1人目。うさ耳は、何を聞く。⑤
ソイツが持っている写真に映っている人物。それは、昨日バイト先にやって来た、ウサミミの変な女だ。
やっぱりそうだ。こんなやつが、彼女の写真を持っているということは、頭のおかしい人物だったのだ。
こうしている間にも、どんどんと昼休みは過ぎていく。早く解放されたくて、俺は佐々木の横を通りすぎながら口を開いた。
「昨日会ったけど、それがなにか?」
「素晴らしい!一体、何を話したんだい?」
「何って、別になにも。お前を手に入れるには、いくら払えばいいとかなんとか、意味分かんないこと言ってたけど」
「何だって!?」
うわ、びっくりした。
一際でかい声で叫んだ佐々木。今度は、クラス中から喋り声が消えた。何なんだよ、マジで。これじゃあ空気どころか、二酸化炭素並に、皆から嫌われるじゃないか。
だが、佐々木はその他大勢の視線など気にも止めず、俺の腕を掴んだ。ぎょっとする俺に顔をこれでもかという程近づけ、ニヤリと笑う。
「君は、また彼女に会うことになるだろう」
「はぁ?」
「彼女は、ずっと君を探していたんだ。ヤツらから、守るために」
ヤツら?
さっきから、佐々木の言っていることが、これっぽっちも分からない。そもそも、コイツ自信がよく分からない。
とにかく、コイツの上がりきったテンションを丸く押さえようと、黙って先を促せば、ソイツは俺の意を汲んだのか、細い目をキラキラ、いやギラギラさせて、またさっきの写真を俺の目の前に差し出した。
「地球防衛軍隊長、ミーコ・アズベル。彼女は、れっきとした宇宙人さ!」
・・・・あれ?何だろう。頭痛い。
写真の中の、どや顔でニンジンにかぶりついている彼女に、ふらっと目眩が。
ああ、あれだ。この人達、妄想の中で生きる人達だ。関わったら、洗脳されてしまう。
蛾でも集ってくるんじゃないかと思うほど、未だ怪しげな光をギラギラとその目に宿している佐々木にハハンと笑って、分かった、分かったと屋上へと歩きだす。
「じゃあ、その隊長さんに伝えといてよ。俺は、君が守るに値しない、人間だって」
「何を言っているのだ、吉高くん!君は、僕ら宇宙人が喉から手が出るほど欲しい存在だというのに!」
うわー。ついに、僕らとか言い出した。ヤバい。これは全力で関わらない方がいい。
後ろで叫ぶ佐々木も無視して、俺は弁当をしっかりと抱え込み、もうダッシュで教室を後にした。