V-003 ユーレカ!
ジリリリリ……!
けたたましいアラーム音で目を覚ます。
船の窓からは朝日が差し込んでるぞ。半身を起こそうとした俺の胸にフレイヤの腕が絡みついて身動きが取れないのに気が付いた。
ユサユサとフレイヤを起こすと、ファ~っと大きな欠伸をしてシャワー室に消えていく。
全く、自分勝手だな。そんな思いを浮かべながら、俺も一緒にシャワーを浴びる。
熱いお湯は寝ぼけた体を覚醒してくれる。
そして壁に組み込まれたチェストから、綺麗にクリーニングが済んだ衣服を着ていく。
フレイヤは裸のままで、壁に組み込まれたドレッサーを使って軽くメイクをしているようだ。
全く、目のやり場に困ってしまうぞ。
待っていないと煩いから、船の窓から景色を眺める。
と言っても、荒地が何処までも続いているだけだ。
俺が昨日偵察した小さな森は過ぎ去ってしまったのだろうか?
「お待たせ。食事に行きましょう!」
振り返った俺の前には、戦闘服の上に火器管制室勤務の白地に赤い横線が入った短パンとTシャツを着ていた。
俺の着ているのは、戦闘服の上に迷彩のパイロットスーツだからえらい違いだな。
ベルトのホルスターを確認して部屋を出ると、フレイヤがカードキーでロックを掛ける。
船首の方に歩いて行くと、ポンっと肩を叩かれた。
振り返ると、副団長のレイドラがニカニカした顔で俺を見ている。
「ちょっと、お疲れ気味ね。フレイヤ、少しは彼の事も考えないと長く楽しめないわよ」
そう言って、フレイヤをからかっている。
スタスタと先を歩いて行くレイドラに、フレイヤがイーって舌を出してるぞ。
まぁ、俺もその方がありがたいとは思うけどね。
食堂の扉を開けると、結構な人込みだ。
カウンター席が空いていたのでそこに座り込む。
「朝食セットを2つだ。それに弁当を1つ頼む」
「了解です。今朝は野菜サンドですよ!」
ネコミミの女の子が俺達の注文を聞いて、奥に向かってオーダーを伝えている。
この食堂は昔からネコ族の人達が仕切っている。動力や、制御系それにハンガーをドワーフ族が仕切ってるのに似ているな。
それ以外は色んな種族の人達が一緒なんだけどね。
「はい。朝食セット2つです。これがお弁当になります。ここにサインをお願いしますね」
差し出された注文票に、スーツのポケットからペンを取り出してサインをする。
寄港した時に渡される給与から、食事代が差し引かれるのだ。
衣類のクリーニング代やちょっとした嗜好品もこんな感じなのだが、それでも差し引かれる額は税金を含めて2割に満たないから、騎士団への志願者が多い事も確かだ。
そして、必ず何人かが騎士団に入団する。
それだけ、人的損失が多いという事でもあるのだ。
食後のコーヒーを飲みながら代わり映えしない荒地を見ていると、艦内放送が俺を呼んでいる。
『ブリッジからリオに通達。出発は0900。先行探査区域は出発後に伝送。繰り返す……』
「さて、出発だ。フレイヤも無理をするなよ」
立ち上がって弁当の袋を掴んだ俺に、フレイヤが俺の首に腕を回して軽くキスをする。
「お呪いよ。見付かると良いわね」
そう言って、その場で手を振って俺を見送ってくれた。
食堂を出た所にはハンガー区域への直通エレベーターがある。通路の反対側には階段があるが、俺はエレベータを選ぶとハンガーに降りていった。
「おはようございます」
俺は俺の肩位の身長で髭面のベルッドじいさんに挨拶する。
「リオか。早かったのう。調査のルートは伝送してあるぞ。ダミーはお前が出発してから20分後に送る予定だ」
そう言って俺の腰を叩く。
「まったく、戦姫はつまらんのう。自己修復しやがるから、ワシ等の出番がまるで無い。見つけるなら戦機じゃ!良いな」
そう言って、もう一度俺の腰を叩く。振り返って遠くの助手に手を上げてタラップを運ぶように合図している。
「親方の期待に沿うように努力します」
「んむ。それが一番じゃぞ。そして、ドミニク達の色香に迷うんじゃないぞ!」
へんな注意を俺にすると、タラップを支えてくれた。
その階段を上って行くと、アリスが自動的に装甲版を開き始める。
シートの後ろにあるボックスを開いて、中のバッグに弁当を入れれば後は出発の合図を待つだけだ。
シートに座ってリアクターを起動する。
アイドリング状態を維持してヘッドバンドを装着すると、戦姫の状況をアリスに尋ねた。
『全て正常です。探査コースの伝送を終了しています。昨日の探査箇所からやや北に沿ったコースになる予定です』
「探査はアリスに任せる。それと巨獣についても探知をしてくれ。全周モニタは通常視野で表示してくれ。俺も監視を行なう」
『了解です。直ちに全周スクリーンを展開します』
たちまち直径2m程の球形のコクピットに全周囲の画像が展開する。
この機能はアリスだけのようだ。戦機は前方だけ、それも上下は60度の角度までだ。獣機にいたっては、30インチ位のスクリーンに目の前の風景が投影されるだけだ。
『出発5分前です。昇降台に移動します』
ゆっくりとアリスがハンガーを降りて昇降台へと歩き出した。
昇降台に停止すると同時に天井部の装甲ハッチが開いた。そこから見える青空に向かってアリスを載せた昇降台が上昇を始める。
『出発1分前。上部装甲甲板に移動します』
