首飾り 4
メイリア様達がそそくさと立ち去るのを見送った私達は、さっさと侍女を探し始めた。
ツェン姉様は相手を言い負かすことはできたけど、疑いを晴らすことができたわけじゃない。早く首飾りを見付けないと、また睡蓮宮の侍女が何か言われるかもしれない。
…それにしても。
「ツェン姉様」
「何?」
「さっき、私が目立つって言ってたのってなんでですか?私、とくに着飾ったりしてませんよ?」
ツェン姉様は首をかしげた。
「なんでって…、あなたは着飾らなくても目立つじゃない。メイリア様もあなたが妬んで盗んだなんて言っていたけど、本当は自分があなたを妬ましいと思っていたのが顔に出ていたわ」
「…?」
「…ようするに、自分より綺麗な人間が妬ましいわけなんだけど」
どこが分からないのか、という顔をされた。けれど、私はますますよく分からなくなった。
「綺麗って…、確かにこの銀髪は珍しいですけど――、って大丈夫ですか!?」
突然、何もない所でツェン姉様が躓いたので、私は慌てて声を掛ける。
「だ、大丈夫だけど…」
何故か引き攣った顔をしたツェン姉様は、私の顔をまじまじと見た。
「目立つのは銀髪だけじゃなくて、顔もじゃないの」
「…私の顔は普通ですよ」
そんな面白い見た目はしていないと思う。
「普通とは言えないと思うけど…」
「変な見た目でもないです」
「変でもないわよ」
「…?普通じゃなくて変でもない…?」
「母君ゆずりの美貌って言われたことない?」
「アイリャ達には言われますけど」
それは身内の欲目だと思うけれど、そうして褒められるのは少し嬉しい。
私がそう言うと、ツェン姉様は額を押さえていた。
…結局、どういうことなのかは分からなかった。
最初に見付けた侍女に、騒ぎに詳しい人がいないか訊ねると、首飾りが消えていることに最初に気が付いたという侍女を紹介してくれた。私達ぐらいの年齢に見える彼女は、少し警戒した様子で現れた。
「何か御用でしょうか」
「首飾りが消えた時の話を訊きに「私は何もしておりません!」
ツェン姉様の言葉を遮って叫んだ彼女に、私は目を丸くした。
ツェン姉様も驚いた顔をしたけれど、すぐに柔らかく微笑む。
「…分かっているわ。何を言われたか知らないけど、私達はあなたを疑ってはいない」
「でも…」
「大丈夫よ。話を聞かせてくれるだけでいいの」
…どうして、急に興奮したのか分かってきた。彼女も、お前が盗んだのだろうと言い立てられたらしい。
「あなたのことをちゃんと証明するためにも、首飾りを見付けださないといけないの。どうか、あなたが知っていることを教えて」
「…分かりました」
少し考えて頷いてくれた彼女は、その時の状況を話し出した。
彼女――シャオというらしい――は、その時メイリア様に首飾りを持ってくるように命じられて、装身具の箱を開けた。
首飾りが見付からなかったので、ほかの侍女達とともに探し回ったという。
「探し回ったのは部屋の中だけですか?」
私が突然訊ねたので、シャオは驚いた顔になった。
「…いえ。とにかく思い当たるところは全て探しました」
「…そうですか」
実は違う部屋にあるということは無さそうだ。
「どんなに探しても首飾りは見付からなくて…」
そして、お前が盗んだのだろうと言い立てられることになった。
「私は本当に何もしていないのに…!」
「分かったわ。教えてくれてありがとう。首飾りは探し出すから」
「ありがとうございました」
2人で丁寧にお礼を言うと、ようやく安堵したように頷いたシャオの頬に一筋の涙が伝った。