V-095 特番クルーがやってきた
穴掘りから帰ってくると、「会議室に来客が来ているにゃ」とライムさんが教えてくれた。
フレイヤ達が相手をしているらしいのだが、どうやら放送局の人間のようだ。
「帰ったら、来て欲しいって言ってたにゃ」
「このまま、顔を出そうかな。エミーとローザも一緒の方が良いだろう」
会議室は小さい方を使っているようだ。
そんな会議室の扉を叩き扉を開いた。
円卓に座った相手の、まん前の席が空いている。
そこに座ると、エミー達は開いている席に座る。
「このヴィオラ騎士団領の当主。リオです」
「初めてお目に掛かります。ライデンヌ放送のリポーター、ミトラとカメラマンのガイエンです。この度、視聴者の希望があまりにも多いのでリオ公爵の生活振りを特集したいと思ってまいりました」
「失礼するにゃ」
そう言ってライムさん達がワゴンに載せてコーヒーを運んで来た。
皆に行き渡ったところで、砂糖を入れて口を付ける。
「甘党なんですね。ちょっと以外でしたわ」
「砂糖をいれないコーヒーなど苦いだけです」
俺の言葉を聞いて、おもしろそうな顔で俺を見た。
「最初は、命ぜられるままに来たのですが……、騎士団長のお話を聞く内に、是非とも早くリオ公爵様にお会いしたく仕方がありませんでしたわ」
「リオで結構です。あまり公爵と言う自覚を持っていませんので」
コーヒーを一口飲んで、こっちから質問してみた。
「ところで、どんな特集になるんでしょうか? 出来る限り協力は惜しみませんが、私も仕事を持っています。ある程度、取材の仕方と内容を教えて頂きたいと思っています」
「そうですね。……ところで、此処は禁煙ですか?」
「大丈夫ですよ。俺も、タバコを楽しむ者の1人ですから」
俺の言葉に、レイドラが席を立って、俺とミトラさんの前に壁際のカウンターから灰皿を持って来てくれた。
「ありがとう」
ミトラさんは礼を言って、小さなバッグからタバコを取り出す。
「申し訳ありませんが、会見の記録を取ってもよろしいでしょうか?」
「俺達に依存はありませんが、変な質問には答えられないかもしれませんよ」
俺の言葉を聞いてバッグからタブレットを取り出す。
小さなスクリーンには質問事項が書いてあるのだろう。そしてタブレットの機能を使って俺達の会話記録を作るようだ。
「カメラもよろしいですか?」
「構いませんよ。でも出来れば、少し時間を頂きたいと思います。エミー達の準備が未だですからね。撮るならばメイク時間が欲しいところです」
そんな俺の言葉に、ミトラさんが小さな笑い声を漏らした。
「ガイエン、1時間待ちなさい。……これで、よろしいですか?」
俺が頷くと、フレイヤ達が素早く部屋を立ち去っていく。
「全く、おかしな殿方ですね。今までも何度か王侯貴族の取材はしましたが、そんな申し出を私にしたのはリオ殿が初めてですわ」
「まあ、変わり者ですから。それに彼女達は美人ですよ。ミトラさんも美人ですから、美人が沢山出る特別企画なら視聴者も喜ぶでしょう」
そう言って、俺もタバコに火を点けた。
「ところで、この中継点を見付けたのはリオ殿と先程聞いたのですが?」
「ええ、ヴィオラの先行偵察の最中に見つけました。当初は我等の拠点にしようと計画していたのですが、色々と問題もありまして、各国の商会に協力してもらった次第です」
ミトラさんの隣の青年。……確かガイネンだったな。
彼は珍しくメガネを掛けている。その一部に小さなレンズが付いている。どうやらメガネ型のカメラようだ。
「アリス。ガイエンのメガネから出る映像信号を解読出来るか?」
『既に解読済みです。先程までの画像は全て消去。マスターの許可した画像のみ記録に残るように処置しています』
「さすがだ。他に映像記録装置があるか調べてくれ。こちらに許しを得ないで映像記録を取ったものは全て廃棄して構わない」
『了解です』
中々におもしろい連中だ。折角来たのだからと色々撮っているんだろうが、此処はプライベートエリアだからな。
「ところで、映像記録はどのように取るのですか? この桟橋はプライベートエリアですし、このカンザスも機密の塊みたいなものです。出来たら、撮影用の機材を見せて貰いたいのですが……」
「そうですね。確かに不注意でした。ガイエン見せてあげて」
ミトラさんの言葉に小さな映像記録装置を取り出した。
「だいぶ小さいですね。それだけですか?」
「ええ、これ1つで十分です。結構性能は良いんですよ」
なるほど、それで良いわけだな。
「アリス。確認したか?」
『確認しました。メガネ型記録装置の映像記録は全て廃棄しました』
アリスの言葉を聞いて、温くなったコーヒーを飲む。
「先程の話を続けてもよろしいですか?」
「ええ、良いですよ」
「リオ殿が搭乗される戦機は戦姫という種類で戦機とは別物と言われています。その辺りを少し説明いただきたいのですが」
「そうですね。ところで、獣機はご存知ですか?」
俺の言葉にミトラさんが頷いた。
獣機は見たことがあるんだな。
「獣機と戦機には大きな違いがあります。それと同じぐらいの違いが戦機と戦姫にはあるんです……」
大きさ、重さ、そして動力源を説明する。
基本はデイジーの仕様で十分だ。アリスだと俺にも良く分からないところがあるからな。
「なるほど、一番の違いは武装のような気がしますね。戦機はレールガンを持てませんから」
納得したような顔になる。
「でも、あの黒い機体は?」
「あれは、戦機の次の型になるんでしょうね。知っておられると思いますが、無人機です。動きのイメージを騎士が送ることによって動きます」
「誰も乗っていないのですか?」
驚いたような表情で俺に聞いて来た。
これって緘口令を敷いてたかな?
