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V-002 ヴィオラ騎士団

 ハンガーに固定されたアリスは、装甲版と俺が乗ったポッドを開く。

 そこに2人の作業員がポッド近くまでタラップを押して来た。タラップが固定されたことを作業員が片手を上げて合図したのを見て、俺はポッドからタラップに身を乗り出すと、急な階段を降りる。

 

 「ご苦労様です」

 「何の、これも仕事ですからね。それより、露頭は見付かりましたか?」


 「全然だ。やはりこっちよりは山麓が良さそうだな」

 

 そう言って、カーゴ区域を出て船内の通路に向かう。

 後ろでひそひそと囁く声がするけど、それは俺の噂ではなくて採掘場所の彼らなりの考えらしい。

 やつらも、やはり山師のようだな。


 両側に戦機が並んでいる。

 戦姫よりも3m程高さのある戦機は威圧感がある。カーゴの天井とは2m位の隙間があるだけだ。やはり、このヴィオラはそろそろ換えるべきなんじゃないかな。

 

 通路の扉の前には獣機が1ダース並んでいる。

 獣機は戦姫よりも3mほど背が低い。その分足や腕が太いからまるでゴリラのようだ。

 そんな獣機の建ち並ぶ姿を見て歩いて行くと、ようやく通路の扉に着いた。


 戦機や獣機を操る機士達は、何時もの待機室でカードでも楽しんでいるのだろう。

 真直ぐに続く通路に人影は無かった。

 横幅2m、高は3mもある通路をヒタヒタと靴音を立てて、ブリッジに向かう。

 ブリッジは後部にあるから少し歩かねばならない。

 

 通路の突き当たりの横にあるエレベーターを使ってブリッジに向かう。ブリッジはちょっとしたビルのようだ。

 1、2階は窓無しの防弾構造、ここにヴィオラの中枢である電脳が収められている。その上にこの船の操縦区域があるのだ。更に1階がその上にあるのだが、そこはヴィオラの火器管制を行なう区域だ。そこでヴィオラの火器が遠隔制御されている。

