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電導式解  作者: 谷樹 理
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第五章

 帷通は、煮込み屋の屋台に入った。

 隣には、帽子を被ったコート姿の男が座っていた。

 帷通は日本酒を頼むと、右腕の肘をカウンターに立てた。

「あの死体、おまえがやったんだろう?」

 横に並んでいる周禍が応えるのには一瞬の間があった。

「どうしてそう思う?」

 バフを掛けた電子タバコの煙が吐かれる。

「おまえの構築物は空気を操れる。あの空間を隔離して真空にすれば、死体は死んだ直後のまま腐ることもなく、死亡推定時刻も騙せる」

「曜軌のやつが女々しくてな。花で飾りたいというから望み通りにしてやった。見つかるまでは、永遠に飾られていたところだった」

「……なるほど。今、曜軌は?」

「プロトタイプのことなんか知ったことじゃないな。どっかに消えたよ」

 感心がなさそうに返ってくる。

「多分な、曜軌はウチの関係者にいるらしい」

「へぇ。丁度いい。あんたらを殺る時に一緒に始末するよ。ついでだ」

「あとそれからなぁ。おまえがコピーした連続殺人者、生きてるよ」

「……それは、気に入らないなぁ、本気で」

 彼はビールを一口飲む。

 二人のやり取りは一見、のんびりした者のように感じるが、一方が構築物をだせば自動的にもう片方も出すようになっている。

 至近距離でそれをやるのはリスクが多い。

 相手に対して構築戦などやりたくないのだ。もしやったとしてもただでは済まない。

 お互い銃口を頭に突きつけているような緊張感が淡々とした中にあった。

「向こうもそう思ってるんじゃねぇの?」

 帷通は軽くニヤリとして、日本酒のコップを口に運んで続けた。

「履歴を新しくするためにコピーしたのに、その大元がまだ存在してるとか、笑い話だな」

「本当に自分の間抜けさに笑えるね。喜劇だな、これは」

 そして、改めるように続けた。

「おまえまた崩壊率が上がってるなぁ。放っておくつもりか? 死ぬぞ?」

「……最近、あの計画自体、かなり怪しいと思い始めている」

「計画条項百八号、『バッカス』か」

「あれ多分、上がった時は良かったが誰かの構築物だったから、中止したとかいう話にもできるんだよなぁ。その受け入れた側が、すんなりと通そうとする態度はむしろすがすがしいぐらいの素直さだが」 

