。

俺の腹に蹴りを入れてきた。

再び、俺の体は二階から落ちていく。

「がっ!」

.『怜二様!?』

「くそっ……!」

俺は立ち上がる。

だが、二階の穴にやつが立っていることに気付いた。

由紀をつかみ、立っているやつを。

由紀の手にはしっかりと刀が握られていたが、アンドリュー・ブルックリンは由紀を後ろからつかむようにしていたので、由紀は攻撃できないでいるようだった。

「動くなよ、EXITISの諸君。こいつの命が惜しければ武器を下ろせ。」

アンドリュー・ブルックリンはそう言い放つ。

「くっ!」

「聞こえなかったのか? 武器を下ろせと言ったのだ。」

『怜二様。ここは素直に従っていた方がいいでしょう。』

メイアがそう言った。

俺は刀を鞘にしまった。

「そうだ、それでいい。」

俺たちが武器を下ろしたことを確認すると、アンドリュー・ブルックリンは二階から飛び降りてきた。

「由紀をどうするつもりだ!?」

「人質だよ。だが、そうだな……。」

アンドリュー・ブルックリンは何かを考えているようだった。

得体のしれない悪寒が体に走った。

やばい。

「そこに生き残りの日本支部がいるだろう?」

「なっ……!」

『……僕ですか。』

「出て来い。」

アンドリュー・ブルックリンは冷たく言い放つ。

『……。』

通信機からは何も答えが返ってこない。

だが、どうすればいい。

「出てこないのならばこいつを殺すだけだ。」

『……。』

次の瞬間、車から朝比奈が降りてきた。

「朝比奈!」

ゆっくりと、アンドリュー・ブルックリンの目の前まで歩いていく。

「僕がコロニー評議会日本支部代表補佐の朝比奈です。」

凛として朝比奈は言い放った。

そこには何かしらの覚悟が見えた。


 * * * * * 


「お前か、なるほど。」

彼はどこか含みのある笑いをしていた。

僕を呼び出した目的はなんだろう。

「それで、僕に何の用ですか?」

「なに、お前に力をやろうと思ってな。」

彼はポケットから注射器のようなものを取り出した。

無針注射器のように見える。

「エクシードウイルスだ。これを注射すれば望んでいた力が手に入るぞ。」

「なるほど、見られていたわけですか。」

油断していた。

このコロニーは彼の領地のようなものだ。

「朝比奈! 受け取るな! 自我のないただの兵士になるぞ!!」

「黙っていろ。それともこの女が死んでもいいのか?」

僕は黙って手を伸ばす。

彼の顔に笑みが張り付く。

顔が笑っているだけだ。

笑顔のようで笑顔じゃない。

「……。」

これがあれば力が手に入る。

それがいま手の中にある。

目を閉じる。

ここまでのこと、思い返してみた。

彼らにあってからのことを。

阿部さん、桔梗さん、由紀さん、そして、メイアさん。

その人たちの顔が浮かんできた。

やっぱり、こうなるんだなぁ。

僕はそのウイルスを地面にたたきつけた。

これに感染機能があるのならば僕ら全員、彼の思うままだけど、レポートには“EXウイルス自体に感染機能はない”と書かれていた。

そして、このウイルスにはイギナミラ症候群の症状はでない。

感染機能はないだろう。

あるのならば、注射以外の方法でもできたはずだ。

「……確かに僕は力が欲しい。みんなを……大切な人を守れる力が。……だけど、人から与えられただけで、努力もしないで得る力なら僕はいらない。それに、僕は“怜二さん”たちのようにはなれない。」

