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Exceed

どうもMake Only Innocent Fantasy代表の三条 海斗です。

話数もとうとう二桁になり、話数も残り2話(予定)となりました。

みなさん、稚拙なところまだまだ多いですが、最後までおつきあいお願いします。

とある公園。

僕は一人ブランコをこいでいた。

正直、まだ全然理解できていなかった。

「こんなところにいたのか。」

その声がして前を見ると、桔梗さんが立っていた。

「すぐに来てほしい。お前の力が必要だ。」

桔梗さんはそう僕に言うが、僕は何をする気にもならなかった。

「朝比奈?」

「僕が言ったところで何にもなりませんよ。」

そう毒づく。

実際、僕は彼らのように力があるわけでもなければ、別段頭がいいわけでもなかった。

「コロニーに関してはお前ほど詳しいやつはいない。頼む、力を貸してくれ。」

「……!」

なぜか妙にイライラしてきた。

「僕のことなんて、ほっといて下さいよ!」

それが自分に対してというのはわかっている。

それでも我慢ができなかった。

「桔梗さんはわからないでしょうね! 僕は今さっきまで一緒にいた人が死んだんですよ! それが怖いんですよ! 死について希薄な桔梗さんに僕も気持ちがわかりますか!!」

言ってはいけないことを言ってしまった。

「……。」

桔梗さんは黙って近づいてくる。

その眼は本気だった。

その次の瞬間には僕の顔にこぶしが当たる。

それは強烈な一撃だった。

「お前がどう思おうと構わない。人が死んで悲しいという気分に浸りたいならそれで構わない。だが、それで行動を起こさないのは違うだろ。」

僕は立ち上がると、桔梗さんの顔にこぶしを叩き入れた。

初めて人の顔を殴ったかもしれない。

桔梗さんは地面に倒れこんだ。

「あなたに何がわかるんです! 力を持っているあなたに! 僕には貴方みたいな力もないんですよ! 力を持っているあなたに力を持っていない人間の気持ちがわかるんですか!!」

桔梗さんは立ち上がると、僕の体にこぶしを叩き込む。

「がっ!」

「わからないさ! そんなところでくよくよしてる人間の気持ちなんか! 大体、俺がお前の何がわかるって言うんだ!! 慰めてほしいのか!? 無理をするなって言ってほしいのか!? そんなこと言って何かが変わるって言うのか!?」

