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V-004 帰港準備

 戦鬼をバージに乗せると、重ガルナマル鉱石を獣機が掘削機を使って次々と掘り出し、バージに積み込んでいく。

 量としては500tにも満たない分量があっただけだが、掘り出した鉱石は精製するよりも遥かに純度が高いと言っていた。


 「あの鉱石には使い道があるんじゃ。良く見つけてくれたな。暇な時にお前さんに剣を打ってやる。楽しみに待ってな」

 

 食堂で俺を見つけたべレッドじいさんはそう言って酒を振舞ってくれた。

 まぁ、良くは分からないけど貰えるものは貰っておこう。


 「楽しみに待ってますよ」


 酒の礼を言うと、待機室へと向かう。

 アレクの隣にいるのはシレインだけだ。サンドラはカリオンと一緒に周囲の警備を続けているのだろう。


 「来たな。まぁ、たいしたもんだ。これでボーナスは確定だな」

 「酒を用意しときますよ」

 

 俺の言葉に顔をほころばせる。


 「まぁ、俺達だけでなく、獣機の連中にも忘れるなよ。それに今度の寄港は少し長そうだからな」

 「やはり、船を替えるんですか?」


 「そうなる。一回り大きな船にならざる得ないな。戦鬼を売りに出すことは無い。となればハンガーに収容するには大きすぎる」

 「でも、この船も大きいですよ」

 

 「もっと大きな船で稼ぐ騎士団もあるんだ。俺達は中堅って所だろう」


 だが、この船でさえ全長200m断面は30m位の直径を持っている。更に大きな船なんて簡単に手に入るのだろうか?


 「安心しろ。既に3年前から組み立てが始まってる。この船も今回が最後の旅だったんだ。だが、引越しや調整で一月は掛かるだろう。のんびり王都で静養するんだな」

 

 騎士団はそうやって規模を大きくしているのだろうか?

 だが、そうなると戦姫を置いておくのが厄介だな。あれは目を引くし……。


 そんな事を考えながら、鉱石の積み込みを映しているスクリーンを眺める。

 大型の重機は獣機の出現で姿を消したらしい。

 多目的に使える手部に外部アタッチメントで各種の掘削機械が取り付けられる。

 その機械を器用に使って鉱石を掘り出し、集め、バージへと積み込んでいく。


 「更に獣機が増えそうだな。12騎士団に次ぐ騎士団に上がるのも夢では無さそうだ」


 12騎士団?

 初めて聞く騎士団だ。たぶん大規模な12の騎士団なのだろうが、見た事が無いという事は俺達とは別の区域で鉱石を集めてるんだろう。


 「王都には海があるわよ。海洋レジャーが盛んなの。フレイヤを連れてクルージングでもしてきたら?」

 「海ですか? そうですね。ずっと砂ばかりの荒地ですからそれも良さそうですね」


 早速、フレイヤにツアーを申し込んで貰おう。

 海か……、どんな海かは分らないが、鮫はいないだろうな?


 アレクに別れを告げて部屋に戻る。

 まだ、フレイヤは帰ってないみたいだ。のんびりと壁のスクリーンを起動して、地図を眺める。


 場所的に近いのはウエリントン王国のようだ。一番西に位置しているのだが、大きさは日本の5倍以上だ。

 さて、娯楽のファイルを開くと……、あるある。海洋レジャーが多いな。

 近くの小さな島を廻るクルーズ船もあるようだ。

 値段はピンキリだが、俺の報酬で十分に楽しめそうだ。

 適当なのを選んで、俺が払えばフレイヤも文句は言わないと思う。

 後は、個の大きな公園で散歩でもしながら過ごそう。


 扉が開き、フレイヤが入ってくる。

 どうやら、当直時間が終了したようだな。

 ベッドに腰を降ろしてスクリーンを見ているのに気が付いて直ぐに俺の隣にやってくる。


 「どうしたの?」

 「クレイが次の寄港が長そうだと言っていたから、フレイヤとクルージングでも楽しもうと下調べ」


 いきなり俺を抱きしめると、俺の手から端末を奪い取る。

 そして、次々とスクリーンを変えていった。


 「これこれ! これが人気なんだって。旅の雑誌ララビィにも載ってたんだ」


 うっとりして眺めてるツアーの表題は、『蒼い恋人達』って書いてある。

 その値段は……1人金貨3枚!

