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V-049 国王からの褒美


 試合の映像が終っても、呆然とした表情で皆がスクリーンを見詰めていた。

 最後のシーンはスローモーションで再現されたがそれでも俺の動きは通常の速度を上回っている。


 「正に、騎士たる武人ですな。是非とも我が国より姫を娶って頂きたいものです」

 「それは我が国にも言えること、聞けばまだ妻を娶らぬとか。是非ともお願いいたす」


 「待て待て、そうリオ殿を困らせるな。我ですら、この度の褒美を与えておらぬのだぞ。そして、リオ殿には既に相手がおる。この者達の目に敵うものでなければなるまい。

 さて、リオ殿。……我には4人の婚期を向かえた王女がおる。誰を選ぶのか?」


 これだな。貰わねば立場が悪くなるって言ってたぞ。

 だが、国王の隣で俺を見る4人の王女の目は確かに高慢な目だな。

 貰ったら最後、苦労しそうだ。


 「恐れながら、5人目の王女エミー様を頂きたい。かの領地は草さえ生えぬ不毛の地なれば、5人目の王女こそ俺には相応しく思います」

 「うむ。確かに王女は6人だ。だがリオ殿の選んだ王女は……。分った。国王の言葉に偽りはない。叙勲同様書類上の手続きになるが、この島を去る時には同行できるよう手続きを済ませておく」


 国王の言葉に、立ち上がった俺は深々と礼をして答えた。


 「さて、めでたい事は重なるものだ。足らなければ王都から運ばせる。皆、食べて、飲んでくれ!」


 その言葉に、俺達は運ばれてくる食事を食べ始めた。

 1時間もすると、次々に俺の回りに人が集まってくる。


 「カテリナ博士の言葉を信じていましたわ。まさかあれほど、お強いとは……」

 

 オホホホと笑いながら、小さな紙切れを渡してくれた。

 あいそ笑いで応じたけれども、何処の誰かも分からぬ婦人から渡された紙切れは、何と小切手らしい。


 「100,000Lって、一体幾ら稼いだのかしら?」

 

 フレイヤが呆れた眼差しで、去っていったご婦人を見ている。

 そんな、感じで貰ったものは数知れず、ちょっとした宝石がおおいから、皆で分けて貰おう。


 ドミニクのところには数人のメタボな中年が集まっている。

 聞き耳を立てると、商人のようだ。

 中継点の事務所を何とか斡旋して貰いたいらしい。

 適当にあしらっているけど、行く行くは考えないとな。

 

 「リオ殿、国王陛下がお呼びになっておられます」

 「分りました」


 ネコ族の青年にそう答えると、テーブルを離れて国王の席に近付いた。


 「お呼びでしょうか?」

 「そう畏まらなくても良い。我にとっても嫁婿となる関係だ。少し座って話がしたい。こちらは、2つの王国の大使だ。是非とも相談したいと言ってきた」


 あまり、係わりたくない関係だな。

 だが、話を聞く事は避けられそうも無いぞ。


 「実は、リオ殿の領地が少し離れすぎてます。それを我等は危惧しておりました。

 王国間の軍事バランス的には問題がなくなりますから、平和であればその方が良いでしょう。ですが、スコーピオのような巨獣はいつ何時、王国に災いをもたらすかは分りません。

 その時は、遠慮なく頼らせていただきます。もちろん見合ったお礼は致しましょう。

 ですが、ラウンドシップでの移動には早くて7日は掛かります。

 我等3王国でヴィオラ騎士団に新たな船を寄贈しましょう。それが我等のリオ殿へのご祝儀とします」


 速さに特化した船を寄贈してくれるというのか?


 「ですが、そこまでして頂くと、俺達が他の騎士団との葛藤が出てくる可能性があります」

 「それは、過去にもあったことです。12騎士団のいくつかは王国からかなりの便宜を図って貰っています。それに戦姫を操る騎士団にはそれなりの恩恵はしかるべきでしょう」


 そんなものだろうか?

