1人目。うさ耳は、何を聞く。②
変人か、はたまた未確認生命体か。とにかく、俺の前に立つ、人の目を惹くほど綺麗な顔をした少女の頭からは、長い2つの耳が、ニョキっと生えている。
何かのアニメのコスプレだろうか?だがしかし、彼女の耳は、ピクピクと時折小さく動くのだ。カチューシャ等をしているようにも見えないし、偽物にも見えない。
え?自前?
「代理ー。何してんスかー。早くレジしないとお客さん待ってますよー」
「え?あ、ああ!」
ぼけーっと、少女の耳を見つめていた俺に、気の抜ける、力ない声が降りかかった。振り返れば、アルバイトの汐谷帆波が不思議そうに俺を見つめている。
汐谷帆波、17歳。
俺より1年程後にこの店に来た彼女は、ふわふわとしたその雰囲気とは対照的に、意外と毒舌。
長い黒髪を1つに纏め、女性にしては背が高く、華奢な体で思い荷物も軽々と担ぐ、中々頼りになる人だ。
「お待たせ致しました。210円でございます」
「・・・・」
商品のバーコードを読み取り恐る恐るそう言えば、ウサミミの彼女は、モコモコした素材の衣服から、じゃらじゃらと小銭をレジの上にばらまいた。ばらまかれた小銭の数々が、四方八方に飛び散らかっていく。
思いがけないその行動に、ピタリと凍る場の空気。
何なんだ、この女。やはり、頭のおかしな子なのだろうか。ええと、とどうしていいか分からず口を開けば、じっと彼女の赤い瞳が俺を見つめた。
まるで、何かを言いそうに。
「210円ちょうどいただきまーす」
「え、あ!」
「レシートはご利用でございますかー?」
また呆けてしまっていた俺の隣で、ついに汐谷が会計を始めた。じゃらじゃらと撒かれた小銭の中から100円玉と50円玉2枚、1円玉を10枚引き抜いている。
普通にまだ、100円玉も10円玉もあるというのに、何故汐谷がその微妙なチョイスをしたのかは、俺には分からない。そして何故、ウサミミの彼女がこんなにも俺をガン見しているのかも分からない。
めっちゃ見てるよ、何なの。俺の何処が気にくわないの。
いたたまれず、思わずうつ向く。すると視界の端で、アーモンドチョコレートをビニール袋に入れた汐谷が、はいどうぞー。と、ウサミミの彼女に渡しているが分かった。
トン。
・・・・え?
またどうぞーと口を開くよりも先に、俺の額に軽い衝撃。そのままグググっと、俯いていた頭を上に持ち上げられる。
「・・・・あの、」
「・・・・」
本当、何がしたいの。何を考えているの、この子。
俺の額には、ウサミミの右手人差し指。爪が食い込むほどギュッと突き刺され、驚愕する俺を意にも介さない様子で、またじっと見つめてきた。
泣きはらしたような、真っ赤な瞳。最近の女子は、カラーコンタクトなるものまで身に付けると聞いたことはあるが、彼女のこの瞳には、そんな人工的な不自然さがまるでない。
吸い込まれるような、奥深い赤。あれ?でもこの瞳、以前何処かで・・・・
記憶に引っ掛かったその色に目を細めれば、今まで無表情だったウサミミの彼女が、突然ニヤリと笑った。
そしてゆっくりと、口を開く。
「お前を買うには、いくらだしたらいい?」
「・・・・は?」
「いくら、この丸いクズを集めれば、お前が手に入る?」
それは、彼女に見あった高くて細い、綺麗な声。だがしかし。その声が紡いだ言葉は、俺の思考奪い去るのに、充分な威力を持ち合わせていた。