第2話 魔素を喰らうタロウと破壊の衝撃波
――5年後
それから、あっという間に5年が経った。
「リル、山で色々な木の実と、食べられる葉っぱやキノコを採って来たよ! 見て、たくさん採れたんだ! 今日のスープは、絶対美味しいよ!」
僕は元気いっぱいに、小屋の扉を開けた。太陽の光が差し込む小屋は、僕たちの秘密基地だ。
リルは、僕の採ってきたものを見て、優しく笑う。
「ありがとう、タロウ。偉いわね。いつも山仕事ばかりさせてごめんね。あなたは本当に優しい子ね! (――この幸せが、ずっと続けばいいのに…… 私が、あなたを最後まで守り抜かねば)」
僕は笑いながら、リルに駆け寄る。
「ううん! リルのお手伝い、楽しいよ! 今日は何か美味しいもの作ってくれる?」
「ええ、もちろんよ! 今日はあなたが採ってきてくれた木の実も使って、美味しいスープを作りましょう」
リルが調理を始めると、僕は嬉しくてリルのそばを離れられない。
「ねえ、リル、僕も手伝う! 葉っぱをちぎろうか? 火を強くするの、僕がやる?」
「ふふ、ありがとう、タロウ。でも火は危ないから、あなたはお鍋が温まるまで、そこに座って待っていてくれるかしら? すぐにできるわよ。危ないことは、お母さんがやるからね」
僕はガッカリしたけど、リルが僕のために料理してくれているのを見るのは大好きだ。僕は言われた通りに椅子に座り、スープのいい匂いを嗅ぎながら、ワクワクして待った。
やがて、リルは湯気の立つスープをお皿に盛り付け、パンと一緒に出してくれた。
「さあ、出来たわよ。タロウ、熱いから、気を付けてね」
僕が今にもスプーンを持ち上げようとした、その時。リルが静かに言った。
「タロウ、ご飯を食べる前は?」
僕はちょっとつまんなさそうに、頬を膨らませる。もう何度も聞いた、大切な教えだ。
「はーい……知ってるよ、命をもらってるんでしょ。……もー、いつも聞くんだから」
リルは真剣な目で、僕の目を見た。
「そうよ。命をもらって生きているの。私たちは、毎日、命をいただくことで、生かされているのよ。だからこそ、必ず、この食べ物に感謝をするの。人間として生きる上で、一番大切な教えよ」
「わかったよ、リルお母さん! それじゃあ、いただきます!」
僕は勢いよく手を合わせ、それから温かいスープにスプーンを入れた。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
僕は5歳になったから、ご飯を食べた後は、武術と呪文を教わる時間だ。
武術は、驚くほどの上達を見せた。
「タロウ、すごいわ! この動き、まるで獣のようよ! その速さ、もう大人顔負けよ! やっぱりあなたは、ただの子じゃないわね……(転生者というより、もしかして……勇者の素質でもあるのかしら? いえ、それ以上の、規格外の何かよ……!)」
リルが褒めてくれるから、武術の練習は得意だ。
でも、「呪文」つまり魔法ってやつは苦手だ。
「タロウ、この大きな的に、呪文を唱えてみて。ゆっくりでいいから、集中して」
リルが指さすのは、小屋から離れた場所にある、大きな岩。
「うーん……ダメだ! 出ないよ、リル! 頭の中で光るイメージはできるのに! なんで、光が指先から出てきてくれないんだろ!?」
僕は悔しくて拳を握った。その焦燥感で、体内の魔素が沸騰するように熱を持ち、抑えきれない脈動を始めていた。
なぜか指先から出口を見つけられない。
「焦らなくていいわ。空気中の『魔素』を、優しく体内に取り入れるの。そしてそれを属性の力に変えて、手の平から出すのよ。イメージが大事よ。あなたの体には、並外れた器があるのだから、必ずできるわ。集中するのよ、タロウ」
「空気を取り込んで……熱い感じがするけど、何も出ないよ……なんか、身体がポカポカするだけだ」
リルは僕を優しく励ましてくれる。
「魔素だけを取り込むの?」
「そうよ。魔素だけを取り込むのよ。余計な力は入れちゃダメ。あなたは魔素を過剰に吸収しやすい体質。それを意識して、静かに……」
僕は言われた通りに、目を閉じて、空気中の目に見えない粒々だけを、身体の奥に吸い込むイメージを必死にした。身体中がかっかと熱くなる。
「魔素だけ……魔素だけ……!」
その瞬間、身体中の熱いものが、手のひらに集まっていくのが分かった。
熱すぎて、これ以上は我慢できない! 抑えきれない!
