V-041 動いた!
カテリナさんが騎士団長達と交渉したらしく、俺達の出発は2日延期となった。
あの戦機が動くかもしれないとなれば、やはりそれを見てみたいという事になるのだろう。
部屋でのんびりしていた俺を、いきなりやって来たカテリナさんが拉致して連れて行った場所は、戦機の調整区域だった。
体育館を横に4個四角に並べて2段重ねにしたような場所だ。
その中のハンガーにあの戦機が立てられていた。
そして戦機を囲むように各種のセンサーやら分析装置、映像記録装置が並んでいる。
拉致されてきた俺をラボの研究員達が興味深そうに見ている。男女混合で6人だな。
俺と同世代に見えるが、実年齢は不明だ。
「カテリナ博士の彼?」
「そうじゃないわ、ガネーシャ。……彼にこの戦機を動かしてもらうのよ」
1人の女性がおずおずと話し掛けると、カテリナさんが笑って訂正している。
そして、俺を戦機の前に立たせると、ようやく腕を放してくれた。
「さあ、動かして!」
「どう動かせば良いんですか?」
「そうね。……先ずは、腕を前に出して貰えるかしら」
しばらく考えていたカテリナさんが俺にそう言った。
そして、その言葉が終ると、バチ!っという音と共に戦機の左腕が前に突き出される。
体を固定していた触手状の固定帯が引きちぎられたようだ。
「「「おお!!」」」
その場にいた全員が感嘆の声を漏らした。
「記録は?」
「微少電波を確認。発生元は博士が連れて来た青年です」
自分の前に数枚展開したスクリーンを見ていたガネーシャさんが、驚きの表情で俺達を見ている。
「電波のコードは解析出来る?」
「不可能です。積層型のコードなのは理解できますが……」
「ちょっと、面倒ね。リオ君、アリスの電脳を解して概略スペックをヴィオラの電脳に転送出来る?」
「アリス出来そうか?」
『問題ありません。2秒で終了します』
研究員達がきょろきょろ周囲を見ている。
「何処にもいないわよ。でもアリスはリオを助けてくれるの」
そう研究員達に言うと、微笑んでいる。
「ガネーシャ。ヴィオラの電脳にアクセスして戦機の情報を開いてみて」
カテリナさんの前にスクリーンが展開すると、そのスクリーンに触れながら必要な情報をカテリナさんが選んでいる。
「これね。色々情報があるみたいだから、貴方達も一度見ておくのよ」
動力炉は重力アシスト核融合炉?これって、デイジーと同じじゃないか?
中枢となる電脳は積層構造の結晶体にも見える。
「言語がまるで分らないわ。でも、リオ君の命令に従ったのよね?」
スクリーンから俺に目を移して首を傾げている。
武装は他の戦機と同じく持っていないが、背面に2つの棒が突き出ている。
ひょっとして……?
「カテリナさん。ムサシの武装を見てみますか?」
「武装を持ってるの?」
そう言って、概要をスクロールしている。
「武装:※※※……? 分らないわ」
「カタナと呼ぶんです。少し理解できましたよ。この戦機を作ったのは俺の先祖のようです。……だからか。姿で気が付くべきだった」
「何を知ってるの?」
「この戦機は戦騎です。戦機よりも戦姫に近い存在ですね。核融合炉を内在しているのは反重力装置をドライブする為のものでしょう。そして、高機動を行なう為にあえて無人化せざる得なかったんです。
ですから、ムサシは銃を使えません。射撃制御回路やそのプログラムは無いと思いますよ。
となれば、武装は背中の下に出ている2本の棒に見えるもの。になる筈です」
「ここで武装をお披露目出来る?」
「たぶん」
俺の言葉と同時にムサシが背中の棒を引き抜く、と同時にそこに数mのイオンビームの光のスジが伸びた。
「ビームサーベル?」
「イオンビームの噴流を数m伸ばしているようです。これも核融合炉の産物でしょう」
これを使って近接戦闘に特化した戦国鎧姿がムサシの姿なんだな。
作った連中はどんな思いで作ったんだろうか?
かなり、偏った戦騎だと思うぞ。
「色々と聞きたい事が出てきたわ。とりあえず元に戻して待機状態にしてくれない」
「戻れ!」
俺の短い指示でビームサーベルと言うカタナを背中に仕舞い込むとハンガーにジッと立った。たちまち複数の触手状の固定具がムサシをハンガーに固定する。
「リオさんでしたか? 1つ教えてください。貴方の指示した言葉はこの世界の何処にも存在しません。何処の世界の言葉ですか?」
ガネーシャさんが、放心したようにムサシを見ていたが、我に帰ると直ぐに俺に詰め寄ってきた。
「日本語と言う言語です」
「聞いた事が無い言語ね。とりあえず、これは動くのね。しかもリオ君の言うとおりに動く……」
ニヤリと笑みが零れ、目がキラリと光ったようだ。
余計な事をしてしまったか?