「それでも!!」

「ぐっ!」

「僕だってやりたいんですよ! 進みたいんですよ! だけど! いやというほど実感させられたんですよ! 自分の無力さに! 僕はあなたほど強い人間じゃない!!」

「力だけがすべてじゃないだろ!」

「それは力を持っているから言える台詞なんですよ!!」

桔梗さんと僕が互いに拳を繰り出す。

「二人とも、やめて。」

桔梗さんと僕の間に入って二人の拳を受け止める少女。

それは由紀さんだった。

「由紀、どうしてここに?」

「由紀様が怜二様の帰りが遅いと心配していましたから様子を見に来たんです。」

その後ろから現れる長い髪の少女。

それは僕が役所に案内したあの少女だった。

「メイア……!」

「怜二も朝比奈も、もうやめようよ。ここでけんかしてたっていいことないよ。」

由紀さんは少し悲しそうな顔をした。

「……わかったよ。」

怜二さんは拳を下ろす。

それと同時に僕も拳を下ろした。

「それでは帰りましょう。」

桔梗さんが先に歩いていく。

僕はすこし、距離をとって歩き始めた。

「ねぇ、朝比奈。」

ふと、由紀さんに呼び止められた。

「なんですか?」

由紀さんは少しつらそうな顔をしていた。

「私たちはなりたくてイギナになったわけじゃない、望んで手に入れた力じゃないよ。」

「……わかっています。僕も言い過ぎました。」

「わかった。……それじゃあ、帰ろう。」

桔梗さんたちの部屋につくまでの間、由紀さんの言葉が僕の胸に突き刺さっていた。

正直、今の僕は屑だと思った。


 * * * * * 


「お、二人ともって……またまたすごい顔だな。」

「少し殴りあっただけだ。」

「お前が? それは少し珍しいな。」

「俺だって喧嘩のひとつやふたつ、やるさ。」

「といっても朝比奈相手に殴り合いとはな。」

「何がおかしい?」

「いや、お前も丸くなったなと思ってな。」

斉藤はそういうとにたにたと笑っていた。

「よくわからないやつだ。」

俺は冷蔵庫の中から氷を適当に取り出すと、タオルでくるんだ。

それをもう一つ作り朝比奈に渡す。

朝比奈は礼を言って受け取ると、顔に当てた。

「痛っっ……。」

氷を当てた瞬間、朝比奈はそう悶絶した。

俺も氷を顔に当ててみる。

「っ……!」

かなり痛かった。

その様子を見てメイアと由紀が二人で笑っていた。

それからしばらく氷で顔を冷やしていた。

氷がとけ、水に変わったころ。

俺は作戦を立て始めた。

「どうなさいますか?」

「正面突破をすればイギナたちが軍隊でやってくるかもしれない。今日戦ったやつと同じ強さだったらひとたまりもないな。」

「二つに分けたら?」

「そうすると、比重は囮役の方に傾く。別働隊はおそらく一人になるだろう。」

「だとするならば、一人でも大丈夫な方ということになりますね。」

「……由紀しかいないだろうな。」

「ならば、囮役は怜二様と私がやる、ということですか?」

「そうだな。だが、お前は後方支援に徹してくれ。前線に出てきても、まともに戦える相手じゃない。」

「それでは狙撃のみということですね。」

「ああ。俺のライフルを使え。」

「わかりました。」

「私はどうすればいい?」

「由紀は俺たちが正面でひきつけてる間に裏から攻めてほしい。……メイア、アメリカ領事館周辺の地図はわかるか?」

「ええ。」

「裏からはどうやっていけそうだ?」

「少々人間離れしていても?」

「かまわないさ。」

「コロニーのシャフトから飛び降りれば、領事館の裏にある高台に着地できます。そこからならコロニーの中へいけるでしょう。」

「どのくらいの高さだ?」

「10mくらいでしょうか。」

「由紀、いけそうか? 無理ならほかの方法を考えるが……。」

「大丈夫。」

「わかった。……それと、朝比奈。」

「何ですか?」

「領事館の地図を出せるか?」

「アメリカ領事館の地図ですか。少し待っててくださいね。」

朝比奈はタブレットを操作しはじめた。

「でました。こちらですね。」

朝比奈はタブレットを壁にむける。

すると壁に地図が出てきた。

どうやらプロジェクターになっているらしい。

「アンドリュー・ブルックリンがいるのは二階一番奥の執務室です。」

地図の一番後ろ、少し広く取られた部屋に執務室と書かれていた。

どうやらここにアンドリュー・ブルックリンがいるらしい。

「窓は強化ガラスになっていますから、破るのは困難でしょう。」

「一階から向かうしかないわけだ。」

「それと、外の警備状況ですが……」

画面が切り替わり、今度は門から玄関までの地図が映し出された。

「こことここに見張りがいます。」

そういうと地図の二箇所に赤い丸がつく。

そこに見張りがいるということだろう。

「だったら俺が門から正面突破を仕掛けよう。中から警備隊が出てきたらメイアが見張りを狙撃。由紀はそのときに、シャフトに上って裏から侵入を試みてくれ。裏口なんて使えないだろうから壁に穴を開けるなり、して進入したほうがいいだろう。」