由紀さんの目を見る。

アイコンタクトというやつだ。

由紀さんは少しためらったようにも見えたが、僕に刀を渡す形をとった。

「おとなしく注射していればいいものを。」

「あなたの思い通りにはさせない。それが僕が決めた答えです。」

僕は一歩踏み込み、由紀さんから刀を受け取り、彼に斬りかかった。

はたから見ればどれほど無様な構えだろう。

それでも僕はやるんだ。

「もらった!」

「遅い。」

彼の拳が僕の体に叩き込まれる。

僕の体は怜二さんの方へと飛ばされた。

「ぅぅっは!」

呼吸ができない。

防弾チョッキは来ているが、それも意味をなさなかったようだ。

「朝比奈!」

怜二さんが駆け寄ってくる。

「大丈夫か!?」

「ええ。ですが今はそれよりも!」

彼の方を見ると、苛立っているような顔をしていた。

感情がはっきりと出ていた。

よく見ると、腕の上の方の袖が切り裂かれ、血が出ていた。

僕の刀が当たったのだろう。

「私にあてるとはな。だが、その行動自体が誤りだ。」

彼が、サーベルを由紀さんの背中に当てる。

「ぐっ……。」

サーベルに赤い血が流れ始める。

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「死ね。」

次の瞬間に、由紀さんの胸をサーベルが貫いた。


 * * * * * 


「なっ……!」

血が地面に流れる。

その量は尋常じゃなかった。

由紀が死ぬ。

それは明白だった。

だが、体が動かない。

視界が暗く、動悸が激しい。

人の死を見てこうなったのは初めてだった。

「お前たちが招いた結果だ。」

サーベルが抜かれ、血がさらに多く流れる。

そして、アンドリュー・ブルックリンはまるでごみを投げ捨てるかのように、由紀を投げた。

「……っ! 由紀っ!!」

俺は由紀の体を受け止める。

「由紀っ! おい、由紀!!」

「れ、いじ……」

「由紀!」

その眼はだんだん、うつろになっていく。

「ご、めんね……」

「しゃべるな!」

由紀が手を伸ばす。

その手は俺の顔の方に向かってきていた。

だが、その手は俺に触れることなく、地面に落ちた。

「おい、由紀! おい!!」

由紀は返事をしなかった。

頭ではわかっているのに、それを認めたくない。

そして、それは怒りへと変わっていく。

「アンドリュー・ブルックリン……!!」


 * * * * * 


「貴様はっ!!」

怜二さんの髪の色が一瞬、青く変わった。

見間違いだろうか。

「ここで絶対に、殺す!!」

先ほどよりもはっきりと一瞬だけ色が変わった。

やはり、目と同じで色が変わっている。

一体、どういうことだろう。

目を離さずに見ていたはずなのに、怜二さんの姿が一瞬で消える。

怜二さんがいた場所には由紀さんがいるだけだった。

次の瞬間にはアンドリュー・ブルックリンの顔を殴り飛ばしていた。

「ぐっ!」

「まだだっ! こんなものじゃないぞ!!」

「“04チャイルド”風情が……!!」

「怜二さん!」

僕は由紀の刀を投げて渡す。

怜二さんはそれを受け取る。

「お前もここまでだ!!」

そういった直後、怜二さんの髪の色が青く変わった。

一瞬だけでなく、いまもはっきりと青くなっている。


 * * * * * 


「行くぞ!」

集中する。

世界が静止する感覚が深く、深くなっていく。

やはりモルテ鋼にはなにかあるのかもしれない。

だが、いまはそんなことはどうでもいい。

由紀を殺したこいつを殺さなければ気が済まない。

「はあっ!」

「くっ!」

アンドリュー・ブルックリンはサーベルで受け止めた。

俺はそれを確認すると、やつの反応速度より早く反対側へ向かい、斬りかかった。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

