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V-069 新型獣機の評価

 獣機の標準的な大きさは身長12m、体重は40t前後だ。

 だが、新型は身長が14m、体重は60t近い。

 戦機というより、戦姫に近い大きさだ。

 呆気に取られて、一方的なカテリナさんの説明を聞き終えた俺達は、待機所に集まっていた。


 フレイヤとサンドラ達がソファーに座って溜息を付いている俺達にコーヒーを配ってくれる。

 グレイが他から、ソファーを担いできて足りない分を補ってる。


 「さすが、カテリナ博士ってことだな。しばらく大人しいとは思っていたが、あんなものを作っていたとは……」

 「使い物になるんでしょうか?」


 少しは落着いてきたな。

 考える事が出来るようになってきた。


 「考え方は悪くない。動きは乗ってみないと分らないが、瞬発力重視と言っていたから軽快な動きが出来ることになる。そして、あのライフル砲だが、ライフルではないようだ。滑腔砲だな」

 「どう違うんですか?」


 滑腔砲と言うからには、ライフルリングがバレル中に刻んでないことになる。使う弾丸はAPDSってことになるんだろう。


 「発射速度を重視してるんだ。ライフルリングがあればそれだけ速度が落ちる。それにあの弾丸の炸薬は水素だぞ。爆轟を利用するようだ。秒速2kmを超える弾丸が撃てる」

 「レールガンには及ばぬか……。しかし、そんな弾丸を撃ったら中型巨獣なら皮膚を簡単に貫けるぞ」


 ローザが驚いたように言った。

 威力はあるだろう。だが、銃が持つのか?

 

 「1秒に1発撃てるらしい。マガジン1つ空にしたらしばらくは冷却が必要だと言っていたな」

 「それに獣機の稼働時間が5時間では、戦機が将来必要が無くなりませんか?」


 将来が心配になったような顔でグレイがアレクに質問している。

 アレクの方は、半分ほどに減ったコーヒーカップにたっぷりと酒を注いで飲んでいるぞ。悪酔いしないのかな?


 「問題は値段です。戦機程ではないけれど、そこそこ巨獣に対抗できる獣機なら、騎士団はこぞって手に入れるでしょう。カテリナ博士の1機2千万Lは微妙な数字ですね」

 「そこには儲けは入っていないからな。実際の販売価格となると、3千万L程度になるんじゃないか?」


 「なら、私の所に数機を直ぐにそろえる事が出来ます。戦機2機に新型獣機が5機あれば低緯度での巨獣は対処できるでしょう」

 

 アデルなりに評価しているようだ。

 戦機3機に新型獣機を6機位は、同盟を終える時には引き渡してやりたいな。


 「という事は、このまま数機を作ってもらうことで良いかな。それだけあれば新型の評価が出来るだろう。1機だけで評価するのは危険な気がする」

 「そうね。それで行きましょう。そうすれば量産時の生産量も評価出来るわ」


 ドミニクがそう言って、話題を締めくくる。

 騎士団長達が出て行くのを見ながら、俺達は此処でしばらく時を過ごすことにした。

 早速、ローザ達がカードを取り出して、パフェを廻る戦いを始めたようだ。

 

 俺達はそれを見ながらのんびりとビールを飲み始めた。

 少し席を離れればタバコも吸えるからな。

 

 「サーペント騎士団以降は、問題なく推移してますね」

 「全くだ。ところで、あの騎士団はどうなったんだ?」


 「アリス分るか?」

 『現在、東に向かっています。拠点がありますから、そこを中心に活動するのかも知れません』

 

 まあ、こっちに来なければ問題ない。

 あれだけの事をやった以上、信用はガタ落ちだろう。取引を止めた商会も多いに違いない。


 「そうなると、そろそろ俺達も出航ですね」

 「たぶん騎士団長達はその相談だ。2回も出航すると、今度はフラグシップがやってくるぞ」

 