「俺と朝比奈はどうする? ここで待っておくか?」

「斉藤と朝比奈はメイアのサポートを頼みたい。もし、俺が対処し切れなかった場合はメイアを連れて逃げるんだ。」

「……わかった。」

「作戦は明日決行しよう。……今日はさすがに疲れた。」

「私も眠いかも。」

「俺も休ませてもらうよ。」

そういうと俺はベッドが置いてある部屋へと向かった。

ベッドに横になると、睡魔がすぐに襲ってきた。


 * * * * * 


「メイアさんは休まないんですか?」

僕はそう尋ねてみた。

時刻はすでに午前1時。

僕とメイアさん以外はみんな寝静まっている。

「ええ。私は大丈夫です。」

「そうですか。無理はしないでくださいね。」

僕は彼女の顔を見てみる。

やっぱり整った顔だと思う。

「……? どうかしましたか?」

「え? ああ、いえ、なんでもないです。」

「そうですか。」

「……メイアさんは桔梗さんのことをどう思っていますか?」

「どう思っている、とは?」

「尊敬しているとか、好きだとかそういう感じです。」

実際、聞いてみたかった。

メイアさんはあまりそういうことを言わなさそうな人だったからというのもある。

「そうですね……。」

メイアさんは考えるしぐさをする。

う~んと言いながら考えてるさまは絵になると思う。

「大切な人だと思っています。」

「それはまた……直球ですね。」

「怜二様が最初EXITISに来られた時からずっと一緒にいますから。守りたいと思っています。」

「好きだからとかそういうのじゃなくて、ですか?」

「どうでしょうか。自分でもよくわかりません。」

「でも、なんだかわかるような気がします。その気持ち。」

家族とか友人とか、そういうのを助けたいと思う気持ちと同じなんだと思う。

メイアさんにとって桔梗さんがたぶんそういう存在なのだろう。

「いい信頼関係ですよね。メイアさんと桔梗さん。」

「そういっていただけるのはうれしいです。」

それから僕はメイアさんと他愛のない話をしていた。

明日、作戦だというのに不思議と緊張がほぐれていくような、そんな感じがした。


 * * * * * 


「よし、行くぞ。」

白い軍服を身にまとい、アメリカ領事館の前に立つ。

荘厳な門の前に立つと、妙に緊張してくる。

「……」

呼吸を整える。

「はぁっ!!」

俺は門の扉を思い切り殴り飛ばした。

扉ははるか後方まで飛んでいく。

その直後に鳴り響く警報。

作戦通りだ。

警備隊が出てきたのを確認すると、俺は門をくぐる。

そろそろメイアが狙撃をし始めるころだ。

そう思った直後、銃声が鳴り響き、監視塔から落ちていく監視兵。

「さすがだな。」

『それほどでもありませんよ。』

通信機からメイアのその声が聞こえてくる。

もう一人の監視兵も同様に倒されていった。

「ここからは俺の任務だ。」

鞘から刀を抜く。

キュインという感覚がすると、世界が静止する。

ふと刀を見ると、なにやら波動が出ている。

キィィンという甲高い音はこういう風に見えるのか。

前を見ると、警備隊が銃撃を開始していた。

俺は刀で銃弾を切り裂く。

何十発という銃弾が俺に飛来してくるが、そのどれもが俺に当たらない。

「……。」

「ば、化け物だ……!」

警備隊がそう口々に言い始める。

どうやらこいつらは昨日のようなイギナではないらしい。

むしろ普通の人間のようだ。

俺はゆっくりと、近づいていく。

弾倉を交換し終えた警備隊が再度発砲してくるが、俺は飛んでくる銃弾を切り落とす。

「はあっ!」

刀を横一線に振る。

警備員の何人かが血を流し倒れていった。

「次はどいつだ?」

「くっ! うぉぉぉぉ!!」

警備隊はナイフを取り出すと、白兵戦を仕掛けてきた。

「はっ!」

刀を振り下ろす。

キィンという甲高い音がした。

「ぐぅ!」

「驚いたな。防いだのか。」

そのままつばぜり合いをする。

