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いぬの学校

作者: るりの
掲載日:2026/03/20

ここは いぬの学校。

働く犬になるために、

毎日いろんな勉強をしています。


「警察犬って、どんなお仕事?」

「災害救助犬は、なにをするの?」


子犬たちは、目をきらきらさせて聞いていました。


こいぬたちは、みんな

“はたらく いぬ”に

あこがれて いました。


「いつか ぼくも」

「いつか わたしも」


そんな 気持ちを

胸に だいて、

まいにち

練習をしています。


走る 練習。

においを 探す 練習。


こいぬたちは、

みんな

いっしょうけんめい でした。



みんなが いちばん たのしみにしている

おべんとうの 時間。


マットの上に まるく 座って、

ふたを あけると

いい においが ふわっと 広がります。


「それ、なに?」

「ちょっと ちょうだい」


おべんとうを わけあう子。

あわてて もぐもぐ、

もう からっぽに なっちゃった子。


ワイワイ、

もぐもぐ。


しっぽが ゆれて、

えがおが 並びます。


そのようすを、

すこし はなれた ところから

校長先生ワンコが

やさしい 目で 見ていました。


そのとき。


「ねえ…」


だれかの 声が しました。


「家庭犬ってさ、

なにもしないよね」


「ただ、

おうちに いるだけじゃん」


しゅん…と

空気が 変わります。


「えっ?」


こいぬたちは

かじるのも 忘れて、

おたがいの 顔を 見ました。



――チリン。


木の下、

チャイムが ひびきます。


校長先生ワンコは、

ゆっくり 歩いてきて

こいぬたちを 見まわしました。


「それじゃあ、

おひるからの 授業です」


「きょうは

家庭犬 について

おはなし しましょう」


こいぬたちは、

顔を 見あわせて、

しん、と しました。


校長先生は、

黒板の 前に 立って

やさしく たずねました。


「みんなは、

家庭犬って きいて

どんな ことを

想像 するかな?」


こいぬたちは、

顔を 見あわせたり、

ちょっと くびを かしげたり。


「おうちに いる」

「なにもしない」

「のんびり してる」


ぽつり、ぽつりと

声が 出ました。


校長先生は、

うなずいて から

しずかに 言いました。


「じゃあ ね……

こんな ばめんを

想像 してみて」


先生は、

ひと呼吸 おいて

つづけます。


「なにも 言わなくても

だれかの そばに いる」


「だれかの 帰りを

まって いる」


「心が

すこし つかれた ときに

そっと そばに いる」


教室は、

しん……と

しずかに なりました。


だれも こたえません。


でも、

こいぬたちは

それぞれの 心の なかで

なにかを

思いだして いました。


だれかの となり

あたたかい ばしょ

しずかな じかん


校長先生は、

にっこり して 言いました。


「いまは

わからなくても いいんだよ」


「でもね、

心が すこし うごいた

なら……

それは もう

たいせつな 授業 なんだ」


こいぬたちは、

なにも 言わずに

座って いました。


でも、

教室には

さっきより

やわらかい 空気が

流れて いました。



その日は、

いつもと おなじように

はじまった 日でした。


授業も 終わって、

こいぬたちは

それぞれ すきな ばしょで

過ごして いました。


オルガは、

校庭の すみで

ひなたぼっこを していました。


ポルカは、

小さな こいぬの そばに

ちょこんと 座っています。


走る わけでも、

探す わけでも

ありません。


ただ、

そばに

いるだけでした。


それなのに、

こいぬは 眠ってしまいました。


「……ポルカ、

なにも してないよね?」


こいぬたちは、

なんだか

胸の あたりが

もやもや しました。


それでも、

目を 離せませんでした。


——どうして だろう?


こいぬたちは、

がまん できなく なって、

いっせいに

かけだしました。


向かった 先は——

校長先生の ところ。


大きな 木の かげで、

校長先生は

そよかぜに

毛を ゆらして いました。


「校長先生ーい!」


こいぬたちは、

息を きらして

はぁ はぁ しながら

かこみます。


「さっきね!」

「ポルカがね!」

「なにも してなかったのに!」


声が 重なって、

だれが なにを

言っているのか

わからなく なりました。


校長先生は、

くすっと わらって、

しっぽを ゆっくり

ゆらしました。


「だいじょうぶ。

ひとつ ずつ、

教えてごらん」


こいぬたちは、

息を ととのえて、

かわるがわる

話しはじめます。


「小さい こいぬが いて」

「ポルカが そばに 座ってて」

「なにも してなくて」

「でも……ねむっちゃったの!」


こいぬたちは、

自分でも

うまく 言えない 気持ちを

いっしょうけんめい

言葉に しました。


「それで……」

「なんか……」

「あの 授業 みたいで……!」


校長先生は、

だまって

最後まで

聞いていました。


そして、

すこし 間を おいてから

やさしく 言いました。


「それを 見て、

きみたちは

どう 感じたかな?」


こいぬたちは、

また 顔を 見あわせます。


「……あったかかった」

「ここが……」

「胸の へんが……」



校長先生は、

大きく

うなずきました。


校長先生は、

さっき こいぬたちが

感じた ばしょを

ゆびで そっと

さしました。


「ここが

あったかく なっただろう。

それが、

“いやす” という 仕事だよ」


おしごとは、

走ること だけじゃない。

助けること だけでもない。


そばに いることも、

だれかの 心を

しずかに することも、

立派な 仕事なんだよ。



こいぬたちは、

だれも

なにも

言いませんでした。


でも、

心の なかは

ぽかぽか

していました。


おしまい

お読みいただき、ありがとうございました。

子犬たちのこれからを、そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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