 それも頭が痛いところだ。何とかヴィオラとガリナムの乗員を工面するしかないんだよな。それに、ガリナムについては新しい艦長を探すことになる。

 領内の防衛用の艦船は、移動要塞にすることで遠隔化が可能になったが、荒野を駆けるガンシップとなるガリナムはそうもいかない。

 

 そして、もう1つの悩みが戦機の配分だ。

 俺達騎士団の戦機はウエリントン王国からの援助を入れても、戦姫が2機、戦鬼と戦騎が1機ずつ、そして戦機が7機だ。

 ベラドンナに戦機3機を載せて、残りの8機はヴィオラに搭載している。

 フラグシップが届けば、アレク達をヴィオラに残すことになるだろうな。


 夕食を終えて、エミーとフレイヤと一緒にベッドに入る。

 1時間程で2人が寝入ってしまった。


 ソファーでタバコを楽しみながら、最新のフラグシップの状況を見てみる。

 外装は殆ど終っている。

 2連装の88mm砲が2つの船殻の上部に並んでいるのは迫力があるな。そして側面にも楕円形のふくらみが5箇所作られていた。

 どうやら単装砲を収納しているらしい。

 ブリッジも2つの船殻を跨いだ形で作られている。三分の一程2つの船殻に埋め込まれたような形状だが、大きさはそれだけでちょっとしたビル並みだ。

 巨大な船殻には核融合炉と発電装置それに半重力場を発生する装置で一杯なんだろうな。かなり補修が面倒になりそうだぞ。


 フラグシップと言いながらあまり戦機を積めないのは、そんな余計な物を沢山積んでいるからに他ならない。自動化を極めたというのもそれが原因なんだろうな。

 

 そして、他のラウンドクルーザーには見られないものがフラグシップの後ろにある。

 大型の水素ターボエンジンの噴射口だ。

 直径だけで10mもありそうな噴射口が5基横に並んでいる。

 

 推力偏向を考えてるのかな?方向舵が付いていないぞ。

 今度は、艦首を調べてみる。

 なるほど、スラスターで方向を変えるようだ。減速用と思われるロケット噴射口も確認できる。

 多脚式駆動系は船殻の長手方向に2式付いているが、これは従来のラウンドクルーザーと同じものだろう。

 

 俺達のフラグシップは地上と空中のどちらも操船出来るだけの技量が要求されるって事だな。


 改めてコーヒーを入れて、タバコに火を点けた。

 確かに目立つな。ブリッジの横にヴィオラ騎士団のロゴが堂々と描かれている。

 フラグシップを中心に千kmは救援に行ける範囲になるだろう。

 となれば、位置を常に他の騎士団に知らせる必要も出てくるな。

 騎士団が何処で鉱石を採掘しているかは、どの騎士団も秘密にしていることだ。

 ある程度、鉱石採取をする船団と離れて行動する必要も出てきそうだぞ。


 「あら、1人なの?」

 「2人とも寝ちゃったんだ」


 ドミニクとレイドラが帰ってきた。

 直ぐに俺を誘ってジャグジーに向かう。

 2人を一緒に抱きながら次の出航を聞いてみた。


 「明日の夕刻に此処を出るわ。出たら直ぐに西に向かうわよ」

 「都合6日を考えています。まだ探索をしていませんから直ぐにバージが一杯になるでしょう」


 「そしたら、いよいよフラグシップの受取りになるのかな?」

 「2回は探索に出掛けたいわ。王都に行く時に、ガリナムを回送する予定よ。ガンシップとして改装するわ。今度は88mm砲よ」

 

 「それで、船長は誰に?」

 「クリスの姉さんが来てくれるそうよ。軍の駆逐艦の艦長をしていたらしいんだけど、上官を殴って退役したらしいわ。旦那が操船をしていたそうだから2人来てくれれば問題なしってこと」