これならば時間稼ぎにもなるし、ほかの警備隊は俺の相手にあたる可能性があるから発砲してこない。

「(由紀、頑張れよ。)」


 * * * * * 


「……。」

じっと、地面から伸びた柱の前で待機する。

『さすがだな。』

『それほどでもありませんよ。』

通信機からその声が聞こえてきた。

それが合図だった。

タンと強く地面を蹴り、柱を駆け上っていく。

ちょうど半分を超えたところ。

そこから領事館に向かって飛び降りた。

ふわっと体中をつつむ浮遊感。

だが、直後に体は地面にひきつけられる。

地面がどんどん大きくなっていく。

タイミングを合わせ、着地すると、そのまま領事館に向かって跳ぶ。

白い壁がどんどん大きくなっていき、そこで私は鞘から刀を抜いた。

「はぁっ!」

刀で何度も壁を切り裂き、穴を開ける。

そこから領事館の中に入った。


 * * * * * 


『領事館の中に入った。』

由紀からの通信が入る。

どうやら順調に進んでいるらしい。

「……っ!!」

俺は男を飛ばし、横に飛ぶ。

すると、先ほどまでいた場所に大きな岩が飛んできた。

領事館のほうへ目をやると、おくから警備隊らしき人間が三人ほど出てきた。

そいつと目が合った。

その目の色は紫色だった。

「イギナかっ!?」

あとから出てきた人間は全員、同じ眼の色をしていた。

三人同時となると、少しきついものがある。

それでもやるしかなかった。

「メイア、準備は?」

『いつでもどうぞ。』

俺は刀を構えなおす。

男たちも同じようにファイティングポーズをとった。

「また武器なしか。」

じっと、にらみ合いが続く。

その沈黙を破ったのは警備兵が去っていく音だった。

「はっ!」

「……。」

刀と拳がぶつかる。

しかし、キンという音を立てただけで腕を切ることはできなかった。

「鉄甲かっ!!」

「……。」

男は無表情であいている手を握り、俺に叩き込もうとする。

俺は男を蹴り飛ばす。

すぐさま別の男が、俺に殴りかかってきた。

「くそっ!」

ふたりの男が俺に飛び掛ってくる。

だが、一人の男は俺の目の前で力なく倒れた。

『命中。』

どうやらメイアが狙撃したようだ。

「おらっ!」

俺はもう一人の男の頭に蹴りを入れる。

ゴキャッという何とも言えない音がし、男は地面に倒れる。

だが、男はあらぬ方向に向いた首を無理やり元に戻す。

さらに何とも言えない音が響く。

男の首は元の方向に戻っていた。

「俺たちより、あいつらの方がよっぽど化け物だろ……。」

首を元に戻した男はもう一度、俺に向かってくる。

俺はまっすぐ前に跳ぶ。

それを見越してなのか、男は俺にこぶしを繰り出した。

男の攻撃を体を無理やりひねって避け、すれ違い際に刀を抜く。

男は止まることなく、まるで吸い込まれるように刀身に当たっていく。

男と俺が着地すると、男の体は腰から上が、地面に落ちた。

「ラストっ!!」

最後の男は腕を組み、まるで一騎打ちになるまで待っていたような雰囲気だった。

今までのとは違う。

直感がそう告げた。

「あいつは一騎打ちをお望みらしい。メイア、手を出すなよ。」

『了解しました。』

俺は刀を構える。

かちゃっという小気味いい音がした。

俺が構えると男もファイティングポーズをとる。

じりじりと相手の出方をうかがう。

こいつは今までのやつとは違い、やみくもに攻撃を仕掛けてくるような奴ではなかった。

だが、目は確かに紫になっている。

同じだが違う。

矛盾したなにかがそいつにはあった。

「……。」

「……。」

にらみ合う時間が続く。

何がきっかけになったのか、互いが攻撃し始めた。

「はぁっ!」

「……。」

キンという音が響く。

「……! はっ!せいっ!」

「……。」

できる限りの高速の連撃。

だが、男はそれについてくるだけでなくしっかりと攻撃を防いでいた。

常人から見たら音だけが聞こえるだろうその攻撃。

