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V-094 特番?

 

 決闘の祝賀会ってあるんだな。

 確かに命のやり取りをした勝者を讃えたい気持ちは理解出来るが、敗れた方を気の毒には思わないんだろうか?

 

 「あまり考え込まないことだな。見ろ!レイオン騎士団の団長達も来ている。これは、後々にしこりを残さない為でもあるんだ。

 2人の騎士が決闘したが、その騎士は騎士団を抜けた状態で戦っている。

 戦ったのはレントスとリオの2人の騎士であり、騎士団には預かり知らぬ事。これで、騎士団同士が互いに敵対関係を持つ事はあまり無い」


 少しはあるってことかな?

 まあ、その時はその時になるんだろうな。それに表面上が良ければそれで良いんじゃないか。恨みは個人的なものだし、騎士団では発生し無いだろう。


 ホテルの大広間を貸しきっての祝賀会だ。

 発起人が国王だし、協力はリブラ騎士団だ。協賛に何社かの商会が入ってるのが気になるな。


 男性達は制服を着て女性達はドレスなのだが、例のシースルーの奴だから下にきたビキニが良く見える。そして、何故か皆が際どいのを着けている。

 精神衛生上、極めて不味いと思うのは俺だけなんだろうな。


 「「乾杯!」」


 国王の短いスピーチでグラスが鳴る。

 一息に飲み干して、テーブルに並んだ料理を摘んでいると、俺の名を呼ぶ声がする。

 立って演台に歩いて行くと、リブラ騎士団長から、リブラ騎士団の団旗に乗せられた俺のブレスレットを、団長自ら付けてくれた。


 「末代までの語り草になるでしょう。その立会人となった、我等騎士団の名も高まることが何より嬉しいのです」


 そして、騎士達が凝った作りの木箱を運んで来た。

 

 「これは、我等からの贈り物。クリスタルグラスです。ゆっくりとこのグラスで美酒を味わってください」


 そんな贈り物が続いている。

 良く分からないけど、くれるものなら貰っておこう。

 

 3時間程の祝賀会が終わった時には正直ほっとした感じだった。

 

 次の日は、さすがに全員がのんびりと浜辺で過ごす。

 皆で貝殻を集めたり、砂の城を作って童心に返った。


 そして、俺達の休暇が終る。

 カンザスに乗り込んで、乗員を確認すると中継点に向かって出発だ。

 

 のんびり出来たのは2、3日だったような気がするな。

 帰ったら、また穴掘りをしなければなるまい。

               ・

               ・

               ・


 「今度は中継点で過ごさないとね」

 「私はリオ様と穴掘りを頑張りますわ」


 「私は新型獣機に係わるけど……。搭乗者は何時来るの?」

 「たぶん、別の高速艇に乗ってると思うわ。もう、訓練を始めるの?」


 そんな会話をテーブルでしてるんなら良いんだけど、俺達はジャグジーの中だ。

 そして、俺の上にはフレイヤが腰を下ろしている。フレイヤの肩に腕を回して保持してるのも意外と苦労するな。

 ジャグジーの泡が俺達の体を隠してるから良いようなものの、泡がなければ赤面ものだぞ。


 「そうなると、私達の用事がなくなるわね」

 「だったら、地質学者を訪ねてくれないか? 俺達の領地に何か埋まってないかと学校を作って貰えるように頼んで欲しいんだ」


 「学校ですって?」


 フレイヤが俺の体から滑り落ちるように体を移動すると、俺に向かって聞いて来た。


 「そうなんだ。結構、所帯持ちの人がいるんだ。学校があれば家族を呼べるのにってこぼしてた」


 今度はレイドラが俺に体を寄せてくる。


 「確かに必要ね。レイトンなら適任だわ。私からも伝えておくから一度会って来なさい」


 カテリナさんの言葉で、3人の仕事が決まったな。

 そんな話をしながらジャグジーで過ごす。

 夕食は未だだし、空中を飛行しているから巨獣に襲われる心配も無い。


 ドミニク達がジャグジーを出ると俺とカテリナさんが残った。


 「最後は私の番ね」


 そう言ってジャグジーのお湯を抜くと、俺に身を寄せて来た。

 

