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V-089 サーフィン


 ソファーの後ろの壁に組み込まれた電話が鳴って、俺達に昼食の準備ができた事を知らせてくれる。

 3人で向かったフロントのカウンターに向かうと、カウンターのお姉さんがレストランに案内してくれた。


 簡単なサンドイッチだけど南国フルーツが大皿に山盛りだ。

 ミカンぐらいの大きさのブドウまであるぞ。

 軽く食べたところで1時間程休憩すると海中散策に出掛ける。


 スキューバダイビングのような感じだが、背中のタンクは小さいし、顔全体を覆うマスクは仲間と話をする事も出来る。


 ローザ達が友人を連れて俺達と行動を共にしているけど、やはり年頃が同じ連中と騒ぐのが楽しいらしい。


 問題は、俺達のガイドのお姉さんだ。

 魚の名前は一切教えてくれないけど、どう料理したら美味しいかをひたすら教えてくれた。

 まあ、ネコ族だからねえ……。現実的ではある。


 おかげで、夕食に出た魚料理を美味しく頂く事が出来た。

 これを狙っての事だとしたら、実に優秀なガイドってことになるな。


 バンガローのベッドにも驚いた。

 何と、ベッドがそのまま上昇して、壁と同じ高さになるのだ。

 周囲は壁の間から上に向かって放たれる照明浮かぶ魚達だ。

 俺達は体を重ねるのも忘れてしばし見とれていた。


 次の日はサーフィンだ。

 小さな密閉容器にタバコとライター、それにコインケースを入れて置く。

 それを首から下げれば俺の準備はOKだ。

 タオルを首に掛けてサングラスと帽子も忘れないようにする。


 フレイヤとエミーはちょっと過激なビキニだけど、似合ってるから問題ないだろう。被る帽子はちょっとツバの広い帽子だ。サングラスはお揃いだな。

 首から下げた小さな防水ケースには何が入ってるんだろう?


 「リオの準備は良さそうね。このシューズを履きなさい。濡れても気にならないわ。珊瑚があるから裸足はダメって聞いたわ」

 

 フレイヤがバッグからマリンシューズを出してくれる。素足にそれを履くと、何か素足みたいな感触だな。


 忘れ物が無い事を確認して、部屋を出るとフロントカウンター前のソファーに腰を降ろす。

 ここで皆と待ち合わせだ。


 一服しながら待っていると、続々と仲間が現れる。

 カテリナさんは紐じゃないな。少し派手だけど、まあ気にはならない程度のやつだ。

 ローザ達も友達とやってきた。

 こっちはちょっと大人びた感じを持たせたいらしいが、体がねぇ……。

 

 フレイヤとローザが全員の点呼をしている。ちょっと修学旅行の感じがするぞ。

 そろった事をカウンターのお姉さんに告げると、潜水艇に案内してくれた。


 ちょっと人数が多くなったが十分余裕がある。

 潜水艇はゆっくりと海中バンガローを離れて南に進んでいく。


 「今日は良い波が来ているそうですよ。ところで、経験はおありですか?」


 ネコ族の青年が俺に話しかけてきた。


 「全く無いんだ。初心者でも楽しめるだろうか? これだけいるけど、たぶん皆初めてだと思うよ」

 「ははは、心配ありません。無理に板に乗らなくても、腹ばいになって波に乗ればそれなりに楽しめます」


 なるほどね。別に乗らなくても良いわけだな。

 

 「ありがとう。少し気が楽になったよ」


 そう言って青年に笑みを返す。


 たぶんそんな客ばかりなんだろうな。それでも波乗りをしたことにはなる訳だ。サーフィンとは少し違うかもしれないけどね。

 

 やがて海底のドームに入ると、その中の水面に潜水艇は浮かび上がった。


 「此処から海上まではカプセルで移動することになります」

 

