1人目。うさ耳は、何を聞く。⑨
もう嫌だ。どうして亀なんかに、こんなに悩まないといけないの。
もうスピードでアタックされ、すんなりと捕まった俺。亀の下敷きになり、意識を半分失いかける。何コレ、うけるんですけど。
若干白目状態で見上げれば、勝ち誇っている亀の表情。本当、顔だけは可愛い女の子だ。胴体亀だけど。
「君の魂、もーらった」
俺の目の前に、亀がさっきの男が持っていた銃を向ける。助けを求めようとしても、アタックされた痛みとショックで、もう声もでない。
あーあ。まさか、亀に殺されるとはな。俺の人生、なんだったんだろ。ギュインギュインと、音を出して先端が光出した銃の切っ先を、ボケーっと見つめる。
段々と、体から力が抜けていく。思考が止まり、何もかもがどうでもよくなってくる。だけどふと、頭の片隅にあの瞳が過った。
今にも泣き出しそうな、奥深い赤色。
「ソイツは私が予約していたのだ。手を出すな、亀」
「な!?」
頭上から、いつか聞いた声が降りかかった。ボーッとする頭で見てみれば、ガードレールの上からこちらを見据えている一匹の兎。
あいつ、は。
目を見開く俺に、ニヤリと笑う兎。ピンク色した彼女の長い髪が夜風に靡き、思わず見いってしまう。
『君は、また彼女に会うことになるだろう』
思い出す、佐々木の言葉。一体何故、彼女は俺に会いに来るのだろう。
「来ましたね、ミーコ・アズベル!!この人間は、私たちのものです!邪魔はさせません!」
「うるさい。私が先に予約したと言ったろう。ほら、健。お代だ」
そう言うと、兎がスッと俺の真上に右手を差し出した。そしてゆっくりと、握っている拳を開いていく。
その拍子に、パラパラと、銀色の丸いものが降ってきた。キラキラと、スローモーションの様に降ってくるそれ。まるで、銀色の雨だ。つか、地味に痛い。
「一円玉、百枚。きちんとあるぞ」
そう言って、誇らしげに笑う兎。マジで集めてきたのか。とんだ物好きだな。
「アズベル!!何のマネですか!?」
「コイツは私が買うと言っているのだ。貴様ら滅亡組になど、渡すものか」
「何を!」
「どうだ、健。私のものにならないか?」
そう言って、スッと兎が俺の方へと手を差し伸べてきた。この手を握った瞬間、この兎が俺を買うということになるのだろうか。
亀に殺されるか、兎に買われるか。
究極の2択だが、俺の中にある、ミジンコ並みの僅かなプライドが、生きたいと叫ぶ。
いいよ、もう。この際、自分の価値が百円だろうがなんだろうか、生きてやる!
力が抜けきっている体にムチをうち、歯を喰い縛って、兎の手を握った。柔らかい皮膚の感触。その手は、人間のそれと何ら代わりない。
「お前の魂、預かった」
ニヤリと笑い、繋がったその手に、ギュッと兎が力をこめた。