アンドリュー・ブルックリンは反応できず、腕が切り落とされる。

「まだだ!」

俺は最大限のスピードで右足、左足を切った。

切り落とすことはできなかったが、膝をつかせることができた。

俺の目の前で膝をついているアンドリュー・ブルックリン。

その様子をやつも予想していなかっただろう。

「お前が死ぬことで、お前が殺してきた人間の償いにはならないが……」

俺は刀を構える。

「お前は由紀を殺したことは死んでも償いきれないぞ。」

「や」

答えを聞く前に俺は横一線に斬った。

アンドリュー・ブルックリンの頭がごろんと地面に転がる。

斬った反動か、力が抜けたのか体が大きな音を立てて地面に倒れた。

俺は由紀の元へ急いだ。

俺は由紀を抱きしめる。

「くっ……!」

あれだけ心優しい少女が目の前で倒れた。

助けることができなかった。

とてつもない虚無感が襲う。

ああ、これが人が死ぬってことなのか。」

「うわああああああああああああああああああああ!!」

涙が止まらなかった。

メイアが俺の肩に触れるまでメイアが来たことにすら気づかなかった。

もう由紀の笑顔はみれないのか。

そう思った直後だった。

俺の体と由紀の体が光に包まれた。

「なんだ、これは……。」

不思議と怖くなかった。

むしろ暖かい、そんな風に感じられる。

「これは一体、どういうことでしょうか……。」

メイアが驚いた声でつぶやく。

その視線の先には由紀の傷に向いていた。

その傷跡がだんだんとふさがっていく。

完全に傷がふさがり、光が消えた。

「……っ。怜二……?」

「由紀っ!!」

俺は由紀の体を強く抱きしめる。

「よかった。本当に……よかった。」

もう聞くことができないと思っていた声。

その体から伝わる確かな体温が由紀が生きている証拠だった。

「由紀様……。」

「由紀さん……。すみません、僕のせいで。」

「ううん。朝比奈のせいじゃないよ。」

「でも……!」

「朝比奈は助けようとしてくれたんでしょ。だったら朝比奈は悪くないよ。」

「でも、一体どうして由紀は……」

あの光の正体は何だったのだろうか。

「それにしても驚きましたよ。今は元の色ですが、先ほどまでは髪の色が青色でしたからね。」

「髪の色が?」

「ええ。由紀さんの刀を受け取ってからはっきりと変わりました。」

「もしかして、地下都市の時と同じかな。」

「あの時も俺の髪の色が変わってたのか?」

「普通だったよ。でもこの刀を使って怜二の力が上がったのは一緒。」

「それじゃあ、どうして……。」

そこまで言った瞬間、コロニー中のモニターに見慣れた顔が映った。

「こいつは……!」

『コロニーの皆さんこんにちは。さて、いきなりですが、このコロニーに攻撃を仕掛けさせてもらいます。期限は24時間。それまでに私を倒さなければこのコロニーはなくなってしまいます。みなまで言わなくてもわかるよな? ここまで来い。決着を付けよう。待ってるぞ。』

