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仲良くしようよ!  作者: つられるクマー
1章、出会った日
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1.出会った日

――転送が正しく完了しました。


 聞き覚えのある無機質な音声に私の意識は覚醒した。

 覚醒と同時に先ほどまでと違って大量の情報が私の中に流れ込む。

 周囲が明るくなり、ざあっと風の鳴る音が聞こえ、土と植物の青臭いにおいを感じた。

 林のような森のような、木がたくさん生えている。

 木の枝の上をちょろちょろと小さなリスのような動物が走り回り、なんとも平和な森林だ。

 とりあえずは危険な物や動物はいなさそうな事にほっとする。


 目も耳も鼻もないのにどうしてわかるのかといえば、正確には見えている訳でも聞こえている訳でもにおいがしている訳でもなく、何と言えばいいのか…、そこにそれがあるという事を感じるのだ。

 そして重要な事にも気づいた。

 自分には手や足や顔や首はない|(感覚がそもそもないのだ)が、どうも体はあるようなのだ。

 右へ動きたいと思えば右へ動けるし、前へ進みたいと思えば前へ動ける。

 手足がないのにどうやって動いてるんだとか思わなくもないが、きっと目や耳の感覚と同じようなもので、私の体はそういうものなのだろう。



☆ ☆ ☆



 自分の状態を確認した私は、とりあえず動いてみる事にした。

 仕組みはよくわからないが、動きたい方向へ動けるし、周囲――10メートルくらいの範囲であれば何があるのか何がいるのかがわかる。

 動いて何がしたいのかと聞かれると少し悩むのだが、動かないでいる理由もないのだから動いたって問題はないはずだ。


「・・・・・・ぐすん」


 ふらふらと歩い・・・移動していたらちょうど私から10メートル離れた位置にうずくまって鼻をすすっている少年を見つけた。

 金色の髪をしたどこか貴族のおぼっちゃんを思わせるような上等な服を着ている。

 距離が少し開いているからか少年が膝を抱えているからか、その少年は私には気づいていない。

 どうしようか、と少し考える。


 動くのを止めて少年を観察するがどう見ても人間である。

 手があり、足があり、体の上に首があり頭がある。

 目も鼻も耳も口ももちろんあり、緑色の目は少し充血しているがそれは泣いているからだろうか。

 話がずれたから戻す。

 少年は人間だが、それとは別に私が人間ではないのが問題なのである。


 私には手もなく足もなく、体はあるようだが首と頭がない。

 目も鼻も耳も口もなく、見えないし聞こえないしにおいも感じない。

 それでも周囲が見えるし聞こえるしにおいも感じる事ができるという、自分自身にもよくわからない生き物なのだ。

 自分でもよくわからないのに、それが人間の小さな男の子――おそらくまだ10歳にもなっていないのではないだろうか――にとってはどう見えるのか。


 泣いてる少年は風が木をなでる度に身体をビクッと竦ませて、時々こわいものを見るように周囲を見回している。

 こわがってる所に得体の知れない生物(わたし)が現れたら、今以上に怯え、こわがり、何かしらの拍子に怪我をしてしまうかもしれない。それは避けたい。

 だからと言ってこのまま気にせず通り過ぎるのも良心が痛む。

 太陽はすでに隠れる準備をしていて、空の色には橙色と紺色が混ざり始めている。

 暑いか寒いかはわからないが、ここは森だ。

 森の夜とくれば、野生の生き物たちの活動時間だ。

 餌を探して動き回る彼らは、草食とは限らない。少年を餌と認めて襲う可能性が大きい。


 こういう時はどうしたらいいのだろうか。

 さっぱりわからない。

 わからないからその場で少し考えて・・・その時少年が声をあげた。


「そこにいるのはだれ!?」


 目を見開いて立ち上がり、少年は私のいる方を見ていた。

 少年と私の間には障害物(草木)があり、少年からは私が見えないはずである。

 逆に言えば少年と私の間には草木しかなく、隠れている私が少年に見つかるはずもない。

 はて?と不思議に思っていたら少年が続けて口を開いた。


「いるんでしょ? だれ? ぼくをころしにきたの?」


 先ほどまでの怯えた表情を隠す事に成功したのか、とてもきれいな緑色の目を細めてこちらをにらんでいる。

 少年の身体が少し震えているのは見なかった事にするべきだろうか。

 そんな事を考えていたら、少年が拳をギュッと握り何か覚悟を決めたような顔で、私の方へと足を踏み出した。


 それが、私と少年のはじめての出会いだったのである。



今のところ、主人公視点のみの予定です。

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