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カミナシスクールライフ  作者: 希咲 空夜
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歪曲ミュージック①

 神様なんていない。僕は、昨日の出来事でそう結論付けた。

 昨日の出来事を一言でまとめると、僕が昼飯を屋上で食べようとしている最中にツンデレ地味た発言をしてしまいそれを美少女に聞かれてしまった、だ。泣きたい。なんか、こう、泣きたい。しかもあの美少女、同じクラスなんだよな。どんだけ不幸なんだよ、僕は。また引き籠もりになりそうだったわ。


 幸い、あの子に話しかけられる事なく放課後になったのだが、まさかの先生に呼び出しを食らってしまうというハプニング。僕は、早く帰りたい気持ちを抑え、重い足を引きずりながら職員室に向かった。



 職員室という場所は、なんて居心地の悪い場所なんだろう。生徒が入ってもいい空気じゃないだろ、あの空気の重さはさ。コミニティー能力が急低下した僕にとって、あの場所は地獄に等しい場所であった。しかし、とてもめんどくいことになりそうだった。僕の担任の先生である吉永先生が言うには、「この学校は、出来る限り生徒達には部活動に入ってもらうという校則がある」らしい。僕は新入生のオリエンテーションの際にもらったパンフレットの中にそんなことが書いてあったことを思い出した。そして、必然的に僕自身も部活に入らなければならないらしい。しかし、優しい優しい先生は俺に友人がいないことに気が付き、「突然サッカー部やバスケ部などといった、もうすでに仲間やレギュラーが固まっている部活動に俺を入部させてもアレなんで、自分で部活動を作りなさい」という先生の傍若無人な命令をされたのである。あはは、この先生も相当ブッ飛んでやがるぜ。一つ言わせてもらうが、「友人がいない」って平気で口に出さないでくれる?僕じゃなきゃ、たぶんその場で泣き崩れていただろうに。



 職員室からの帰り道で僕は溜め息を一体、何回吐いただろうか。不幸には慣れたが、もう溜め息が癖になってしまった。新しい部活って言っても、校則により、部活動に入っていない生徒はいないであろうという疑問にぶち当たるが、先生曰く、その問題は皆無らしい。なんせ、どの学校にも問題児という僕みたいな奴らがたくさんいるらしい。だからさ、先生。本人の前で、問題児って直接言わせないでくれる?俺のライフはもうゼロだよ。


 ともかく俺は、問題児を何名か集め、部活動を作れということらしい。ちなみに、やる気は皆無だが部活動は作るつもりだ。だって、そうしないと内申下げられちゃうんだもん。と、ここで俺はあることに気がついた。


 

 (……そういえば、俺って今日、日直じゃね?)



 日直をサボって、クラスの輪からさらに外れるのも嫌なので、面倒だが教室に向かう。

 教室のドアに手をかけた瞬間、俺はふと思った。



 (……ここで、ドアを開けたら美少女が窓側の席で読書してたりして)



 俺は、そぉーっとドアを開ける。無論、そんな夢みたいな話あるわけがない。

 ………………。


 

 「べ、別に、期待してたわけじゃないんだからねっ!!」


 「え、えーと、何がかなぁ?」


 

 声を掛けられた方向を見ると、またしても黒髪の美少女がそこにいた。

 あっ、またそのパターンなのね。

 

  「へ?う、うわああああああああああああああああ!!」


  「え?きゃ、きゃあああああああああああああああ!!」


 

 男女二人の叫びが、たぶん誰もいないであろう三階の教室に鳴り響いた。

 その刹那、俺の頬に目に見えないほど速いビンタが飛んできた。



 ※※


 「痛たい……」


 「ごめんなさいっ!ついノリで!」


 「ねぇ、言い訳になると思ってんの?『ノリでやりました』が言い訳になると思ってんの?」


 「条件反射で……」


 「そっか。なら仕方がないね」


 「それで、許しちゃうんだ!?」


 俺の頬には、黒髪の子が保健室からもらってきた湿布が貼られており、この湿布を捲ると漫画のような綺麗な紅葉型の手跡が付いている。さっきから「痛い」って無意識に言う度に、謝ってくる。たぶん、この子はいい子だろう。ちょっと、抜けているところもあるが。


 「で、お前は。いや、えーと……」


 「奏だよ。柏木奏かしわぎかなで


 「僕は、榎本叶えのもとかなえだ。よろしくな」


 「奏と叶か…。ちょっと似てて、おもしろいね!」


 「…ああ。確かにな」


 決定。この子は良い子だ。僕の目に狂いはない。何が面白いのかは知らないけど。


 「というか、何で柏木はここにいるんだよ?」


 僕は少し不思議に思っていた事を彼女に質問した。彼女は、少し照れ笑いながら言った。


 「奏でいいよ。その代わり、私も君のこと叶っていうから」


 「え、ああ」


 やはり、この子は良い子だわぁ。質問に答えてないけど。


 「あっ、教室に来た理由は、黒板見たら分かるよ!」


 僕は教室の黒板を見る。しかし、黒板は誰かが日直の僕の代わりにやってくれれたのだろう。綺麗に消されている。あれ?俺、教室に帰ってきた意味なくね?