 そして、鉱物資源の探査を行なうための各種装備もこの区域で制御される。


 ブリッジと書かれた扉を開けると、体育館ほどの天井の高い部屋の中階に出る。

 教室ほどの大きさの、バルコニーのような感じに作られているこの場所は、2人の重要人物がいる。

 騎士団長ドミニクと副団長のレイドラだ。


 「お帰り。ご苦労様だったわね。やはりこの先には鉱脈が無さそうね」

 「しかし、この区域を過去に騎士団が調査した経緯はありません。もう少し先を見てはいかがでしょうか?」


 そんな2人にアリスの電脳から落とした記憶媒体を渡す。小さな水晶の球体にも見えるが、これ1つで図書館の本を丸々収蔵出来るほどの容量があるらしい。


 その記録媒体を副団長が受取ると、直ぐに端末を操作し始めた。

 小さな小箱がテーブルの上に顔を出す。その中に記憶媒体を入れて再び端末を操作し始めた。


 すると、俺達の前に3m四方の仮想スクリーンが展開する。

 そして、俺の偵察したエリアの地中データが映し出される。


 「この小さな痕跡が問題です。アクティブ中性子センサの反応では、閃デミトリア鉱石の反応が出ています。過去にこの反応があった場合多くの場合……」

 「戦機が見付かる。それは私も分かっているわ。……でも、これで3日目よ。それに反応は余りにも小さいものだわ。果たして本当にあるのかしら?」


 騎士団長はそう言って俺を見詰めた。

 2人とも騎士団長とは言っているが、山師には違いない。一攫千金を狙って台地を駆けているのだ。

 どちらも20歳を過ぎた姿を、体にフィットした戦闘服を着込んでいるから目のやり場に困るんだよな。

 そろそろ婚期の筈なんだが、そんな噂は聞いた事も無い。

 もっとも、この世界のバイオ技術はかなり進んでいるから、老化を停止することさえ出来る。

 見た目が20代だからと言って、そのまま信じるのも無理があるのだが、俺にはこの2人の実年齢は未だに分からない。


 この2人にとって、この騎士団を継続させるのが最大の仕事である筈だ。

 そのために、地下資源の発掘よりも大事なものもある。それが自分達のステータスである戦機の発掘だ。

 残念ながら俺がこの騎士団に拾われてからは、戦機の発見はなされていない。先代の騎士団長であるドミニクの親父の代に2機を発掘して騎士団仲間から賞賛の目で見られたと言っていた。

 ここで、更に戦機を発掘出来るなら、ヴィオラ騎士団の名は大陸中に広まるだろう。


 「それでは、後1日がんばってみましょう。この痕跡を辿って真直ぐに調査して頂戴」

 「了解だ。明日の朝には出発する」

 

 副長から記録媒体を受取って、部屋を出ようとしたところを呼び止められた。

 

 「待って、これはボーナスよ」


 そう言って騎士団長がトスしてくれたのは、1枚の金貨だった。

 

 「次に寄港したら皆にも支払うんだけど、リオには色々と世話になってるからね」

 

 そう言ってニコリと笑う。

 俺としてはタダでも良いのだが、ここは頂いておこう。ジッと調査データを見ている2人に頭を下げると俺はブリッジを後にした。


 後は風呂に入って寝るだけだが、ここは仲間達にも状況を話しておいたほうが良さそうだ。

 ブリッジから3つエレベーターを降りると、船首に向かって伸びていく通路を歩いて行く。

 この区域は居住区になっており、左右に扉が並んでいる。その中には俺の部屋もあるのだが、通り過ぎて船首付近にある待機室を目指す。


 船首先端にある左右の部屋は、右が待機室で左が食堂になっている。

 俺はその待機室の扉を開いた。

 

 途端にタバコの煙りがあたりに立ちこめているのが見えた。

 葉巻、パイプそしてタバコと、いたるところのテーブルでふかしている。

 あまり、楽しみが無い場所だから大目に見てるのかも知れないが、よくも壁が黄色にならないものだ。


 「あら、帰ったの?」

 「さっき戻ったところだ」


 何時ものソファーに倒れるように座ると、機士達が俺を見詰めている。

 手には、酒のグラスを持っているのだがその眼差しは真剣だ。


 「30km先まで行ってきました。特に露頭はありません。地中探査では閃デミトリア鉱石の痕跡が続いています。明日、もう一度痕跡を追いかけます」

 「やはり団長は戦機があると睨んでるな。親父殿は戦機を2機手に入れた。先々代が手に入れた戦機と合わせて俺達には4機の戦機がいる。4機の戦機を持つ騎士団は大陸には沢山いるだろう。だが、お前の乗る戦姫を持つ騎士団は俺達が唯一……」


 「おかげで容易に仕事は出来るのだが世間の目がうるさい事も確かだ。そこで戦機を増やすことで目をくらますことを考えてるみたいだな」


 「俺が入ったことで、ご迷惑をお掛けします」

 「気にするな。おかげで俺達は助かってる事も確かだ。そして、こんな芸当が出来るのもあの戦姫のおかげさ。他の騎士団はそうは行かない。動力船で地中の調査をしながら進むんだからな」


 そう言いながら、身を乗り出して俺の肩を叩く。

 アレクは、俺よりは遥かに年上だ。25、6の容貌をしたハンサムな奴だ。そんなだから左右に同じ機士の女性を侍らせているんだが、あまり嫌味に見えないから不思議だよな。

 そして、少し離れてカリオンが1人で座っていた。カリオンは寡黙な青年だ。アレクより少し若そうだが、剣技は遥かに上を行く。


 「リオはドミニクのおきにいりだからねぇ~」

 

 アレクの右肩にしなだれたシレインがそう言って俺に微笑む。

 

