子猫 2
結局、スーラ様の飼い猫探しは、私達も手伝うということで落ち着いた。
「ミシュナー、怒ってる?」
ひょい、と顔を覗き込んできたツェン姉様に、私は顰めっ面を見せた。
「強引すぎです」
「ごめんね」
頭を撫でられて、溜め息をつく。
「あんまり目立ちたくないのに」
「………」
頭を撫でる手が止まったので顔を上げると、苦笑しているツェン姉様がいた。
「目立たないようにするのは、難しそうねぇ」
「なんでですかー」
むくれていると、ツェン姉様は茶器を片付けていたミンを振り向いた。
「…この子、どうしてこんなに自覚がないの?」
なんの話だ。
「…何故でしょう。私もずっと不思議に思っているんですけど」
ミンも何を言っているんだろう。
「なんのことですか?」
「あなたは、いるだけで目立つような綺麗な顔をしているから」
「それはないです」
「…なんでそんなにきっぱり否定しちゃうのかしら」
片付けを終えた私達侍女は、ツェン姉様の周りに集まる。
ある程度手掛かりがあった首飾り探しの時とは違い、今回は人手がないと苦しい。そこで、アイリャ、メイ、ミンの3人に、一緒に話を聞いていたシャオ、それからもう2人、リアンとセリファという侍女が猫探しに加わってくれた。
「まずは、どこをどう探すか、大まかにでも決めておかないとね」
ツェン姉様が口火を切る。
「ですが、手掛かりが…」
「スーラ様が住んでいらっしゃる辺りを中心に、捜索範囲を広げていきましょう。白い猫なら目立つはずよ。誰も見ていない、ということはないと思うの」
リアンの言葉に答えながら、ツェン姉様は紙を取り出した。広げたそれを覗くと――、そこには後宮の見取り図が描かれていた。
「では、この辺りからですね」
「そうね」
2人は普通に会話しているけれど、ちょっと待って欲しい。そんな物を持っている理由がさっぱり分からない。
唖然としていると、同じようにぽかんとしていたシャオが口を挟んだ。
「あ、あの、見取り図なんてどこで…」
「私が描いたのよ」
ツェン姉様、図を描くのが上手だ…じゃなくて。
「調べて描いたんですか?」
「そうよー。書庫の資料を元にして、あちらこちらをみんなで手分けして歩き回って」
「なるべく同じ歩幅で歩く練習をしたものです」
リアンがしみじみと付け加える。
「私も知りませんでした…」
「セリファは最近来たものね」
「あの」
ふと、誰も言及しない問題に気付いた私は、そろりと声を掛けた。
「これ、他人の手に渡ると…」
「色々よろしくないわね。重大な情報だから」
「やっぱりー!」
どう考えても危険物だ。
「大丈夫よー。ちゃんと管理しておくから」
「いやいやいや、処分しましょうよ!こんな危ない物!」
「あら、せっかく作ったんだから活用しないと」
「………」
頭が痛くなってきた。
2人1組で探すことが決まったので、組分けをする。
「セリファは私とよ。まだ後宮に慣れていないでしょう」
「はい、お願いします」
ツェン姉様はセリファと。
「では、私は娘と組みましょう」
「がんばります!」
アイリャはメイと。
「私、あんまり広い範囲を移動したことがないので、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ミンはシャオと。
「じゃあ、残りは私達ですね」
「はい、よろしくお願いいたします」
そして、私はリアンと組むことになった。
「さあ、可愛い小さな姫君の悩みを解決しに行きましょう!」
元気よくツェン姉様が立ち上がる。そして、
「姫様!もう少し淑やかに!」
シェイザに叱られていた。
…前にも同じようなことがあった気がする。
私達は苦笑しながら、後に続いた。
ツェンニャの変人エピソードがまた1つ。