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V-036 2機の戦機

 食堂兼休息室でガリナム騎士団員と一緒に朝食を食べていると、マグカップを手にテーブルの向こう側にクリス騎士団長が腰を下ろした。


 「ヴィオラから比べると小さいけれど、食事はいけるでしょう?」

 「そうですね。美味しかったです。一服して出掛けますが、アリスに状況を伝送して頂けると助かります」


 「それは、既に手配済みよ。ドミニクにも言われてるわ」

 

 そう言って、腰に付けた小さなバッグからタバコを取り出すと火を点けた。

 ここは食堂だけど……良いのかな?

 まあ、俺も食事が終ったところだから、ここでタバコが楽しめるならありがたいけどね。


 ネコ耳の少女が灰皿を持ってやって来た。


 「食堂では1本までにゃ。後は待機所に行くにゃ」


 そう言って去っていったが、騎士団長にそんな事で良いのか?


 「私の艦は、皆自分の仕事に誇りを持ってるの。誰が相手でもその態度は変わらないわ」


 例え騎士団長であっても、この場にいる限りお客の1人って事なのか?

 それはそれで素晴らしいけど、何か問題が出そうな気もするぞ。


 「で、貴方はどう思うの?」

 「俺ですか? そうですね。何となくって感じです」

 

 俺の答えを聞いて面白そうに俺を眺めている。


 「ドミニクのお気に入りでなければ、うちに欲しいところね。でも、諦めましょう。

 反応値は4割までに上昇してるわ。急激な上昇だから、今日か明日にはと皆が期待してるの。頑張って頂戴!」

 「前の時は、指数関数的に上昇しました。そして超レズナン合金反応が出ました。合金反応は未だですよね?」


 俺の言葉にクリスは頷いた。

 まだ、ハッキリしないということだな。閃デミトリア鉱石反応が上昇せずに途絶えてしまうと言う話は、アレクに聞いた事がある。

 だが、今回は鉱石反応が確認された時点より4割ほど反応値が上昇している。

 戦機が発見される確立は高いんじゃないかな。


 「上手く行けば今日中には見付かるかも知れません。行って来ます!」


 そう言って、クリスに出発を告げた。

 食堂を出て、装甲甲板に並んだ砲塔の1つに向かって歩いていると、慌てたように靴音を響かせてクリスが追い掛けて来た。


 振り返った俺をいきなりハグすると、首筋に唇が触れた感触が伝わる。

 

 「頑張ってね。これはお呪いよ!」


 耳元でそう告げると、俺を解放してくれる。

 小さく頷いて砲塔へのタラップを上る俺にクリスが片手を振ってくれる。


 75mm長砲身単装砲塔は思ったよりも小さい。自動化されたものだから点検スペースがあるくらいだけれど、このスペースで点検出来るのは小柄な連中だけだぞ。

 まあ、ドワーフ族は確かに俺の胸位の背丈だから、これで良いのかもしれないけれど、人間には狭すぎるな。


 やっと外部への出口に辿り着いて、装甲甲板からアリスに搭乗する。

 アリスが立ち上がった時に全周スクリーンの後見ると、ブリッジの窓から手を振るクリス達が見えた。

 アリスが後を向いて片手をブリッジに上げると同時に跳躍する。

 反重力アシストでの跳躍だからガリナムの受ける衝撃は小さなものだ。


 『ガリナムより探査データ受信。8時間でかなり上昇しています』

 「超レズナン合金反応にも注意してくれよ。これまでと同様に探査しよう。左右の振れ幅は100mで行こう」


 『了解です。探査開始します』

 

 アリスが地表を滑るようにして閃デミトリア鉱石の痕跡を辿る。 

 俺達の後ろ3kmをガリナムが追尾しているようだ。

 

 アリスの探索速度は現在直線距離換算で時速35km前後だ。ガリナム単体で行なうより1.5倍以上速度を上げられる。


 『閃デミトリア反応、当初の10倍に上昇。これより探索範囲を狭めます』

 