 「ダメよ、シレイン。レイドラだってそうなんだから!」


 アレクの左肩を占拠したサンドラが同じように俺に笑い掛けると、グラスにワインを注いで俺に渡してくれた。

 一応、年齢的には俺のほうが年下だから、サンドラに頭を下げてグラスを受取って軽く口を付ける。

 そんな俺を黙って見詰めながら微笑んでいるアレクは余裕だよな。


 船首に近いこのソファーは俺達騎士が占拠している。少し離れたソファーには他のソファーを合わせて12人が座れるようになっているが、そちらは獣機の連中だ。

 機士同士仲が悪い訳ではなく、自然とこんな形で分かれているんだが、互いの役割は尊重してるし、酒が回ってると互いの場所に乱入するから問題ないのかも知れないな。


 「ああ~!やっぱりここにいたのね」

 

 そう言って俺の前に仁王立ちしてるのはフレイヤだ。

 同年代で、俺よりも前に騎士団にいたという事もあり、何かと俺に干渉してくるんだよな。


 「明日も出掛けるんでしょう。さっさと寝なさい。アレクなんかを見習っちゃダメよ!」


 俺の目の前に人差し指を立てながら、キツイ言葉で注意してくれてはいるのだが、……そんなフレイヤはアレクの妹なんだよな。

 妹には口では勝てないのか、無言でアレクが成り行きを見守っている。


 「それでは、戻ります。ご馳走様でした」

 「そうそう、直ぐに戻りなさい!」


 部屋を出る時にもう一度彼らを振り返ったが、プンプンしているフレイヤの後ろでは4人が笑いを堪えている。

 

 待機室を抜けて船尾に戻るように歩くと、俺の部屋に付いた。

 後ろから、カードキーでフレイヤが部屋の鍵を開けてくれる。

 本当は俺の個室の筈だったのだが、何時の間にかフレイヤが住み着いてしまった。


 「飽きたら、投出して良いぞ!」

 

 そんな言葉を俺の耳元で囁いたアレクだったが、次の日に会った時には大きな紅葉を頬に着けていたな。

 触らぬ神にタタリなしって言うけど、神のほうから触ってきた場合にはタタリはあるのだろうか?

 

 「直ぐに帰ってくるかと思ってたけど、兄貴になんて義理立てする必要ないんだからね!」

 「だが、戦機のリーダーだ。俺も一応はアレクの指揮下に入る」


 そう言ったら、いきなり右手が飛んできたので、素早くその腕をかわすとシャワー室に逃げ込む。

 そして、熱い湯を浴びて疲れを取ることにした。

 明日の調査はかなり遠距離まで伸びそうだ。 

 少なくともレイドラが納得して、進路を変える材料を手にせずには帰れそうも無いな。

 戦機が取引された事例は今だかつて無いと言っていた。

 あまりの数の少なさに、各騎士団が堅く囲って手放さないのだ。

 王国でさえ、戦機の数は10機を越えないと聞いたことがある。もっとも獣機が沢山いれば、王国同士の争いには十分だとは思う。

 戦機1機の働きは獣機10機を越える事が無いからな。

 

 だが、騎士団は常に移動していることから獣機を乗せる数が限定される。

 戦機は騎士団にとってステータスであると同時に、荒野を渡る上で絶対に必要な機体なのだ。


 タオルで体を拭いてベッドに腰を降ろすと、グイっと後ろに倒された。


 「全く、何時まで入ってるのよ。早く入りなさい!」

 

 強制的に布団に拉致された俺に、甘い香りの体が重なってきた。

 全く、口と行動が別なんだからな。

 白いフレイヤの腕が伸びてベッドの傍にあるスイッチを操作すると室内はほのかな窓明かりに照らされた。丸い船窓から差し込む明かりは、やっと出て来た半月のものに違いない。

 こうして、俺達の夜は更けて行く。


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