男爵令嬢は惚れっぽい
婚約クラッシャーと呼ばれる令嬢がいる。
男爵令嬢アニマ・ライコネン、17歳だ。
下位貴族には珍しい金髪に、くるくると丸く大きな青の瞳、見た目は良い方だが、17歳にしては幼さの残る体型と仕草。
ハキハキと明るく、淑女として褒められものではないが、
男女問わず、一瞬は可愛い!と思わずにはいられない。本当に一瞬だが…。
アニマは惚れっぽい。
だが未だに交際に発展していない。
アニマにはアニマのmyルールが存在しているからだ。
アニマの初恋。それは父親のリカルドだ。
極小の領地は順風満帆。家族思いで優しく、アニマを溺愛している。母親はアニマの弟が産み終えたあと、笑顔を残して天国へ旅立ってしまったが、そのぶん、時には厳しく、しっかりとした愛を持っている。
幼いながらもアニマも理解し、愛を受け取っていた。
「おおきくなったら、とうしゃまとけっこんする!」
「嬉しいことを言うねぇ、アニマ。でも、父様はアニマの父様だから結婚できないんだよ」
アニマの初恋は終わった。
2度目の恋は5つ歳上の兄、マックスだ。
母親を亡くした悲しみを抑え、妹弟を可愛がった。
領地経営と家内で忙しくする父をしっかりサポートし、愛を注いだ。
「大きくなったら、兄さまと結婚するわ!」
「ありがとう、アニマ。でも、兄妹は結婚できないんだよ」
2度目の恋も終わった。
アニマは血のつながった身内とは結婚できないことを知った。
次は父の護衛。その次は庭師。
「ありがとうございます。ですが、私はすでに婚姻していて妻がおります」
「こんな私を…。いや、私は平民で身分の差があります」
アニマは既婚者と身分違いで結婚できないことを知った。
次は塾講師。
「私には婚約者がおります。彼女を大切に思っています」
アニマは、婚約者がいる男性とは結婚できないことを知った。
淑女教育を机上ではなく、身をもって体験で学んだ。
いや、分かれよ!…と後に友人に言われたが…。
これも12歳までの話である。間にもちょこちょこと恋に落ちたが、どれも失恋の経験値が上がるだけで、実を結ばなかった。
13歳になり、学園に入学してからも、アニマの惚れっぽさは変わらなかった。
優しさに弱い。
笑顔に弱い。
エトセトラ…。
アニマにもわからない。何故惹かれるのか。
でも分かることは、身内…は置いといて…、
既婚者、婚約者がいる、身分に差のある男性は、惚れても手を出さない。焦がれるだけでいた。
これがアニマのmyルール。
いや、当たり前でしょ!…と友人は言うのだが…。
そんなアニマが何故婚約クラッシャーと言われるのか。
たとえ実らない恋だとしても、惚れたら焦がれる。何もしないが熱い瞳で見つめる。そのくらい許してほしい。
見つめるだけ。
見つめるだけ。
見つめるだけ。
…ストーカーである…。
すると相手から
「君の想いはありがたいが、婚約者を大切にしたい。たとえ政略でも距離をなくし、一生を共に想う仲になりたいと思っている」
そばで見守っていた令嬢は、
「私も同じ想いです」
と綺麗な涙を流した。
2人で誠実にアニマに向かい合い、想いに感謝を、そして、応えられないことを謝罪した。
やはり私が惹かれた彼は素晴らしいと、彼の選んだ婚約者も素晴らしいと、アニマは自分を褒めた。
2人は別れていない。
同じパターンがいくつもいくつもあった。
それならば何故?
ある令嬢が言った。
「私の婚約者は顔も良いし、社交的。人当たりも良いし、女性にもモテる。でも、私と共にありたいとおっしゃって心を通わせているわ。とても素晴らしいお方。
なのに、あなたは彼に興味を示さない。
それは何故?」
好きになるのに理由はない。
確かに令嬢の言うとおり、周りからみれば、アニマが惚れそうなタイプであろう。
だが、惹かれない。
あえて言うなら、
「…腹黒?」
「え?」
「…女性問題はなさそう…、でもいずれは…?
いや今はギャンブル?かなぁ」
「あ、あなた何をっ!」
「あ、すみません。
そんな感じがするので、興味がありませんでした。
ただの直感。っていうのでしょうか。」
「な…な…なっ…」
アニマの惚れっぽさは、ただの直感。
いい感じがする。悪い感じがする。
イケメンでも顔に惹かれるわけではない。
心から良いか悪いか。
アニマの恋はそれだけでそれ以上の理由はない。
その後令嬢はアニマの言葉が気になり婚約者の調査をした。
信じてなかったわけではない。アニマを否定するためだったが…。
そのとおりだった。
相手有責で、令嬢は婚約破棄をした。
同じパターンがいくつも、いくつも、いくつも、いくつも…。
そのうちに、
「私の婚約者をどう思うか」と相談を受けるようになった。
アニマはただの惚れっぽい男爵令嬢だ。
田舎の極小領地と学園しか知らない自分に何が言えるのか。
断っても求められる。
だから、
「惚れた」
「惚れちゃうかも」
「ふつう」
「イマイチ」
「絶対イヤ」
で答えた。
「成績表かよっ!」と友人に突っ込まれたが…。
「イマイチ」と「絶対イヤ」の半数以上が婚約解消または破棄となった。
これが、アニマが婚約クラッシャーと言われる所以である。
逆恨みで、アニマを襲おうとした輩もいた。
しかし持ち前の直感で回避していた。
無意識に…。
アニマの惚れた男性たちは、
誠実であり、公平であり、世間に認められる男になるが、そこに傲慢さも何もない。
立派な紳士だ。
いつの間にかアニマに惚れられることは一種のステータスとなっていた。
あやかろうとアニマに近づく令息もいたが、
スンとした態度で断る。
アニマの低評価に、自分の態度を反省し、努力を始める令息も少なからず居たことは、婚約の解消、破棄をしきれなかった令嬢達の救いとなった。
が、アニマの日常は変わらない。
勉学に悶え、淑女教育に固まり、友人たちのボディラインと自分を比べため息をつく。
変わらず惚れっぽさは健在である。
そんなアニマに相談した令嬢、高評価の令息達は、友人となり、アニマを見守る。
どうか、一番近くでアニマを見守っている彼の気持ちが、アニマに届きますようにと…。
後日談として、
アニマは大勢の友人達に連れられ神殿に行った。
神官から伝えられたのは…。
「鑑定眼の持ち主ですね」
友人達は揃えて、
「やっぱりね」と言い、しっかり守れ!と彼の背中を叩いた。
「ねえ、彼には興味はわかないの?」
「…う〜ん、彼は真っ白なんです。真っ白と言うか無色?」
「どういうこと?」
「わかりません。ただ色がないことですごく安心できるんです!」
「「ほ〜」」
それって無償くの愛じゃん!
初投稿です。
ありがとうございました。




