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クビになったダンジョン探索会社の四人、赤字だった場所で再出発します

作者: よみなぎ
掲載日:2026/10/07

「――というわけで、今日をもって会社を畳むことになった」


社長がそう言ったとき、驚く人はいなかった。


株式会社東央ダンジョン開発。設立から十一年。私が入社して五年。最盛期には三十人近くいた社員も、今では十二人。


その全員が、今日でクビになった。


理由は単純。儲からなかったからだ。


世界各地にダンジョンが出現して、二十年近く。今では探索も立派な産業になっている。


大手企業が大規模ダンジョンを攻略する一方、うちの会社は地方の小さなダンジョンを回っていた。


だが、燃料費も装備費も保険料も上がった。会社は事務所を縮小し、車両を減らし、社長自身まで現場に戻った。


それでも駄目だった。


最後まで給料の遅配がなかっただけ、立派だったと思う。


「木村」


ロッカーを空にしていると、声をかけられた。


探索二班の班長だった村瀬さん。その後ろには、斥候担当の水野と採取担当の小宮さん。いつもの四人だった。


「今から暇か?」


私は私物を詰めた紙袋を持ち上げた。


「たった今、無職になりましたから」


「俺もだ」


「私もー」


「私もです」


四人で顔を見合わせて、笑った。


◇


会社近くのファミレスで、今後について話した。


大手へ移るか。派遣探索者になるか。まったく違う仕事を探すか。


でも、会社が潰れたその日に次の人生を決められるほど、私たちは器用ではない。


私は何となくスマートフォンでダンジョン情報を開いた。


「あ。三峰第二、今日から再開してます」


車で一時間ほどの小規模ダンジョンだ。危険度は低く、珍しい素材もない。


私たちも何度も入った。そして――儲からない。


「懐かしいな」


村瀬さんが言う。


「最後の一年はほとんど行きませんでしたね」


採れるのは灰鉄鉱、地下苔、角兎の角、小さな魔石。どれも安い。


何気なく相場を見ていて、私は気づいた。


「……あれ?」


電卓を開く。入場料、燃料代、消耗品、装備更新の積立。それらを引いて、残りを四で割る。


「これ、四人なら黒字じゃないですか?」


「会社じゃ赤字だっただろ」


「会社なら、です」


会社には事務所も倉庫も車両もある。探索しない社員にも給料を払う。


でも今いるのは探索者四人だけ。自分たちの装備で潜って、自分たちで採って売るなら。


「……食えるな」


村瀬さんが呟いた。


大金ではない。それでも四人が生活するには十分だった。


「行ってみる?」


水野が言った。


「明日?」


「どうせ全員無職でしょ」


確かに。


「じゃあ、行きましょうか」


◇


翌朝。


私たちは三峰第二ダンジョンにいた。


会社の車も、揃いの作業着も、大型装備もない。あるのは個人装備と、五年間一緒に潜った四人だけ。


角兎を倒し、灰鉄鉱を採り、地下苔を集める。何度もやった仕事だ。


違うのは、必要な量だけだった。


会社員時代は、四人を一日送り込む以上、それに見合う売上が必要だった。今は四人が暮らせるだけ稼げればいい。


昼前には予定量をほぼ採り終えた。


「これで帰っても黒字?」


「黒字」


「じゃあ帰る?」


そのとき、小宮さんが足を止めた。


「木村さん。これ」


岩壁の下に地下苔が生えている。珍しくもない植物だ。


「地下苔?」


「少し青いんです」


ライトを当てる。確かに、普段より青みがかっていた。


小宮さんが一部を採取して、裏側を見る。


「この色になるの、灰鉄鉱に銀晶石が混ざってる場所なんです」


「銀晶石?」


希少鉱石だ。精密機器の素材に使われ、灰鉄鉱とは比較にならない値段で取引される。


「でも、三峰第二で銀晶石なんて出たことないよ」


「はい」


小宮さんが岩壁に触れた。


「だから変なんです」


水野が壁を見る。


「調べてみる?」


「今日は帰るぞ」


村瀬さんが即答した。


「壁の向こうに何があるか分からん。準備してからだ」


誰も反対しなかった。


儲かりそうだからと飛びつかない。生きて帰るまでが仕事。元社長から何度も教えられたことだった。


◇


地上へ戻って素材を売る。予定通り、利益が出た。