 だが、それを聞きつけたら、騎士団は西に向かうだろう。

 それを狙っての事だとしたら、この2人はかなりのやり手だぞ。


 「ですが、単に速ければ良いと言う訳にもいきません。戦姫を運び、それをバックアップ出来るだけの性能が必要です」

 「分かっています。この造船所に連絡頂ければすぐさま担当者が覗います」


 そう言って、1枚のカードを俺に渡してくれた。

 

 「貴族達や商人は騎士団長達に任せておけば良かろう。中継点で指揮を執り、西への探索の便宜を図ってくれれば、中小の騎士団達も西に向かう。3つの王国はますます発展するぞ」

 「そうですな。そうなると……、南岸の中継点も必要でしょう。そして王国への輸送航路の維持……。早速、会議を始めねばなりますまい」


 俺達への高速船の提供で、それを遥かに上回る見返りが得られるってことか?

 国の頂点に立つ者達には、そんな先を見越した計画を常に考えなくちゃならないようだ。 まあ、俺には関係ないことだ。精々、あの中継点の維持に心掛ければ良いだろう。


 「王女の降嫁となれば、それだけで盛大な祝いをせねばならないのだが……」

 「俺のところに来て頂けるだけで十分です。それに、そのような席には俺達は馴染みません。身一つで来て頂きたい」


 「まあ、話は最後まで聞くものだぞ。我は、その費用に見合う分を警備兵の費用として支払うことにしよう。1個小隊45人を10年間。これが披露宴に見合う代償だ。そして、持参金は……」

 「3カ国で作ってくださるという高速船で十分です。俺の収入が無い訳ではありません。優雅な暮らしをさせる事は出来ませんが、喜怒哀楽を楽しみながら暮らすことは十分可能です」


 そう言った俺の顔を満足そうに国王が見ている。

 

 「確かに……。金があれば幸せという事も無い。喜怒哀楽の暮らしの中に幸せはあるのだろう」


 そう言って、トリスタンさんと顔を合わせて頷いている。

 

 「そうだ。俺も、何かを贈ろう。……諸侯の手前もある。祝いではなく、あの試合の勝者への贈り物として受取って欲しい。俺の無理を聞いてくれたのだ。それ位は構わぬだろう」


 そう言ってテーブルの顔ぶれを見ているが、誰も依存は無いようだ。

 

 「何を贈るのだ?」

 「妻達と相談してみるつもりです。この映像を見れば、賛同してくれるでしょう」


 国王に笑いながら答えている。

 国王もつられて笑い始めた。


 「ははは、確かにそうだったな。我からはこれだ」


 左手の指にあった指輪を1つ外すと、近くの青年に手渡す。

 俺に届けられた指輪には見た事が無い宝石が輝いていた。


 「かなり高価なものに見えますけど……」

 「ほぼ、同額の掛金が入ったぞ」


 そう言って笑い出した。

 この席の人達は全員機嫌が良いんだけど、……皆俺に掛けていたのか?

               ・

               ・

               ・


 真夜中の12時までの5時間ほどの宴会が終って、俺達は自分達のコテージに引き上げた。

 レイドラとフレイヤが入れてくれたコーヒーを飲みながら今後の事を話し合う。

 

 「簡単な事から始めましょう。先ずはフラグシップね」

 

 議長のドミニクが話を進めていく。

 

 「それは、私が担当してあげる。このカードの工場は良く知ってるわ。速く、そして強力で優雅に作れば良いわね」

 

 そう言って、カテリナさんが俺の前のカードを手に取った。

 1つ片付いたのか、それとも新たな問題が出たのかは微妙なところだな。


 「警備兵は私が担当します。中継所の治安維持を検討します」


 レイドラは真面目だからな。硬い警備兵が出来そうだ。


 「私がエミー様の世話をしてあげる」

 「クリスとアデルとの調整は私になるわね」

 

 残った俺は?

