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仲良くしようよ!  作者: つられるクマー
2章、名前を決めよう
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7.名前

説明回、再び。

 それからミィたちがこの街に滞在するという3か月の間、私とミィは敷地からは一歩も出ずに、屋敷とその庭を往復する生活であった。

 私は常にミィのいる場所に居たし、ミィも私が側に居る事が自然な事だと思っているようで、その事にエリザベータは微笑ましいという顔をしていたが、ワーズの方は少しだけ苦い顔をしていた。

 まあ、私は危険とされているモンスターだからワーズの表情も仕方のないものだろうが、それでもミィが大切であるという事は一致しているのだから、仲良くなりたいものである。


「――ホタル」


 ミィが私の名前を呼んで微笑んだ。

 私は何か用があるのかと尋ねるが、ミィは答えずににこにこと私の名前をもう一度呼ぶ。

 私の名前を呼ぶのがここ数か月のお気に入りらしく、私の名前が決まってから時々、ミィは私の名前を何度も呼ぶ。未だに意味がわからないのだが、私の名前を呼ぶ事がミィの用事なのだそうだ。


 そう、私の名前が決まったのだ。

 私の名前はホタル。ミィが名前決めに行き詰った時に、私が気晴らしにと話したものからとったものだ。


 話は私の持っている記憶から掬い取ったモノであったのだが、おそらく私が亡霊――ウィルオウィスプになる前の生き物であった時の記憶であろう。

 私がウィルオウィスプとして自分を感じるより遥かに昔、私には顔があり、手があり、足があり、目も鼻も口も耳もある、生き物であったのだ。

 なぜその生き物であった私がモンスターになったのかはわからないが、それは今は置いておこう。


 どのくらい昔なのかはわからないが、生き物であった私はいつも大きな人と一緒に居た。

 その人と手をつなぎ、身体から生えた2本の足を使い、歩いていた。

 私はその大きな人が大好きだったようで、私は自分の口で話をし、耳でその大きな人の言葉を聞いていた。

 ミィに話したものはその人との記憶であり、私の名前になった記憶はこういうものだ。


…ミィに少し言われたが、私の説明が下手なのは勘弁してもらいたい。


 私がその大きな人と一緒に小さな森へと出かけた時の話だ。

森の中にはひとつの川が流れており、なぜかその一部に細かい目の網が張ってあったのだ。

 川の中にではなく川を含めて森の一部を覆うような網に、空を泳ぐ魚でもいるのだろうかと思った私は大きな人に質問をしたのだ。

 すると大きな人は「夜になればわかるよ」と教えてくれて、その夜を過ごす為に私は夜まで寝る事にしたのだ。

 そう、その時の私は生き物であったから、睡眠が必要だったのだ。だから、夜寝なくていいように夜まで寝たのである。

 それは今はいいか。そうか。そうだな。

 夜になると大きな人は私を起こし、そしてその森の網の近くへと私を連れて行ってくれた。

 少し寝ぼけていた私は、大きな人に促されるまま網の中に入り―――眠かったはずの目はすっかり覚めて、その景色に感動したのだ。


 川の側の草木の葉にたくさんの小さく光るそれは、夜空の星々が地上に降ってきたのではないかと思えるほどに幻想的なもので、その時の気持ちは言葉にしづらいのだが、まあ、私はとにかく感動したのだ。

 大きな人に手招かれ、小さな光のひとつに近づくとそれは意外な事に一匹の虫であり、その虫――(ホタル)が発光しているのだと知ったのだ。


 私の拙い話ではあったが、ミィはその話に関心を示していたようで、私の話を聞いた後からしばらく、ミィは屋敷の書庫へ行き、図鑑を何冊も読んでいた。

そして読み終わった後に首を傾げていたのだ。

どうしたのかと聞くと、どの図鑑にも“ホタル”というものが載っていなかったのだそうだ。

 私がその記憶の時代に何の生き物であるかはわからないが、大きな人はミィと同じ人間――着ている物は少し違ったが――であったように思うし、その事もミィには話していた。

 だから、“ホタル”が存在しないなんて事はないと思うのだが、図鑑に載っていない上にミィはホタルを見たことが無く、その存在は私の記憶でしか確認ができない。

 何かしらの幻というか記憶違いというか、そういう物ではないだろうかと思い、 ミィにそれを伝えれば、ミィ自身が私のその考えを強く否定した。

 …まあ、そんな感じでミィと私はその“ホタル”と私のよくわからない思い出話に花を咲かせていたのだ。


 そしてその話から数日後、ミィは私に名前を付けた。

 曰く「おほしさまのようにひかるんでしょ? だからオバケさんにはぴったり!」だそうで、ホタルという虫の存在についてはこの国の人たちが知らないだけで、誰も到達できたことのない世界の果てにはいるかもしれない…のだそうだ。

 私のただのおとぎ話かもしれないというのに、ミィは私の話は本当であると信じているようで、その純粋さが彼のいい所ではあるのだが、将来ミィが悪い人間に騙されないかと心配になったのは、また別の話であろう。


 とにかく、そういった経緯で私の名前は“ホタル”に決まったのである。


ちなみに今更なのですが、ホタルがミィを一目で大切に思ったのは「刷り込み」が主な理由です。

生まれてはじめて遭遇した意思疎通のできる生き物がミィでした。

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