ゴオオオオオン!!!
すさまじい音と、嵐のような風が僕を襲った。僕は、その威力で思わず数メートル後ろにふっ飛んでしまった。
「うわ! 今、すごい音がしたよ! 何が起きたの!?」
僕は慌てて立ち上がり、びっくりしたけど、すぐに嬉しくなった。
「出たよ! リル! これが魔法? 僕、魔法が使えたんだね!」
僕がリルの方を見ると、口を大きく開けたまま、まるで石像のように固まっていた。
(まさか……この威力…!? 一瞬、空間が割れたように見えた……!)
そして、僕が撃った先を見て、さらに顔が青くなっている。
遠くの山の中腹にあった大きな岩は影も形もなく消し飛び、岩があった場所の先の頂上付近の山肌が、文字通り吹き飛んでいた。
(まさか、たった一撃で山を……! 私が教えていた魔素の取り込みで、なぜ闘気を爆発させたの!? この子、魔素を、まるで体の一部のように変換している……!?)
リルは急いで僕に駆け寄ってきた。
「タロウ! よく聞きなさい! 今のは魔法じゃない! そして、絶対に外で使っちゃダメよ! いいわね、タロウ! これは私たちの命に関わるの!」
「なんで? 僕、出せたよ! すごい力でしょ?」
「今のは『闘気』という、身体の力を一気に爆発させたものよ! あんなのをコントロール無しで撃ったら、この山が消えるわ! 勇者でも、まともに食らったら消し飛ぶわよ!」
僕は興奮したように尋ねる。
「僕、勇者より強いの?」
「それを完璧にコントロールできるようになったら、ね。そしたら、誰よりも強くなれるわ。だからこそ、隠さないといけないの」
「コントロールって、どうやったらできるの?」
リルは僕を優しく抱きしめた。そして、僕の顔をジッと見つめて言った。
「力を制御するってことよ。必要な時に、必要な分だけ、少しずつ使うの。あなたは、並外れた力を持っているのよ。この力は、人を守るためのものよ。人を傷つけるためのものじゃない。あなた自身と、あなたの大切な人たちを守るためのものよ」
「ふーん! 難しいことはいいや! 僕、早くコントロールできるようになりたい! そしたら、もっとすごいものを採ってきて、リルを助けてあげる! 早く練習しようよ! ねえ、次は何の練習するの?」
僕は興奮が冷めやらず、思わず外に駆け出そうとした。だが、リルは僕の手をしっかりと掴んだ。
「待ちなさい、タロウ。今日はもう遅いわ。そんな大きな力を出した後よ。ちゃんと小屋で休まないと。身体に相当な負担がかかっているはずよ」
「えー、もっと何かしたいのに! せっかく力が使えるようになったんだよ!」
僕は不満そうに言った。
「ダメよ。明日また教えるから、今日はもう休むのよ。お母さんの言うことを聞きなさい」
僕はリルの真剣な顔を見て、しぶしぶ諦めた。
「はーい……わかったよ。リル、おやすみ。明日、また頑張るね。次こそ、魔法を出すんだ!」
僕はベッドに潜り込んだ。興奮のせいでなかなか眠れなかったけど、今日、すごい力が出たことが嬉しかった。僕はリルとこの山が大好きだ。
だから、僕は早く、この力をちゃんと使えるようになりたかった。