「だからって抱えているのを、その理由にしようというのか?」

「そう、俺が崩壊したら、過去にバッカスに賛同した政治屋たちの情報も解禁される」

「たしか曜軌はあの計画には反対だったらしい」

 周禍が他人事のように言う。

「……へぇ。俺を生かしてくれるなんて、良いやつじゃねぇかよ」

帷通は軽く笑った。




 結局、奇宇個人では、帷通が何者なのか捕捉しきれなかった。

 來架時代の能力を出会ってからの時間、密かに全力を尽くしていたのだが。

 ダルさを感じた彼女は諦めて、琥坤に尋ねる。

 少年も難しい渋面をした。

「やっぱり気になる?」

 彼は違うニュアンスの意味で言った。

「すげー、腹立たしいんだよ、実は」

 珍しく憎々し気な顔をつくり、握った手の甲で人差し指を立てる。

「中指じゃないのね」

 琥坤は軽く笑った。

「どっかで会ってる気がするんだけど、正確なデータが出てこない。削除したのかされたのか……てか、あいつと会ってからたまーに頭痛がするようになったんだよねぇ」

「んー、データ無いのは二人とも同じだけどね」

「はぁ!?」

 奇宇は我に返る。

 彼女は來架所属の時、万が一のために秘密で個人データを構築していたはずである。

 アクセスしてみるが、存在しない。

 消されたか、奪われたか。

 舌打ちして、ソファに寝ころぶ。

どうでもいい。

 もう、彼女は本当にどうでもよくなった。

 なるようになる。なるように勝手になれ。

 十割のうちの鎮静剤五割を強制投与。

 頭から身体が浮遊感に包まれる。

 自己のデータがないという衝撃も浮遊感の中に浮かんでいく。

「……気になると言えば、來架からの襲撃らしきものが無いのがねぇ……」

「……調べたの?」

 奇宇はややろれつの回らない口調になっていた。

「こっちゃずっと警戒してるよ」

 失礼なとでも言いたげだ。

 もっと危機感持ってほしい、とも取れる。

「『掃除人』だったのなから、内部情報とかないの? どんなのがいるとか?」

「同僚の接触はさせないようになってたからなぁ。仕事も基本、一件一人担当だったし。ただ、これだけ静かってことは、相手は間接的な手を使う奴じゃないかな?」

「どこから?」

 琥坤の問いは具体的だ。

「知らね」

 にべにもない返事に、彼は軽く耳を掻いて無言だった。

「來架に代わる組織だけど、当てはあるの?」

 琥坤は話題を変えた。

「うち等でいいんじゃね?」

 あっさりと、奇宇は応える。

「……それもそうだねぇ。人手が足りなくなったらどっかで見っけてくればいいし」

 納得する。

 羽場屋に來架という組織を糾弾させる一方で、奇宇たちを個人的な手足にさせるのだ。

 彼に提案したところ、空中ディスプレイで小難しい顔をしていた。

『とても魅力的な案だが、もう一つインパクトが欲しい。例えば、完全にいま政府が手を出せないでいる第三区をどうにかするとかだな』

 羽場屋はリラックスした態度を取っていた。

 お陰で奇宇等は肩肘凝らないですんだが、相手は政治屋だった。

 すでに政治家と名乗る存在は過去のものだが性質は特に悪い意味で特徴的になっている。

 彼は人たらしなのだ。

 奇宇らは、わかっていて敢えてその舞台の上で気を抜いた態度を取っていた。

「あそこ、とうとう自警団できたでしょ?」

 琥坤が淡々と補足する。

『ああいうが一番厄介なんだ。勝手に都合のいいような主張で反対意見をもつ連中を力で抑え込む。先が見えない混乱でまぁそういう連中も湧くだろうけどな』

 まるで自分はそんな存在ではないかのような言い方だった。

「厄介?」

 奇宇は嗤っていた。

 しかし、他の二人はその嘲笑いを気に留めようとはしなかった。

「あんたらが手に負えないだけだから厄介なんじゃね? ウチらにしたら解放区だよ」

『……不祇が來架の前データを特別調査委員会に出す動きを見せている。あいつ、來架を潰す気だよ。新任で来たらこんなのがありましたよとでも言いたいんだろう』

 奇宇には引っかかる点が幾つかあるが、黙っていた。

