首飾り 3
台詞が長いです。
私達が暮らしているのは、王宮の中でも"後宮"と呼ばれる部分。
地位が高い妃や王子、王女は、中心に近い場所に暮らしていて、私のような地位が低い王族は、端のほうで暮らす――普通ならば。
本来ならば中心に暮らすこともできるはずのツェン姉様は、何故か片隅の離宮で暮らしている。そもそも、大貴族出身の母君の代から、あの離宮に暮らしていた。
「ツェン姉様は、もっと中心のほうで暮らしたいとは…」
「欠片も思わないわ」
考えることもなく即答。
予想通りだ。
ツェン姉様の性格からして、中心で暮らして周りにちやほやされたい、などと思うわけがない。それは、母君のほうも同じ。
「離宮のほうが静かですもんね」
「ええ。それに、こっそり何かするときに気付かれにくいの」
「そ、そうですか」
…これはさすがに予想していなかったけど。
そんな会話をしているうちに、メイリア様の暮らしている辺りに近付いてきた。
できれば、ここの主にはあまり会いたくはない、というのが私達の共通の思いだった。
だけど、そう思っている時に限って遭遇してしまうもので。
「あら、何をしにここへ来たの?」
いつものように取り巻きを引き連れたメイリア様が、姿を現した。
「私達への疑いを晴らそうと思いまして」
のんびりと答えたツェン姉様を、メイリア様はきっと睨む。ついでに、私も睨まれた。
「白々しい!あなた達がどこかに隠したのでしょう!」
「そうですわ!」
「あなたでなければ誰なのですか!?」
「被害者ぶるのもいい加減になさい!」
取り巻きとともに騒ぎ立てる相手の言い分に、ツェン姉様はすっと目を細める。やたらと迫力のある表情に、メイリア様達はもちろん、私も少し青くなった。
「その根拠は?」
「だからあなたの侍女を見たという話が…!」
「根拠はそれだけですか?」
「…は?」
「たった1人の目撃談だけでは足りません。その方が見たのは本当に私の侍女なのですか?その方の証言は信用できるのですか?そもそも何故、そんなことを私や私の侍女をする必要があるのですか?私の侍女達は、人の物を欲しがるような卑しい性格はしておりません。それに、私が命じる理由もありません。お母様からはそれなりの物を受け継いでおります。人の物をわざわざ盗むことなどする必要などありません」
一気に畳み掛けられてたじたじとなったメイリア様は、今度は私を睨んだ。
これは驚きだった。侍女のことなんて相手にしないと思っていた。
「お前ね!?そうよ、お前が盗んだのよ!この前までは、末席とは言え王族だったのに、今では姉に使われる卑しい身分になったのだもの!あたくしを妬んだのでしょう!」
「………」
――…えーっと。
私は、呆れすぎて口もきけなくなってしまった。
まず、王族の地位に執着なんてない。それに、ツェン姉様の元で働くのを嫌だと思ったことはないし、侍女を卑しい身分だと思ったこともない。
メイリア様の事も妬ましいとは思わない、というよりも正直どうでもいい。
だいたい、毎朝ツェン姉様に飾り立てられそうになっては必死で拒否しているのに、人の物をわざわざ盗む気はない。
…というような事を言ったところで火に油を注ぐことになりそうなので、私はさてどうしよう、と思案した。
私の沈黙で何か誤解したらしいメイリア様は、勝ち誇った顔で扇を口元に当てる。
「目撃された侍女というのはお前ね?今すぐ返してくれれば、この事は不問にしてもよくってよ」
「あり得ません」
私が返事をするより先に、ツェン姉様がぴしゃりと言う。
「ミシュナはそんな性格ではありませんし、自分の言動の意味が分からないような馬鹿でもありません。しかも、この子はこっそりと行動するには目立ちすぎます」
――目立つ?私が?
なんの話だ、と私は首をかしげたが、メイリア様達には通じたらしい。黙り込んだ相手に、ツェン姉様はにっこりと笑い掛ける。…笑い掛けてはいるのだけど、目が怖い。
「私達に調べさせてください。首飾りが出てくれば、文句は無いでしょう?」
この場で一番小柄なのに一番気迫が凄まじいツェン姉様の言葉に、メイリア様は怯えた顔で頷いた。