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V-017 拠点?


 洞窟の入口は直径150m程だったが、2km程進むと直径1kmを越える広大なホールを作っている。

 そして、更に奥に洞窟が延びていた。

 ゆっくりとした速度でアリスは進んでいるが、洞窟が少しずつ細くなっていくようだ。3km進んだ位置では直径が50m程度になっている。

 更に、2km進んだ所で崖に出た。

 200m程離れた対岸には洞窟は見当たらない。

 天井は300m程上で両岸の岩が合わさっている。崖下に赤い河が見えるから、ここは溶岩洞窟てことになるな。溶岩の流れまでは数百mはありそうだ。

 それにしても巨大な洞窟だ。そして、不思議なことに生物の姿が見当たらない。


 「これだけの洞窟に巨獣が住まないのも不思議な感じだな」

 『生物の住処としては不適切です。現在の酸素濃度5%以下。崖下から高い濃度の炭酸ガスと硫化水素が放出しています』


 それでか。サーチライトの光で輝いているのかと思っていたら、それは硫黄の結晶だ。

 だが、こんな死の洞窟に利用価値があるんだろうか?

 

 「鉱脈は?」

 『入口ホールの付近でルビナム鉱石の反応がありました』

 

 採掘すると言うのだろうか?

 とりあえず、洞窟を出て周囲を監視しながらその場を少し離れた。


 「ヴィオラに通信。……巨獣の口を調査。虫歯は無し……。それに、さっきの洞窟の位置を暗号で送ってくれ」

 『了解です。先程の洞窟から500mは酸素濃度が低下しています。巨獣もそれを知って近付かないものと推測します』


 死のアギトって訳だな。

 その顎に捕らわれて死を迎える巨獣もいるのだろうが、風向きでその顎の方向が変わるときに持ち去られるのだろう。

 付近を調査しても巨獣の骨すら見つけられない。


 『返信が来ました。……直行する。到着時刻は明日の13時……以上です』

 

 今は夜中になっている。

 明日の朝まで洞窟の中にいたほうが良さそうだ。

 少なくともアリスの中にいれば安全は確保出来る。


 洞窟に入り巨大なホールの壁面をゆっくりと探索する。

 横穴でもあるかと思ったが、壁面は融けたような感じで艶がある。

 1周したところで地上に下りる。この床も壁面と同じだな。

 

 床や壁の一部の色が変わって見えるところがルビナム鉱石の鉱脈だろう。何となく昔の採掘場所にも思えるが、このような形態で鉱石を採取するのは不可能だと思う。

 それに、ルビナム鉱石はそれほど価値があるわけではない。

 どちらかと言うとありきたりな鉱石なのだ。

 それでも、建築資材として多用されるからパージに満載すれば俺達の給料くらいにはなるんだろうな。

 

 次の日。朝早くに洞窟を出ると、地上を走って尾根を廻るようにしてヴィオラに向かう。やはり周囲に巨獣はいないようだ。

 そして、空にキラリと光る円盤機を見つけると、直ぐにヴィオラの疾走してくる姿を目にすることが出来た。


 1時間も掛けずに会合すると上部の甲板に飛び移り、昇降機で内部のカーゴに降りて行く。

 ハンガーにアリスを固定すると、ドワーフの若者がタラップを移動してくるのは前と変り無いな。

 アリスの持つ40mmレールガンは何時の間にかライフル砲に姿を変えていた。


 「あまり収穫は無さそうじゃな」

 「そうですが、どうやらドミニクが探していたのは鉱石じゃなさそうですよ」


 「気を落とすな」と肩を叩いて、ベレットじいさんが去っていった。

 そんなじいさんを見送って、ハンガーを奥へと歩いて行く。

 船が大きくなったからブリッジまでが長く感じるぞ。


 ハンガーの突き当たりのエレベータに乗って、一気にブリッジに上がる。

 ブリッジの扉を開けると、前の2倍ほどの広さがある。

 薄暗いブリッジを艦首に向かって歩いて行くと、3人人影が見える。


 どうやら、2m四方の航跡ディスプレイを見ながら話し合っているようだ。

 そして俺に気付いたのか一斉に俺に顔を向ける。

 ドミニクにレイドラそしてドミニクのお母さんであるカテリナさんだ。


 「見つけたようね」

 「あの洞窟が探し物なのか?」


 そう言って、記録媒体である水晶球を渡すと、早速スクリーンに投影して眺めている。


 「理想的だわ」

 「言い伝えの通りです。巨獣すら避けて通ると伝承にありました」

 「13番目の騎士団になれそうね」


 そんな話を始めたぞ。

 いったいどうするつもりなんだろう?


 「ここをヴィオラ騎士団の本拠地にするのよ。大きな騎士団はそれぞれ本拠地を持っているわ。この洞窟を使えば、今のヴィオラ以外にグラナス級を2隻以上収容できるわ」

 「でも、1つ問題があります。硫化水素に二酸化炭素で洞窟内の酸素濃度は極めて低いですよ」


 「それは問題にはならないわ。どちらかと言えば、巨獣を避けるにも都合のいい話ね。生活するにはドームで生活空間を確保すれば良いことよ」


 そんなことも分らないの?って感じで俺を見てる。

 ちょっとした宇宙基地みたいな感じになるのかな?

 

 「でも、建設資材がありませんよ?」

 「パージで運んでるわ。心配ないわよ」

 

 という事は、最初から今回の目的は拠点の確保って事なのか?

