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男爵令嬢アニマシリーズ

男爵令嬢は惚れっぽい

作者: 広居 かな
掲載日:2026/08/25

婚約クラッシャーと呼ばれる令嬢がいる。

男爵令嬢アニマ・ライコネン、17歳だ。


下位貴族には珍しい金髪に、くるくると丸く大きな青の瞳、見た目は良い方だが、17歳にしては幼さの残る体型と仕草。

ハキハキと明るく、淑女として褒められものではないが、

男女問わず、一瞬は可愛い!と思わずにはいられない。本当に一瞬だが…。


アニマは惚れっぽい。

だが未だに交際に発展していない。


アニマにはアニマのmyルールが存在しているからだ。


アニマの初恋。それは父親のリカルドだ。

極小の領地は順風満帆。家族思いで優しく、アニマを溺愛している。母親はアニマの弟が産み終えたあと、笑顔を残して天国へ旅立ってしまったが、そのぶん、時には厳しく、しっかりとした愛を持っている。

幼いながらもアニマも理解し、愛を受け取っていた。


「おおきくなったら、とうしゃまとけっこんする!」


「嬉しいことを言うねぇ、アニマ。でも、父様はアニマの父様だから結婚できないんだよ」


アニマの初恋は終わった。


2度目の恋は5つ歳上の兄、マックスだ。

母親を亡くした悲しみを抑え、妹弟を可愛がった。

領地経営と家内で忙しくする父をしっかりサポートし、愛を注いだ。


「大きくなったら、兄さまと結婚するわ!」


「ありがとう、アニマ。でも、兄妹は結婚できないんだよ」


2度目の恋も終わった。


アニマは血のつながった身内とは結婚できないことを知った。



次は父の護衛。その次は庭師。


「ありがとうございます。ですが、私はすでに婚姻していて妻がおります」


「こんな私を…。いや、私は平民で身分の差があります」


アニマは既婚者と身分違いで結婚できないことを知った。



次は塾講師。


「私には婚約者がおります。彼女を大切に思っています」


アニマは、婚約者がいる男性とは結婚できないことを知った。


淑女教育を机上ではなく、身をもって体験で学んだ。

いや、分かれよ!…と後に友人に言われたが…。



これも12歳までの話である。間にもちょこちょこと恋に落ちたが、どれも失恋の経験値が上がるだけで、実を結ばなかった。


13歳になり、学園に入学してからも、アニマの惚れっぽさは変わらなかった。


優しさに弱い。

笑顔に弱い。

エトセトラ…。

アニマにもわからない。何故惹かれるのか。


でも分かることは、身内…は置いといて…、

既婚者、婚約者がいる、身分に差のある男性は、惚れても手を出さない。焦がれるだけでいた。

これがアニマのmyルール。


いや、当たり前でしょ!…と友人は言うのだが…。



そんなアニマが何故婚約クラッシャーと言われるのか。


たとえ実らない恋だとしても、惚れたら焦がれる。何もしないが熱い瞳で見つめる。そのくらい許してほしい。


見つめるだけ。

見つめるだけ。

見つめるだけ。


…ストーカーである…。


すると相手から

「君の想いはありがたいが、婚約者を大切にしたい。たとえ政略でも距離をなくし、一生を共に想う仲になりたいと思っている」


そばで見守っていた令嬢は、

「私も同じ想いです」

と綺麗な涙を流した。


2人で誠実にアニマに向かい合い、想いに感謝を、そして、応えられないことを謝罪した。


やはり私が惹かれた彼は素晴らしいと、彼の選んだ婚約者も素晴らしいと、アニマは自分を褒めた。

2人は別れていない。

同じパターンがいくつもいくつもあった。


それならば何故?


ある令嬢が言った。

「私の婚約者は顔も良いし、社交的。人当たりも良いし、女性にもモテる。でも、私と共にありたいとおっしゃって心を通わせているわ。とても素晴らしいお方。

なのに、あなたは彼に興味を示さない。

それは何故?」


好きになるのに理由はない。

確かに令嬢の言うとおり、周りからみれば、アニマが惚れそうなタイプであろう。

だが、惹かれない。

あえて言うなら、


「…腹黒?」

「え?」


「…女性問題はなさそう…、でもいずれは…?

いや今はギャンブル?かなぁ」

「あ、あなた何をっ!」


「あ、すみません。

そんな感じがするので、興味がありませんでした。

ただの直感。っていうのでしょうか。」

「な…な…なっ…」


アニマの惚れっぽさは、ただの直感。

いい感じがする。悪い感じがする。

イケメンでも顔に惹かれるわけではない。

心から良いか悪いか。

アニマの恋はそれだけでそれ以上の理由はない。


その後令嬢はアニマの言葉が気になり婚約者の調査をした。

信じてなかったわけではない。アニマを否定するためだったが…。


そのとおりだった。


相手有責で、令嬢は婚約破棄をした。


同じパターンがいくつも、いくつも、いくつも、いくつも…。


そのうちに、

「私の婚約者をどう思うか」と相談を受けるようになった。

アニマはただの惚れっぽい男爵令嬢だ。

田舎の極小領地と学園しか知らない自分に何が言えるのか。

断っても求められる。


だから、

「惚れた」

「惚れちゃうかも」

「ふつう」

「イマイチ」

「絶対イヤ」

で答えた。


「成績表かよっ!」と友人に突っ込まれたが…。


「イマイチ」と「絶対イヤ」の半数以上が婚約解消または破棄となった。


これが、アニマが婚約クラッシャーと言われる所以である。


逆恨みで、アニマを襲おうとした輩もいた。

しかし持ち前の直感で回避していた。

無意識に…。


アニマの惚れた男性たちは、

誠実であり、公平であり、世間に認められる男になるが、そこに傲慢さも何もない。

立派な紳士だ。

いつの間にかアニマに惚れられることは一種のステータスとなっていた。


あやかろうとアニマに近づく令息もいたが、

スンとした態度で断る。

アニマの低評価に、自分の態度を反省し、努力を始める令息も少なからず居たことは、婚約の解消、破棄をしきれなかった令嬢達の救いとなった。


が、アニマの日常は変わらない。

勉学に悶え、淑女教育に固まり、友人たちのボディラインと自分を比べため息をつく。

変わらず惚れっぽさは健在である。


そんなアニマに相談した令嬢、高評価の令息達は、友人となり、アニマを見守る。


どうか、一番近くでアニマを見守っている彼の気持ちが、アニマに届きますようにと…。



後日談として、

アニマは大勢の友人達に連れられ神殿に行った。

神官から伝えられたのは…。


「鑑定眼の持ち主ですね」


友人達は揃えて、

「やっぱりね」と言い、しっかり守れ!と彼の背中を叩いた。


「ねえ、彼には興味はわかないの?」

「…う〜ん、彼は真っ白なんです。真っ白と言うか無色?」

「どういうこと?」

「わかりません。ただ色がないことですごく安心できるんです!」

「「ほ〜」」


それって無償(むしょー)くの愛じゃん!




初投稿です。

ありがとうございました。

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