 1時間程してジャグジーを出るとそろそろ夕食の時間になる。

 今までが豪華だったから、ちょっと見劣りがするけど、食堂のチーフの腕は確かだ。

 

 「そういえば、王都の放送局から中継点の撮影許可が来てるのよね」

 「3つの王国の共同放送局ですから、マリアンから是非とも受けるように言われてます」


 ドミニクの言葉にレイドラが付け加える。

 放映権として収入を得られると踏んだのかな?


 「『リオ公爵の1日』と言う題材らしいわ」

 「そんなの放送出来ないでしょ! 子供だって見るんだし……」


 かなり歪な生活をしてると思われそうだ。

 これだけの美女に囲まれて、しかも何時でも欲情してるように見られてしまうぞ。

 変な噂ぐらいは気にしないが、実力行使や陰湿な嫌がらせを受けそうだ。


 「いつもの兄様を見せるわけには行かぬのう……」


 ローザも困ったように呟いた。

 そんな風に見られてると思うと、お兄さんは悲しいぞ。


 「『やらせ』で行きましょう。どうせ、普通の人はリオと会う機会も無いんだし、少し誇張して公爵の暮らしぶりを放送すれば気が済むでしょう。だいじょうぶ、私に任せて!」


 そんな事を言い出したフレイヤに、全員が懐疑的な眼差しを送ってる。

 ヴィオラ騎士団がそれだけ脚光を浴びてきたんだろう。

 前回のニュース映像、そして中継点の開業、そして少し前の決闘等の影響もあるんだろうな。

 

 「どれ位の番組になるんでしょうね?」

 「19時からの2時間番組にしたいらしいです」


 エミーにレイドラが答えてる。

 ゴールデンタイムじゃないか。かなりの視聴者がいるんじゃないかな?

 ひょっとして、CMに中継点の商会達がエントリーしてるのかも知れないぞ。自分達の商会もPR出来るからな。

               ・

               ・

               ・


 中継点の専用桟橋にカンザスが横付けされると、次ぎの日には皆がそれぞれの仕事に向かう。

 俺とエミー達は穴掘りの手伝いだ。

 まだまだ鉱石は取れるからローザも手伝いに来てくれた。


 鉱石が露頭のように小さなホールの一角を占めている。

 ホールもだいぶ大きくなって体育館3個分ぐらいにはなっているぞ。目標は500m程の円形のホールだからまだまだ先は長いな。


 俺達が抉り取った鉱石を、長い鉤の付いた棒を使って一箇所にローザが集めてくれる。これなら自走バージに積み込むのも楽そうだ。

 

 2時間程作業をして30分ほど休む。

 そんな事を繰り返して昼食は中継点の居住区で取る。

 大勢の人達に混じって、大盛りの昼食を食べるのもエミー達には新鮮みたいだな。

 

 「しかし量が多いのう。半分で良いと言ったのじゃが……」

 「ローザもですか? そうですね。明日はもうちょっと少な目の食事にしましょう」


 食欲があるというのは、それだけ働いてるんだろう。

 俺達も働いてはいるが、実際の作業はアリス達がしてるからな。

 

 ゆっくり食休みを取って、午後の仕事を始める。

 最後の休憩を取った時に獣機士達にお土産の酒を渡した。2本あるから、十分仲間に行き渡るだろう。

 

 そしてカンザスに戻ると、アレクとベレッドじいさんにマクシミリアンさんから貰った酒を届ける。


 「マクシミリアンじゃないか? 何処で手に入れたかは知らないが恩に着るぞ!」

 

 ベレッドじいさんは酒ビンに頬ずりしながら俺に呟いた。

 