 また、おもしろい人物がやってきそうだな。

 夫婦なら、息はぴったりだろう。少し過激な御仁らしいけど、ガンシップだからそれ位で丁度良いかも知れない。


 ジャグジーを出て2人のベッドルームに場所を移す。

 今夜はこっちにお泊りになりそうだな。


               ・

               ・

               ・


 次の日の夕刻に俺達は中継点を出て、鉱石探索を始める。

 曳いているバージは全部で8台だから、直ぐに満杯になるだろう。

 谷を形成する尾根が尽きると直ぐに西を目指して進む。


 まだ50kmも進まぬ内に、鉱石の採掘が始まった。

 俺達戦機組はいつものように待機所でその光景を眺めている。

 

 「しかし、近場は盲点だったな。俺達の領土にも沢山ありそうだぞ」 

 「専門家をカテリナさんが呼んでいます。そしたら調査を始めるでしょう。案外戦機が埋まってるかも知れませんよ」


 そんな事を言いながら、エミーの持つカードを1枚引いた。残念、揃わなかったぞ。

 

 「もし、時間があるのなら、ムサシを動かしてみたいのですが……」

 

 そう言ってサンドラからカードを引く。どうやら1組揃ったようだ。ニコリと微笑んでテーブルに同じ絵柄のカードを捨てる。

 「確かに、それはやったほうが良いだろう。カーゴ区域だけでは十分に動く事はできないからな。……よし!上がったぞ」

 

 最後の1枚の絵柄が揃ったのでアレクは喜んでるぞ。

 残ったのは、俺とグレイにサンドラだ。

 今日のパフェは誰のおごりになるんだろうか?


 「この所、負け続けじゃのう」

 

 嬉しそうな顔をしてローザが俺に呟いた。

 

 「皆さんの士気を高めるよに、リオ様は頑張っているのですよ。白熱した中で自分を最下位にするのは勝つよりも難しいのです」


 それって、慰めなんだろうか?

 頑張ってるんだけど、勝てないんだよな……。


 「まあ、リオは勝負事には向いてない事は確かだ。良くもトリスタン殿を負かせたものだと思うぞ」

 「兄様に懸けた連中が皆喜んでおったぞ。かなりな高配当だったと聞いておる」


 「確かに、エミー様が懸かっていたのも勝因の一つだろうな。中継点を出て直ぐに鉱脈を見つけられたのも、そんな幸運の女神が此処にいるからなんだろう」

 

 そんな事を言いながらエミーにウインクするから、両脇のサンドラ達に足を踏まれてるぞ。

 口は災いの元って本当だったんだな。


 「今日はダメだけど、今夜にでもドミニクに聞いてみると良い。俺達もフォローすれば危険は無いだろうし、俺達もジッとしてるのはね」

 「そうじゃな。デイジーとアリスがいれば巨獣には即応出来るじゃろう」


 そんな事があった2日後に、その機会が訪れた。

 2時間限定と言われて、早速外にデイジーが飛び出す。

 その後に俺の乗ったアリスが続き、最後にムサシが昇降装置から装甲甲板に降り立った。


 エミーはフレイヤと一緒に火器管制室に行っている。「直援機なら私のところでしょう」と言うとエミーを連れて行ってしまった。

 だが、あそこは周囲全体の状況を一番知る事が出来る場所だから、あながち間違ってはいないんじゃないかな。


 デイジーはグランボードをポイっと投げると、すかさずジャンプしてその上に飛び乗った。昔の面影がまるでない。

 完全にグランボードと一体化した動きをするようになってるぞ。


 そして、ムサシもデイジーの隣に飛び降りた。

 

 「さすがは姉様じゃ。我の後に付いて高速機動の練習じゃ!」

 

 そう言ってデイジーが滑空を始めると、その後ろにムサシがピタリと付いていく。

 

 『問題無いようですね』

 「だが、暴走したら強制介入してくれよ。外で練習するのは初めてなんだから」


 『了解です。周囲に巨獣反応はありませんからしばらくは安心して見ていられます』


 姉妹の鬼ごっこは、鉱石採掘が終る直前まで続けられた。

 ムサシの機動自体には問題が無さそうだ。

 後は、実戦に投入出来るかを試さなければならないんだが、生憎とムサシの武装はあのカタナだからな。

 こればっかりは、いきなり実戦になりそうだぞ。

 

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