首飾り 6
これで首飾り騒動は終わりです。
「あの首飾りは私が持っています。私の侍女が持ってきました」
リティス様はむくれたような声でそう言った。
「私が命じたわけではないのです。侍女が勝手に、あの首飾りを持ってきただけ」
「では、何故すぐに返さなかったのですか?」
ツェン姉様は冷静に訊ねた。
「そ、それは…、首飾りが盗んだものだとは」
「知らなかった、と。でも、出所が分からない首飾りなら、普通はどこから持ってきたのか訊ねませんか?」
「………」
言い訳が見付からなかったのか、再び黙り込んだ彼女を見ているうちに、私はふと思い付いた。
「メイリア様のような首飾りが欲しい、と侍女に言いませんでしたか?」
「確かにそのようなことは言ったわ。でも、その程度のことは普通でしょう」
リティス様は苛立たし気に言った。ツェン姉様も、不思議そうな顔になった。
そう、確かに、見事な装身具を羨ましがるのは、おかしくもなんともない。けれど――。
「何回言いましたか?」
――当たり、ね。
リティス様が瞳を揺らした。私の質問の意図に気付いたらしい。ツェン姉様のほうは、まだ不思議そうな顔のままだ。
「繰り返し繰り返し、あの首飾りが欲しい、と言い聞かせませんでしたか?」
「た、だだ羨ましがっただけよ!言い聞かせただなんて」
「手に入れるにはどうしたらいいと思う、と訊ねませんでしたか?」
「………」
「訊ねたのですね?」
「…ええ」
やっぱりそう。確かに、盗ってこいとは命じていないだろう。でも、これは、
「言外に圧力をかけたのですね?」
ずっと冷静だったツェン姉様の口調が、強くなった。
「そんな言い方をされれば、侍女は首飾りを持ってこなければならない、と思い込んだはず」
「強迫観念を抱いた侍女は、"勝手に"首飾りを盗んだ。確かに、出所は話さなかったでしょう。だって、あなたはもう首飾りの出所が分かっていたのだから!」
「………」
ツェン姉様の糾弾に反論できず、リティス様は悔しそうに顔を歪めたけれど、
「…首飾りはどこですか?」
「…私の、寝室に」
もう、抵抗する気はなくなったようだった。
首飾りは、メイリア様の手元に戻った。
でも、彼女が私達に感謝することはなかった。どういうわけだかもともと嫌われているので、これは仕方ない。
本当に接点はなかったはず、と記憶を引っ繰り返す私を、ツェン姉様は微妙な顔で見ていた。…よく分からない。
リティス様は、首飾りを隠し持っていたけれど、侍女に盗むように命じたわけではないので、謹慎処分で済んでしまった。
でも、実際に首飾りを盗んでしまった侍女も、実家に戻されるだけで済んだ。これを聞いた時は、思わずほっとした。
それから、一度犯人扱いされたのが原因で、メイリア様のところに居づらくなったシャオは、なんと睡蓮宮に引き取られた。
今は、みんなと一緒に楽しそうに働いている。
こうして、首飾り騒動は幕を閉じた。
そうそう、もう1つ。
シャオがこちらに移ってきた日。彼女は、簪と櫛を持ったツェン姉様に手招きされていた。
見て見ぬふりをした私を、どうか許してほしい。