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V-062 怪傑ブラックマスター


 朝から、カテリナさんの置いていったビデオを4人で見ている。

 内容は勧善懲悪の陳腐なものだけど、やたらアクションが多い。それもどう見てもワイヤーアクションに見えるんだよな。

 そして使う武器は、あの時のムサシのように上下に刃の付いた棒のような武器だ。

 

 走り抜けながら斬り、跳び上がりながら相手を斬る。

 なるほど、これなら丁度良いかも知れないけど、ドミニク達まで夢中になってみてるぞ。

 

 途中までは一緒に見てたけど、あまりの陳腐さに待機所に行ってアレク達と雑談をす。

 

 「どうした? 今日は1人じゃないか」

 「ええ、部屋でカテリナさんが貸してくれたビデオを4人で夢中になって見てます。あまりに陳腐な内容なんで逃げてきました」


 サンドラが「それはそれは」と言いながら、コーヒーを出してくれる。


 「待て、題名は? 内容でも良いぞ!」

 「確か、昔の設定で石作りの王都が舞台でしたね。普段は居酒屋の若いマスターなんですか、悪役にやられている住民を見ると、黒装束で駆けつけてくるんです。そして、ムサシと同じような武器でやたら派手なアクションで相手をやっつける話でしたよ」


 「怪傑ブラックマスターだ。そうか!……さすがはカテリナ博士、予想通りの仕事をしてくれる」


 感動してるって事は、アレクの見せたかった奴と同じって事だな。

 そんなアレクを呆れた表情でサンドラ達が見ているぞ。


 「という事は、そんなに長く掛からずに、またムサシの機動が見られるという事になるな」

 「でないと、困ります。フラグシップは1年を掛けずに出来上がるんですよ。それには少なくとも、アリスとデイジーそれにムサシは不可欠です。場合によっては戦鬼も乗船させる必要があるでしょう」


 「正しくフラグシップになる分けだな。だが、何時出来上がるんだ?」

 「そうですね。今度カテリナさんに会ったら聞いて見ます」


 「なら、早速、聞いてみたら?」


 そう言って、俺の隣に腰を下ろしたのはカテリナさんその人だった。

 

 「部屋に行ったら、早速見てるから、続きのビデオを貸してあげたわ。あのまま見続ければ、今のエミーにとってはしっかりと覚えられるわ」

 「さっき、その話をしてたんです。さすがはカテリナ博士、趣味が良い」


 アレクのお世辞にオホホって笑いながらコーヒーを飲んでる。

 サンドラが慌てて入れてきたようだな。


 「それで、フラグシップの方だけど、後2ヶ月は掛かりそうね。色々注文を付けたから纏めるのに苦労してるんじゃないかな。少なくとも、2度と作ろうとはしないんじゃないかしら」


 なんでもないような言い方で、とんでもない事を言っているような気がする。

 一体どんな注文を付けたんだろう?


 「難しい注文という事ですか?」

 「個々の注文はそれ程でもないわ。問題はそれをどう統括するかという事なんだけど……。戦術電脳が5つに、擬似人格を持たせた中央電脳でちゃんと動かせる自信が無いみたいなのよね」


 確か高度に自動化するような事を言ってたな。

 今のヴィオラもかなりの自動化が進んでいるけど、乗員数は150人を超えている。

 規模的にはそれが2隻になるのだから300人は必要なんだろう。

 それを、100人以下にしようと考えているに違いない。

 

 「想定している乗組員は何人なんですか?」

 「直接要員が30人。保全要員が20人それに間接要員は10人前後にしたいわ」


 そんなんで動くのか?

 戦闘能力の全く無い輸送船だって100人は乗ってるぞ。


 「最終的にはアリスにプログラムのデバッグをして貰うわ。そうでもしないとどんなバグが潜んでるか判らないもの」

 「アリスの電脳はそれ程の機能なんですか?」


 「少なくとも、今の科学ではアリスの電脳は解析不可能。デイジーに搭載された電脳だって、作ろうと思えばガリナムの半分ぐらいの大きさになるわ」

 

 まあ、確かに殆ど人間と変わらない人格を持ってるからな。

 それに、3カ国の思惑もあるだろうから、どんなバグやウイルスが入っているか分ったものじゃない。やはりアリスに調べて貰うしか手は無いってことになるんだろう。


 そして、それが3ヶ月後と言うのは、結構早い出来だ。あれからまだ一月って所だからな。

 いくら半完成品があったからと言っても、双胴型で武装も特殊だ。駆動系はもっと特殊なものだろうし。

               ・

               ・

               ・


 次の鉱石採掘は、俺とエミーも同行する。

 カテリナさんもムサシのデータを採取すると言って付いて来た。

 順調な鉱石採取の合間に、ムサシの起動試験や簡単な動作をさせるために必要なコントロール方法を反復練習することでエミーの脳に刻み込んでいるようだ。


 そして、そんな試験をいつも俺の横でローザが見ていた。

 やはり気になるんだろうな。

 

 8日で中継点に戻って、3日程の休暇を過ごし、再び採掘に向かう。

 しばらくはこんな暮らしだ。


 王都からの高速輸送船が俺達の採掘した鉱石を引き取り、新たな建設資材を運んでくる。

 

 各商会も輸送船を仕立てて中継点にやって来た。

 たちまち看板が出され、事務所が開店していく。

 そんな中、大きな門型の装置が組みあがった。バージ単位で鉱石の品位を探査する装置だ。3台運ばれて、1台ずつホールと外に設置されるらしい。もう1台は予備として角に置かれるようだ。


