1人目。うさ耳は、何を聞く。
「さぁ、さぁ。よってらっしゃい、みてらっしゃい。世にも珍しい兎だよ」
「兎?こいつが?」
「ああ、そうだよ、ボウズ。おや?その目は疑ってるね?知らないのかぃ?こいつはね・・・・」
「人間を殺すために生まれたのさ」
生きていると、度々不思議なことがある。たった18年間平々凡々と生きてきた俺の人生にも訪れたのだから、少なからずとも、社会のために汗水垂らしてがむしゃらに働いている人々の人生にも、こういうことは訪れるのだろう。
・・・・いや、まじでみんなこんなこと経験してんのか?
「いらっしゃいませー」
場所は、日本の田舎町。
今年高校三年に上がった俺は、勉強も部活もろくに手をつけず、コンビニ店でアルバイト漬けの毎日を送っていた。
青春を謳歌?恋してときめき?部活仲間との熱い友情?いや、俺の人生には、どれも訪れちゃくれなかったさ。
いくら勉強しても、60点をとるのがやっと。モテようと、積極的にクラスの女子に話しかければ、翌日クラスの女子全員から、話しかけないでください。という嘆願書が机の中に入っていたし、部活に入れば、これまた失敗ばかりして、確実に勝つと言われていた大会に惨敗。
結果、辞めて下さい。とメンバー全員からの嘆願書が、俺の靴箱に入っていた。
俺のたった1つの特技。それは、人に嫌われることだと、ようやく悟った高校1年の夏。
金しかねぇ。金しかなかった。俺のこの寂しくて、虚しい高校生活を埋めてくれるものは。
それで、泣く泣く飛び付いた、従業員募集中。という、とあるコンビニ店員の求人。面接にいけば、片言の、どこの出身か解らない店長が、「キミ、合格ダスヨ」と、即座に雇ってくれた。
やっと見つけた、俺の生き甲斐。
何処の大学行くー?という会話がなされているときに、店の商品を並べ。ずっと、あなたが好きでした!と、甘酸っぱい告白がなされている間にも、レジを打ち。目指せ、全国!!と青春の汗を皆が流しているときに、俺は棚卸しを失敗し、冷や汗を掻いていた。
そうした毎日を、続けて三年。ようやく俺は、店長代理という役職にまで上り詰めたのだ。
今では、故郷に一時帰国している店長の代わりに、アルバイトのシフト作りや面接まで行っている。
そうして、この不思議で、何処かおかしい現象に出会うことになったのだ。
「い、いらっしゃいませ」
「・・・・」
スッと、音もなく俺の前に差し出された、アーモンドチョコレート。ここコンビニ店において、自分が欲しいものをレジに差し出すという行為は、何ら不思議なものではない。
では、なぜ俺がこんなにも取り乱しているのかというと。
視線を、差し出されたアーモンドチョコレートから、徐々に上へとずらしていく。
モコモコとした衣服、華奢な首。可愛らしい小さい唇。くりくりとした大きな赤い、今にも泣き出しそうな目。そして、
そして・・・・
長い、ウサミミ。