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7 同居のススメ

7 同居のススメ




 アタシは寝起きが良いほうだと思う。

 目覚ましを二秒以上鳴らしたことがないくらい。

 田舎で暮らしてた小さい頃は、おばあちゃんと一緒に鶏の声を目覚まし代わりにしてた。

 保護施設に入ってからも、団体生活のせいかやっぱり早起きを続けてた。

 大勢で暮らしていると、トイレやら洗面場の順番で苦労するのよね。

 あの戦争に巻き込まれないためには、皆が起きて来る前に仕度を済ませるのが一番。

 やっぱり早起きは三文のトクってことだよね。


 それは里親さんの家に移っても変らない。

 自然と身に付いた習慣というのは根強いもので、今だにアタシの早起は続いてる。

 あんまり早過ぎるとお手伝いさんが困った顔をするので、これでもだいぶ遅くなったほうだけどね。


 このところ夏が近いせいか寝苦しい夜が多いから、起きて朝一番にバスルームに飛び込むのはアタシの日課。

 朝が早いと時間が贅沢に使えてホントお得感満載だよね。

 それに年頃の女子高生がパジャマでウロウロするのは憚られるので、朝シャワーは早い時間に使うように心がけてたりする。

 里親さんの家は大きいからアタシ一人くらい増えても余裕のある広さだげど、他人同士が円滑に生活するためには気を遣わないとねダメだよね。


 今朝も起きて直ぐにバスルームへ。

 少し熱めのシャワーを頭から浴びると、アタシのポヤヤン頭(タイちゃん命名)もだいぶマシになってくる。

 気持ちが良いなぁ~。


「おう。早いな」

 バスルームの扉がいきなりガチャリと勢いよく開けられた。


 呆然。

 一瞬後に絶叫。

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!!」

 入口にはマッパのタイちゃんが立っていた。

 集団生活におけるアタシなりの気遣いを全く解さない人物が、その努力を嘲笑うかのように登場したのですぅ。


 そう。

 アタシは今タイちゃん家にお世話になっている。

 去年の事件あれこれから正式に引き取られて早数ヶ月。

 とは言うものの養女とかじゃないから、苗字は別々のまま。


「な、何で今日に限って、こっちのバスルーム使おうとするのよぉ!?」

 アタシの叫びにタイちゃんは少し機嫌悪そうな顔になる。

「シャワーの音してたでしょ? 何で入ってくるのよぉ」

 あ。眉間には皺が寄った。

 怒りたいのはアタシのほうなのにぃ。

 だいたいにして、このお家には他にもバスルームがあるんだよ?

 人が使ってる所を襲撃しなくったっていいじゃないと思うのはアタシだけ??


「とにかく戸閉めて他に行ってぇ!」

「メンドクサイ」

 むきぃぃーっ。

「タイちゃん、アタシたち他人同士で年頃の男女なんだよ?!

 しかもアタシは嫁入り前の乙女なんだよ?

 そんなアタシの裸を見て良い筈がなぁーいっ!!」

 髪の毛のリンスを流しながら思わず怒鳴る。


「お前だって俺の裸見てるじゃん、今」


 しまった……。

 無意識にタイちゃんジュニアに目がいってしまってたっス。

 うーん、ノーコメント。

 とにかく、アタシの精神衛生上、一刻も早く他へ行って欲しいのだけどな。


 そんなアタシの気も知らず。

 タイちゃんは、上から下まで往復じっくりアタシのことを眺めてから

「安心しろ。今のお前じゃ満月でもない限り襲う元気が湧かない」

とか言いやがりました。


 ヒドイ。

 健康な高校生男子の朝のセリフとは思えないです。

 前にクラスの男子たちが

「女だったら還暦までOK」

って話してたよ?

 アタシ、ピチピチなのにそれ以下ですかぁ!?


「ツキ。もっと牛乳飲め」

 タイちゃんは謎の言葉を残して、バスルームの扉を閉めると去って行った。

 うわーん…。

 アタシの清々しい朝を返せぇぇ。


「グレてやる。ドカ食いして太ってやる。

 タイちゃんなんか、丸太のように太ったアタシをチャリで送る刑なんだから」

 玄関横の車庫からスポーツタイプのチャリを引いて出てきたタイちゃんに、アタシは膨れっ面で抗議する。

 勿論、軽くスルーされちゃったけど。


 今年の春からアタシはタイちゃんと同じ高校に転校してて通学は自転車。

 といっても漕ぐのはアタシでなくタイちゃんなのだ。

 バスでも通えるんだけど、タイちゃんはアタシを一人で通学させたがらなくて、必然的にチャリに二人乗りして通ってる。

 変なところで過保護なんだか、何なんだか…。


 ホントは二人乗りは禁止なんだけど、のんびりした町のせいかオマワリさんに今のところ遭遇したことがない。

 なのでちょっとハシタナイけど、横乗りじゃなくタイちゃんの肩に掴まって立ち乗りが毎日の通学ス タイル。

タイちゃんよりも目線が高くなる唯一の時間はアタシのお気に入りなのだ。


 今日はとっても天気が良い。

 空が青くて夏が近いんだなぁって感じる。

 二人を乗せた自転車はグングン加速して、過ぎていく風が気持ち良い。

 チャリを漕ぐタイちゃんの首筋からは、アタシと同じボディソープの香りがフワリとしてる。

 アタシは何だか嬉しくなって、彼の肩を包むように腕を前に回して抱きついた。


「ツキ。」

「なぁに?」

「お前、死ぬほど牛乳飲め」

「何で牛乳?」

「目指せホルスタイン。少しは胸に栄養送れ」


 ……。

 …………。


「タイちゃんの、あんぽんたんーっっ!!」

 長閑なサイクリングロードにアタシの絶叫の尾をひきながら、チャリはその後も快走を続けたのでした……。


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