 そして、部屋に戻ると、ソファーで難しい顔をしたドミニク達がスクリーンを眺めていた。


 「これだと、リオとまるで違った人物になってしまうわ」

 

 ドミニクの言葉にレイドラがうんうんと頷いている。


 「だって、公爵って聞くとこんな感じじゃないの? 自ら穴掘りをする公爵なんて姿を見たら、他の人は失望しちゃうわよ」


 どうやら、例の『やらせ』のシナリオみたいだな。


 ソファーに腰を下ろすとライムさんがコーヒーを運んでくれた。

 砂糖を2杯入れて、タバコを楽しみながら眺めることにする。


 朝7時に起床

 1時間長剣の練習

 8時に妻と朝食

 9時から12時は書類の確認


 12時に昼食を取る


 13時から16時まで中継点の巡視

 16時から18時まで責任者と会合


 19時に夕食を取り

 20時から1時間程妻の奏でる音楽を聞く

 22時に就寝

 

 いったい、誰の生活だ?

 こんな健全な生活ならどんなに過ごし易いだろう。


 「絶対、ボロが出るわ」

 「やはり、普通の生活を……」


 「だから、それは色々と問題があるんだって!」


 まあ、任せておこう。

 俺も此処まで『やらせ』は良くないと思うな。

 

 「レイトンさんには会ってきたの?」

 「ええ、協力してくれるそうよ。マリアンも賛成してるし、居住区の会議室を1つ提供してくれると言っていたわ」


 あの獣機士達も妻子を呼べそうだな。

 やはり妻子と離れて暮らすのは良くないと思う。これで1つ課題が減ったかな。


 いつの間にかやってきた、ローザとリンダを含めて、撮影シナリオはますます混沌と化して来たぞ。


 夢中になって自論を主張している彼女達をそっとしておいて、俺とエミーは2人でジャグジーに向かった。

 

 1時間程して帰って来たのだが、フレイヤ達の話はまだ続いていたようだ。

 どうも、俺に期待するところに乖離があるようだな。


 「議論の途中で申し訳ないけど……。その取材って何時なの?」

 「ちょっと待って、マリアンに聞いてみるわ」


 フレイヤが携帯を取り出して話を始めた。

 ちょっと休憩だな。

 これから夕食だから、俺達に運ばれた紅茶は小さなものだったが、その分香りが強いものだった。

 そんな紅茶を飲みながらドミニク達は休戦状態でいるぞ。


 「何ですって!……うんうん。そうね。分ったわ」


 そう言って、携帯をベルトに下げると、俺達に振り返った。


 「明日の夕方には着くそうよ。今夜は徹夜だからね!」

 

 俺達に向かって、そう言い放った。

 俺達もなのかな?

 明日だって、穴掘りの仕事があるんだけど……。


 夕食を取りながらも、フレイヤ達の相談は続いている。


 「やはり、この部屋も映すべきでしょうね。出動シーンも迫力がありそうです」

 「うむ。あれは、向こう側も必要じゃろう。戦姫でカンザスの装甲甲板に登るまでを捉えると少しは時間を潰せる」


 どうやら、2時間の番組を細切れにしてシーン撮影で誤魔化す考えのようだ。だけど、リビングからカンザスの装甲甲板までなら10分も掛からないぞ。


 食事が終ってコーヒーを飲む頃になると、それでも30分近くの出し物が準備できたようだ。

 

 「やはり、視聴者の代表者を呼んで質問コーナーをつくるのも良いかもしれないわね。15分程度は誤魔化せるわ」


 とりあえず、我関せずで行こう。だいたい、こういう時は放送局のほうで構成を考えてくるだろう。

 フレイヤ達も頑張ってるようだけど意外と取り越し苦労のような気がするぞ。

 それに、向うはプロなんだから任せておけば良いと思うな。

 変な噂は、それを放送する放送局に責任が問われかねない。向うだって、俺の私生活をそのまま放送することはさすがに無いと思うんだけどね。


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