 潜水艇のハッチを出ると、ネコ族のお姉さんが待っていた。

 小さなドームの端に、カプセル型の乗り物がある。4人ほど座れるベンチシートが5脚あるから、全員が一緒に乗れそうだ。


 「順番に入って欲しいにゃ。そしたら、こっちで地上に送るにゃ」


 俺達が全員乗り込んだのを確認すると、近くのコンソールでスイッチを押す。チューブの開口部が閉じると、カプセルは少しずつ速度をあげて進んでいく。

 カンザスのカプセル型の移動装置を大きくした感じだな。でもあれ程速度は出ていないみたいだ。


 チューブは海中から地中に入り、しばらくすると、明るい部屋に到着する。

 部屋に待機していたお姉さんがチューブの蓋を開けてカプセルから俺達を出してくれた。


 「ようこそにゃ。今日の波は中々にゃ。早く出て外に行くと良いにゃ」


 早速、お姉さんが腕を伸ばして教えてくれた出口に向かう。

 その扉の向うには真っ青な海が広がっていた。


 ザッブゥーン!っと波が音を立てる。

 良い波って言ってたけど……、どう見ても2mはあるぞ。波浪注意報が出てもおかしくないレベルだ。

 ここでサーフィンをするのか?


 皆も同じ思いのようで、呆然とした表情で波を見ている。


 「こっちにゃ!」


 お姉さんの声で、椰子の葉っぱで屋根を作ったような屋根だけの小屋に向かう。

 小屋の端には沢山のサーフボードが立て掛けてあった。


 「簡単に説明するにゃ。先ず、サーフボードに腹ばいになって沖を目指すにゃ。そして、気に入った波が来たらすかさずボードの上に立つにゃ。後は斜面をすべるようにして岸に向かうにゃ」


 確かに言葉にすればその通りだろう。

 

 「立ったらバランスを保つにゃ。ちょっと油断すると、ああなるにゃ」


 お姉さんが指差した先には空に放り投げられたサーフボードと頭から海に落ちる男性の姿があった。


 「トレーナーがいるから、だいじょうぶにゃ。沖に流されても、サーフボードと皆の足に紐が付いてるから、ボードにしがみ付いてれば助かるにゃ」


 何か心配になってくるような説明だな。

 でも、浮きを持ってれば確かに安心ではある。


 岸辺には監視台もあるし、良く見れば沖にも船が2艘出ている。救助体制は万全という事だろう。


 各自の体格に合ったボードを渡して貰うと、ボードと足首を繋ぐ紐(リードと言うらしい)を結んで貰って準備完了かな?


 「荷物は此処に置いておいても大丈夫にゃ。ちゃんと番をしてるにゃ」


 テーブルの上に、Tシャツと密閉容器を置いてお姉さんにタバコが吸えるかを聞いてみた。

 「あれ!」って腕を伸ばして教えてくれた場所には灰皿がある。

 片手を上げて了承を伝えると、皆と一緒にボードを抱えて海に向かう。


 ネコ族の青年3人にボードの使い方と乗り方を教えてもらって、早速沖に向かって漕ぎ出していった。


 とりあえず波の比較的小さなところでやってみる。

 別にボードに乗らなくても、このままユラユラ揺れてるだけでも気持ちが良いぞ。


 そんな事を考えながら、皆を見てると……、ローザ達が大きな波に乗っている。

 直ぐに波に隠れて見えなくなったけど、普段からグランボードで鍛えているからか?

 一緒に来ている友人達も中々だ。


 問題は、エミー達だな。

 俺と同じように、アザラシが顔を出したような感じでローザ達を見ている。


 そんな中、波に捉えてボードに乗ったのはカテリナさんだった。

 さすがに筋肉組織と神経系に精通しているだけあって、バランスを上手く取っている。

 フライヤ達が唖然としてその姿を眺めているようだ。


 どれ、俺も……。

 乗れん!