キンキンという音が響く。

時間にして2秒にもみたない攻防。

それに執着を付けたのは男の方だった。

男がタイミングを合わせ、俺の刀をはじく。

俺はバランスを崩し、すこし無防備な体勢になる。

「しまっ……!」

すかさず男は俺の腹に一撃を入れる。

俺の体は後ろに殴り飛ばされた。

「がはっ!」

『大丈夫ですか!?』

メイアの慌てた声が聞こえる。

あいつの慌てた声を聞くのは最近のことなのに久しぶりのような気がする。

「大丈夫だ。」

俺は刀を杖代わりにして立つ。

意外とダメージがあるが、戦えないほどじゃなかった。

「……ほう。」

男がつぶやいた。

「やっぱり、お前……自我があるな?」

「気づいていたか。」

「今まで奴等とは違ったからな。……お前たちは何者だ?」

男はふっと笑う。

「知りたければ俺を倒すことだ。」

「決まり文句を言ってるんじゃないぜ。」

じっとにらみ合う。

今度はどちらも何がきっかけというわけでもなく、同時にとびかかった。

「はぁっ!」

「ふっ!」

キンという音が響く。

すると、男は素早く連打を繰り出してきた。

「くっ!」

キンキンという音が何度も響く。

さすがに両手と一振りではじわじわと追い詰められていく。

「ぐっ! 図に乗るな!!」

俺は足払いをして男のバランスを崩し、刀の柄で殴り飛ばす。

「ぐぅ……。」

「答えるなら今のうちだぞ。言え! お前たちは何者だ!?」


 * * * * * 


領事館の中。

外と比べると中は静かだった。

いや、静かすぎた。

人がいないのか、話声の一つすらしない。

適当に扉を開けてみても、そこには誰もいなかった。

「……どういうこと?」

不思議なことに部屋には人がいた形跡すらなかった。

私は階段を上り、二階へと向かう。

長い廊下の向こう。

ふたりの男が立っていた。

暗闇に不気味に光る紫の眼。

地下で会ったイギナと同じだった。

「……!」

ひとりがものすごいスピードで迫りくる。

私はタイミングを合わせ刀を抜く。

男はそれを避けた。

「……。」

男はじっとこちらの様子をうかがっている。

私は地面を強く蹴り、前に跳ぶ。

男は避けようともせず、こぶしを繰り出してくる。

それをかがんで避け、ひじのあたりを刀で切り裂く。

男は痛みに悶えることなく、もう片方の手で攻撃してきた。

「くっ……。」

私はそれを転がって避ける。

男は地面にかがんでいる私に攻撃を仕掛けてきた。

それを横に飛んで避ける。

体勢を立て直さなければ防戦一方になる。

「っ!」

ごろごろと地面を転がり、距離をとった。

起き上がると、男に向き合う。

男は攻撃するためにとびかかってきた。

「……ふっ!」

横一線に刀を振る。

男の手がキンという音を立てたが、モルテ鋼の刀はその鉄甲を切り裂いた。

これで、男は両手が使えなくなった。

私はそのままの勢いで、男の喉元に向かって刀を振った。

男の首はごろんと地面を転がった。

「次は貴方。」

「……。」

男はまるでその男が倒れるのを待っていたかのようだった。

「……あなた、何者?」

私はそう問いかける。

返事はなかった。


 * * * * * 


「すこしはやるようだな。」

「質問に答えろ。お前たちは一体何者だ?」

「一つだけ答えてやろう。俺たちはエクシードといわれている。」

「エクシードだと?」

「他に聞きたいのならば俺を殺さず動けなくするんだな!」

「っ!」

とっさに横に体をひねる。

男の拳が空を切る。

俺は後ろに跳び、距離をとった。

「……無理難題を言う……!」

そう毒づいてみても現状は変わらない。

こいつから得られる情報は得ておかなければ。

正体不明のイギナがエクシードということはわかった。

つまり目が紫になるイギナは全員エクシードということか。

それにしても数が多すぎる。

一体、エクシードとはなんだ?

