表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/217

V-035 痕跡を追って

 2つのバージに鉱石を満載にして俺達は西に向かって進んでいる。

 速度は遅いけれども、24時間休み無く進んでいるから1日で500km近く進んでいる。

 今のところは平穏だな。

 もっとも、鉱石が出ないと中々戻れないんだけどね。


 「しかし、何も出ないみたいですね」

 「全くだ。2日前に鉱石採掘して以来、手掛かりすら無いらしいぞ」


 ベラスコの呟きに、アレクが同意しながらグラスを傾けている。

 周囲の連中も頷いている所を見ると、同意してるってことだろうな。

 

 そんな彼らを横目にマグカップのコーヒーを飲む。

 灰皿のタバコは山になってるな。

 そろそろ部屋に戻ろうかと立ち上がった時に大きくヴィオラが旋回を始める。

 俺達が思わず顔を見合わせる。

 待機所の獣機士達がバタバタと足音を響かせて待機所を出て行った。


 今度は何が見付かったのかな?

 沢山取れれば良いんだけれどね。


 夕食までには間があるので一旦部屋に戻る事にした。

 ソファーに冷たいビールを持って腰を降ろすと、スクリーンを展開して何が見付かったのかを確認してみる。

 どうやら、重バナジアム鉱石らしい。重金属だからかなりの値が付くかも知れないな。


 その時、腰に下げた携帯が着信を告げている。

 急いで携帯を交信モードに切り替えると、小さな画面にドミニクが映っていた。


 「リオ、僅かだけど閃デミトリア鉱石の反応があるの。様子を見てきて欲しいんだけど……」

 「戦機かもしれないって事か。直ぐに出掛けるよ。アリスに情報を転送してくれないかな」

 

 俺の言葉に画面のドミニクが小さく頷いた。

 

 急いで、戦闘服に着替えるとスラックスとTシャツをその上に着る。クローゼットからショルダーバッグを取り出すと、ソファーの近くの壁に組み込まれた小さなシンクに歩いて行く。

 バッグから大型水筒を取り出してシンクの蛇口からたっぷりと水を入れた。

 念のために、小さな水筒にも水を入れれば、5日はアリスと共に行動が出来る。

 バッグの中には非常食が3日分入っているし、ガンベルトに付属した小さなバッグにも1食分が入っている。

 

 部屋を出て、食堂に駆けていくとお弁当を急いで作ってもらう。

 その間に、アレクに通信を入れて、緊急出動の依頼がブリッジからあったことを告げておく。

 

 お弁当を受取ると、急いでエレベーターでカーゴ区域へと急いだ。

 既にアリスにはタラップが付けられてある。


 「ご苦労様です」

 「何の、気にするな。だが、リオが出かけるという事は巨獣じゃな。55mm砲の弾丸を10発分付けてある。全て炸裂だんじゃから、倒そうなんて考えるなよ!」


 コクピットに入ろうとする俺に、下からベルッドじいさんが怒鳴っている。

 そんなじいさんに手を振ると、アリスがポッドを閉じていく。


 「どうやら、戦機の探索だ」

 『そのようですね。先程ブリッジより情報が入りました。極めて微弱ですが間違いなく閃デミトリア鉱石特有の反応です』

 

 そう言って、昇降装置にアリスは歩き出した。

 

 「1km程離れたところで探査して方向を確認。その後、S字状に探査をしながら進んでいこう」

 『了解しました。もうすぐ、昇降装置が停止します。装甲甲板に移動して出発します』


 ガタンと軽いショックで昇降装置の停止を確認したアリスは装甲甲板に数歩歩くと荒地に飛び降りた。

 直ぐに滑走モードで移動を始める。


 まだヴィオラが見える距離だが、アクティブ中性子分析(中性子を地中にぶつけて跳ね返ってくる反跳中性子のエナジー分析による鉱石分析手法)で機動状態で閃デミトリア鉱石反応を確認する。

 

 ヴィオラを1周して、反応を確認した結果が全周スクリーンの一部に表示された。

 円周上に2つの点で表示されている。直線を辿る事になるが、果たしてどちらになるのだろうか?


 『ヴィオラより入電です。……南を目指せ……との指示がありました』

 「了解。となると、南南西になるな。アリス出発だ。探索モードで行くぞ」


 了解の声と共にアリスは大きくS字状にコースを取りながら南南西に進路を取る。

 速度は時速40km程だ。左右に300m程膨らんだサインカーブを描きながらアリスはひたすら進んでいく。


 地上を撫でるように滑走しているから周囲の巨獣にも注意が必要だ。この状態では数kmの範囲でしか動体反応、生体反応を確認できない。

 当然、俺も全周スクリーンを眺めながら肉眼での監視を継続中だ。


 2時間ほど経つと、夕暮れが訪れる。

 このまま夜間も探索した方が良さそうだな。夜に地上に下りるのは危険すぎる。

 

 「反応に変化はあるか?」

 『反応値に大きな変化はありません』


 前回は6日も追跡してたからな。それ程早く変化があるとは思えないけど、一応念のためだ。

 明日の早朝にはヴィオラから500km程離れてしまう。直接交信は1,000kmが限度だから、それまでには一度連絡しておいた方が良さそうだ。

 衛星回線を使うと値段が高いからな。


 そして、次の日の昼過ぎに800km離れた状態で、ヴィオラに連絡を入れる。

 この時点で反応が2割ほど増えている。戦機の可能性が少し出て来たわけだ。


 『ヴィオラからの通信です。……トリケラがそっちに向かった……以上です』

 