 俺の全財産は金貨10枚も無いぞ? 大丈夫なのか??

 

 「それで、日程は?」

 「え~とね。10泊だね。12日の行程で3つの島を廻るみたいよ。ラフなスタイルで良いみたい。全食事が付くし、オプションツアーを全てしても金貨1枚で足りるそうよ」


 まぁ、荷物が少ないのは結構だけどね。

 下手すると借金地獄が待っている気がしないでもない。でも、有り金叩いて行ってみるか。

               ・

               ・

               ・


 翌日、艦内放送で副長より知らされたのは、ウエリントン王国での一月にわたる休暇だった。

 動力船を降りる際に給金を支払うと言っていたからありがたい。これで、恥をかかずに済みそうだ。

 部屋でのんびりしていると、来客を告げるチャイムが鳴る。

 どうぞ!という俺の言葉に反応して扉が開くと、つかつかと部屋に入ってきたのはドミニク騎士団長その人だった。


 「1人で寂しいでしょう。慰めに来たわよ」

 

 そう言っていきなり服を脱ぐとシャワー室に俺を連れて行く。

 温いシャワーを浴びながら俺を抱きしめてきた……。


 「問題は戦姫よ。場合によっては、この地に置いて行く事になるわ」

 「アリスと相談してみます。でも、そうなると一月ですよね……」


 「まぁ、私とフレイヤを残して他の騎士団には行かないと思うけど?」

 

 そう言って真新しい戦闘服姿で俺を見詰める。


 「他に行く当てはありませんからね。でも、何とか方法を考えて見ます」

 「頼んだわよ。少し早いけど、これが港で渡すべきリオへの報酬の一部」


 そう言って腰の小さなバッグから小さな袋を取りだすと、俺の手に載せた。

 ずっしりと重さがある。結構俺って高級取りだったのか?


 「戦鬼と鉱石発見のボーナス分ってとこね。何処にも行く当てが無い時は王都のこの住所を訪ねなさい。タダで泊まれる筈よ」


 そう言ってカードを俺に渡してくれた。何の記載も無い銀色のカードだ。裏を見ると白地に住所が書いてあるが、これって貴族街じゃないのか?


 「それじゃあね。……次ぎはもう少し長く楽しみたいわね」


 何か恐ろしいことを言って、ドミニクが帰って行く。

 世代差があるような気がするんだが、フレイヤよりも情熱的なんだよな。


 帰った後で革袋を開くと金貨が20枚入っている。

 これならのんびりツアーを満喫出来そうだな。


 そして、アリスと隠匿通信を始める。

 アリスを隠す方法が無ければ、俺達は別の任務と言ってヴィオラを離れることになるだろう。

 だが、アリスの返事は簡単なものだった。俺の命じるまで亜空間に身を隠すという事が出来るらしい。

 次元の歪を利用したリアクターを持つ位だから簡単なことだと言っていたが、その空間とはどのようなものなのだろうか?