「第三区は、周禍と周禍信者が集まってるところだよね?」

 羽場屋が反応する前に構わずに琥坤がいう。

「……全部潰していい?」

 ふやけたような奇宇がわざとらしさそのものの偽悪的な声を出す。

 為御流事件以来、彼女はかなり短絡的に粗野な感情を出すようになっていた。

当の事件から明らかに距離を置きたいというその心情が露骨に表れて、意識を混濁させたり、爆発させるという不安定さを見せていた。

 今は完全に無敵モードらしい。

 全部潰すの全部がどこまで全部か、誰もわかっていなかった。

『……できるのか?』

「あたしを誰だと思ってるんだよ」

 とろんとしためのままニヤける奇宇には、一種独特の余裕と迫力があった。

『ああ、掃除人だったか。うってつけだなぁ、そりゃ』

 羽場屋は、わざわざ今思いだしたかのという態度だった。

「元だよ、元。今の掃除人が怠けてるの、叱ってあげてよね」

『ああ、それは私の仕事だ』

 羽場屋はつい苦笑いした。

「為御流の事件、忘れないようにして置いてね。もし忘れたら大変なことになるから」

 ニヤニヤしながら琥坤がいうと、羽場屋は嫌なものでも見るような目をしてから、無言で空中ディスプレイを強制的に閉めた。

「……自警団、名前付いてるの?」

 聞いていたのかいないのか、奇宇がよっこらしょっとと声に出して上体を起こしソファの背もたれにしだれかかる。

白色黒眼(はくしよくこくがん)だってさ。何か例の骸骨みたいだから」

「……まぁセンスはどうでもいいか。メイン電源と電流経路を調べて。それがわかったら、電流経路の一つから、別電源を使って電流を逆放出させる」

「あー、やってみる」

「よー、相変らず省エネの癖に忙しそうだなぁ」

 不遡夜の館に、煙と共に帷通がリビングに姿を現した。

 煙にはアルコールの匂いが混ざっていた。

「聞いてたんでしょ?」

「誰かさんがイキってたところから」

「車は?」

「フレームが丈夫なんでね。まだ動く」

「なら、今から行くよ」

 奇宇はややおぼつかない身体をソファから立ち上げた。




「で、なんでパンダみたいのが、勢力作れた? バックに羽場屋がいたとしても」

 奇宇は、バンの後部座席で助手席の琥坤に聞いた。

 琥坤が考えていると、代わりに帷通が口を開く。

「流狐が全滅したが、あのあと、不祇と羽場屋の手打ちがあったらしいな。そして、条件に周禍の存在を不祇の一任にすると。つまりは、第三区は事実上、來架の勢力だ」

「……流石、信用ならねぇ」

「潰すんだろう? ここで潰せれば、不祇の面目は立たずに羽場屋が盛り返すぜ?」

 挑発するように言う。

 その彼に、奇宇はふらつく頭で据わった目をバックミラー越し一瞥する。

「琥坤、バッカス計画と為御流について調べて」

「……おまえなんでそれ知ってる?」

 為通が意外そうに言う。

「あんた、意外と間抜けだからね。いつでもウリョチョロ一人で勝手に行けると思わないでね」

「……枝つけてやがったか」

 舌打ちしたそうな顔を、サングラスに手をやって隠す。

「うちも、以前からバッカス計画を調べてた最中でもあるんだよねぇ……」

 琥坤はボソリと漏らす。   

 殺気から、空に鳥をよく見ると思ったのは気のせいではなかった。

 第三区は事実上、住民の活動が制限されているので、野生動物たちが活発になったのだろうか。

「……知ってるか? 流狐は鳥を使っていたそうだ」

 帷通がボソリと言う。

「狐なのに?」

「分かりにくくていいだろう。これが白い狐が目の前に現れたんじゃ、空から早朝並みの明かりを町に放射するぐらいのド派手な登場だろう?」

「どっかで鳥が鳴いてた気がしたなぁ、そういえば」

「そこらへんで鳴いてるだろう」

「自分で自分の言葉否定したの気付いてる?」

「どっかのとりはどっかで鳴いてるだろう?」

「あー、ハイハイ」

 鬱陶しくなって奇宇は口を閉じた。

「パンダだの鳥だのイルカだの、動物園だな、第三区は」

「俺もついでに入れないでくれる? それにイルカは水族館だろう?」

 虚坤の突っ込みに、帷通はワザと難しい顔をした。