「他のことを考えている余裕があるのか?」

「くそっ!」

繰り出される攻撃を避けつづける。

イギナの力を使っていても体勢がしっかりしていなければ避けるのが精一杯だ。

相手の攻撃がやんだ一瞬の間に後ろに跳び距離をとる。

こいつの技術はすごい。

CQCとも見て取れるその動きは軍人のようだった。

いや、たぶんこいつは軍人なのだろう。

だから戦うんだ。

こいつなりの信念をかけて。

この戦いの間はそう思っていよう。

だから俺も覚悟を決めるんだ。

「……どういうことだ?」

刀を鞘に納め、その刀を地面に置いた俺を見て、男は不思議そうにそう言った。

「お前を殺さずにっていうのは刀じゃ無理だ。だから俺も……」

自分なりのファイティングポーズをとる。

左手を開いたまま前に、右手を握り、胸のあたりに構えた。

「同じ条件で戦うだけだ。」

「ほう……。」

男は鉄甲を外すと、それを地面に置いた。

「ならば俺もその状態で戦おう。」

「行くぞっ!」

俺は地面を強く蹴る。

すこし地面がへこんだ気がしたが、俺の体は前に勢いよく飛んでいく。

「来い!」

男も俺の方へと飛んできた。

「はぁっ!」

「ふっ!」

「ぐっ!」

「がっ!」

攻撃を防いでは繰り出し、当たっては反撃する。

その繰り返しだった。

「ぐっ!」

「がっ!」

たがいの拳が同時に顔面に入り、どちらもが後ろに殴り飛ばされた。

「はぁ……はぁ……。」

「ぜぇ……ぜぇ……。」

互いに構える。

きっと、これが最後の攻防になるだろう。

「はあああああああああっ!!」

「せええええええええええい!!」

ふたりの拳が交差した。


 * * * * * 


激しい攻防が続いていた。

壁に穴が開き、扉は切り裂かれ、装飾品などは見るも無残な形になっていた。

「くっ!」

「……。」

「はあっ!」

私が斬りかかると男はそれを避ける。

かすりもしなかったのは怜一を除いて初めてだった。

「……あなた、もしかして……。」

さっきから持っていた違和感。

この男は攻撃を避けるのだ。

それは先ほどの男とは違った。

「意識があるの?」

「……さすがは“赤き閃光”ですね。」

「やっぱり。どうして意識がない振りをしていたの?」

「あなたが油断をするかと思いましてね。いやいや、こうも早く見破られるとは。」

「あなたたちは一体、何者なの?」

「“エクシード”とだけ答えておきましょう。」

「エクシード?」

聞いたこともない単語だった。

「気にしていても無駄ですよ。それにしても“赤き閃光”……きれいな顔をしていますね……。」

ゾゾゾっ。

鳥肌が全身に立った。

少し寒気もする。

「おや、ひどい。」

負けられない。

「でも……」

こいつはあいつじゃない。

そして、“彼”でもない。

「貴方は彼らじゃない。だから勝てる。」

「ここまで一撃も当てることのできなかったあなたが、私に勝てると。」

「“赤き閃光”の名。思い知らせてあげる。」

暗闇に赤い目が光った。


 * * * * * 


「ぐぅぉ!!」

勢いよく後ろに飛んでいく男。

それを俺は見つめていた。

最後の攻防。

俺の拳が、先に男の顔に入った。

だが、男の拳は俺の左腕を持っていった。

激しい痛みがする。

どうやら折れているらしい。

「ぐっ!……俺の勝ちだ……! さあ、言え。エクシードとは何だ!?」

「……約束だ。答えてやろう。」

男は起き上がることもせず、地面に大の字になったまま話し始めた。

「エクシードというのはエクシードウイルスによって作られた人工的なイギナだ。」

「人工的なイギナ?」