 アリスが左右の振幅を狭める。結果的には速度が上がる事になる。

 

 「ガリナムの現在の速度では探査機が機能しないだろう。10分ごとに情報を送ってやってくれ。向こうも安心できるだろう」

 『了解です』


 昼過ぎに反応が15倍に達した。

 そして、夕暮れに近い時間……。


 『閃デミトリア反応急激に上昇……超レズナン合金反応です!』

 「見つけたか!」


 『座標確認。ガリナムに伝送終了』

 

 急速に、ガリナムが近付いてくる。

 その装甲甲板に飛び乗ると、ブリッジ近くにアリスを固定する。


 アリスが伝送した座標位置にガリナムが停止すると、舷側のシュートから獣機が10機飛び出して採掘機を組み立て始めた。

 

 『戦機を確認した模様。発掘に数時間掛かるようです。現状待機を指示しています』

 「了解と答えてくれ。この状態で巨獣に襲われたくないからな」


 ガリナムのブリッジでは長い時間に感じるだろうな。この状態で周囲の状況監視が出来る範囲は精々20km程度だ。

 巨獣の突進速度は時速40kmを超えるから、逃げる時間は30分を切ってしまう。


 「どうやら、周囲50km前後を周回して偵察した方が良さそうだな。ブリッジに連絡してくれないか?」

 『了解しました。……直接交信可能です。相手はクリス様です』


 「お願い出来る!」

 「了解した。直ぐに出発する」


 短い交信を終えてアリスがガリナムの装甲甲板から跳躍して一路南に進む。

 20km進んだ所で、ゆっくりと周回しながら少しずつガリナムからの距離を取る。


 『マスター、探査コースの延長にもう1つ反応があります』

 「それって、戦機がもう1機あるという事か?」


 『可能性は高いです。ただ、超レズナン合金反応が全くありません。閃デミトリア鉱石反応は現在発掘中の反応値の2倍を超えています』

 「他の金属反応を調べてくれ!」


 数秒程その場に留まったアリスは、座標を確認すると当初の目的である周回監視を始めた。

 ガリナムのレーダー範囲を超えているから高度を30m程に上昇させて監視を継続する。高度を上げることで監視範囲を20km程に広げられるからな。


 1周するたびにガリナムに以上無しを報告していれば向こうも安心できるだろう。


 『先程の反応地点ですが……、重ゲルナマル鋼の反応があります』

 「それって、巨獣の牙と同じなんじゃない?」


 『そうですね。また違ったタイプの戦機なんでしょうか?』


 アリスも戸惑ってるな。

 これは是非とも発掘したいものだ。


 夜半過ぎにガリナムから戦機の収容が出来た事を知らせてきた。


 急いでガリナムに戻ると、既に回頭を終えている。たった一つ曳いてきたパージには戦機が納まっている。

 ブリッジ付近に直接降り立ったアリスが通信回線をブリッジに繋いだ。

 急いでもう1つの座標の話をすると、ブリッジが驚いているようだ。


 「その話は本当なの!」

 「ああ、間違いない。戦機かどうかは分らないんだが、この場所よりも反応値は高いんだ。そして、驚く事に重ゲルナマル鋼の反応がある」


 突然、ガリナムがゆっくりと進みながら方向を変える。

 俺の告げた座標にラウンドシップを動かすようだ。

 何が飛び出すか分らないけど、戦機があるならそれに越した事はない。


 そして、再び発掘作業が始まる。

 俺達は前と同じように20kmを周回しながら巨獣に備えた。

 2回ほど小さな群れが接近してきたがガリナム方向には移動せず、俺達の哨戒範囲の一部を横切っただけのようだ。


 発掘作業が終了したのは、次の日の昼近くだった。

 やはり戦機なのだが、装甲が変わっている。

 拠点に持ち帰って詳しく調べる必要があるらしい。


