V-011 長い休暇の終わり
レイドラル騎士団のラウンドシップが襲撃されてから5日が経った。
全滅はかろうじて免れたようだが、再び騎士団を結成できるのだろうか?
「仮にも12騎士団だから、騎士団長が存命なら直ぐに立ち直るわ。もっとも戦機は残ったものを使わなければならないから2、3機でしょうけど獣機でその間は代替するでしょうね」
フレイヤが当然のように言い切った。
ある程度の財力を持っていたという事だな。俺達のヴィオラ騎士団もそんな蓄えがあるんだろうか?
このラウンドシップに更新したから、以外と火の車って事は無いだろうな。
「俺達の騎士団もそうなのか?」
「騎士団の貯えってこと? たぶんだいじょうぶだと思うわ。この船だって、全額一括払いよ。半分程度は使ったと思うけどね」
船を2隻買えるだけの蓄えがあったということに驚いた。
意外と、ドミニク達はやり手だったのかも知れない。
「問題はアレクよ! 戦鬼に乗ることになったらしいわ。それまで乗っていた戦機を新しい騎士に譲るみたい」
「それは、おめでたいんじゃないのか? 仮にも戦鬼を持つ騎士団は12騎士団でさえ少ないらしいぞ」
「持っているのは半分にも満たないわ。王国軍でさえ持って無い。ある意味ステータスではあるんでしょうけど……」
ちょっとした嫉妬と言う奴かな。
自分では乗れないから、そんな事を言うのかもしれない。
だけど、俺としては火器管制室にいてくれた方が安心ではある。
乗船の為の集合5日前となると、暇を持て余した連中が続々と乗船してくる。
たぶん1日前なら旧ヴィオラの乗員は全員乗船してくるんじゃないのか?
そんなことだから、食堂が開かれている。
以前と比べて2倍位に広がったように見えるが座席数は少し増えたぐらいだ。おかげでゆったりと食事をする事が出来る。カウンター席が無くなったのはちょっと残念だ。
そんな食堂の窓際に席を取って本日の夕食をフレイヤと共に頂いてる。
フレイヤ達は新しい火器の調整で忙しいらしいが、俺は暇だからな。
食事が終れば待機室に出かけて、アレクの話を聞いてみよう。
「さて、私はこれから仕事だけど、あんまりアレクにお酒を飲まされないようにね」
「ああ、気を付けるさ」
そう言ってフレイヤは俺に小さく手を振って食堂から出て行く。そんなフレイヤに小さく返事をしたが聞き取れたかな?
食事代は夕食が運ばれた時に、携帯通信機を媒体として相手の持つタブレット型通信端末に支払い表示が行なわれる。次の帰港の際に纏めて給与から引かれるのは前と同じだ。
席を立つと、出口に向かって歩き出す。
途中ですれ違ったネコ族のウエイトレスに『ご馳走様』と挨拶すると、小さくお辞儀をしてくれた。
通路に出るとすぐ近くのエレベーターで1フロアー上に上がる。食堂の斜め上階が新しい待機所だ。
待機所の扉を開いて前方に歩いて行く。
10人程が座れるソファーが丸く設えられている場所が戦機を駆る騎士達の溜まり場になるんだろうな。
だが、生憎と誰もいない。
そんな待機所の側面にある大きな区画に数人の男女がコーヒーを飲んでいた。
ここは、酒が飲めなくなったのか?
「戦機の連中なら、まだカーゴにいるぞ。装備の調整らしい。どうだ、俺達と一杯!」
「そうですね。お邪魔させてもらいます」
俺の言葉を聞くと、ここに座りなって席を開けてくれる。
若い女性が壁際に行ってマグカップにコーヒーを入れると、俺の前のテーブルに乗せて勧めてくれる。その後で片手に持ったコーヒーポットを他の連中カップに継ぎ足している。
早速コーヒーを頂いた。何時ものコーヒーではなく、香りが強い。これって新しく買い込んできたんじゃないのか?