さらに青い地下苔を専門業者へ持ち込むと、翌朝には結果が出た。銀晶石の成分が付着しているという。


なら、どこかにある。


私たちは簡易探査機や岩盤用ドリルを借り、もう一度三峰第二へ入った。


昨日の岩壁を調べる。


「向こうに空洞あるね」


水野が探査機を見ながら言った。


自然にできた亀裂も見つかった。周囲の安全を確認して、少しずつ穴を広げる。


一時間後、人一人が通れる隙間ができた。


水野がライトを差し込む。


「……うわ」


その一言で、全員が覗き込んだ。


小さな空洞。その壁の一部が青白く光っている。


小宮さんが中へ入り、慎重に鉱石を削った。携帯用の検査器にかける。


「銀晶石です」


「やった!」


水野が声を上げる。


ただ、小宮さんは壁を調べ続けていた。やがて首を傾げる。


「鉱脈、小さいですね」


簡易探査機でも周囲を調べる。壁の奥や床下、天井まで何度か場所を変えて測ったが、反応はこの空洞の一角だけだった。


「奥に大きい鉱脈があるとかは?」


水野が期待を込めて聞く。


小宮さんは探査機を確認して、首を振った。


「ないですね。これで全部だと思います」


「小っさ!」


思わず笑ってしまった。


全部掘っても、人生が変わるような量ではない。


私は推定量と売却価格を電卓に入れた。そこで気づく。


「あ」


「何?」


「これ、会社なら掘りません」


「銀晶石なのに?」


「この量を見つけるために調査班と機材を動かすには、小さすぎるから」


会社なら採算性なし。たぶん、それで終わる。


「じゃあ私たちは?」


水野が聞いた。


私はレンタル費、入場料、消耗品を引いて、残りを四で割った。電卓を見せる。


「……結構あるね」


「ある」


「じゃあ、掘る?」


村瀬さんが笑った。


「掘るだろ」


◇


数時間後。


最後の銀晶石を小宮さんが回収した。


空洞をもう一度調べたが、反応はない。本当にこれで全部だった。


「……終わった?」


水野が聞く。


「終わりました」


「もうない?」


「ないです」


「本当に小っさ!」


「だから会社じゃ追わないんですよ」


私たちは笑った。


大きな会社には小さすぎる。でも、すでに現場にいる四人が半日働いて得る臨時収入としては――。


「大当たりだな」


村瀬さんが言った。


地上へ戻り、銀晶石を売却する。経費を全部引いて四人で分けても、ちょっとした臨時ボーナスになった。


「今日、焼肉行かない?」


水野が言った。


「さっそく使うの?」


「全部じゃないよ!」


「明日からまた普通の素材ですよ」


「分かってるって!」


大金持ちにはならなかった。銀晶石も、もうない。


でも、それでよかった。


普段の探索だけで、私たちは食べていける。ときどき、こういう小さな当たりまで拾える。


◇


数日後。


元社長から電話があった。


『久しぶりだな。次の仕事、決まったか?』


「はい」


『どこに入った?』


「どこにも。四人でやってます」


私は三峰第二のことを話した。


会社では赤字だった場所で利益が出たこと。小さな銀晶石を見つけたこと。四人で半日掘ったらなくなってしまう程度だったこと。


『なるほどなあ』


元社長が笑った。


『小さくなったから拾えたか』


「はい」


『そりゃ俺にはできなかったな。十二人いたから、十二人食わせる仕事を探すしかなかった』


会社が間違っていたわけじゃない。私たちが会社より優れているわけでもない。


必要な仕事の大きさが違った。ただ、それだけだった。


『木村。無理すんなよ』


「はい」


『生きて帰るまでが仕事だ』


私は笑った。


「分かってます」


電話を切ると、水野がスマートフォンを持ってやってきた。


「木村、次の候補見つけた!」


画面を見る。


小規模ダンジョン。希少素材の報告なし。推定収益、小。


最後に書かれていた。


――事業性なし。


一か月前なら、その時点で候補から外していた。


「どう?」


私は笑った。


「いいんじゃない?」


会社には小さすぎる。でも、私たち四人には、ちょうどいいかもしれない。


明日も仕事だ。


今度は、私たちの大きさに合った仕事を探しに行く。

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