「ああ。イギナミラ症候群に罹ることもなく、イギナミラ症候群の症状もなく、人をイギナへとするウイルス。それは注射器によって直接、入れられた。」

「まて。それじゃあ、エクシードウイルスを入れられた人間は全員、エクシードになるっていうのか?」

「ああ。失敗したという話は聞いていない。だが、あの意識のないエクシードが失敗なのだろう。」

「それじゃあ、お前たちに自我が残っているのは自然的なことで作為的に自我がなくなっているわけじゃないんだな?」

「ああ。だが、彼らは誰かの命令を聞いてるかのような統率された動きをする。それは俺ではなくもっと別の誰かが命令しているような、そんな気がする。」

「その命令者はだれかお前も知らないんだな?」

「ああ。俺は知らない。」

「それじゃあ、エクシードウイルスを作ったのは誰だ?」

「アンドリュー・ブルックリンだ。」

「やっぱりか。」

「心当たりがあったのか?」

「ああ。」

あの男は桔梗 怜史が死んだ後も研究をつづけ、本来の目的であったエクシードウイルスを精製したのだ。

「俺は桔梗 怜史の息子だ。」

「桔梗 怜史だと……!?」

「知っているのか?」

「俺はその男を監視していた監視兵だった。」

「なにっ!?」

「それじゃあ、お前が桔梗 怜一か?」

「いや、俺は桔梗 怜二だ。……二人目の息子だ。」

「あいつにもう一人、息子がいたとはな。ということはお前、人造人間だな。」

「ああ。」

「そうか。」

「教えてくれ。あいつは桔梗 怜史はどんな人間だった?」

「息子思いのやつだった。どこか抜けていて、だが、芯はしっかりしている。不思議な男だったよ。」

「そうか。」

「これも運命か。まさか、あいつの息子に倒されるとはな。」

「息子……か。俺はあいつの顔を見たことはないんだがな。」

「それはすま……ぐっ、ごぉ!」

「どうした?」

男が突然苦しみだした。

「おい! しっかりしろ!!」

「ぐぅぉ……!!」

手を上に伸ばす。

だが、その手は力なく、地面へと倒れる。

「おい! しっかりしろ! おい!!」

男は何も答えなかった。

イギナの力を最大限まで集中してみる。

男から音は出ていなかった。

つまり、心臓が鼓動していない。

「殺されたのか……!」

だが、男が攻撃された様子はなかった。

つまり、それが意味するのは……。


 * * * * * 


「しゃべりすぎたな。」

男の断末魔が聞こえる執務室。

そこにはまるで日常茶飯事のことのようにたたずむアンドリュー・ブルックリンがいた。

その眼は紫にそまり、感情がない冷たい目をしていた。

「さぁ、そろそろ来客には帰ってもらわねば。」

そう言いつつもアンドリュー・ブルックリンは机の前から動かない。

すると、乱雑に扉が開かれた。

いや、ぶち破られたの方が正しいだろう。

男の体が一緒に飛んできた。

その体は幾重にも切り刻まれ、服は血に染まっていた。

「……アンドリュー・ブルックリンだな。」

「EXITISの“赤き閃光”が来たか。……くっくっく。」

「何がおかしい?」

「いや、私も……」

その眼が由紀を見る。

由紀は少したじろいだ。

これほどまでに冷徹な目は見たことがなかったからだ。

だが、次の瞬間にはアンドリュー・ブルックリンは由紀の目の前に来ていた。

「なめられたものだと思って、な。」

「っ!」

由紀がとっさに後ろへ飛ぶが、間に合わず、由紀の首をつかみ持ち上げた。

「さあ、“04チャイルド”。戦いを始めようか。」

アンドリュー・ブルックリンの顔には狂気に満ちた笑顔が張り付いていた。


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