 浄水タンクも1基300tの物が屋外に2つ作られた。

 トリチウムの貯蔵タンクや水素吸着剤を充填した燃料ユニットの充填装置も2基作られたから、そろそろ中継点の店開きを始めても良さそうだな。

 

 ドミニク達騎士団長と王都の官僚、それにマリアン達と商会の代表が集まって、具体的な店開きの期日を今日の会議で決めるらしい。

 最初はどこの騎士団が来るのか楽しみだ。

 

 「どうにか形になったという事じゃな」

 

 ジュースを飲みながら、ローザが呟いた。

 そんな、大人ぶった言い草が可愛いとフレイヤにハグされてるぞ。

 

 「少なくとも中央桟橋があるから俺達と直接合う事も無いだろう。無駄な諍いを起こす要因は少ないだろうな」

 「あったとしても制圧は簡単だ。それに、此処は治外法権。騎士団の作法で相手を裁ける」


 「でも、入口が1つでしょう。出入港が煩雑よね」

 「その為の管制官よ。彼の誘導を聞けないような騎士団はお断りだわ」


 いざ、中継点の業務を始めようとすればそれなりに言いたい事はあるようだ。

 たぶん、同じような事が各国の港でも言われているんだろうな。

 だが、この場所以外に西の中継点は現在存在しない。この場所を利用することで西への鉱石採掘が可能になるといっても過言では無いだろう。

 王都まで片道8日も掛けて荷を運ぶなら別だけど……。


 そんな事を考えながら、俺達男共はソファーの一角でタバコを楽しんでいる。

 

 「まあ、色々あるだろうが1つ1つ片付けるしか無いだろう。それに、場合によっては出入禁止に出来る資格が俺達にはあるからな。まったく、こんな事を考えてリオを公爵にしたんだろう。よく考えてるぜ」

 「要するに入国審査を導入出来るってことだ」


 キョトンとした表情の俺にアレクが教えてくれた。

 

 「ここは公爵領。言わば私有地だからな。無作法な連中は事前に締め出す事が出来るってことだ」

 「でも、それは他の騎士団にとって問題になりませんか?」


 「十分問題だ。だが、3つの王国が承認している以上、どうにもならない。最悪積荷を売る事も出来なくなるからな。どの騎士団も不満はあるが大人しくしているさ。12騎士団も同じだ。忌々しくは思っても何も出来ない」


 何か後ろから刺されそうな感じだな。

 そんな話をしていると艦内放送が始まった。


 『ヴィオラ騎士団長からの連絡です。ヴィオラ騎士団領に設けた中継点の運用開始が10日後に決定しました。運用開始前にヴィオラ騎士団は鉱石採掘に向かいます。出発は明日0800時、航行日数は7日を予定しています。繰り返し連絡します……』


 「決まりましたね」

 「ああ、後は蓋が開くのを待つだけだな」


 結果はなるようにしかならないからな。今から否定的に考える必要も無いだろう。

               ・

               ・

               ・


 「次ぎは何時出られるか分らないから、今の内に稼いで起きましょう」

 「そうね。10日位は様子見になるのかしら?」


 「問題はどれ位こちらに向かって来るかですね」

 「王都の商会にパスの代行を頼んだわ。期間は1年で各国に20枚を発行して貰うことにしたわ。管制官の話では1日の入出管理は50隻位だと言ってたわ。それで集中しなければ更に10枚ずつ発行出来るでしょうね」


 そんな話をジャグジーでするのも問題かも知れないが、皆が集まってるから丁度良い。


 「何時発行するんですか?」

 「明日、王都で一斉にニュースで流すらしいわ。その5日後に抽選を行なって発行は次の日。真直ぐ来たとしてもここに来るのは中継点の開店1日後よ」


 「まさか、見学者は来ないんだろうね」

 「ホテルが1つしかないから、これも限定出来るわ。と言っても、見るものなんてないのにね」


 たぶん、戦姫を見られるかも知れないって感じで来るんだろうな。

 中央桟橋で出迎えてやろうかな? サービスって大事らしいし。


 「最初の来客は王族らしいわよ。対応や、宿泊は通常の部屋で我慢して貰わなくちゃならないけどね。これは商会の方で色々と段取りをしてくれるらしいわ」

 「母様達が来るんでしょうか?」


 「たぶん。きっと喜ぶわよ。まだ見えることを知らせてないんでしょ」

 

 フレイヤの言葉に嬉しそうに頷いた。

 長距離通信は限られてるからな。

               ・

               ・

               ・


 次の日、早朝に中継点をヴィオラ騎士団の3隻が出て行く。ヴィオラは殿だ。

 隔壁を通って外に出ると、途端に荒地の太陽が眩しく感じる。

 サングラスの1つをエミーに掛けてやると、小さく頭を下げて礼を言ってくれた。


 左右の尾根の間は3km程の距離があるが、その一角に桟橋を獣機が作っていた。

 長さ2kmの物を作るような話をしていたが、バージ用の桟橋になるらしい。

 別に中継点に入港しなくとも鉱石を売買するためだそうだ。


 1時間も進むと尾根が切れて広大な荒地が広がる。

 エミーは初めて見る雄大な景色に、窓に近付いて眺めていた。

 そんな彼女にコーヒーを入れてあげると、俺もソファーに座ってタバコに火を点けた。


 「これが私達の暮す世界なんですね」

 「何も無いように見えるけど、この場所で鉱石を探して採掘し、それを売ることで騎士団は生活している。沢山の騎士団があるよ。たぶん俺達の拠点に来るから、ラウンドクルーザーの艦橋を見てみると良い。そこに、その騎士団のロゴマークがあるんだ」


 更に2時間程進んだ所で大きく右に舵を切り、3隻の船が並走を始めた。

 鉱石探査が始まったようだ。

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