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魔王軍物語・ZERO ~最強フェンリルに拾われた転生者は、規格外の勇者となり、やがて魔王と呼ばれる~  作者: じゆう七ON
リルの過去編

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第11話 三傑モッスン、動く! 十二神出撃

 博士の部屋を後にし、どす黒く変質した己の腕を隠すようにマントを深く羽織り、作戦会議室へと急いだ。


 神界城下の街並みは、出撃を控えた兵士たちの怒号と、避難を急ぐ民たちの足音で騒然としている。


 美しい都は、どこか終末の予感に震えているようだった。


 喧騒の中、一本裏道を通った際、不自然に淀んだ空気を感じて足を止めた。


 曲がり角の陰から、低く、ねっとりとした男たちの話し声が漏れ聞こえてくる。


「……準備はいいか。今日、神界は未曾有の混乱に陥る。時空の……」


「ああ、『モンスターテン』の対応で手一杯だろう。この隙を逃す手はない」


 黒い装束を纏った三人の影。


 その隙間から覗く肌は、まるで死人のように青白く、去り際の空気には焦げ付いたような嫌な臭いが混じっていた。

 

 その異様な殺気に足を止めかけたが、背後から追い越していく伝令兵の足音と、遠くで鳴り響く出撃の鐘にかき消され、彼らの言葉の核心は雑踏の中に消えていった。


(……今のは? 時空の門のこと? それとも……。いいえ、今は目の前の戦いに集中しなければ)


 不吉な予感を脳裏の端へ追いやり、再び走り出した。


 鼓動が激しくなるのは、迫る戦いのせいか、それとも今の不穏な言葉のせいか。


 迷いを振り切るようにして、ようやく目的地である重厚な作戦会議室の扉の前へと辿り着き、両手で押し開いた。


 扉の先には、既に今回の『先鋒』として選ばれたメンバーが顔を揃えていた。


「「「あ! リル様だ! おっそーいパピ(プピ、ポピ)!」」」


 真っ先に駆け寄ってきたのは、鮮やかな三色の魔法使いのローブを纏った三姉妹だった。


 小さな羽を忙しなく羽ばたかせながら、おもちゃのような可愛いロッドを振って囲んでくる。


 ピンクの髪を跳ねさせた第九席パピー。


 水色の髪を揺らす第十席プピー。


 黄色の髪をなびかせた第十一席ポピー。


「リル様も『調整』終わったパピ? 肌がちょっと怖い色だけど、すっごく強そうパピ!」


「今回の敵は5万ポイント超えって噂プピ。でも、三姉妹の結界があれば無敵プピ!」


「リル様、一緒に頑張るポピ! 終わったら美味しいお菓子食べるポピ!」


「……パピー、この肌は強くなった証だから心配しないで。プピー、あなたたちの結界には期待しているわよ。ええ、ポピー、約束するわ。戦いが終わったら、みんなでお菓子を山ほど食べましょう」


 嵐のような挨拶に、薄く微笑みながら頷いた。


 ――その直後だった。


 無言で迫る影。


 爆風のごとき踏み込みと共に、一筋の拳が顔面を狙って放たれる。


 瞬時に意識を切り替え、最小限の動きでパンチのすべてを紙一重で回避した。


(……速い。けれど、見える……。拳が、まるで止まっているみたいに)


 高速で何度も繰り出される拳の風圧が、白銀の髪を激しく揺らす。


 最後に振り抜かれた強烈な回し蹴りを、交差させた腕で真っ向から受け止めた。


 ――ゴォォォン!!