「美味しいですね。私物を頂いて申し訳ありません」
「良いってことよ。戦鬼を見つけて、尚且つ鉱床を見つけたんだ。今回のボーナスはそれが上積みされてるんだから、それ位のことはさせてくれ」
「たまたまですから、それにあの戦鬼は騎士団長がずっと追い掛けていたみたいです」
「とは言え、巨獣の知らせには驚いたぜ。まぁ、あれを聞いたら周辺の騎士団は逃げ出すわな」
そう言って、笑い合う。
「古参の連中なら問題はねぇだろうが、新参となると他の騎士団に情報を流す輩もいるらしい。にいさんも気を付けた方が良いぞ」
「その辺は、アレクとフレイヤの言い付けを守ることで対応します。カーゴにはベルッドじいさんもいますし……」
「じいさんなら安心だ。まあ、あそこは問題ねえ」
そんな話でから、世間話に花が咲く。
それでも、彼らにとってレイドラル騎士団の悲劇は堪えたようだ。
「俺達の獣機は殆ど戦闘能力がねえ。30mm砲は持ってるが6発のみだ。小型の巨獣ならどうにかだが、早めにラウンドシップに戻るのが一番だ。
その時間稼ぎが戦機の役割だが、やはり良いところで中型までだろうな。大型のトリケラでは戦機すら撥ね飛ばされるだろう」
「戦鬼なら少しは何とかなるんでしょうか?」
「少なくとも戦機より大型の武装が出来る。艦砲すら持てるだろう。前のヴィオレが積んでいた75mm砲を使うんじゃねえかと俺達は噂してたんだ」
ちょっとした戦車砲だよな。それだけ相手が固くて大きいという事なんだろうけどね。
アリス用は長銃身の40mm砲だからな。本来は別の武装があるのだが、隠しておくようにドミニクから言われている。
「だが、前の船よりは緊急収容が容易だぞ。船体側面にシュートが2基あるからな。出るのも入るのも時間が半分以下になる。たとえ分隊が1つ増えたとしてもだ」
彼らとしても仲間が増えるのが嬉しいに違いない。
彼ら無くては騎士団の収入が得られないんだからな。パージを大型化して積載量を増やしても、鉱石を採掘してパージに積み込む獣機が増えないのでは作業量が増えるだけだ。たとえ、数機でも増えるに越したことはない。
待機所の扉が開いて、アレク達が入ってきた。
獣機の連中に別れを告げて、アレク達に合流する。
「何だ、早々と来てたのか? のんびりしてれば良かったものを……。それは別として、礼を言うぞフレイヤから話は聞いた。あの農園近くは昔から大鷲の被害があるんだ。まさかソフィーが狙われるとはな。
そのおかげで病院送りとは……。だが、ソフィーには手を出すなよ。フレイヤで諦めとけ」
「何とか無事で良かったです。もっとも助けに行って病院送りでは笑いものですけどね」
「そうでもないわよ。獣機の連中には評判が良かったわ。万が一には掛け付けてくれるってね。それが私達の役目なんだろうけど、実際に経験はしてないでしょう。リオの場合は病院送りってことで信憑性があるから、やはり機士は違うってことになってるみたいね」
「実際の場面では戦機を大破したことになりますから、騎士団全体を見れば問題ですよ。そんな場面になったらアレクの指揮で動きます」
そんな俺の言葉を苦笑いしながらアレクが聞いていた。
回答として間違ってたか?
「リオは俺の配下に組み込まれてはいるが、実際の指揮権はドミニクが持っている。ドミニクからリオの指揮権が移らない限りリオに指示は出せないんだ。だが、これはここだけの話だぞ。新たに機士もやってくる。そんな話が公になったらもめるからな」
「そうなんだ。でも、考えてみれば私達の戦機よりも小さいからね。偵察用に使った方が良いのかも知れないわ」
アリスの一面だけを見ればそうなるな。
だが、アリスのポテンシャルは戦鬼すら軽く凌駕するぞ。
「それで、新しい機士は何時やってくるんですか? それと戦鬼はどうです?」
「新人は出航間際らしい。リオよりも若いんじゃないかな。戦鬼は気に入った。戦機の数倍、いや10倍のポテンシャルを持っている。今までの50mm砲ではなく、75mm砲を使うから貫通力は2倍近い。大型のトリケラでさえ上手く当てれば狩れるだろうな」
「その照準調整に手間取ってるみたいなの。ドッグの片隅で練習してるんだけど、姿勢制御と照準制御のマッチングが中々捗らないのよね」
「それでも、かなり集束しだしたぞ。あと2日あれば仕上がりそうだ」
戦鬼が4体の戦機を従えて巨獣を翻弄する姿が見えるようだな。
シュミレーションを使って練習をしていくんだろう。俺の役目は遊撃になるんだろうか? そういえばあの円盤機も攻撃手段があるって言ってたな。
「今度は円盤機も加わりますよ」
「その話は聞いた。俺も興味があったので見てみたのだが、武装は小型爆弾と30mm砲だ。あまり過信すべきでは無さそうだぞ」
ちょっと残念そうな顔をして、サンドラが俺達に出してくれたグラスの酒を飲んでいる。
「私も見たけど、戦闘用は3機よ。積んでる爆弾だって50kgの小型を2つらしいわ」
「役割としては偵察と見るべきでしょうね。それでも巨獣の位置を早期に発見できればありがたいわ」
偵察衛星の画像解析で巨獣の存在が分るのは大型でさえ2時間前の情報らしい。巨獣の進行速度は時速30kmを越えるし、ラウンドシップも30km近い速度で巡航している。2時間前の情報がどれだけ役立つかは疑問だな。
ブリッジの上階で周辺の監視をしているし、レーダーで探索もしているが、それでも悲劇は起きるのだ。
「元々の軍船に円盤機の収容箇所があったから、それを使うことを考えたのが本音らしい。しかし、レイドラル騎士団の話を聞くと、先見の目があったという事だな。彼らのようにはならずに済むだろう」
アレク言葉に俺達は頷いた。
その夜、フレイヤが帰って来るとベッドの中でその話をしてみた。
「あの円盤機ね。ドミニクの親父さんの伝手で操縦者を雇うみたいよ。正、副で3組6人がやってくるわ。私のところにも数人増えるわ。砲が増えるから大変よ。
運行部門の人数は増えないけど他は軒並み増えるみたい。
生活部の人達は一気に20人も増えるのよ。たっぷり稼がないと私達の給与が下がりそうだわ」
そんな事を言ってけど、騎士団が大きくなるのは良い事なんだろう。
ラウンドシップと、それに見合った人数に見合っただけの鉱石を採取すれ良い事だ。
少し早くに戻ってきたけど、皆それぞれに暇を持て余して戻ってきたみたいだ。
やはり、自分の家はあるのだろうが騎士団の一員である以上、このラウンドシップが俺達の故郷と言えるのだろう。