V-039 俺を呼ぶ者
「ところで、少し広くなってない?」
「改装してみたの。4人部屋だから隣の倉庫を分捕ってベレッドさんが直してくれたわ」
フレイヤがそう教えてくれた。
奥行きが増えたって事らしい。
扉から船窓傍のソファーセットはそれ程変わらないけど、ベッドスペースの奥が広がっている。
奥にも舷窓が付いているようだ。ホールの明かりが漏れている。
「やはり専用のドレッサーは欲しいでしょ。クローゼットも4つ付けたし、ジャグジーも付いたのよ」
ジャグジーって、水は大丈夫なんだろうか?
荒地で一番大切なのは水なんだぞ。
「水が問題だったけど、1航海が10日程度なら十分対応可能よ。循環式だしね。それに、艦内には他にも大型のジャグジーを何箇所か作ったわ」
たぶん、水タンクも増設したんだろうな。
それにしても……、まるで客船のようだな。
「外には無いの?」
「冷蔵庫を、ベッドの奥にも付けた位かしら。フレイヤは何か注文を付けた?」
「そうね……。ここで、火器管制の指示を行なえるようにしておいたけど……」
「ちょっとした、通信機能の充実を図った位に考えておけば良いわね」
たぶん、イエローⅠ位では、管制室に行かなくても良いようにしたってことだろうが、それって職場放棄にならないのか?
ドミニクが問題ないような事を言っているから、良いのかも知れないけど。
「リオが出掛けている間に起こった事はそれぐらいかな?」
ドミニクがそう言って飲み終えたビールの缶をテーブルに置いた。
それを合図に俺は立ち上がると、2人の後ろに回って2人を立たせる。
折角、ジャグジーがあるんなら、早速利用しないとな。
そのまま2人を連れてジャグジーに向かった。
お湯を張りながら2人の衣服を脱がせて先に入らせると、俺も後に続く。
船窓が大きく開いているけど、外から覗かれる心配は無いだろう。
微細な泡で底が見えないけど、緩やかな曲線を持ったスープ皿のような構造らしい。 直径は2mもないけど、これなら4人で入れるな。
入口のエアーカーテンで湯気はベッドスペースには漏れないようだ。
「やはり風呂は良いな」
「リオはジャグジー好きね」
フレイヤがおもしろそうに俺を見ている。
「シャワーよりジャグジーだな。泡なんか必要ないから、もっと深い方が良いんだ」
「東の王国にそんな集落があると父に聞いたことがあるわ。森と小さな湖のある集落らしいわよ」
ドミニクがそんな話をして父を思い出しているようだ。
しんみりするのは良く無いな。
フレイヤの腕を掴むとヒョイっと俺の前に移動させ背中から抱きよせる。
嬌声を上げるフレイヤにドミニクも寄ってきた。
1時間程楽しんだ後は、温風で体の水分を落とすとベッドに直行だ。
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ふと、目を覚ます。
誰かに呼ばれたような気がしたんだが、両隣の美女達は深い眠りの中だ。
静かにベッドから離れると、腰にタオルを巻いてソファー向かった。
昨夜のビールを片付けて改めてビールのプルタブを開けた。
一口飲んでもう一度考えてみる。
気のせいではないような気がするんだが、夢でも見たんだろうか?
舷窓から眺めるホールは獣機や重機が動き回っている。24時間工事が行なわれているみたいだ。
ウエリントン王国としても、この位置に設ける中継点の重要性は理解しているんだろう。何と言っても、戦姫を防衛用として配備する位だ。
『マスター、起きていたのですか?』
「ああ、誰かに呼ばれたような気がしたんだ。たぶん夢でも見たんじゃないかな」
『それですが……、例の戦機から数分前に電波が発信されました。カテリナ様達が大騒ぎです』
「俺への呼びかけなんだろうか?」
『現状では推定出来ません。可能性は高いですが、他にも気が付いた者がいる可能性があります。少し事態の推移を見守る必要があるでしょう』
「数日はこの場で休息らしい。その間、あの戦機の情報を見ててくれ」
アリスは『了解です』と言って俺との交信を終えた。
ひょっとして、無指向性の電波を放ったという事か?
特定の電波を放って、それに応答すればその者があの戦機を動かせるという事になるのだろうか?
となれば、今後定期的に電波を放つだろうし、その強度を上げる事も考えられる。
誰か出て来るだろうか? それとも、俺だけなのか……。
ここは、しばらく様子を見守っていた方が良いのかもしれない。
折角起きたのだから、戦機の状況を見ながら一服を楽しむ。
端末でスクリーンを展開すると、ブリッジの情報ファイルから戦機の調整を行なう区画の画像を開いた。
画像現在の時刻が表示されているから、リアルタイムの映像らしい。
通常の戦機はベレッドじいさんの監督の下で10人程のドワーフが戦機から鉱石を取り除いている最中だった。
それが終ればコクピットを解放して動力炉の状態を確認するんだろう。胸の周辺に小型の振動ドリルを持ったドワーフが3人ほどその作業を行なっている。
無人の戦機は、どうやら鉱石を取り除く作業は終了したらしい。
カテリナさんが次々と彼女の助手達に機材の配置や、取付けを指示している。
時折、隣の娘さんと自分の目の前に展開した沢山のスクリーンに目を向けている。
さっきの電波の原因を探っているのだろうか?