「リオ君は私のだから、貴方達は近寄っちゃダメよ!」
いきなりカテリナさんが研究員にそう言い残すと、俺の腕を掴んでその場から逃げ出した。
10分後に俺の部屋に到達すると、入るなりドアをロックする。
そして、俺を抱えたままビールを2本冷蔵庫から掴むとソファーに腰を下ろした。
「さて、誰もいなくなったわ。この部屋は盗聴すら不可能。外部からは光学的に不可視状態を保っているわ。ゆっくりと質問するから答えてくれない?」
「分る範囲でということで……」
カテリナさんは頷くと、ビールのプルタブを開く。俺も開いてとりあえず一口飲んだ。
「日本を知っている人は殆どいないわ。……地球という惑星の小さな国で合ってるわよね」
「そうです。良く分かりましたね」
「オタクと呼ばれる技術集団が沢山の発明を繰り返したと言う文献を読んだことがあるの。異能の集団と書いてあったわ」
「それは間違いです。ですが、確かに変わった事はやってましたね」
「たった数行の情報だったけど、私は憧れたわ。普通の人達とは全く違う感受性を持った技術者集団。ずっと私の憧れだった」
夢はそんなものなんだろうな。現実を知ったら驚くぞ。
「その集団が作った物なら、私達が幾ら考えても判らないのも理解出来る。でも、それをリオ君は理解出来るのよね?」
「まあ、一応ですけど……」
俺を見る目が輝いてるぞ。
「あの戦機のコンセプトは何なの?」
「先程も言ったように近接格闘を目的としています。外骨格も他の戦機と違いますよね。あれは戦国時代の鎧がヒントになっているようです。そして近寄る敵はあのビームサーベル……コードネームはカタナと言いますが、あれで斬り裂くんでしょうね」
「となれば、ラウンドシップの護衛に最適に思えるけど?」
「1機では無理でしょうね。落ちこぼれを拾う事は出来るでしょうが」
「複数で、しかも遠距離攻撃が出来る機体があれば最高ね」
「たぶん、戦姫と一緒に何機かを運用するという考えでしょう。単機ではあまりにも使い方が難しい機体です」
「自律思考が出来る電脳はアリスだけだと思っていたけど、その過程で色々と考えられてたのね」
「1歩1歩進めたのでしょう」
何時の間にかカテリナさんが隣にいたぞ。
相変わらず、コクコクと美味しそうにビールを飲んでいる。
「戦機と戦姫を繋ぐものになるのかしら。そうだとすると、戦鬼もその過程ではあるのよね」
「俺には戦鬼は後のような気がします。ムサシの出来ない事を戦機の大型化でカバーしたんじゃないでしょうか?」
「そんな発想をラボの連中は出来無いのよ。考えが固定化したら科学者はおしまいだわ」
「ラボに篭ってばかりだからじゃないんですか?」
そう言うと、俺の顔を見てニコリと笑う。
「そうね。言葉だけじゃ伝わらないものもあるわね」
そう言って俺の服を脱がせ始めた。
まあ今日は出航間際だから3人とも帰ってこない。
ここは、カテリナさんに付き合うかな。
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「役に立つのか?」
「一応、重ゲルナマル鋼製の機体ですし、武装はイオンビームサーベルを2本です」
「そりゃまた、色物じゃな。巨獣の牙と材質が同じなのか。結果が楽しみじゃわい」
戦姫の隣にある戦騎を見上げながら、ベルッドじいさんはそう呟いた。
俺の肩をバシっと叩くと休憩室に向かって歩いて行った。俺も、待機所に向かって近くのエレベータに乗る。
待機所にはカリオンたちの換わりに王女様達が座っていた。
そんなソファーに端に座ると、リンダがコーヒーを入れてくれる。たっぷりと砂糖を入れるのをおもしろそうに王女様が見ていた。
「あの戦機は使えるの?」
「それの実験をするって、ドミニクが言ってた」
サンドラの言葉に即答で答える。
確かに人が乗らないからな。使えるかどうかは微妙だと俺も思う。
「しかし、銃を持たないってのが面白いな。ビームサーベルだけを使うのはある意味正解かも知れないぞ。少なくとも後ろから撃たれずに済む」
「ですが、ビームサーベルで斬られたらタダでは済みませんよ」
俺達の最大の疑念は、ムサシが俺達と連携を図れるかどうかと言う事だ。
もし、それが出来ない時は中継所の飾りになってしまう。
アリスに俺の指示を、誰かに代替して貰えるかを検討して貰ってるけど、中々難しいようだな。
「まあ、我のデイジーで戦機5機分の働きは出来よう。ムサシとやらの出番は無いと思うぞ」
グランボードが上手く行って、得意になってるな。
自信を持つのは良いけれど慢心は良くないぞ。
「それで、今回はどこにむかってるの?」
俺の言葉に、サンドラがスクリーンを展開する。
端末を操作して、過去の航行コースを地図に表示した。
「今は此処でしょう。前回よりも、南に下がってるわね。丁度戦機を見つけた辺りを西に探すんじゃないかしら?」
「となると、夕食後に右に回頭することになるな。それで分るだろう。まだ巡航速度だ。探索を含めて10日を考えているようだ。パージも1、3、3だからな」
たぶんガリナムのパージは戦機用だと思うな。200tパージ6台分が今回の目標なんだろう。
待機所の換気システムは強力だから、タバコを吸っても煙は直ぐ上に向かっていく。
そんな場所だから、俺とアレクがタバコを吸っても文句は言われずに済む。
でないと、王女様の前ではちょっとね。
「ところで、カテリナ博士も付いて来てるんだったな?」
「ムサシの稼動するところを是非見たいと言って……」
「まあ、分らなくも無いが……。ついでに全員の健康診断をすると言ってるぞ。ベラスコの例もある。気を付けろよ」
アレクの忠告に苦笑いで応じた。
もう、実験体として登録されてるような気がするんだよな。
「大丈夫じゃ。カテリナ博士は名医じゃぞ。我は感謝してもし切れぬほどじゃ」
王女様が言ってくれたけど、王女様って3例目だったんだよな。
本人は喜んでるけど、かなりなマッドである事は確かだ。