 そして、問題が1つ。

 曳いてきたバージが1台だけだった事だ。

 急遽、バージの反重力装置を予備品を使って強化して、どうにか2機の戦機をバージに積んだらしい。


 本来の戦機の重量は100t前後だから2機は積載出来るらしいのだが、戦機にはまだまだ鉱石が付いているから、1機あたり30tほど重量が増えているらしい。

 その鉱石は閃デミトリア鉱石なのだが、それなりの価値があるそうで、少し大目に戦機に付いているようだ。

 本来の積載量を1.5倍程超過してるんだから、やはり改造しないとダメなんだろうな。


 今は順調に拠点に向かって航行中だ。この位置で東に向かい。拠点の経度で北上すると言っていた。

 俺は、のんびりと元仕官室だったらしい個室で貰い物のビールを飲んでいる。


 ガリナムの巡航速度はヴィオラよりも遥かに速い。重量オーバーのバージを曳いていても、動力炉には余裕があるとの事だ。

 現在の速度は時速45kmとの事だが、この速度でも拠点に到着するまでに3日は掛かるらしい。直線コースならば早いかも知れないが、荷を守る事を優先するとクリスが言っていた。


 拠点に暗号化した通信を贈ったところ、かなり驚いていたそうだ。

 1年間に3機の戦機を見つけた例は今までに無かったらしい。

 上手く行けば、もう1機位は……何て皮算用をする者も現れ、それを懸けの対象にする動きもあるようだ。

 まあ、娯楽が少ないからな。俺も帰ったら一口乗ろう。

 それ位は構わないだろうし、アリスの電脳とレイドラのお告げで結構良いところに行くんじゃないかな。


 トントンと扉が叩かれた。

 急いで扉のロックを外そうと腰を上げると、扉のロックが外されて部屋の中にクリスがボトルを抱えて入ってきた。


 「1人じゃ、寂しいでしょう。もうすぐドミニクに渡すのは勿体無い感じがするのよね。レイドラやその他にもいるんでしょうけど、それまではここにいてね」

 「急いでいるんでしょうから、クリスさんもお忙しいでしょうに……」


 「真直ぐ進んで90度左に曲るぐらいなら子供でもできるわ。それに、折角私達の戦機を見つけてくれたんだからお礼は必要でしょう!」

 「お礼はここでのんびりさせて貰える事で十分です」


 「まあ、それは後にしてとりあえず乾杯しましょう」


 部屋の片隅にある小さな冷蔵庫からグラスを2つ持ち出すと、申し訳程度のテーブルに置いた。クリスの持ち込んだ酒は年代物のようだ。そのボトルの封を切るとグラスに注ぐ。

 きっちり8分目って感じだな。

 渡されたグラスを手に取ると、クリスの持つグラスにカチンっと合わせる。

 

 一口飲んでみるとどっかで味わった感じがする。

 あれは……クルージングの時に貴族が提供してくれた酒の味だ。


 「マクシミリアン……」

 「あら、良く分かったわね。このボトルは父から騎士団を引継いだ時に貰ったものよ。『嬉しい事があった時に飲みなさい』ってね」


 確かに嬉しいのだろう。戦機を持つという事は父をある意味越えた事になるからな。

 

 「俺と一緒で良かったんですか?」

 「ええ。貴方と一緒に飲みたかったの」


 そんな感じで2時間程でボトルを空にしてしまった。

 クリスの足元はおぼつかない感じだな。

 ベッドに寝せてしまおうか?


 クリスを抱えてベッドに寝かしつけると、俺はコーヒーで酔いを醒ます。

 舷窓の外は真っ暗だ。

 小さなシャーっと聞こえる音は、多脚式駆動装置が荒地を駆ける音だな。

 一服を終えて、ソファーに横になる。

 たぶん、明日には進路を北に変えるだろう。明後日には拠点に着くかも知れないな。


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