「何を考えている……!」

「桔梗……怜一……。」

「桔梗……それってまさか!」

「ああ……あいつは桔梗 怜史の息子……“04チャイルド”だ。」

「それじゃあ、怜二さんの兄弟じゃないですか!」

「……俺にはやつが何を考えているのかわからない。だが、俺は行かなきゃいけないんだろうな。」

「どこにいるのかわかっているんですか?」

「やつは“ゼウスの雷”にいるはずだ。このコロニーを攻撃できるものなんてそれくらいしかない。」

「行こ……っ!」

由紀が立とうとして顔をしかめる。

まだ傷口が完治したわけではなさそうだ。

「無理をするな。とりあえず、今は部屋に帰ろう。」

「ごめん……。」

「気にするな。」

俺は由紀を抱える。

お姫様抱っこというやつだ。

「……!!」

由紀は顔を少し赤くしたが、何も言わなかった。

傷口が広がることを心配したのかもしれない。

俺はそのまま由紀を抱えて、車まで行った。

「怜二、大丈夫か?」

「ああ、すまない。心配かけたな。」

「いいさ。……由紀も無事でよかったよ。」

その声にはすこし、安堵している雰囲気が感じ取れた。


 * * * * * 


「大丈夫か?」

由紀をベッドに寝かせると、そう問いかける。

「うん、大丈夫。」

「そうか。でも今日は休んでおけよ。」

俺はそういうと、部屋を出ていく。

リビングには重々しい顔をしたメンツがそろっていた。

「ゼウスの雷……ね。やつはどうしてそんなところにいるんだ?」

「それはわからないな。俺だって怜一がそこを決戦場所に指定した理由が聞きたいくらいだ。」

「一体、何の意味があるんでしょうか……。」

「ゼウスの雷は私でも外部からアクセスすることはできません。あそこはいわばスタンドアロンですから。」

「外部と通信をしていないのか?」

「ええ。起動スイッチはあの中にあるもの、ただ一つだけです。」

「……ここにいても始まらない、か。それで、桔梗、どうする?」

「いつ行くのかってことか?」

斎藤は黙ってうなずく。

「さすがに、さっきの戦闘のダメージが残っているからな。出発は明日の朝にしよう。」

「わかった。それで準備しておくぞ。」

「頼む。」

一通り話し終わったころ、メイアが突然はっとした顔になる。

「どうした?」

「怜二様、地球からの連絡です。」

「なに?」

「つなぎます。」

通信機からあの声が聞こえてきた。

『やあ、桔梗君。ひさしぶり。』

「杤井……。無事だったのか。」

『なんとかね。それで桔梗君。検査の結果が出たよ。そこにみんないるかい?』

「ああ。」

『そうか。ちょうどいい、みんなも知っておいたがいいだろう。』

「それでなんだったんだ?」

『血液検査の結果をいえば君はあまりよくない状態だ。』

「よくない?」

よくないとはいったい、どういうことだろうか。

少なくともEXITISに入った時には異常はなかったはずだ。

『赤血球が減少し、血中マテリアが増加している。これは赤血球がマテリアに変わったといってもいいだろう。』

「そんなことが起きるのか?」

『僕も初めて見たよ。それくらい起きないことなんだ。あの時は30分ないくらいの時間だったのならば、単純計算で君はあと、1時間30分間あの状態で戦えば赤血球が0になるだろう。』

