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V-053 アリスの提案

 俺達の休暇も後半に入って来ると、ドミニク達が毎日のように島から王都に出掛けていく。

 前に王家から渡されたカードは今でも有効らしく、行ったついでに買い物をしてくるから、朝食後に出掛けて帰ってくるのは夕食前だ。


 おかげで、広いコテージににはエミーと俺だけが昼間を過ごすことになる。

 何時もはローザ達と一緒に騒いでいるのだが、今日はローザ達だけで島の探検に出掛けたようだ。いつものネコ族のお姉さんが一緒だから、危険性は全く無いだろうけど、薄暗いジャングルみたいな島の中心部に分け入るのはちょっと楽しそうだな。


 そんな訳で、俺達は裸で海に入ったり、リビングでコーヒーを飲んだりして過ごしている。

 

 「何時までも、このまま暮らせれば良いですね」

 「遊んでばかりでもね。後3日で俺達の中継点に戻る。しばらくは船で暮らさなくちゃならないよ」


 そう言って、裸のエミーを抱き上げると、ソファーに押し倒した。

 これで、朝から何度目だ?やはり、あの薬のせいなんだろうな。


 眠るようにしてソファーに横たわるエミーを抱き上げてシャワーを浴びる。

 そろそろ、カテリナさんが帰ってくる頃だからな。


 水着を着せて、テーブルの席に座らせると、コーヒーを入れてあげた。

 美味しそうに飲む姿を見ながら、タバコに火を点けた。

 あまり、タバコの煙が気になら無いらしい。

 ローザなら露骨に嫌な顔をするんだよな。


 「あら、此処にいたの? てっきりベッドにいるのかと思ってたわ」

 

 そんな言を言うから、エミーの顔が真っ赤になってるぞ。

 それでも、タブレットを取り出して、エミーの診察を始めた。

 

 タバコを消して、少し冷めたコーヒーを飲みながら、カテリナさんの診察を見守った。


 「それで、どんな感じなの?」

 「元々見えませんでしたから、表現の方法に困りますけど……、明るさと暗さの違いに段階があるように感じます。

 昼間の空と海、そしてリビング。シャワー室と寝室の明るさの違いが分るようになりました。

 そして、今日は、ベランダでリオ様が私の前に来たのが分りました」

 

 「深い霧の中にいるような感じなのかも知れないわ。私が顔を近づけるから、分ったら教えて頂戴」


 そう言ってエミーの顔を両手で掴むと、ゆっくりと自分の顔を近づけていった。

 20cm程の距離で、エミーが返事をしている。


 「やはり、改善しているわ。ゆっくりとだけど、エミーは見えるようになるわよ」


 カテリナさんの言葉に、エミーが嬉しそうに頷いている。


 「視覚野の形成は赤ちゃんの時に劇的に行なわれるの。エミーはそんな時代を過ぎているから、ゆっくりと形成されている感じね。ヒルダも喜んでいたわ」

 「でも、何時頃になれば俺達と同じように見えるんでしょうか?」


 「この速度で行けば、……来年には確実よ。そしたら、皆で一緒に遊べるわ」

 

 俺の言葉に少し自信無さそうに答えてくれた。

 途中で改善が止まってしまうかもしれないと思っているのかな?


 「そうだ。これを御后様達から預かってきたわ。貴方への公爵任命の正式な証書よ。どうやら、領土は30km四方で合意したみたいね。宣誓式や宴会等も行なわれないけど、その費用分は小切手で証書と一緒に頂いたわ。1億Lあれば色んな事が出来るわよ」

 「頂いて良いんでしょうか?」


 「この前の国王と大使達との話では問題ないわ。そんなセレモニーをしなければ国民は昔からの貴族と思い込むでしょうね。それと、これが貴方の公爵印になるわ。」

 

