子猫 3
解散した後、私とリアンは任せられた一角を歩いていた。
通り掛かる人に事情を話すと、大概の人が気を配っておく、と言ってくれた。
今の時期は特に忙しくもないので、猫探しの手伝い程度なら承諾してくれるらしい。
10人ほどに頼んだところで丁度見付けた東屋で、一息つくことにする。
「うまくいけば、すぐ見付かるかも知れないですね!」
「そうですね」
「白い子猫でしたよね。雌の」
「中々見られないような、交ざりけのない白だとのことですよ」
そんな猫なら見てみたい。きっと綺麗だろう。丁度、そこの植え込みの近くにいる猫のように――あれ?
「リ、リアン、そこの猫ってそうじゃないですか!?」
「あらっ」
2人で慌てて立ち上がったのが良くなかった。子猫は驚いて逃げ出してしまう。
「ああ!」
「ま、待って!」
誰も見ていないのをいいことに、私達は裾をからげて走り出した。
「…いない」
先程まで追い掛けていた子猫は、角を曲がって姿を消してしまった。
「ごめんなさい、逃がしてしまいました」
追い着いてきたリアンにそう言うと、彼女は首を振った。
「すばしっこかったですから、仕方ないですよ。…それにしても、足が速いんですね」
「自分でも、ちょっと驚きました。知らなかったので」
王宮内で走ることなんて滅多にないから、当たり前と言えば当たり前だけど。
「裾をからげて走ったなんてシェイザに知れたら叱られますね」
睡蓮宮における最古参で、侍女のまとめ役のシェイザは、こうした礼儀作法に厳しい。
「秘密にしておきましょう」
「そうしましょうか」
リアンが唇に指を当てたので、私はちょっと笑って同意した。
猫は逃がしてしまったけれど、リアンと仲良くなることはできたみたいだ。
睡蓮宮に戻ると、ミンとセリファ以外は全員が戻っていた。少しすると2人も帰ってきた。
そのまま報告会を始める。
私達がそれらしい猫を見たと言ったので、かなり驚かれてしまった。
「もう?随分早く見付かったわね」
目を丸くしたツェン姉様がそう言うと、リアンが頷く。
「たまたま、ミシュナが見付けまして」
「丁度、視線の先にいたんです」
「とりあえず、捜索はやり易くなったわね」
ツェン姉様はそう言ってから、不意に真剣な顔になって改めてこちらを見た。
「元気そうだった?」
「特に痩せている様子はありませんでした。どこかで餌を貰っているのではないかと」
「怪我もしていないみたいです」
「よかった」
「ええ、本当に」
ツェン姉様もほかの侍女達も、ほっとしたように微笑んだ。
「それにしても」
ふと、アイリャが首をかしげた。
「どうして戻ってこないのでしょうか」
「迷子になった、とか?」
そう言ったメイに、アイリャは首を振る。
「部屋の外に出たことがなかったのならともかく、普段から出掛けていたのでしょう?」
――確かに。
あれだけ元気だったのだし、私達が見付た場所はスーラ様の所からそう遠くはなかったはず。帰ってこない理由が分からない。
「ただたんに、遠くに行き過ぎて迷子になったんだと思っていたんだけど…」
ツェン姉様は首を捻りながら見取り図を眺めている。と思ったら、
「あら?」
何かに気付いたらしい。
「何か見付かったんですか?」
「セリファ、図々しいわよ」
リアンに呆れられながら、セリファが覗き込んだけれど、よく分からなかったらしい。
なんとか理解しようと考えるあまり、おかしな顔になっている。
「ぷぷ」
「へ?」
「なんでもないわよー」
「?」
…残念ながら、本人は自覚してなかったみたいだけど。
「ところでツェン姉様、何に気付いたんですか?」
「んー、ちょっとね。確かではないけど、戻ってこない理由がなんとなく分かった気がする」
「…はい!?」
こうして、捜索1日目であっさりと解決の目処が立った。