まあ、明日になれば少しは分って来るだろう。
タバコを消して、残りのビールを飲み干すと、スクリーンを消してベッドに向かう。
フレイヤを抱えるようにして俺の隣に移動すると2人の間に上手く入る事が出来た。
2人とも完全に寝入ってるけど、ちゃんと朝に起きれるのだろうか?
そんな事を考えながら2度寝を楽しむ。
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次の日、俺が起きると隣に2人がいない。
ベッドから半身を起こして部屋を見回すとベッドの脇に2人が俺に背を向けて座っている。
どうやら、メイクアップの最中らしい。
素顔でも美人なんだけどね。彼女達にとってメイクは服と同じ感覚なんだろうな。
「あら、ようやく起きたの。シャワーを浴びてらっしゃい。服を着たら食事に出掛けるわ」
ドミニクに促がされて、シャワー室に入って軽くお湯を浴びる。そして、いつもの服に着替えたが、そう言えば私服も許されてるんだよな。
後で、ラフな服装を注文しておこう。
2人を連れて食堂に出かける。
ドミニクはいつもの戦闘服だ。これも何とかしなければなるまい。
時間は俺達にしては珍しく8時台だ。
食堂はさぞかし混んでるだろうなと思っていたが、半分ほどだな。
艦首付近のテーブルでウエイトレスに朝食のセットを頼む。
朝食セットにはマグカップのコーヒーが付くからお得なんだよな。
コッペパンを縦に切って、野菜やハムそしてスクランブルエッグが、これでもかって感じに入っている。
かなりのボリュームだけど、パンは柔らかいし、コーヒーは俺好みだ。スプーン2杯半の砂糖を入れると丁度良い。
フレイヤは砂糖をあまり入れないし、ドミニクはストレートなんだけど、互いに好みをとやかく言う事はない。
「これから、カリオンとベラスコに転属を指示するわ。同盟関係の期間だけどね。さらに戦機が見付かれば、1人ずつ戻せば戦力的なバランスを維持出来るわ」
「一応、アレクには伝えておきました。たぶん、アレクから内示の形で知らせているでしょう」
「ありがとう。助かるわ」
ドミニクがコーヒーを飲みながら言った。
「それじゃあ、ヴィオラには兄さん達とリオだけになるの?」
「そうなるけど、採掘航行は3隻で出掛けるから、何かあれば一緒だよ。それに、王女様も一時的に、ヴィオラの乗員になるようだし……」
「それが、頭の痛いところなの。扱いはリオに任せるけど、手を付けちゃダメよ」
ドミニクの言葉にフレイヤも頷いている。
食堂を出ると、ドミニクはブリッジに出掛けた。レイドラと交替するんだろう。俺達は自室に引き上げて、のんびり過ごす事にした。
「ガリナムとベラドンナには戦機の収容施設が無いでしょう。当初の休息が少し伸びそうだと言っていたわ」
「そういえば、半数に休暇を出したよね。俺達の休暇って何時になるんだろう?」
「次の航行が終ってからじゃない。バージを全て200tに替えたし、曳く数も3隻で10台よ。王女様は100人程乗船可能な高速艇の定期便を申請しているみたいだわ」
高速艇は船と言うより飛行機に近い。
大型旅客機ほどの大きさの動体に3基の反重力装置を並べ、左右の短い翼に付けられた電動式のプロペラで進む。
時代錯誤に感じたけれど、地上300mを時速300kmで飛行出来るから、巨獣の心配はまるで無い。
但し、反重力装置を駆動する為に大型の水素タービンエンジンを2つも積んでおり、その燃料タンクも大きいから機体の半分位にしか人や荷物を乗せられないのが難点だ。
そして、機体の1.5倍の面積があれば、垂直離着陸が可能と言う事も嬉しいところではある。
「ホールの上の尾根を削って離着陸場を建設中みたい。運用は中継点の管理事務所が行なうから私達は利用するだけなんだけどね」
「出来てから纏めて休暇を楽しもうか。だけど、今度は4人だぞ」
「その辺は妥協しましょう。計画は私に任せなさい」
そう言ってくれるのはありがたいが、また出費がかさんでしまうな。
フレイヤがコーヒーを作りにソファーを離れた所へレイドラが戻って来た。
俺の隣に腰を下ろしたところにフレイヤがコーヒーカップを持ってきてくれた。
もう一度取りに行って自分のを持ってきた。
「おもしろい情報はあった?」
「新たな情報としては、カテリナ博士が、無人戦機の電脳と接触を試み始めたらしい。というのがあります。王女様達の乗船は次の航行開始直前と言う連絡がありました」
俺達が帰ってきてからだいぶ経っているけど、カテリナさん達はちゃんと睡眠を取っているのだろうか?
バイオ工学については権威者なんだから、その辺の管理に抜かりは無いだろうが、ちょっと心配だな。
コーヒーを飲み終えた俺達は、レイドラを誘って再度ジャグジーを堪能する。
数日は何もやる事が無いし、魅力的な美女がいるんだから俺には天国だ。
フレイヤもレイドラには気を使っているみたいだ。
ベッドには向かわずに、そのままタオルを巻いてソファーに向かった。
レイドラの爪を背中に感じながら、レイドラが寝むるまで一緒にベッドで横になる。