 小さな指輪を渡してくれた。

 これで3つ目になってしまうな。


 「国王に頂いた指輪は着けなくても良いわ。でも、これは付けておきなさい。貴方の立場が騎士だけで無いことが分るわ」


 そう言ってタバコに火を点けたのを見て、コーヒーをカテリナさんに渡した。俺と、エミーのカップにも新たにコーヒーを注ぐ。


 「ところで、エミーには小さな電脳を埋め込んでいるんですよね」

 「ええ、埋め込んだのは2歳にも満たない頃だから、今では取り出す事も出来ないわ。大きな障害物なら避けられるだろうと思ってのことだったけど、今ではそんな技術は陳腐化してしまったわ」


 指先位の大きさだと言ってたな。後々問題が出ないと良いんだけどね。

 

 『現在エミー様の小型電脳は機能停止をしています。私が再構成しても問題ないでしょうか?』

 「アリスなの? 私の端末を使うとはちょっと信じられないわね。……でも、何の為に?」


 『視覚野の活性化と他の脳内部位へのリンケージを促進します』

 「ナノマシンで再構成してピコマシンで神経節を接続するわけ?」


 『その過程で電脳のリプログラムを遠隔で行ないます。現在の電脳は聴覚を対象としていますから、それを視野に特化したいと思います』

 「任せるわ。そうなると……かなり早期に見えるようになる筈だから」


 「もう1人、何方かおられるのですか?」

 「常に俺と共にいる。アリスという戦姫の電脳なんだけど、意識を持っているんだ」


 「でも、悪い話じゃないわ。たぶん劇的に見えるようになるわよ」

 

 そんな時に電話が鳴った。

 早速、出ると昼食のお知らせだ。


 2人を誘って、中央のコテージに向かった。

 御后様達が同席しての昼食はフルーツサンドだ。

 何となく、昼食と言うよりはオヤツのように感じるな。


 ヒルダさんは、エミーとカテリナさんの話を聞きながら涙を浮かべている。

 親としても、ずっと心配だったに違いない。


 「リオ様は、お嬢さん達がおられなくて寂しくはありませんの?」

 「エミーがいますから大丈夫ですよ」


 そんな返事を面白がってるのも問題だよな。


 「でも、本当に今まで3人のお相手をしていたの?」

 「3人以外にもいるみたいなの。それでも足りないみたいだから、大変だったと娘に聞いたわ」


 そんな下ネタで喜んでるのは欲求不満なのか?

 そして、その中には自分も入ってる事など全く気にしないで他人事のように話すカテリナさんは役者だと思わざる得ない。

 

 「それにしても不思議な話ですね。まるでおとぎ話のようですわ」

 「これも、普段のエミーを神様が見ていたという事でしょうね」


 実際には俺のピコマシンのせいなんだろうけど、この世界では作れないとカテリナさんが言っていたからな。そういう意味で納得してくれれば変な目で見られる事も無いだろう。

               ・

               ・

               ・


 そして、俺達は休暇を1日残して王都に帰ることになった。

 高速艇で新たな人材を一緒に連れて行くことになったようだ。

 俺達が帰るのを名残惜しそうに御后様やローザ達が見送ってくれたけど、明日には一緒に帰る事をローザは考えているのだろうか?


 デラックスなホテルのスイートルームに案内された俺達は早速着替えると、ホテルの会議室へと向かった。


 「何人来るのかな?」

 「結構、声は掛けたんだけどね。5人は来てくれるんじゃないかな」


 そんな話をしながら、会議室の扉を開けると、20人程の男女が座っていた。

 早速俺達も席に座ると、レイドラが端末を操作して会議室のスクリーンを使って説明を始める。


 「リオ公爵が新たに国王様より賜った土地を開発します。現在、騎士団の資材と公爵の財力を持って拠点造りを行なっています。現在の進捗は、次の映像を見てください。

 先ずは、拠点の入口ですが……」


 中継点のデモだな。

 よくも短期間に現状を纏めたものだ。


 「概要は理解したつもりだ。で、俺達は誰の元で働けば良い?」

 「管理部門の責任者を、ラティエ男爵家のラズリーとレイダル公爵家のマリアンに任せます。王立学園を優秀な成績で卒業したと聞きました。よろしくお願いします」


 2人の名を聞いたとき、集まった連中の中で数人が驚いたように集まった者達を見回した。

 それなりに名を知られた存在らしい。

 

