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仲良くしようよ!  作者: つられるクマー
1章、出会った日
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4.少年のこと

「きょうはオバケさんとあえたから、たいへんだったけどいいひだったね!」


 身長2メートル越えの大人が5人くらい余裕で寝れそうな大きくて広いベッドに入りながら、少年はにこにことそう言った。

 私はそれがいい日と言えるのかどうかわからなかったが、少年が良い日だったというのだから、今日は良い日だったのだろうと納得する。


≪ミィ、私はどこに居ればいい?≫


 少年――ミィが寝ている間中、肩の上に浮いている事は……しようと思えばできるが、私は光っているのだ。

 どう考えてもミィの安眠妨害にしかなるまい。

 ミィは少し考えてるように細くて薄い金色の眉の間にしわをよせて、それから言った。


「オバケさんは、ねないの?」


 ミィが掛布団を少し持ちあげて、一緒に入らないかと示す。

 私に睡眠が必要であるのかどうかはまだわからないが、とりあえず眠くないし、眠気が襲ってきそうな気配もない。

 ミィに私は寝なくて大丈夫だと告げると、ミィは少しだけ顔を崩した。

 もしかして寂しいのだろうか。


≪寝る必要はないが、ミィが望むのなら一緒に寝るとしよう≫


 ミィは一人で寝るのがさみしいのか。

 そう思ったら自然とそう告げていた。

 そしてそれは正解だったようで、告げた途端、少年は顔を輝かせて喜んだのだ。


≪まぶしかったら遠慮なく言うと良い≫


 そう言ってミィが持ちあげた掛布団の下へ入ると、私の光がやわらかく、そして先ほどまでより3段階くらい――豆電球くらいの明るさになった。

 ミィと出会ってからずっとそうだったから、そうなのだと思うが――どうもこの体は私が強く思えばそれに合わせて変化するらしい。

 ミィが寒いと言えばミィの体を暖めるべく発熱し、ミィが足元が暗くて見えないと言えば足元まで明るく照らせるように強めに光り、ミィを無事に家まで送りたいと思えば私と意思の疎通ができるようになった上に私が感知できている範囲を地図にして……それをミィに見せていたらしい。

 自分で言うのも何だが、とても便利だ。


「だいじょうぶ。オバケさんといっしょで、とってもうれしい!」


 ミィは私をそっと――触れないが――両腕で抱え込むような姿勢をとり、笑顔でそう言った。



☆  ☆  ☆



 それから数分と経たないうちにミィはすやすやと眠りはじめた。

 やはり疲れていたのだろう。体力的にも、精神的にも。

 私はさっぱり眠くないし、どうがんばっても眠れる気がしない。

 仕方ないのでそのまま、ミィの幼い寝顔を眺めながら、今日を少し振り返る。


 たくさんの使用人に出迎えられたミィと私はワーズと共にお屋敷の中へと入ると、そこにはミィの母親――エリザベータが待っていた。

 エリザベータは泣きそうな顔でミィを抱きしめ、ミィと一言二言と言葉を交わし、私を見て柔らかく微笑みながらありがとうと言った。

 その表情には驚きも恐れもなく、ただただ感謝とミィが無事だった喜びしかなく、その事に私は驚いた。


 そしてエリザベータはワーズにも感謝を告げ、お風呂であたたまってからお食事にしましょうねとミィの肩を抱き、屋敷の奥へと連れて行った。

 もちろん私はその時もその後もずっとミィの肩の上で光ってミィの歩くままに付いていたのだが、エリザベータはもちろん屋敷の使用人(たぶん使用人)の誰一人としてその事に何も言わないでいてくれたのがありがたかったが(何しろ私自身にもよくわかっていないのだから!)、ワーズだけは複雑そうに私を見ていたのは言うまでもないだろう。


 お風呂と食事を終える頃には、私はミィの名前や立場を知る事ができた。

 ミィは、ミーリィリアル・ルベスト・イリアル・ヨツバネルン、という舌を噛みそうな長い名前だそうだ。

 ミーリィリアルが個人名、ルベストが母方の家名、イリアルが洗礼名でヨツバネルンが父方の家名らしい。

 ちなみになぜ私がミィと呼んでいるかと言えば、なんてないがを噛みそうだと言ったら、少年はミィでいいよと言ってくれたので、遠慮なくそう呼ばせてもらっているのだ。

 ミィは優しいいい子である!


 話がちょっとずれたが、そんな長い名前を持っているミィは、この国――「ティータ」と呼ばれる大陸の東の方にある「ティラ」という名前の国らしい――の王様の子供で、つまりティラの国の王子様なのだそうだ。

ワーズがミィを殿下と呼んでいたが、王子様なら納得である。

年齢は7歳。納得のかわいさである。


 ミィとエリザベータはここ――ホティタの街へ護衛のワーズを連れて休養を兼ねた旅行で、昨日到着したのだという。滞在期間は約3か月。

 今日はこれから3か月過ごすホティタの街がどういうものなのかを案内してもらっていたらしい。

 そしてその案内中にミィははぐれて迷子になり、何者かに襲われ森へと入ったそうだ。

 何者かに襲われた件を話した時、エリザベータとワーズは顔を青くしこわばった顔になりながらも、本当に無事でよかったと、私を見ながらミィを抱きしめていた。

 その様子に何か襲われる心当りでもあったのだろうかと思ってしまったのは、邪推のし過ぎであろうか。


 その後、私についてのあれやこれやを話し、私も自分の事がよく分かっていないという事をミィに伝えてもらった。

 そう、その時はじめてわかったのだが、私はミィとならば話ができるのだが、それ以外の人とは話ができないのだ。

 よく考えてみれば最初はミィとも話ができなかったのだから、他の人間と会話ができなくても不思議ではない。何しろ体のつくりからして、私と人間では違うものであるのだし。


 それはともかく、エリザベータとワーズに自分でも自分がわからない事を伝えた結果、おそらくウィルオウィスプという種類のモンスターだがと前置きをして、それから私のような前例がないかどうか、何か私に関する事がないかどうかを調べてくれると約束してくれた。


 そうこうしているうちに、ミィが眠そうなしぐさを見せはじめたので、今日はお開き。

 いろいろあって疲れているのだから、無理をしないで寝ましょうという事になった。


 そして現在に至る。



☆  ☆  ☆



 今日のあれやこれを思い出し、得た情報を整理していた私は、すやすやと無防備に眠るミィを見てちょっとだけ思った。

 純粋なのは良い事だけれど、王子という立場からすると良い事とも言い切れないのだろうな、と。


 まだ出会って短い時間であるが、私はこの少年(ミィ)の純粋でかわいいところが大好きだ。

 ミィを見つけた時はただただ驚いただけであったが、ミィと出会い会話をし行動を共にした私はこのミィという少年の事を見捨てられないくらいに大好きになっていた。

 難しい事であろうが、できればそのまま、純粋ででまっすぐなまま、大きくなって欲しい。


 この時、私は少年(ミィ)と共に歩み、彼を助け、見守ろうと心に決めた。



 それが、私とミィの出会いの日の、できごとである。




※12月19日、脱字があったので追加しました。

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