 

 「リオはのんびりしていなさい。これからは公爵なんだから、仕事は人にやらせないといけない立場になるんだから」


 カテリナさんがそう言いながら笑ってる。

 無理だろうと思ってるんだろうな。


 「でも、そうなるとヴィオラ騎士団はどうなるのかしら?」

 「そのままさ。中継点はヴィオラ騎士団領の本拠地となる。周囲20kmは騎士団領だ。俺達に全責任が出てくる。そして騎士団長はドミニク、副団長はレイドラ、俺はレイドラ騎士団の騎士リオのままさ」


 あくまで表面上の話で良いと思う。

 称号なんて、俺達には必要ない。だが、俺達の拠点の維持に役立つなら上手く使わない手はないな。


 「そうね。何も変わらないわ。1人私達の仲間が増えるだけよ」

 

 そんなカテリナさんの言葉に皆が頷いている。

 そして、明日に備えて俺達は横になる。明日は何も無い1日だと良いな。


 次の日は、朝から雨が降っていた。

 さすがに、これでは外ではしゃぎまわる事は出来ないだろうな。


 朝食を終えると、のんびりと部屋でくつろぐことにしたのだが、カテリナさんの姿が見えないな。


 「カテリナ博士なら王都に出掛けたわよ。早速、造船所の技師達と相談すると言ってたわ」

 ドミニク達がカードで遊びながら教えてくれた。

 行動的だからな。どんな船が出来るか楽しみだ。

 何と言っても、フラグシップなんだから、変な形にはならないだろう。

 

 そんな所に、ローザ様達が遊びに来た。

 早速、皆でカードを始めたぞ。


 そんな姿を見ながらタバコを楽しむ。

 やはり、何もしないでのんびりが一番だな。


 「今夜に、姉様が来るそうじゃ。これからは、兄様と呼ばねばならぬのう」

 「今のままで良いですよ。ローザ様」


 「それも、止めることじゃ。どこに妹に様を付ける兄がおる。ローザで良い。その引換えにリオ兄様と呼ぶことにするぞ」

 「それじゃあ、皆と一緒にローザと呼びます。そしてリオ兄で妥協しましょう。様は余計です」


 「うむ。丁寧な言葉も無用じゃ。他の者達も同様じゃ」

 

 真剣な表情でカードを見詰めながら、そんな言葉を俺に伝えてくれる。

 別に賭けてはいないようだが、レイドラや、フレイヤまで真剣だぞ。


 明日は、何をして過ごそうかな?

 カヌーがあったから、それで少し沖に行ってシュノーケリングをしようか?

 だが、危険は無いのだろうか?

 ちょっと、確認する必要があるな。


 「ちょっと、ホールに行ってくるよ」

 「なら、お菓子を頼んできて!」


 こっちを見ずにフレイヤに頼まれた。一応、俺って公爵なんだよな……。


 そんな物があるのだろうか? と考えながらホールのある大きなコテージに向かう。

 相変わらずの雨だから、Tシャツを脱いで水着で向かう。

 濡れるなら水着で十分だ。


 「こんにちは」と言葉を掛けて扉を開けると、ビキニ姿のお姉さんが現れた。


 「何かにゃ?」

 「実は……」


 訳を話すと、頷きながら聞いてくれる。

 

 「お菓子は、ケーキがあるにゃ。果物を沢山付けて、届けるにゃ。

 カヌーで沖に行っても、危険な魚はいないにゃ。珊瑚礁の内側には大きな魚が入って来れないにゃ。

 でも、浜辺でバーベキューをするのに丁度良い魚が取れるにゃ」


 そんな事を言いながら、近くのテーブルに俺を案内してくれた。

 別のお姉さんがコーヒーを運んでくると、俺達のテーブルに座る。


 そして、端末を取り出してスクリーンを展開した。

 いろんな魚の泳ぐ姿が映し出される。


 「これにゃ。これも美味しいにゃ。これも、中々にゃ」


 どうやら、美味しく頂ける魚を教えてくれているんだろうが……、ひょっとして、全て美味しく頂けるってことじゃないのか?


 そんなお姉さんの説明は30分も続いた。

 熱心に俺に説明してくれるお姉さんに、途中で「もういいですよ」とも言えないのが辛い。


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