「ヴィオラからアリスへ。出発30秒前、出発20分後に探索コースを伝送。ヴィオラ進行方向からプラス15度で走行せよ」
『リアクター巡航モードに移行終了。出発まで10秒……5……3、2、1、GO!』
アリスが右斜めに跳躍すると、巡航モードにしては低速の時速50km位で駆け始める。
一蓮托生の騎士団と言えどもどんな連中が入り込んでいるか分らない。
ちょっと変わった形の戦機として印象付けておくに限るからな。
15分もするとヴィオラが視界から外れる。
それでも、ブリッジや火器管制室のレーダーでは捉えられているはずだ。
『ダミーの探査指示書が伝送されてきました。伝送確認をヴィオレに発信します』
全く余計な手間だと思う。
ダミー指示書に合わせて進路を変更して2時間過ぎたところで、進路を更に北方向に変えた。これからが本格的な調査になる。
『閃デミトリア鉱石反応確認! 微量ですが、痕跡を辿ります』
更にコースが変化する。探査はアリスに任せて、周囲に広がる荒地を眺める。
巨獣がいたら面倒だし、何より他の騎士団の存在が気になるところだ。
左に並んだ照光式スイッチを操作すると目の前に20インチ程の仮想スクリーンが展開する。
そこに映し出された画像は10倍程度に拡大された画像だ。
俺の顔の向きによって画像が左右上下に移動する。これで双眼鏡で観察するように遠方を確認できる。
『閃デミトリア鉱石反応増大!超レズナン合金反応確認できました。かなり近いです。旋回しながら場所の確認に移行します』
アリスが俺に告げてから10分を経過した時だ。
『ユーレカ!』
「至急、ヴィオラに通信だ。暗号で送るんだぞ!」
『了解しました。赤-3号で送ります!』
さて、どんな暗号なんだ?そして、それを受信したヴィオラの船内が楽しみだな。
少し離れた場所に移動して周囲を眺める。
見渡す限りの荒地だ。
巨獣も餌になる獣がいなければこんな場所にはやっては来ないだろう。
他の騎士団も全く姿が見えない。
そんな中。何かが視野の中で光った。
急いでその場所に仮想スクリーンを合わせる。
『露頭のようですね。調べて見ますか?』
「あぁ、地下資源ならありがたいな」
アリスが駆け足でその場所に移動すると、早速探査を始めた。
『重ガルナマル鉱石です。希少金属鉱石ではありませんが、極めて品位が高いものです』
「売れるってことか?」
『交渉次第ですね。上手く運べばかなりの値が付きそうです』
という事は、あまり高価な鉱石ではないという事らしいな。
まぁ、これも知らせておこう。ちょっとした報酬の上乗せが期待できるかもしれない。
昼食を取りながらも周囲を確認することは忘れない。
5km以内に、何者かが移動してくるならアリスはそれを察知できるが、それより遠いとなるとモニターの画像だけが頼りだ。
暗号を送信して6時間程すると、4機の戦機が先導しながらヴィオラがこちらに向かって来るのが見えた。
何で、戦機が先導してるんだ?
「アリス。暗号ってどんな内容なんだ?」
『巨獣に掴まりアリス大破。至急援護頼む、それに座標が続きます』
……後で、怒られないかな?
だが、それなら他の騎士団は近付かないだろう。巨獣に挑むのは戦機にとっても命懸けだ。場合によっては貴重な戦機がスクラップになりかねない。
とりあえず両手を振って無事を知らせる。
直ぐにヴィオラのブリッジから通信が入る。
「何処なの?」
『座標を送ります』
アリスの通信が終らない内に、次々と獣機が走行甲板に並び始めた。
そんな様子を戦機が体を回すようにして確認している。
「リオ、無事なのか!」
「ええ、無事ですよ。そしてどうやら見つけました。後は団長達に任せます」
「なら、俺達は周囲の監視だな。お前はそこで待機だ。後は俺に任せろ」
通信はアレクからだ。
たちまち、四方に戦機が移動していく。
今の所は問題ないが、これから夜を迎える。巨獣ではなくとも物騒な獣は多いのだ。
反応のあった場所に隣接してヴィオラが停止すると、次々に獣機が装甲甲板から飛び降りてパージに積んである掘削機で地面を掘り始めた。
そんな折、ブリッジに重ガルナマル鉱石の連絡を入れる。
それを聞いたドミニクが驚いて場所を聞いてくる。その位置を教えると3機の獣機が位置を確認しに向かった。
「値段的には安いんだけど、それだけ純度が高いとなると別の使い道があるわ。ボーナスを弾まなくちゃね」
そう言って通信が切れたが、別の使い道なんてあるのだろうか?
掘削現場に歩いて行くと、地下10mほどの場所に仰向けに戦機が埋もれていた。
だが、この戦機少し大きくはないか?
通常の18mクラスではなく、20mを越えているように見えるぞ。
「どうやら戦鬼らしいな。話には聞いた事があるが見たのは初めてだ」
何時の間にかアレクの乗った戦機が俺の隣に移動してきた。
「戦鬼ってなんですか?」
「戦機でも倒せんような巨獣を相手にするように考えられた大型の戦機らしい。ベルッドじいさんの喜ぶ顔が目に浮かぶよ」
「でも、これではヴィオラに積み込めませんよ」
「だな……。いよいよ、ヴィオラを更新することになりそうだな」
より大型のランドシップを手に入れることになるのか?
折角、色々と慣れてきたんだけど……。