「死ぬのか?」

『わからないね。もしかしたら君自身がイギナミラウイルスになるのかもしれないし、君の言う通り死ぬのかもしれない。僕にはわからないよ。』

「……あと1時間30分はあるんだな?」

『単純計算で、だよ。実際はもっと少ないかもしれないし、多いかもしれない。それは僕にも断言はできない。』

「それだけでも十分だ。ありがとう。」

『君が無事に地球に帰ってくる日を待っているよ。』

そこで通信は終わった。

聞いていた面々は皆、深刻そうな顔をしていた。

「……このことは由紀には言うなよ。」

「わかってる。」

斎藤がそう答えた。

たぶん、わかっているんだろう。

由紀がこれを聞けばどうするのかを。

きっと、戦いに行くだろう。

無理をしてでも。

それだけは避けたかった。

「少し散歩に行ってくる。」

「ついていきます。」

メイアがそう言って俺の後についてきた。

ちょうどいいだろう。

俺は建物から出てコロニーの中をぶらっと歩いていた。

コロニーはコロニー評議会が全滅し、統率や規律がないような状態だった。

いわゆるパニック状態というのだろうか、全員が我先にとコロニーから逃げようとしていた。

それも仕方がないだろう。

逃げる時間があるだけまだマシな方だ。

「すごい人の量ですね。」

「仕方ないさ。今からここを攻撃しますって言われたら逃げ出したくなるものだ。」

「怜二様は怖くないのですか?」

「そうだな……。今は自分が死ぬより、由紀やメイアがいなくなる方が怖い。」

前までは思わなかったこと。

人の死がどれだけ悲しいかを理解したこと。

それが考え方に変化をもたらしたのかもしれない。

守らないと。

そういう思いが自分の中で強くなっている。

「私も同じようなものですね。怜二様がいなくなるのは嫌です。」

「……!」

「どうかしましたか?」

「いや、少し驚いただけだ。……まさか、そんなことが聞けるとは思っていなかったからな。」

「む、私だってそう思いますよ。」

メイアはすこしむっとした表情をする。

初めて会った時より表情や感情が豊かになった気がする。

いまでもアンドロイドとは思えない。

むしろ、人間としか思えない。

「すまないな。」

「いえ。」

メイアと二人であるいていると、展望台みたいな場所に出た。

「こんなところがあったのか。」

「いい機会です。行ってみましょう。」

メイアと二人で展望台の中へと入っていく。

展望台はガラス張りで、外の光が差し込んでいた。

その淡い光はいい感じだったのだが、ただ一つ難点があった。

コロニーは超高速回転しているため、外の景色が見えないどころがその場にずっといると気分が悪くなりそうだった。

俺は集中する。

キュインとした感覚がすると、景色がはっきりと見えてきた。

展望台からは地球がはっきりと見えた。

流星群が襲来してから年月が経っているというのに、地球は青かった。

「すごいな。」

「ええ。」

メイアにも同じ景色が見えているのかわからなかったが、その返答はすこしうれしかった。

ふと横を見ると、ゼウスの雷が見えた。

あそこに桔梗 怜一がいる。

そう思うだけで、禍々しいオーラがゼウスの雷から出ているような気がした。

「……すこし、トイレに行ってくる。」

そう言うと俺はその場を後にした。


 * * * * * 


怜二が立ち去った後、メイアはそのまま景色を見ていた。

メイアは外の景色は見えていた。

だから、怜二がなにを見ていたのかも、何を見たのかも知っていた。

「やはり、あなたは……。」

怜二がEXITISに入ってからメイアはずっとサポートしてきた。

だから彼が何を考えているのかも大体わかっているつもりだし、どうするのかもわかっているつもりだった。

「……!」

メイアがはっとした表情になる。

「はい。……わかりました。」

そう返事をすると、メイアはようやく振り返る。

怜二の姿は当然、どこにもない。

メイアはちらっと横を見た。

そこには大きく“WC”と書かれていた。

「残念ながら……トイレはそちらではないのですよ。」

そういうとメイアは展望台から立ち去った。


 * * * * * 


人でごった返す宇宙港に一人、歩いていた。

当然、誰にも知らせていない。

俺はエレベータを降りて3番ポートへ向かう。

目を閉じると、いろんな人が思い浮かんできた。

『引き続き、由紀の捜索を続行しろ。』

黒田上官。

『彼はイギナだ。それも不思議なことに“イギナミラ症候群にかかったことのないイギナ”だ』

栃井。

『どんなにつらいことでもどんなに認めたくないことでも逃げちゃだめだ。どんな事実であれ、君は人間だ。自分を見失わないでくれ。』

如月。

『やつは拒んだんだよ。自分の研究が悪用されるのがわかったから。あいつは最後まで自分を貫き通したんだ。』

阿部。

『戦う方法は人それぞれだ。俺たちは俺たちの戦いをするだけだ。お前にもできることはあるはずだ。』

斎藤。

『……確かに僕は力が欲しい。みんなを……大切な人を守れる力が。……だけど、人から与えられただけで、努力もしないで得る力なら僕はいらない。』

朝比奈。

『案内役を仰せつかりました、メイアと申します。』

メイア。

『怜二、大丈夫?』

ああ、大丈夫だ。

心の中でそうつぶやくと、由紀の笑顔が浮かんできた。

引き返せない。

もしかしたら帰ってこれないかもしれない。

でも行かなければならない。

それが、俺に託された最後の戦いだと思うから。

もうすでに過去の戦いは終わった。

だから現代いまの戦いを終わらせなければいけない。

「……行くぞ。」

エレベータの扉が開く。

電気が消えていて、暗い通路を一人であるく。

やけに足音が大きく聞こえた。

俺は宇宙服を着るために準備室の扉を開けた。

「お待ちしていました、怜二様。」

「な、メイア……!」

そこんにはメイアがいた。

『メイアさんだけでなく、僕たちもいますよ!』

『ほら、桔梗! さっさと準備しろ!!』

「朝比奈……斎藤……。……ばれていたんだな。」

「貴方とどれだけ一緒にいたとお思いですか?」

「そうか。」

「一人では行かせません。」

メイアはまっすぐに俺を見ていった。

その眼は真剣そのものだった。

「……わかったよ。黙っていこうとして悪かった。」

「いいんです。」

俺は宇宙服を着ると、宇宙船に乗り込んだ。

「怜二……。」

「由紀もいたのか。」

「うん。やっぱり一緒に行きたいから。」

「そうか。」

「怜二さん、それじゃあ号令をお願いしますよ。」

「びしっと決めろ!」

斎藤のその一声で静かになる。

俺が言うのを待っているようだ。

「……よし。みんな、行くぞ!」

「「おおっ!」」

船が決戦の地へと動き出した。

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