 「いや、何にも書かれてなんだけど…」


 そう言おうとして、僕は気が付いた。ああ、僕と同じ日直っていうことね。


 「理解したー。でも、もう仕事なくね?」


 「あるよー。机を並べるのも日直のすることだし、戸締りもそうだよー」


 彼女は、少し怒ったように顔をぷくっと膨らませ言った。この子は、どんなところでも真面目なような気がする。僕とは、ホントに大違いだ。


 「じゃあ、早く終わらせて帰ろうぜー」


 「えっ、そ、そうだねー。早く終わらせて帰ろう!」


 「お、おう…」


 何で今、変なテンションになったんだよ。

 こうして俺と、彼女改め柏木奏は、男女二人で放課後の誰も居ない教室で時間を過ごしたのであった。響き的には悪くないのになぁ…。


 ※※


 「叶君は、好きな人とかいる?」


 「ぶはっ!!」


 「ど、どうしたのっ?」


 「いや、こんなこと男女で話すことじゃないだろう!!」


 「そ、そうかなぁ…」

 

 結論。この子は、やはりどこか抜けている。さっき互の名前を知ったばかりの男女二人に、ミスマッチな話題しか振ってこない。なんだよ、ラブレターの書き方はどうしたらいい?って。そんなことは、女子の親友に言うことだろ。僕は、ラブレターなんて書いたこと一度もないぞ?なんせ、文章力が果てしなく皆無だからな。

 しょうがない。喋らないと、気まずい雰囲気になるからな。コミュ障の俺が話題を振るなんて、レアだからな?


 「そういえば、奏はどうやって友人を作ったんだ?」


 僕は最近の悩みを、解消するための質問を彼女に投げかけた。彼女は、やっと俺から話題を振られたことが嬉しいのか、笑顔で質問に答えた。


 「友達?私、あんまりいないよ?」


 そんな重いことを笑顔で言われましても、私はフォロー出来かねます。

 しかし僕は毎日、後ろの席で寝ながら教室の中を見渡しているので、疑問に思った。


 「いや、冗談はよせよ。いつも休み時間は、色んな奴らに囲まれて楽しくお喋りしてるじゃないか」


 俺と違ってな。


 

 「ああ。あの子達は、友達なんかじゃないよ」



 さっきの笑顔とは反転して、彼女はまるで、この世界を嘆いているような悲しい顔を見せた。


 「……どういうこと?」


 僕は、当然の疑問を投げかけた。彼女は、悲しい顔をしたまま答える。


 「あの子達はね、私を利用しようとしてるだけ。私を餌にして、お目当ての男子を狙ったり、同じ目的の友人を作ったりしてるだけだよ。だから、友達なんかじゃないよ」


 それは、彼女が今の現状を確認しているように聞こえた。


 「あの子達にとって、私は道具。目的を容易く得るための道具だよ。あの子達自身も、私のことを友人なんかと思っていない。男子達の場合は、ちょっと理由が違うけど」


 男子達が友達じゃないことの理由も、大体は理解出来た。多分、彼女の周りにいる男子達も、彼女を友達とは思ってなく、ただの恋愛対象だと思っているだろう。まぁ、女子達の理由よりかはマシだが。


 「自慢じゃないけど、私は人気者だよ。だけど一人ぼっち。休日とかも、ずっと一人だもん」


 奏は、やっと悲しい顔から笑顔に表情を変えた。苦笑いだが。


 「変でしょ?何が一番変かというと、こんなこと君に言ったのが一番変でしょ?」


 「ん?今のは、ボケだよな?この場の空気を和ませるためのボケだよな?」


 彼女は、今度こそ普通の笑みに表情を変えた。いや、笑ってごまかすなよ。


 「叶君はさ、かっこいいよね」


 「へ?」


 何言ってんだ、この子?思わず声が裏返ったよ。


 「いやさ、変な事言うと私、君に憧れてたんだよ?」


 「憧れられる所なんて、どこにもないと思うけどな」


 「だから変って言ったじゃん」


 「そ、そうですねー」


 ナチュラルに、人を傷つけるのやめてくんない?


 「私ね。君が、毎日学校で一人でいるのに、何食わぬ顔で授業受けたりするの見て、孤高っていう感じでカッコイイなぁって思ってんだよ?だから、こんな事を君に話しちゃったかもね」


 また、彼女は苦笑いをしながら僕に言った。


 「叶君は、聞き上手だね。なんか、少し楽になったよ」


 「あ、ああ」


 「叶君は、心理カウンセラーの素質あるかもねぇ…!誰かの悩みを聞いて、助ける仕事にも就いちゃえば?」


 「無理だ」


 「えっ」

 

