1人目。うさ耳は、何を聞く。⑦
自分はいくらだと問われて、即座に値段を言える人間など、そうそういるだろうか。
ビシッと自分に向けられた亀の指を、ただ見つめる。動揺で、ひくひくとつり上がる俺の頬。すると亀はニヤリと笑い、口を開いた。
「答えないつもりですか。噂には聞いていましたが、屈強な心の持ち主ですね」
「どこで流れてるんですか、その噂。俺は、買う価値もない、只の凡人ですよ」
「あくまで、己の信念を貫き通すつもりですか。私たちには、従わない、と」
「いや、人の話聞いてます?」
「では、力ずくでしかないですね」
カチャ・・・・
突然頭に、軽い衝撃。機械的な音と共に、右こめかみに冷たい何かを突きつけられた。
「君の魂、もーらった」
知らないその声に、ドキリと心臓が跳び跳ねる。今自分に起きている状況を確認しようと恐る恐る右隣を見てみれば、レジカウンターに膝をついて、拳銃を突きつけている、見知らぬ青年。
誰ーっ!?
青い髪に、黒い服。中々のイケメンだが、その表情は狂気に満ちている。
「リーダー、とっととやっちまいましょう。あのウサギが嗅ぎ付けてくる前に」
「タック。まぁ待ちなさい。突然魂を吸われるなんて、可哀想でしょう?最後の言葉くらい、聞いてあげましょう」
え?何?俺、殺されかけてんの?んで、亀に情けをかけられてんの?どうして、こんなことになってるの。意味が分からないまま、突きつけられている銃に、ゆっくりと両手を上げる。助けを請うように汐谷を見れば、殺されかけている俺の姿を、携帯で写メり出した。
アイツ、何がしたいの!?
いかん。このままじゃ、亀に殺されるハメになってしまう。それだけは避けたい。
意を決し、震える口で言葉を発する。
「何が目的?金なら、そのレジの中にある。だから、殺さないでくれ」
「ふむ。それが、最後の言葉なのですね」
「ちげーよ!命乞いしてんだよ、空気読んでくれ!」
「おい、コラ。リーダーに向かって何つー口の聞き方してんだ」
「ひ!」
ガツンと、突きつけられていた拳銃で殴られる。人に殴られるなど、地味な人生を送ってきた俺には、初めての経験だ。揺れる脳に、襲ってくる目眩。
するとその時、ビュンと風を切る音。
「ぐあっ!」
「ちょっとお痛が過ぎるっスね」
俺のこめかみに銃を突きつけていた男が、ぶっ飛んだ。カラン、カランと、床の上でくるくる回る、汐谷愛用のモップ。
どうやら、汐谷が全力で投げたモップが、青い髪の青年に直撃したらしい。どんな力で投げれば、あんなに人を吹っ飛ばせるのだろうか。
青ざめて汐谷を見れば、ニコーッと笑ったまま、モップを拾い上げる。
「代理をいじめていいのは、私だけっスよ」
どんな理屈ですか、汐谷さん。