 『何も無い空間です』との返事が返ってきたが、何も無いというのがやはり理解できないぞ。


 当直が終ったフレイヤがしきりに部屋の匂いを嗅いでいる。

 しばらく首を捻っていたが、やがて俺の隣に座ると正面のスクリーンを一緒に眺め始めた。

 

 「噂では、一月位王都に滞在するらしいわ。管制長からプログラムのダウンロードを始めるように言われたから、やはり船を交換する噂は本当の事らしいわね」

 「似たことを他の連中も言ってたぞ。それと、騎士団長達が来てこれをおいてった」


 そう言って金貨の入った小袋をフレイヤに見せる。


 「外には?」

 「アリスの隠蔽をすることになった。あれは目立つからな。引越しをするとなると他の連中目に晒すことになる。あまり評判を立てたくないのは俺も同じだ」


 「……で?」

 「アリス自ら姿を隠すと言っていた。俺の呼掛けで再度姿を現すと言ってる」


 「なら、何の問題なし。寄港日程が分り次第ツアーを申し込むわ」

 

 そう言って、俺の腕を掴んだ。

 食堂、そしてその後はアレクに自慢げに報告するんだろうな。

 アレクの方はどうするんだろう?

 まさか、ずっとホテルで過ごすなんてことは無いだろうな。


 船首の食堂は賑わってるな。

 相席になったのは、フレイヤの同僚の火器管制室の男女だ。俺達と同年代だな。

 注文を聞きに来たネコミミ娘に本日のお薦めを頼んで、相席となった男女と世間話を楽しむ。

 

 やってきた料理は、グラタンのような料理だ。小さなサラダとコーヒーが同じトレイに載っている。

 運んで来た娘の差し出したカードにサインをすると、料理を頂きながら世間話に興じる。

 

 やはり話題は、寄港と船の更新になる。

 火器管制プログラムは巨獣の動きや習性、それに今までの攻撃とその成果を元にカスタマイズされているから、騎士団ごとに違いが出る。それをダウンロードするという事は、やはり船を更新するという事になるんだろうな。


 食堂を出て待機所に入ると、何時ものようにタバコの煙が雲のようにたなびいてる。

 機士のソファーに行って、アレクの前に座る。

 当然、フレイヤは俺の隣だ。


 「兄さん、今度こそは家に帰るのよ!」


 ビシ!っとアレクを指差してるけど、そんな妹に笑顔でいられるアレクの胆力も見上げたものだ。


 「リオを連れてお前が行けばいい。俺は気楽に過ごすさ。お袋には元気だと伝えてくれ」

 「色々と忙しいのよ」


 アレクの言葉にサンドラが続ける。

 そして、俺達にグラスを渡してくれた。手に取ったグラスに並々と注いでくれたのはワインだよな。

 

 「今度の寄港はたぶん船の更新だ。大丈夫なのか?」

 「一応隠すことにしました。それは問題ありません」

 

 「なら良いが……。例の戦鬼の事もある。騎士が増えるぞ。たぶんドミニクの親父の知り合いだと思う。馬が合えば良いんだがな」

 「騎士の数は少ない。資格のあるものは騎士団で取り合うぞ」


 そうなのか?

 俺は、金貨3枚で1年前に荒野で雇われたような気がするぞ。

 アリスの中で目覚めて、最初に会ったのがこの騎士団だからな。


 『乗ってく?』その時最初に飛び込んだ通信がドミニクからの言葉だった。

 金貨3枚に食事と寝る場所を貰って、その代償として巨獣の監視をやっている。

 アリスの話では十分巨獣に対抗できるようだが、ドミニクはそれを許さなかった。巨獣の狩りは、アレク達戦機の仕事と言っていたな。


 「まぁ、お前は特別だ。だが、1つ言っておく。お前を悪く言う者はこの船にはいない。それなりにお前のことを認めているようだな」


 そう言ってワインを一口飲んで、俺を見ながら微笑んだ。

 

 「そうね。アレクがいなければ私が、リオの隣にいるわ」

 

 そんな事をサンドラが言うから、フレイヤが睨んでるぞ。遊ばれてるな。

 

 「それで、お前達はどうするんだ?」

 「クルージングよ。予定が発表され次第申し込むわ」


 アレクにフレイヤが応えてるが、それを聞いたサンドラの目がキラリと光ったぞ。

 何か嫌な予感がするんだが……。

 

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