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魔王軍物語・ZERO ~最強フェンリルに拾われた転生者は、規格外の勇者となり、やがて魔王と呼ばれる~  作者: じゆう七ON
1章 転生タロウ

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第5話 魔力コートの訓練開始

――あれから一年


「リル! リル! 今日もいっぱい採れたよ!」


 あれから、あっという間に一年が経ち、タロウは6歳になった。


 今日もタロウは朝から野山を縦横無尽に駆け巡り、色とりどりの木の実と、スープに使える食べられる葉っぱやキノコを、元気いっぱいに笑顔で採って帰ってきた。彼の歩みは、もはや森の獣よりも敏捷で、その小さな体には、無限の活力が満ちている。


 小屋の中では、リルが朝食の準備をしていた。木の香りが漂う小屋は、タロウにとって何よりも安心できる場所だ。


「ありがとう、タロウ。偉いわね。さあ、手を洗ってらっしゃい、すぐに温かいスープができるわよ」


 リルの優しくも、どこか切なさを秘めた声に、タロウは笑顔で頷いた。


 やがて、湯気の立つ朝食がテーブルに並べられた。タロウは勢いよくスプーンを掴もうとする。


「タロウ、ご飯を食べる前は?」


 リルが静かに尋ねた。


「あ! 知ってるよ、リル! 命をもらってるんでしょ! じゃあ、いただきます!」


 タロウは慌てて両手を合わせ、元気に「いただきます」と言ってから、スープにスプーンを入れた。リルは、その無邪気な様子を、安堵したような、寂しいような目でじっと見つめていた。


(タロウ……あなたは、この一年で、誰もなし得ない領域に到達してしまったわね……)


 この一年で積み重ねてきた『内気』の訓練は、タロウの驚異的な成長速度により、ほぼ完成の域に達していた。 無限の魔素を体内に取り込み、それを防御エネルギーとして循環させるタロウは、既に無意識のうちに、歴代の勇者の持つ防御系スキルをほぼ全て習得している状態になっていたのだ。病気や怪我は即座に治癒され、彼の小さな身体は、何者も貫通し得ない『不落の城壁』と化していた。


 しかし、その強大すぎる力は、同時にリルに新たな焦りをもたらしていた。



◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 朝食を終えると、リルの表情が引き締まった。


「タロウ。今日から、新しい訓練を始めるわ」


「わーい! 次はどんなすごい力が出せるようになるの!?」


 タロウは目を輝かせた。彼にとって、リルとの訓練は世界で一番楽しい『遊び』だ。


「次は、力を出す訓練ではないわ。力を『隠す』訓練よ」


 リルは静かに続けた。


「タロウ。あなたは、この世界で最も規格外な力を持つ存在よ。でも、今はまだ、その力が遠くまで響いていないから、悪い人たちに見つからずに済んでいる」


 実際には、タロウが闘気を放ったり魔法を撃ったりしなければ、遠くの勢力にはまだ感知されない状態だった。


「でも、あなたの成長はあまりにも早すぎる。このままでは、あなたの『内気』が身体から漏れ出して、いずれ遠くにいる、とっても悪い存在『神族』という者たちに見つかってしまうわ」


 リルはタロウの小さな手を取り、真剣な目を向けた。神族。それは、彼女たち魔物だけでなく、世界の全てを支配する、最も恐れるべき存在だ。タロウの規格外の力は、彼らにとっては世界の法則を乱す『絶対的な異物』であり、見つかれば即座に排除されるだろう。それは時間の問題だとリルは危惧していた。


「だから、タロウ。私たちは、あなたを『普通の子ども』に見せかける訓練をするのよ。あなたのすごい力を、悪い人たちに見つけられないように、『平凡な人間に偽装する』訓練よ」


「平凡な人間? へんなの! なんか、かっこいい!」


 タロウは目を丸くする。


「この訓練の名前は、『魔力コート』よ。これは、あなた自身の強大な力を、フェイクの魔力でできた『上着』で表面から覆い隠す訓練よ。そうすれば、遠くの悪い人たちは、タロウがただの小さな子供にしか見えないの。でも、この『コート』を着ると、あなたの本当の力は弱く見えちゃうわ。そして、あの光エネルギーの、魔法の様なものを使う時も、必ずこのコートをかけた状態で使うのよ。いいわね?」


 その技術は、並の魔力使いではなし得ない、繊細な『偽装』技術だった。自分の放つ力にまでフェイクのコーティングを施すことで、たとえ山を吹き飛ばす威力の魔法でも、表面上は普通の炎の魔法程度の威力にしか見えなくさせる。当然、その魔力コートによって、実際の威力はかなり弱くはなるが、今は隠蔽が最優先だった。