 アレクだって驚くぞ。

 

 「団員に知らせなくても良いんですか?」

 「昼に発表するわ。その頃には洞窟が見えてくる筈だしね」

               ・

               ・

               ・


 「すると、今回の採掘は拠点探しだったって事か?」

 

 俺の探査の結果を聞いたアレクが、グラスを落としかけて俺に聞き返した。


 「どうやら、そのようです。確かに大きな洞窟です、内部のホールは直径1kmを越えてましたから」

 「でも、何処で知ったのかしら? それにそんな大きな洞窟ならとっくに他の騎士団が拠点にしているわ」


 サンドラが、疑問を投げ掛ける。

 確かに、その辺りは良く分からない。


 「周辺にイグナスの群れがいました。それ以外に巨獣はいません」

 「だが、イグナスがいるならば大型がいてもおかしくは無い。そして、洞窟は酸欠なんだな? たぶんそれが原因なんだろう。洞窟を見つけても、イグナスがいるなら騎士団は近寄らないからな。周辺には小さな鉱床しかないなら尚更だ」


 「問題は拠点を定めても、周辺に鉱床が無ければ意味が無いわ。それに、拠点ならばもう1艘以上ラウンドシップが欲しくなるわね」

 「その辺りは、ドミニク次第だな。ある程度は目途を立てているんじゃないか。小さな騎士団は沢山いる。だが、戦機が無いからイグナスでさえ彼らには危険な存在なんだ」


 戦機を持たないって事は獣機だけで仕事をしている騎士団もあるという事か。

 当然危険を冒せないから北上する範囲は限られている。そんなところは、既に採掘が行われている筈だからそれほど大きな利益を得る事は出来ないだろう。

 そして、戦機を得る事も出来ない筈だ。

 ある意味、将来の独立性と可能性を考える騎士団ならば、一時的に同盟を結ぶ事も出来そうだな。

 

 『ヴィオラ騎士団の皆さん。騎士団長のドミニクです。我等の騎士団はこれよりヴィオラ騎士団の本拠地に帰港します。前方の巨大な洞窟、あれが我等の本拠地です』


 一度きりの簡単な艦内放送だ。

 だが、直ぐにワアアァァーーっという歓声に船内は包まれた。

 本拠地は騎士団の夢なのだろうか?

 確かに、本拠地を持たない騎士団は放浪するだけではあるのだが……。


 そして、ヴィオラはゆっくりと洞窟に入って行く。

 天井が高いからブリッジが支える事も無い。通路を進んで大きなホールで大きくUターンをすると艦首を洞窟の入口に向けて停止した。


 『騎士団員に告ぐ。全てのハッチをロックしている。現在地の酸素濃度は極めて低い。外に出た途端酸欠で倒れるぞ。繰り返す……』

 

 その放送を聴いて少し艦内が静かになったような気がする。

 直ぐに外に出たかったようだな。


 そして、戦機と獣機に出動命令が下った。

 ハンガーの機体に全員が搭乗したところで、カーゴ要員を退去させ昇降機とシュートを使って俺達は外へ出る。


 戦機がパージ2隻から資材を運ぶと、18機の獣機が次々と組み立てて行く。

 鋼材を接合し枠を作る。ある程度枠が出来ると、その枠に箱型の居住区をブロックのように合わせて接合部をシールして行く。

 2時間おきに休憩を取りながらの作業だが、2日もかけずに3階建ての居住区が出来上がった。

 更にその周囲を透明なパネルで覆う。

 どうやら、酸欠を防ぐ為に2重の壁を作るようだ。

 

 そして、その居住区に隣接して桟橋を造る。

 居住建屋から洞窟の入口方向に周囲の壁を崩して土砂を積み上げる。

 20m程の高さの正方形のブロック構造を作ればこれが桟橋の土台になる。

 伸縮式のチューブを船体に接続するのは次の帰港になるな。

 後は、空気圧で膨らむテントのような倉庫に資材の残りを入れる。

 居住建屋にエアロック施設を作り、空気清浄機を設置して居住区の内部の空気を入れ替える。

 大型の酸素発生装置も空気清浄機に隣接して設置された。


 どうやら、10人程がこの洞窟に残るらしい。

 円盤機を3機と獣機を6機おいて洞窟の中を整備すると共に、俺達がここに住んでいることを示すようだ。

 

 「王都に戻って拠点を登録すれば私達のものよ。それまではここで先住権を主張することになるわ」

 「だいじょうぶなのか? 10人程残しておいて……」


 「最大巡航速度で王都に戻って、資材を積み込んだら直ぐに戻るわ。母も残ってくれると言っているから、反乱は起らないと思う」


 ベッドの中でドミニクと会話する。

 仰向けの俺の耳元で囁くようにドミニクが話してくれた。

 ドミニクの母親が残るのは人質みたいな感じがするけど、この洞窟の調査をしたいのが本音なんじゃないかな。


 「懇意にしてる騎士団長がいるのよ。彼女の騎士団と同盟を結ぼうと思うの」


 何でも、軍の駆逐艦を改造したラウンドシップを使っているらしい。

 曳くパージは積載量75tを5つ。

 典型的な小規模騎士団だな。


 それでも仲間が増えるのは嬉しいな。

 だが、ドミニクは更に話を続けた。


 「上手く行けばもう1つ増えるかもしれない。2人とも友人だから手を出しちゃダメよ」

 「騎士団長が女性って多いのか?」


 「そうね……。三分の一って所かしら。それなりにいるのよ。でも、12騎士団の団長は全て男性だけどね」


 ラウンドシップが3隻ともなれば立派な大規模騎士団だ。全員女性の団長となれば評判になりそうだな。

 

 そして、10日程洞窟で過ごした俺達は、ヴィオレを洞窟の外に出すと、最大巡航速度で王都を目指して走り出した。


 カーゴが3つ空荷だから、時速40km近い速度で荒野を疾走出来る。

 洞窟に残した人達が心配だからな。出来るだけ早く帰らねばなるまい。

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