「……っ!」


 腕に走る、激しい痺れ。


 調整によって引き上げられた身体能力を以てしても、その重さは並大抵ではない。


「ずいぶん物騒な挨拶ね、ウーベ」


 そこに立っていたのは第七席、ウーベ。


 燃えるような赤髪と、岩のように盛り上がった筋肉。


 その背には、身の丈ほどもある爆炎大剣『キャンドルライザー』が鈍く光っている。


 ツバの部分が回転し、予備の剣を換装できる異形の武器だ。


「遅かったじゃねえか、リル。……へっ、その肌の色。相当無茶な調整を噛ましやがったな? 1万7000なんてイカれた数値を出しやがって……。熱血が足りねえワケじゃなさそうだ」


「あなたのその大剣も、さらに物すごくなっているようだけど」

 

「おうよ! 予備の剣を回転させりゃあ、どんな硬い皮も削り取って消し炭にしてやるぜ!」


 不敵に笑うウーベの横で、ふわふわとした白い髪の女性が静かに口を開いた。


 第五席のニュンさんだ。


「……調整の数値は、あくまで数値。実戦でどれだけ『吐き出せるか』が勝負だニュン。リル、あんたの体から出てる魔圧……少し冷たすぎるニュン。無理は禁物だニュン。お互い、命は大事にするべきだニュン」


 ニュンさんは軽やかな服の裾を揺らし、魔力で生成した奇妙な球体を口からプッと吐き出しては手の中で転がしている。


「ええ、分かっているわ、ニュンさん。死ぬために行くわけじゃないもの」


 揃った神界十二神の精鋭六名。全員が過酷な『調整』により身体から濃密な魔圧を立ち昇らせている。  


 その時だった。


 ――ズシンッ、ズシンッ……!!


 会議室の床が、地鳴りのような振動と共に激しく揺れた。


 扉が蹴破られ、一人の巨漢が姿を現す。


「全員揃っているようだな……スン」


 岩石のような筋肉。鎧さえも必要としない鋼の皮膚。


 放たれる魔圧は他の十二神とは比較にならないほど重く、鋭い。


 神界最高戦力『天界三傑』の一人


 ――地の矛、ベヒーモス族のモッスンである。


「作戦を伝えるスン。今回の『モンスターテン』……予測バトルポイントは5万を超える。まともにぶつかれば一瞬で消し飛ぶスン」


 モッスンは神聖の森の地図を広げ、太い指で一点を指した。


 戦略班が予測するモンスターテンの出現ポイントだ。


「奴はここから来るスン。森の悲鳴が一番大きい場所だスン」


 その指の先、地図上の森はすでにどす黒い墨で塗りつぶされたように汚れている。


「まずは三姉妹。お前たちの強化支援『パプポラージョン』で全員を底上げするスン。その後、敵の猛攻に対しては『パプポシールド』を展開して時間を稼ぐスン」


「「「分かったパピー(プピー、ポピー)!」」」


「その間、ウーベ、ニュン、そしてリル。お前たちが前線に出て、死ぬ気で敵を引きつけるスン。死なない程度に、だが一歩も引くな。……その間に、ワシが『猛式全開獄モッスンフルーヘル』を使い、BPを引き上げるスン」


 最高戦力が、さらに限界を超えるための溜めを作る。


 その間の守備が、世界の命運を分けるのだ。


「了解したわ。モッスン様の『ヘル』が完成するまで、一歩も引かない。……必ず、繋いでみせる」


「へっ、やってやろうじゃねえか!」


「任せるんだニュン」


 死を覚悟した『先鋒』たちが、静かに、だが熱く拳を握りしめる。


「行くぞ……スン!」


 モッスンを先頭に、十二神六名、そして後方を支える医療班とデータ班が神殿の外へと飛び出した。


 一歩外へ踏み出した瞬間、肌にまとわりつくような、重く冷たい魔気に包まれた。


 見上げる空はどす黒い紫の雲に覆われ、かつての光はどこにもない。


 視界の先にある『神聖の森』からは、巨大な魔圧が、衝撃波となって押し寄せてくる。


 肌を刺す殺気、遠くで響く民の悲鳴。


 マントの下、変質した腕を強く握りしめ、決戦の地を見据えた。


(……いつまで続くのか、なんて考えない。今はただ、この命を削ってでも、目の前の絶望を食い止める。地獄の淵まで、その猛攻を受け止めてやる)


 迷いを捨て、真っ直ぐに前へ進む。


 視界の先で、闇の霧が大きく揺れ動いている。


 ――ついに、第二十次・対モンスターテン防衛戦が幕を開ける。


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