「ええ、乗っていませんよ。俺達はムサシと呼んでいる機体ですが、その目で見た情報を騎士に送ってきますから、その映像に沿って動きをイメージすれば良いんです」
「何時も騎士の能力には驚かされます」
そう言って2本目のタバコにミトラさんが火を点けた。
そんな所に、ぞろぞろとうちの連中が会議室に入ってくる。
元々が美人だからメイクをすると更に美人になる。
ミトラさんが霞んで見えるな。
カメラマンのガイエンが、カメラでそんな彼女達を取り続ける。
俺にはカメラを向けてくれないのが、ちょっと悲しいぞ。
「明日ですが、カンザスを撮らせて頂けませんか?」
「外側なら何処を撮っても構いませんが、艦内は許可できません。私のリビング程度は構いませんよ。後は機密の塊ですから」
そう言って微笑む。
まあ、頑張って秘密を探ろうとするんだろうが、艦内にはドロシーとアリスが目を光らせている。
許可したもの以外は映らないと思うぞ。
「出来れば、戦姫を見せていただきたいのですが……」
「そうですね……近くで見るんでしたら、明日の昼には西の桟橋にある中継点の居住区の前に3機が並びますよ。明日から、中継点の拡張工事の手伝いをしますから」
「触れるんですか?」
「一応、私が許可したと、警備兵に伝えてください。でないと、拘束されますから」
触ったぐらいで、減りはしないけどね。
だが、テロリストの噂がある以上油断は出来ない。
その辺の加減は警備兵も心得ていることだろう。
「今夜は遅くまで、お付合い下さりありがとうございました。また、明日お邪魔致します」
そう言って2人が部屋を出ようとしたところに、ライムさんが現れた。
彼女達を、カンザスから送って行くようだ。
そして、俺達は場所をリビングのソファーに移す。
早速、明日の予定の確認だ。
どうやら、俺とエミー、それにローザは穴掘りを始めても良いらしい。
そして、どうしたら自分達がより多く映る事が出来るかを話し合ってるぞ。
精々2時間の番組だから騎士団員の紹介なんてそんなに時間が取れないと思うけどね。
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次の日から、ミトラさん達の後をフレイヤ達が追い掛けてる姿を何度か見ることができた。
たぶんカメラに映してもらいたいんだろうな。
騎士団員の紹介で、アップに映ったんだからそれで十分だと思うんだけどね。
俺もエミーやローザと一緒に、アリス達と映った筈だ。
昼食に訪れたところをしっかり撮られたし、食事中のインタビューにもキチンと答えてあげたからな。
ガイエンは色々とカメラを持って来たようだけど、現在使っているカメラ以外は全て故障したらしい。
ホテルの部屋で首を捻っているとドロシーが報告してくれた。
まあ、自業自得だから文句は言えないだろう。
それに、故障原因は分らないだろうからな。帰りの高速艇の席では全てが正常に戻っている筈だ。
3日程取材をして、ミトラさん達は帰っていった。
後は放送局に帰って編集するのだろうが、果たして好意的に紹介するかどうかは分らない。
編集次第でどのようにも結果を変えられるかな。
そして、俺の方も重ゲルナマル鉱石を採掘し終えた感じだ。
どれだけ採掘したかは分らないけど、十分10体以上の骨材にはなったんじゃないかな?
「ご苦労様でした。今度は、こちらをお願いしたいんですが……」
「今度は、西の桟橋の更に西ってこと?」
現場監督が取り出した図面は西の桟橋の西に造る2つの桟橋工事のための先行トンネルだ。
この桟橋が出来ると、今の西の桟橋は中央西桟橋になるのだろうか?
「協力出来るのは、俺達がいる間だけですよ」
「それは十分上から聞いています。中継点に、いる間だけでもお願いしたい」
確かに獣機を使うよりは効果的で、しかも早くできる。俺達が最初に作った外への出口は10機以上の獣機が現在トンネルを広げつつある。トンネルが先に出来ているから、土砂の搬出も速やかに行なえると獣機士達に聞いた事がある。
ベラドンナの連中が、休暇から帰るまでにはまだ間があるから、それまでは手伝ってやろう。
そんな穴掘りが続いていると、改修を終えたガリナムが中継点に入港してきた。
少し、慣熟航行を行なって来たようだ。
「かなりのジャジャ馬よ。気に入ったわ」
着任報告にやってきたメイデンさんが俺達を眺めてそう言った。隣の旦那、アルバさんは相変わらず無口だな。
「次の航行には同行出来るでしょうか?」
「だいじょうぶ。でも、貴方達と一緒だと、かなり遅いんでしょうね」
ちょっとつまらなそうな口調で同意してくれた。
「ガリナムが一緒なら安心できるわ。88mm砲ですもの」
「12門は伊達ではないわ。おかげで殆ど内部空間が潰されたけど、自動化のおかげで30人で動かせるわよ。課題はダメコンね。これはヴィオラもしくはカンザスに頼ることになりそうよ」
ダメージコントロールに難があるってことか……。
ドワーフ族が10人位いれば良いのだろうが、そんな人員を置く部屋すらままならない艦体構造だ。
「単艦出撃は殆ど無いでしょうから、だいじょうぶでしょう」
「そうなると、巨獣の襲撃が楽しみね」
この人を、軍が吐きだした理由が分かったような気がした。
メイデンさんって、戦闘狂じゃないのか?




