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異世界少女と恋した兵器  作者: 独蛇夏子
異世界少女
1/22

1 混乱

 え?



 それは戸惑いが一気に押し寄せることでの絶望感。

 都市の真ん中に放り出された私は走行音や歩行音に囲まれて立ち尽くした。


 舗装された歩道に、立ち並ぶ銀色のビル群。遠くに聳えるタワー。

 道路には車が走り、横断歩道と信号らしきものが立つ。


 何の変哲もない文明的な風景だが、雰囲気が日本のものと全く異なる。

 広告とか、無駄なものが一切ない、硬質な都市。

 ここは私が歩いていた住宅街ではなかった。


 通学路を歩いていたはずだった。

 制服を着て、鞄を持って、いつもと同じようにスマートフォンでLINEをしながら住宅街を歩いていた。

 夏休みの計画を友達のクミと交わしつつ、今日も学校ダルいなと思っていた。


 一変したのは、スマートフォンのアンテナが四角に囲まれた「圏外」に一気に切り替わったからだ。

 え、何これと立ち止まった場所で周囲を見回すと、見覚えのない風景が私を取り囲んでいた。


 戸惑いのままに右往左往した後、通行人の邪魔にならないようにビルの壁際に寄った。

 色んな人種の人が歩いているみたいだった。どちらかというと、ビジネスマンのエリートっぽい人たち。

 取り残された心細さに立ち竦んで、「どうしよう」と思いながら腕時計の針が進むのをただオロオロとして眺め―――八時二十分を指したときに涙が出始めた。


 ここ、何処なの。

 何なのこれ。どうして私、こんなところにいるの。

 学校に、行けなくなっちゃった。


 自分がまさか学校に行けないことで泣くとは思わなかった。たった一人で何処とも分からない場所にいることが、これほど心細いとは思わなかった。

 どうしよう。

 迷子の心地で立っていたら、ダンディな西洋人風のおじさんに声を掛けられたけれど、全く言葉が分からず、ただ泣いて首を振ってしまった。

 困った表情のおじさんは携帯電話のようなもので電話し始めた。

 私はスマホの画面を見た。

 圏外。LINEのやりとりは「20日に海行こうよ♪」で止まったまま。

 スマホを振ったりインターネットを開こうとしたり、色んなアプリを起動させようといじったりしてみたが、何も変わらなかった。

 鞄の中を漁ってみても、プリーツスカートのポケットの中を漁ってみても、変わらなかった。


 暫く経ってから、私の目の前の道路に二台の車が停まった。

 鋭利なデザインの車から登場したのは玄米色の詰襟の軍服と軍帽姿の男が三人、それから真っ赤なエナメルのコートの似合う金髪をしっかり撫でつけた赤い口紅の女だった。

 四人とも西洋系の顔立ち、しかも知らない言葉で喋る、ということだけでも怖いのに、彼女は私に笑顔で話しかけ、それから車の中に引っ張って行った。

 抵抗してもどうしようもなく、両脇から軍服の男の人に抱えられて車の後部座席に乗り込むことになって、ただ泣いた。

 一体どうして、なんで。

 その言葉を繰り返した。


 立派なビルの一室に通され、机を挟んで色々話しかけられる合間もそれは変わらなかった。

 とにかく私はこの状況を拒絶していた。

 いきなり知らない場所に放り出されるなんて酷い。

 どうしてなの。何でなの。

 混乱して、何に訴えればいいのか、何を責めればいいのか分からない。


 女の人は痛ましいものを見るような目で私を見つつ、分厚いファイルをめくりながら色々私に話しかけた。どんな言葉も私には理解できず、泣き過ぎて頭が痛くなった。

 スープや飲み物が出されたけれど食べる気にならなかった。


 腕時計は刻々と時を刻み続ける。

 私は学校にいるはずの自分を思い描いた。

 今四時間目、今お昼の時間、五時間目、六時間目、放課後、帰る時間。

 すべてが奪われていく。


 虚脱感に苛まれてきた頃に、私は初めて自分が理解できる言葉を聞いた。


「Hello?」


 目を上げると、白人の鼻の高い男の人が目の前に座っていた。茶色っぽい髪を短く刈り上げた、ずんぐりした雰囲気の人だ。

 口をパクパクしてその人を見つめていると、その人がふっと微笑んだ。


「Nice to meet you.My name is Allan.」


 アラン?

 アランっていうの、この人。


 固まっていると、ようやく今までと違う反応を見せた私に周りにいた人たちが笑顔を見せた。

 アランと名乗った英語を喋る人物は、金髪の女の人を振り返って私を指して言った。


「Maybe,She is Japanese.」

「Japanese?」


 はっとした表情をして、彼女は急いで側にいた人物に何事かを告げ、その人物が室内から出て行った。

 茫然と眺めていると、アランは私に話しかけた。


「Settle down and hear.

 This World is differs from our World.」


 聞いて。

 この世界は私たちの世界と違う。


 大まかに訳すればアランはこんなことを言った。


 高校二年程度の中の下普通科レベルの私には「ワールド アワー ワールド」と言っているところしか分からず、首を傾げると、アランは今度は「This is a diffrent place.We are Foreigner.」とゆっくり言った。

 頭の悪い私でも分かることが一つだけあった。

 目の前に英語を喋る人物がいるということ。

 それからここがアランと私にとって、違う世界である、とアランが言いたいのだということ。


 そして、ほどなくしてやって来た人物に、私の目は釘付けとなる。

 オールバックに撫でつけた黒髪。銀縁のフレームの眼鏡の奥には黒い瞳。

 他の西洋風の人達とは違い、やや細身で背が低い、象牙色の肌の男。

 軍服を着て、限りなく無表情だったが、私は思わず「日本人に似てる」と思った。


 アランと交替して彼が目の前に座る。

 近くで見ると結構顔立ちがいい。怜悧な切れ長の目と頬のこけた感じが、今売れている俳優と似ていた。

 そんなことを思っている私をしっかり見据え、彼は私に問うた。



「わっちの言葉が、おまえさん分かるかえ?」



「ちょっと待て」


 イケメンがその言葉遣いダメだろ!!


 思わず口をついて出た言葉に、何故か周りにいた軍服さんたちが歓声を上げ、アランが拍手をし、彼は何を言われたのか思案するように首を少し傾けて静止していた。

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