 「となると、俺達はちょっと気後れしてしまいます。お役に立てるんでしょうか?」

 

 別な男がおずおずと手を上げて俺達に告げる。


 「適材適所と言う言葉もあります。全てを完璧にこなせる人間等いないはずですから、大丈夫ですよ。少なくとも貴方に声を掛けたという事は、俺達が貴方を評価しているという事ですから」


 そして、改めて2人の責任者を紹介する。

 エミーの先輩にあたる存在のようだが、彼女に良くしてくれたそうだ。

 王女様という立場もあったのだろうが、2人の名を嬉しそうにドミニクに告げたのはそればかりでは無かったんだろうな。

 

 2人とも貴族の出身ではあるが大勢の兄弟の末の方らしい。あまり親の七光りも当てに出来ない筈だ。となればその実力はかなりなものだと思う。


 あらかじめ全員のプロフィールを渡しておいたのだが、テキパキと彼らの役割分担を告げているのを見ると、やはり才媛っているんだなと感心してしまう。

 

 「運行管理や荷役の管理は3年間は王国が面倒を見てくれるそうですが、その後は我等で行うことになります。事務管理のノウハウはそれで勉強することになるでしょう。

 騎士団領までの距離は6千km。高速艇で1日は掛かりません。休暇は定期的に高速艇の利用料金込みで出ます。

 最後に身分ですが、騎士団領の役人と言う立場ですから給与は公爵家から出ます。3日後にこのホテル最上階から発進する高速艇で任地に向かいます。……質問は?」


 特に質問は無いみたいだな。

 文官は少しずつ増やせば良いだろう。

 

 そして彼らが部屋を出るときに、レイドラとフレイヤが小さな袋を手渡していた。

 

 「何も無いところに来るのよ。必要な物もあるかもしれないわ」

 

 彼らが去った時にフレイヤに聞いてみたら、そんな答えが帰ってきた。

 カテリナさんも人探しを手伝ってくれてる筈だけど、そっちはどうなったんだろう。


 夕食後に部屋でくつろいでいると、カテリナさんが部屋に帰ってきた。大きなカバンを2つも持ってきたぞ。


 「ようやく、来てくれることになったわ。私の大学時代の後輩よ。地質学と生物学の権威なの。ラボを持たせてあげるのが条件だけど……、3人程研究員を連れてくるそうよ」


 それって、役に立つんだろうか?

 思わず俺達は顔を見合わせてしまった。


 「30km四方を貰ったんだから、将来はオアシスを造るぐらいの事は考えなさい。

荒地の開発研究をさせるには適任なのよ」


 今度も同じように顔を見合わせた。今度はなるほどって全員が納得している事を確認した行為なのだが、カテリナさんはそんな俺達に溜息をついている。


 「でも、あの火山性ガスをどうするかが問題ですね」

 「その対策も考えてくれる筈よ。そういう意味で適任なんだけど、あまり研究室から出るような人間じゃなかったのよ」


 カテリナさんとは正反対のタイプなんだろうな。タイプが全く違えば仲が良くなるって聞いた事があるぞ。


 「しかし、だいぶ増えますね。頑張って鉱石を採掘しないと赤字になるかも知れないですよ」

 「しばらくは、蓄えを切り崩して行けるわ。それでも戻ったら採掘は始めないとならないわね」


 まだまだ資材が不足している。

 中継点の噂を聞けば、他の騎士団も西に向かってくる筈だ。それも考えないといけないだろうな。食料と水の補給、それに採取した鉱石の引き取り等は早く軌道に乗せなければなるまい。


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