1人目。うさ耳は、何を聞く。④
学校で生活を送る上での基本。それは、『音を出すな。自己を持つな。空気になれ』だ。
まるでその場にいないかの如く、自然に過ごす。授業が終われば、屋上に行って身を隠し、終礼と共に、下駄箱へダッシュ。
そして、そのままバイトへ直行。
寂しいとは思わない。いや、思わないこともないが、傷つくくらいなら、俺は孤独を選ぶ。
だがしかし、三年間貫き通してきたこのスタイルは、いとも簡単にぶち壊された。
「吉高健くんだね?」
「はっ!?」
学校で話し掛けられるなど、年に三回あればミラクルな俺にとって、フルネームで呼び止められ、肩が跳び跳ねた。
生徒誰もが楽しみにしている、昼休み。俺にとっちゃあ、友達と楽しそうに話す、クラスメイトたちのはしゃぎ声がナイフとなって胸を抉ってくるので、早く過ぎ去ってもらいたい時間帯だ。
弁当を持ってまたいつもの屋上へ逃げ込もうとしていた俺に、そいつは話しかけてきた。
落としそうになった弁当を慌てて持ち直し、声がした方を振り返る。すると、1、2回ほど見たことがある男。
えーと、確かコイツは。学校で頭を働かせるのは、慣れていない。ぐるぐると考えを巡らせるが、中々記憶が形となって出てきてくれないので、諦めて口を開いた。
「誰、だっけ?」
「三年二組、佐々木健三だ!吉高くん、君は大層な偉業を成し遂げた!感服するよ!」
あっはっは!と高笑いをする佐々木とやら。名前を聞いてみても、全然思い出せない。何なんだ、コイツ。感服されるような事をした覚えは、一ミリたりともないのだが。
長い前髪の下から覗く、切れ長の目。そして、怪しさ満点の黒いマントを肩から引っ掻けている。
怪しい。そして、全力で気持ちが悪い。ソイツの独特な存在感に一斉に集まる、騒いでいたクラスメイト達の視線。
あーあ。これでまた、誰も自分に話し掛けて来なくなることだろう。神様、俺、何処まで人に嫌われればいいのでしょうか?
「呆けている場合ではないぞ、吉高くん!事は、一大事なのだ!」
「呆けさせてよ。現実逃避でしか、この辛い人生を乗り切る自信がねぇよ、俺。そしてお前は誰だ」
「三年二組、佐々木健三だ!吉高くん!君は大層な偉業を成し遂げた!感服するよ!」
「いや、さっき聞いたから、それ。どんな偉業を成し遂げれば、この空気の中、そんなハイテンションでいられるわけ?」
「昨日、この彼女に会わなかったかな!?」
「え?」
ピラっとソイツが俺の目の前に差し出した、一枚の写真。そこに写っている人物に俺は目を見開いた。
「ウサミミ・・・・」