「わかった! 偽装タロウに変身するんだね! どうやったらできるの?」


「まずは、気配を消すことよ。自分の存在を、この山から消してしまうくらいの気持ちで、『無』の状態になるの。さあ、タロウ。山に隠れてごらんなさい。私はあなたを探すわ。私に見つからなければ、タロウの勝ちよ」


 タロウは目を輝かせ、すぐに山へと駆け出した。


 だが、結果は明白だった。


「あー! また見つかった! なんで!?」


 タロウは、木陰に隠れたつもりでも、すぐにリルに背後を取られてしまう。


「ダメよ、タロウ。そこにいるって、私に教えているようなものだわ」


「うーん……難しいよ! 僕、頑張っているのに!」


 タロウがいくら気配を消そうとしても、彼の身体から溢れる規格外の生命力(内気)は、まるで巨大な太陽のように輝き続けている。フェンリルであるリルは、その強大なエネルギーの震動を、あまりにも容易く感知できてしまう。


 この訓練は、勇者クラスの達人が、一生かかって、到達できるかどうかと言う、究極の仙人化の領域だ。人知を超えた境地である『無』の制御を、わずか6歳の子供に求めていること自体が、あまりにも過酷で無謀な要求だった。


 タロウは一日中、失敗ばかりで、とうとう夕方には疲れて座り込んでしまった。


「リル……僕、できないよ……」


「大丈夫よ、タロウ。焦らなくていいわ。これは、とても難しいことなの」



◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 夜、タロウがベッドに横になり、リルがそばに座って髪を撫でている時、タロウは拗ねたように言った。


「どうすれば、リルが森で隠れているみたいに、僕も隠れられるの? コツを教えてよ、ねぇ」


 リルは優しく微笑み、思考のコツを教え始めた。


「さっきは難しく考えすぎたわね。タロウの得意な『イメージ』でやってみましょう。あなたの魔力で、可愛いフカフカの『着ぐるみ』を作って、それをずっと着ている感覚にするのよ」


「着ぐるみ?」


「そう。あなたの強すぎる力が、外に漏れないようにするための、分厚い『コート』、それが着ぐるみよ。そして、その着ぐるみを、いつも、脱がないで着ているの。 あなたの一部だと思ってね。魔法を使う時も、その着ぐるみを着た状態で、使うのよ。勿論、その魔法も『着ぐるみ(魔力コート)を通さなくちゃだめよ』」


 そうすれば、もしタロウがうっかり強い力を出しても、それは『着ぐるみ』を通すことで、普通の子供が出せる程度の力に「見える」ようになるはずだ。そして勿論、威力はかなり下がる。


「着ぐるみで、魔法……! なんだか、ワクワクするね!」


 タロウは、そのアイデアに再び目を輝かせた。単純な発想を好むタロウにとって、複雑な概念よりも具体的なイメージの方が遥かに理解しやすかった。


 目を閉じ、タロウは自分の体内に、光のエネルギーでできた『着ぐるみ』を纏うイメージを始めた。


 そして、その日の慣れない訓練の疲れと、新しいイメージへの極度の集中により、すぐに意識が遠のき、そのまま静かに深い眠りに落ちてしまった。


 リルは、その寝顔を見つめながら、心の中で焦りを募らせていた。


(急がなければ……! この成長速度なら、後数年で、タロウの力は神族の監視網に引っかかってしまうわ。魔力コートは、この子を守るための、最後の砦……)


 リルは、タロウの額にそっとキスをした。


(この子は、絶対に私が守るのよ。孤独な命を、二度と繰り返させはしないわ。スキル『魔力コート』さえ習得できれば、見つからないで済むかもしれない。……必ず、私が教え導いてみせる)


 その夜、タロウの身体は、イメージで作ったはずの『着ぐるみ(魔力コート)』を、微かに、しかししっかりとまとい始め、彼の気配は、完璧ではないが、山の中に溶け込んでいった。



▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


リルの日記より(抜粋) 【タロウ・成長記録:6歳と○日目】


魔力コートの訓練を開始。あまりにも難易度が高く、タロウが苦戦している。当然だ。これは、彼の規格外の力の上に、さらに偽りの層を重ねるという、常識外の技術だ。


私の心は焦っている。タロウの成長が、私の想像を遥かに超えているからだ。彼の力は、もう山一つでは隠しきれないレベルに達しつつある。


タロウには『着ぐるみ』で説明した。彼の純粋さにつけこみ、力を隠すことを『遊び』として認識させるしかない。


私の存在意義は、彼の『盾』になること。そして、この強大な力を、穏やかな『着ぐるみ』で覆い続けること。


今日も、タロウの寝顔は、世界一優しい。この平和が、ずっと続きますように。


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