 トリケラとはたぶんガリナムの事だろう。あの3隻の中では一番火力があって、スピードが出る。しかもパージを曳いていないから、時速50km以上は出せるんじゃないか。


 「俺達の移動コースは出発時点から変化してるのか?」

 『大きくは変化していませんが、ガリナムが私達の初期のコースをそのまま進めば500kmで10km程ずれてしまいます。現在の座標をコード化して送信しますか?』

 

 「そうだな。送っておいた方が良さそうだ。但し、現在地でなく2時間前の位置を教えれば良いだろう。誰が聞いてるか分らないからな」

 

 発信地点の座標と違っていれば解読する方も苦労するだろう。ガリナムの方は少し時間がずれた位置でも方向修正を行なうには十分だ。

 アリスの発信確認を聞いて、俺は少しの間眠りに付く。

               ・

               ・

               ・


 俺が起きたのは数時間経った後だった。

 アリスに茂みを見つけてもらい、しばしの休息を取ることにした。

 まだ夕暮れには1時間ほど余裕がある。


 茂みから薪を取って焚火を作ると、ポットでコーヒーを沸かす。

 出掛けに手に入れたお弁当は野菜サンドだ。焚火で炙ってコーヒーと一緒に頂いた。

 タバコに焚火で火を点けてゆっくりと味わう。

 アリスのコクピットでは無理だからな。

 下に降りる僅かな休憩がタバコを楽しむチャンスになる。


 2本ほど吸ったところで、残りのコーヒーを飲むとアリスのコクピットに納まった。

 再度、探索の始まりだ。


 「通信はあった?」

 『ありませんでした。こちらからは、ヴィオラとの距離1,000kmを超えていますから直接交信は出来ません。ガリナムを中継する事で交信可能です』

 「ガリナムに巨獣追跡継続中と送信。その後に前と同じように2時間前の位置を追加してくれ」


 『了解です。探索を継続します』


 ゆっくりと東西にアリスが移動するからたまに巨獣が生体探知レーダーに引っ掛かる事もある。だが、夕暮れ時だしこれから暗くなるから、そんな時には上昇してやり過ごす。

 どちらかと言うとガリナムの方が心配だが、あちらは探査はしていないから最大速度でこっちに向かっているはずだ。巨獣の探査はブリッジの上にあるレーダーで20km近く行なえるんじゃないか?

 緊急通報を俺達にしてこないところを見ると、順調に進んでいるんだろう。


 『私達は探索モードで進んでいますから、直線距離に直すと時速30kmほどになります。ガリナムが最大船速で移動しているとすれば、明日には会合出来る事になります』

 「となると、……日付が変わった辺りで、1時間前の位置を送っておいた方が良さそうだな」

 

 『ですね。次ぎは日の出時間に、30分前の情報を送信します』

 

 その後は、高度を上げれば確認できるんじゃないかな。

 そして、単調な探索を俺達は継続していく。


 次の朝、一旦上昇して、周囲に異常がないことを確かめて、アリスを降りて小休止を取る。

 買い込んでおいたコーヒーのボトルを開けて、一服しながら飲む。

 やはり、コーヒーが一番だな。少し甘味が足りないのが難点だけどね。まぁボトルだから贅沢は言えないけれど。


 20分足らずの休憩を終えると、再びアリスを探索モードで荒地を進ませる。


 『ガリナムから入電です。……現在の位置知らせ……以上です』

 「そろそろ会合かも知れないね。今度は現時点の位置で良いよ」


 『送信完了。……入電です。距離約120km。ガリナムとの会合を指示しています』


 そこまで近づいていたか。

 

 「ガリナムの返信してくれ。……現在地で待つ。……以上だ」

 『ガリナムに返信。……ガリナムから了承の連絡がありました』


 一旦休憩出来そうだな。

 それから、3時間も掛からずに俺達はガリナムの装甲甲板に降り立った。

 

 ガリナムにはカーゴスペースはあるが、昇降装置は付いていない。ブリッジの近くに移動して、振り落ちないように75mm長砲身砲の砲塔をアリスがしっかりと持って座り込んだ。

 これなら、少し位の振動や旋回で振り落とされる事は無いだろう。

 俺はアリスから降りると、砲塔の点検ハッチから船内へと入りこんだ。


 直ぐにブリッジに案内されると、騎士団長のクリスが出迎えてくれた。


 「ご苦労様。疲れたでしょう。食事を用意したわ。その後は部屋で休んで頂戴。それで、現在の状況は?」

 「反応が3割ほど上昇しています。前回の時は埋設箇所で一気に上昇しましたから、まだ何とも言えません」


 「しばらく先になりそうね。これからは12時間の調査と8時間の休憩で対応してくれないかしら」

 「それ位なら問題なく対応できます。食事と寝る場所はよろしくお願いします」


 15m四方の小さなブリッジだ。数人の当直で対応しているみたいだな。

 おれが休んでいる間は、速度を落として探索を継続するんだろう。例え時速20kmでも俺が休息を取っている間に120kmは進める筈だ。


 久しぶりに暖かい食事を味わって、シャワーを浴びる。

 用意された部屋のベッドに入ると、直ぐに眠りに付いたようだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