始まり 2
衛士を呼んだあとは、予想通りに事が進んだ。
私は牢に入れられ、次の日の夕方、皆の前に引き出された。
侍女達はいない。昨日、私の罰を重くするかわりに温情を求めたのが、聞き入れられた。そんなことをしたと知ったら、きっと3人は怒るけど、それでも頼まずにはいられなかった。
そして今、私は父であるこの王宮の主の前でひざまずき、沙汰を待っている。
「これより処分を下す」
私の父は、淡々と告げた。人々が一斉に頭を下げる。
「ミシュナの身分は剥奪する。また、ミシュナの身柄は生涯幽閉とする」
――ああ、やっぱり。
私は静かに瞳を閉じた。
幽閉されれば、アイリャ達にはもう会えない。1人ぐらいは世話係が付くだろうけど、その人以外の人間に会うことは、もう一生できない。
――さようなら。
家族のように思っていた大切な人達に心の中で別れを告げた、その時。
「お待ちください」
柔らかい声が、辺りに響いた。
王の決定に異議を示す声に、人々がざわめく。
私は、思わず頭を上げそうになってしまった。
あの柔らかい声は知っている。まるで日溜まりのようなあの声は――、
「ツェンニャか」
1歳上の異母姉妹だ。
――どうして?
私を庇えば、王の心証は悪くなるだろう。
私は、こっそりのツェンニャ様の姿を探した。
彼女は、小柄な身体を真っ直ぐに伸ばして王を見詰めていた。
「ツェンニャよ。私の決定に異議があるか」
「はい」
穏やかな声での即答。ざわめきはますます大きくなる。
「母親が大罪を犯した彼女を、王族の地位に留めておいては示しがつかないのは、私もよく理解しております。ですが」
ツェンニャ様は、一呼吸置いて続ける。
「彼女自身は何もしていないのに幽閉とは、罰が重すぎです」
「あの娘は、侍女達の責も自分が引き受けると申した。その分、罰が重くなるのは当然ではないか」
「いいえ。侍女達も何もしておりません。ですから、その責を背負うとしても、幽閉は重すぎます」
「ならば、どうする。身分剥奪のみで王宮に留めておくわけにはいかぬ」
それはそうだ。王女ではない私が王宮に居座るなんてできない。
ところが、ツェンニャ様は平然と続ける。
「新しい身分があれば良いのでしょう」
「…?」
どういうことなのか考えていると、ツェンニャ様はゆっくりと言った。
「ようは、彼女を侍女にすれば良いのです」
「なるほど。だが、お前が提案した以上、ミシュナの身柄はお前が引き受けることになるが」
「承知しております」
――ええ!?
思いもよらない展開に、頭がついていかない。必死で理解しようとしている間に、話は纏まってしまった。
「では、ミシュナの身分は剥奪とし、ツェンニャが引受人とする」
私は戸惑いながらも、頭を下げた。
王が去り、ほかの人々も立ち去ったあとも、私はぼんやりとひざまずいていた。と、こちらに近付いてくる足音が聞こえた。
「ミシュナ」
穏やかに呼ばれて顔を上げると、ツェンニャ様とその侍女達がいる。
「さあ、帰りましょう」
私はぼんやりとしたまま、手を引かれて歩き出した。