 どうにか乗って、立ち上がったところでバシャン!っと落ちた。

 ボードに足が曳かれていくが、どうにかボードに掴まった。


 『乗りたいですか?』

 「まあ、乗ってみたいけど、こればっかりは練習しないとダメなんじゃないか?」


 『基本は身体バランスと体重移動です。過去のデータがありますから運動神経系統の再構築を行います。……データ伝送、神経系統再構築終了。これで、どんな波でも乗れますよ』


 波を見た感じがさっきと異なる。

 乗りやすい波かどうかが分るぞ。

 2つほど後に来る波が良さそうだ。

 うねりが俺を持ち上げると同時にボードを手で漕ぎ出し波頭が現れるとその先に回りこむ。

 滑るように波の斜面をボードが滑るときに体を起こしてバランスを取る。

 後ろの足でテールを制御すれば方向が定まるんだな。

 スイーっと20m程移動したところで波が砕けて巻き込まれてしまった。


 今度は、沖に向かって波の高い場所を目指していく。

 そこにはカテリナさんとローザ達が波を待っていた。


 「兄様、ここは上級者の場所じゃぞ。初心者はあそこが良いのじゃ」


 そう言って指差した場所には、エミーやドミニク達がプカプカと浮かんでた。

 確かに大きな波は来ないようだ。ボードに寝そべって波をキャーキャー言いながら乗り越えて騒いでいる。


 「出来るの?」

 「出来るようになりました。まあ、見ててください」


 グンっと体が押し上げられる。

 

 「先に行くのじゃ!」


 ローザ達が上手く波を捉えて滑っていく。


 「次の波が良さそうよ。大きいわ」

 

 カテリナさんの言葉に、後を振り返るととんでもないうねりが押し寄せてくる。


 「良いですね。行きますよ!」


 まるで上空に放り投げられるようだ。

 直ぐに前方にボードを漕ぐ。

 波頭を捉えて、ボードの前方に体重を乗せて波の斜面を滑り始める。

 急いで体を起こすと波の斜面を斜めに滑り始めた。

 

 高さは5mはあるんじゃないかな。

 ターンをすると、こちらに向かってカテリナさんが滑ってくる。

 互いの手をパシンっと音を立てて交差した。


 波が砕け始めると、パイプラインに入る。

 水のトンネルを抜けて、波頭に向かってジャンプを決めたところで終ってしまった。


 岸に向かってボードを漕ぎちょっと一休み。


 トロピカルジュースを飲みながら、タバコを楽しんでいるとカテリナさんがやってきた。


 「ズルしたでしょう」

 「アリスに協力してもらいました」


 「そうでしょうね。さっきの演技だと競技会ならメダルものよ」


 そんな事を言いながらカテリナさんもタバコを咥える。


 「でも、カテリナさんがサーフィンが出来るとは驚きました」

 「一応、スポーツは一通り出来るわよ」


 ちょっと意外な面が見られたな。

 皆も疲れたのか続々と岸に戻って来ている。


 「リオがサーフィンの名人だとは思わなかったのじゃ。我にグランボードを勧めてくれたのはその下地があったからじゃな」


 ローザが感心したように呟いた。

 

 「でも、最初は端の方でぷかぷか浮いてましたよ」

 「あまり、自分の技量を見せたくなかったってこと?」


 「でも、さっきは堂々と見せてましたよね?」


 しっかりと俺を見てたな。

 午後はあまり海に出ないようにしよう。

               ・

               ・

               ・


 海中バンガローに帰ってきたのは夕暮れ時だった。

 直ぐに夕食になり、それぞれのバンガローに帰っていった。


 まだ早い時間だが、今日は疲れたな。

 早めに寝ようと2人誘ってジャグジーに入った。

 しっかりと焼けたから、ぬるま湯でもひりひりするぞ。

 夜の海中は、明かりに魚が集まってくる。

 名前は分らないけど、どう料理すれば良いのかが思い出されるのは、あのガイドのお姉さんのたまものだ。


 「明日は何をするんだろう?」

 「ジャングルクルーズよ。カヌーで島の奥に入っていくの。何でも遺跡があるって聞いたわ」


 本物なのか?

 かなり怪しい気がするな。


 まあ、それでも皆で騒ぎながら探索するんだろうな。


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