「あいつらは哺乳類だろ?」

「……あー、じゃあ動物園でいいわ、もう」

 何故か琥坤は面倒臭がって適当に応えた。

「そう、仲間外れはいないってことだよ」

 まとめるように、帷通は軽い調子で言った。




 第三区は相変らず、所々に大小の光球が浮かぶ、薄闇の空間だった。

 辺りの空気はアルコールの匂いがかすかにした。

「集中電源で一番デカいのは東側に一か所、北側に二か所、南に一か所。あとは取るに足らない程度の電量」

 琥坤が調査結果を報告する。

「おら、元掃除人が来てやったぞ。キレイキレイのピッカピカにしてやっかぁ!」

 興奮剤三割投与。

 奇宇は爛々とした目で、後部座席から言った。

「どうする? いっぺんにやれないことは無いけど、そしたら電流が弱くなる」

「一方向ずづ、全力でぶつけよう。まずは北からだ」

「おっけー」

 琥坤は、北二か所のメイン電源に向けて、停まったバンの車体を揺らして電流を放出する。

 一気に供給量が上がり、抵抗もなく末端まで流れ込んでいった電流は、電源を使っていた集団の身体に異変を起こした。

 身体が硬直し、様々な感覚が鋭敏になり、悲鳴を上げる前に、彼等は一気に廃人と化した。

「……おいおい。これ、狙ってやったんじゃないだろうな?」

 帷通が空中ディスプレイで衛星経由のその様子を苦々しく見ていた。

「思った以上の破壊力あってこっちがビックリしてるよ……」

 奇宇は眉をしかめながら同じものを自分の膝の上で眺めていた。

「電流経路に仕掛けられてるな、これは」

 帷通はすぐに理解した。

「東側、電源、急速接近!」

 琥坤が声を上げる。

 小鳥が暗闇に鳴いた。

 ぼんやりとした光球の明かりに照らされて、数名の男女が正面から近づいて来る。

 全員、乱雑な白塗りの顔に目の周りだけ窪んだように黒い縁がある。

 中央に巨大な両腕を持つ、身体の細いスキンヘッドの長身の男が太めのズボンだけを吐いて集団の真ん中にいる。

 再構築物だ。

 四人の姿を現した男女に関して、奇宇らには外部記憶信号としての認識がネットワーク上から伝達されてくる。

 流狐だ。 

 空気中に電流が弾ける音が鳴ると同時に空間が閉鎖されて、条件化される。情報網は構築物メインの処理に移り変わる。

 構築戦に先手を打たれた。

「あいつら、集団で一個の構築物造ってる。あんなに弱かったのかな、構築力……」

 琥坤が素朴なまでの疑問を口にした。

 リヴォルバーを抜き、シリンダーを出して弾丸を確認しつつ、帷通は運転席から降りた。

 奇宇も琥坤も続く。

 長身の男は止まった。

 流狐の集団も同じくその場以上に進んでこない。

 帷通はリヴォルバーの一発目を放った。

 それは、閉鎖されている空間を崩壊させて、解放するためのモノだった。

 一時期、空間はガラスが割れるようにして、砕けた。

 同時に、長身の構築物も崩れ落ちた。

 再び、間髪を入れずに空間が閉鎖された。

 右脇に、二人の男が拳銃を構えながら、長身の構築物と共にいた。 

 車を挟んで、帷通だけが立っている方向である。

 長身の構造物が、太い腕を振り上げて地面にたたきつける。

 ズンっと、帷通の立っている地面がその足を底を中心として、五十センチは沈む。   帷通自身も重さをもろに喰らって、踏ん張って立っているのがやっとだった。

 二人の流狐が構えた銃の引き金を連続で絞る。

 弾丸はそれぞれ、明後日の方向に飛んでいった。

 琥坤の構築物のイルカが認識に介入して、彼等の狙いを惑わせたのだ。

「おかしい! そいつらの中は、ひとというより構造物だ!」

 彼は言った。

 帷通は膝を崩して、地に片手を着けていた。

 だが、突然、それが解けた。

 瞬間、頭上から四人の男女が降りてきて、琥坤を蹴り飛ばす。

 奇宇は着地と同時に逆手に持ったナイフを降り下ろされる前に、その男の顎に突き上げるような掌底を食らわして、そのまま崩れ落ちさせると、もう一人傍に降りた男に足の股間に入れた、足が地面を踏むと同時に肩から体重を掛けてぶつかり、吹き飛ばした。