 「僕は、誰一人救えないよ。きっと」


 彼女はギャグのつもりだろうが、僕はつい本気で答えてしまった。そうだ。僕は、誰一人救えないし助けられなし力を貸す事も出来やしない。それが、僕なのだから。


 「私も救えない?」


 彼女は、また悲しい顔で俺に問いかけてきた。


 「悪い。たぶん、無理だ」


 僕は、正直に答えた。救おうとはする。だけど、救えやしない。


 「そっか。残念」


 奏は、苦笑いしながら呟く。

 どうすんだよ、この空気。


 「よし。もう、やることないよね?」


 「あ、ああ…」


 曖昧に答える。


 「じゃあ、鍵閉めるから帰ろ?」


 僕達は共に教室を出た。彼女は、鍵を取ってくるために職員室へ向かった。先に行ってて、と言い残し、走っていく彼女を見つめながら僕は鞄を持って、歩き始めた。

 彼女が、あんな悩みを持っていたなんて知らなかった。僕は、ずっとクラスのマドンナ的存在だと思っていたが、クラスの奴らに利用されるだけの道具にされているだなんて、知る由もなかった。だから、彼女も僕に悩みを話してくれたのだろうか?同じ、孤独な者同士にシンパシーでも沸いたのだろうか?

 そして、彼女は間違っている。確かに彼女は一人だが、独りではない。彼女の周りには、理由がなんであろう人がいる。対して、僕の周りには誰ひとりいない。これが、一人と独りの違い。彼女と僕の違いなんだと思う。しかも、俺は好きで孤独になっているわけじゃないからな。俺だって、楽しい青春を過ごしたいんだよ。


 何て考えているうちに、玄関に着いてしまった。彼女を待ったほうがいいのか、待たない方がいいのか迷ったが、ここで僕はまたしても思い出したことがあった。今日は、中々家に帰れないな。僕は、忘れ物の体育着を取りに行くため再度、教室へ向かった。途中で奏に会うと思ったが、別のルートから帰ったのか、出会うことなく教室のある三階へと辿り着いた。早く帰りたいため、早足で教室へ向かう。教室へ向かう途中、何故か彼女のことが頭から離れないのがイラついた理由もあるかもしれない。


 教室まで、あともう少しの所で僕は不思議に思ったことがあった。さっき、奏は別ルートから帰ったんだろうと思ったが、二年生の教室から玄関へ向かうルートは僕がここまで来たルートを引き返すルート一つしかない。なのにすれ違わなかったということは、彼女はまだ教室にいるかもしれない。そう思うと、さっきまで早足で歩いていた僕だったが、足取りが重くなってきた。俺はゆっくりと教室に向かって行き、そぉっと教室の中を見た。案の定、彼女は教室内にいた。しかし、何やら様子がおかしい。彼女が手に持っているものをよく見ると、それは。


 カッターナイフだった。


 (ま、まさかな……)


 僕は握りしめていた手が汗をきているのに気づいた。ありえない。あんな良い子がそんなことするなんて、僕のただの妄想だ。するわけがない。


 そんな僕の考えとは裏腹に、彼女は持っているカッターナイフの刃を出した。周りに切るものなど何もありはしないのに。そして彼女は、手に持っている「ソレ」を首に当てる。そのまま引けば、間違いなく紅い鮮血が吹き出すであろう。気づいた時には、僕はもう叫んでいた。彼女を止めさせるために。


 


 「おい!なにやってんだ!?馬鹿な真似は止めろよ!!」


 



 僕は、ドアを勢いよく開けて教室の中に入る。




 「叶君……!」



 

 奏は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になった。癒しの笑顔ではなく、この世を嘆いているような冷たい笑顔を。




 「ねぇ、叶君。君でさえも救えない私は一体、どうすれば救われるのかな?」



 カッターナイフを彼女から奪うため、僕は、机を勢いに任せ退かしていきながらも彼女の方へ向かう。




 「じゃあ、ね。叶君。知り合いになれてよかったよ」



  

 彼女は、躊躇わずカッターナイフを、引いた。





 「やめろォォォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」





 嗚呼、頼むよ神様。僕は、アンタがただの幻想なんていうのをよく分かっている。けれども、もし、アンタが悲しいことが嫌いな良い奴なら、こんな悲劇を止めてくれ……。




 僕は思わず目を閉じていた。開けられない。目を開けたら、彼女が倒れていて、彼女が死んでいる光景など見たくない。だけど、見なくてはいけない。僕は、この子を救うことが出来なかったのだから。



 目を開ける。


 そこには、彼女の血まみれの死体。


 ではなく。


 カッターナイフを首に触れさせたままの彼女が立っていた。


 

 (…………は?)



 なんだ?ドッキリとかか?いや、周りをよく見たら気づいた。

 彼女の首には、カッターナイフが少しめり込んでいて血が出ているのにも関わらず、血が滴れ落ない。重力を無視して、落下しないのだ。もしも、俺が病気でもないし、ドッキリをかけられていないのならば、この状態は…。




 「時が、止まってる………?」


 




 


 



 

 




 



 ここから、本編に入ります。さてはて、叶君には果たして友達が出来て、充実した高校生活を送れるでしょうか……。たぶん、無理でしょうね。

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