4 夢見
夢を見る。
スマートフォンでLINEを使ってクミに連絡を取る。
今度海に行こう。いいね、最高。たくさん日焼けしよう。
彼氏できないかな。作ってみようか。他校の男の子を友達に紹介してもらおう。
試験中はサイゼリアに行って皆で勉強しよう。ユリやレイナやアヤを誘おう。
楽しみにしていた。
大学受験で大変で、つんけんしているお姉ちゃん。
反抗期で睨みつけてくる弟。
お姉ちゃんと弟に手を焼いているお母さん。
突然捨て猫を連れてきたりするちょっと自分勝手で優しいお父さん。
毎年家族で夏には旅行に行く。
面倒臭いとは思っていても、当たり前にあることだと思っていた。
ハムスターのジェシー。私の手の中で小さな鼓動を温かく震わせていた。
クラスのグループの子たち。馬鹿話して騒いだ。放課後にはマックに行った。
ちょっとお茶目な理科の担任教師。
合唱コンクールでクラス皆で力を合わせ、優勝したこと。
全てが墨で塗り潰したみたいに、掻き消されていく。
真黒くフェードアウトしていく。
苦しくてたまらない。
何でこんな目に遭わなければならないの。
誰も頼れない。私はどうすればいいのか分からない。
知らないところにいきなり放り出されて、電話も通じない。
取り残されて一人ぼっちの私がいる。
今まで生きてきて、出会って、やってきたことが私を作り上げている。
私を支えていた。
絶望と共に理解できる。
私を支える全てが、ここには存在しない。
私を必然的に必要としてくれていた人たちが一人もいない。居場所もない。
一人ぼっちで黒く塗り潰されていく私が悲鳴を上げる。
悲鳴を上げていたら、誰かに腕を掴まれた。
骨ばった大きな手と、それより細い筋張った手。
大きな影に、ゆったり包み込まれた。
温かいそれは、どうしたんでぇ、どうしたんでぇ、とべらんめぇ調で繰り返す。
何も見えない心地だけど、確かな感触があって、涙が出た。
私はここに存在する。
悲しいけど、悲しい状態でここに存在する。
しゃくりあげて抱きつくと、大きな影はふわりと抱き締めてくれた。
次の朝、何故だかよく分からないけれど、私はロイに抱き締められ、マイユに抱きつかれて何故か三人でベッドに寝ていた。
成績のよくないお馬鹿な私でも特技はありまして、それが早起き。
早起きが得意と訊いて、ロイはこの家に来たばかりの頃に、家の中の役割として私に「ロイとマイユを起こす」という仕事を授けた。
だから知っている。
この二人がそう簡単に起きないということを。
男の人に抱き締められ、その妹とも一緒に寝ているというよく分からない緊張状態に置かれたまま、私はその日の朝を悶々と過ごすことになった。