 残り二人が、紗虚の方を向くと、急に彼女の身体はふわりと宙空に浮かんだ。

 と同時に、まず耳が敏感に感じるほどに、重圧が四方から掛けられた。まったく抵抗ができない。

 残った男女は、飛ぶように移動して、ナイフを振りかざす。

「遊!」

 何とか言って出現させた少女の構築物だが、重圧の中に閉じ込められてこちらも動きが取れなかった。

 二人はいきなり旋回して、地面に身体を叩きつけた。

 琥坤のイルカが平衡感覚を麻痺させたのだ。

 銃声がして、その二人の頭部が破裂すると同時に身体がバラバラに散った。

 奇宇の身体の自由が戻った。

 遊が、瞬時に移動し、車の反対側にいる帷通の傍の男女二人にナイフを深々と突き刺す。

 彼等は悲鳴にならない声を上げて、身体を崩壊させた。

 薄闇の奥から、数人の気配が現れる。

 認識ネットワークは相変わらず、流狐だとしている。

 だが、そんなはずはなかった。

 流狐のメンバーは六人のはずだ。

 今、二人が生き残っているが、四人倒した。

 さらに人影は、まだ三人はいる。

「……少なくとも、重力を使う構築物らしいな」

 リヴォルバーの弾丸を入れ直しながら、帷通は目の前の二人を睨みつけた。

「流狐は、全滅したんじゃなかったっけかよ?」

 彼は誰にともなく不満そうに漏らした。

「流狐の連中は構築物だ。本体は、あの構築物見たいなデカ物だよ! 重力で、流狐の人格を周りに集めて固めて造ってるんだ!」

「くたばってなお、使われてるなんて哀れだわ」

 奇宇が吐き捨てる。

 遊が正面から長身の構築物に走り込む。

 四方から一気に圧力が掛けられ、彼女は目前で動きが取れなくなる。

 遊に傍の二人が拳銃を向ける。

 帷通が、四人のいるところに一発の銃弾を放った。

 条件下の空間閉鎖が解かれる。

 同時に、流狐等と遊の姿が消え、長身の構築物はゆっくり、だらりと身体を俯かせた。

「近づくなよ。多分、コイツの重力に囚われたら、操られる」

 シリンダーを三弾分回し、コックを引き上げる。

 構築物の眉間に銃口の狙いを付ける。

「あいつらは流狐の皮を被った別物だ。この構築物は、だれのかね?」

 答えを求める前に、帷通は銃弾を放っていた。

 両腕の太い長身の構築物は、吹き飛ぶように粉々になった。

 鳥が鳴いた。

「……何か鳥の声が聞こえたが、ちょっと悪趣味な鳴き方してるな」

 彼は一人、ボソリとつぶやいた。

 一部始終は周禍によって配信されていた。




「構築物になってしまって、流狐は構築物を造って操れなくなっているんだ。ここには、流狐たちの人格が遊離して形作られたのがいたるところにいる」

「どういうこと?」

 琥坤の分析に、奇宇は鬱陶しそうに聞いた。

「ココは周禍の勢力圏だ。でも、死んだ流狐はここで必死に自分たちの存在を作り出そうとしている。いや、半分作りだせてる。ココを不祇の一任にするという羽場屋は、時限爆弾みたいなものを來架担当にしたんだよ。素直に不祇に渡さずに、逆に來架が手を出すと流狐たちを使って放逐して、羽場屋を引っ張りださざるを得なくしたんでしょ。羽場屋にとっちゃ俺たちがここで簡単にやられるか、不祇に始末されるか、どっちかでも良いんだ。すくなくとも、羽場屋は俺たちをここで嵌めて潰そうとしてたってことだね」

「クソの中でも周禍のクソはどこにいる?」

 口汚く奇宇はイライラした様子を見せた。

『……呼んだかい、エリートさん』

 彼等の目の前に、小型のブリキ人形が現れた。

 間接やその先端を空から糸を垂らされ、その先は見えない。

「よー、散々好き勝手に派手にしながら、こんな小汚いとこにいる羽目になって王様気取ってるお気楽野郎。久しぶりじゃないか」

 奇宇は、残虐にも見える笑みを浮かべた。

『これは上が望んだことだよ』

「上?」

『おまえらの上司さ』

「……バッコス計画か」

 琥坤が補足した。

 ブリキ人形が、彼に向かい、少し見つめたかと思うと、鼻を鳴らした。

『おまえ、邪魔だなぁ』

「なんでそのバッコス計画がここらで浸透してんのさ? 大体あれ、その上のものじゃないの?」

 奇宇が怒りを抑えつつ、聞く。

 殺意どころではない。

 疑問も同等にこの相手にはあるのだ。

『白色黒眼をくれてやるよ。そのかわり、おまえは駄目だ、琥坤』

 無視して、ブリキ人形は言った。

 途端、琥坤の身体が震えた。

 奇宇に意識を外していないので、遊を動かせない。

 帷通はただ、茫然とその様子を眺めていた。

 電流網に、琥坤の身体、何重にも重なった姿がそれぞれの方向に引き剥がされて、そのまま小さな破片になって粉々になって言った。

「琥坤!」

 奇宇は身体が動かせないことに気づいた。

 空気がとてつもなく硬いのだ。

 イフがないのは、構築物による空間制御を一方的にできた時だ。

 今、奇宇も帷通も動けず、虚坤の身体の消滅を見ているだけしかできなかった。

『ふは! ココは天国だぜ? 帷通ならわかるだろう? 奇宇よ、おまえも精々楽しめ。その資格は十分あるんだからな』

 周禍は楽し気に言うと、ブリキ人形の姿が掻き消えた。













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