4 オンナの闘い
4 オンナの闘い
バチンと小気味の良い音が響く。
発生元はアタシの左頬。
うららかな週末の昼下がり、商店街のド真ん中で思いっきり叩かれてしまいアタシは呆然。
目の前には美少女。
頬は薄っすらと染まり、形の良い唇は一文字に引き結ばれている。
大きな瞳に溜まった涙は今にも零れ落ちてしまいそう。
でも泣きたいのはアタシの方だよぉ。
このお嬢さん、いったい誰!?
一度会ったら忘れられないような可愛いコなんだけど、全然記憶にないんですけど……。
「神也くんから離れなさいよ!」
リアクションを起こさないアタシを睨みつけながら美少女が叫ぶ。
アンタか!!
アンタのせいなのか、カミヤタイチ!!
横に突っ立っている原因たる迷惑男を見上げれば、事の展開をニヤリと人の悪い笑みを浮かべて伺っている。
タイちゃんの反射神経なら避けてくれるの朝飯前なのに、助けてくれなかったわね!?
薄情者めぇ。
しかもご丁寧にも相手に見せ付けるかのように、アタシの肩に腕を乗せてきたよぉ。
お嬢さん、誤解ですからね?
これ、単なる肘掛ですからね?
最近はアタシとタイちゃんが並んでる姿って認知されつつあるのかと思ってた。
前みたいに女のコたちに影で小突き回される回数、格段に減ってきてたから。
悪口とかは未だに聞こえよがしに言われるけどね。
まさかこの性悪男のラブラブ団隊員(生息数十人程確認済)に正面きって襲われる日が来ようとは。
ちょっと前まで上手く逃げ回ってたんだけど、もう大丈夫かなってすっかり油断してたよ……。
「巨乳美女好きだと思ってたから諦めてたのに!!
何でアンタみたいなツルペタ平凡女が彼女ヅラしてるの!?」
えっと……、ツルペタというのはアタシの胸のことだったりするのかな?
まあ、確かに。
微乳な感じですけどね。
平凡ちゃんですけどね。
そんな事より根本的な問題があります。
アタシ、タイちゃんの彼女じゃないんですが……。
「あのね、アタシとタイちゃんとは一緒に居るけど恋人同士じゃないので、彼女になりたいなら本人に陳情してもらいたいな、なんて……」
聞いてもらえるかどうかは定かでないけど、一応それなりに諭してみたりする。
観察してもらえば、アタシがタイちゃんにくっついてるんじゃないって判明すると思うんだけどなぁ。
傍から見て付き合ってるように見えちゃうって、アタシとしては大問題だよ。
女のコたちの苦情って何故かいつもアタシ宛。
タイちゃん本人に向けられない。
その情熱で果敢にアタックすればいいのに、当たり所が違ってると思うのはアタシだけ?
誤解の張本人たるタイちゃんは、事態の収拾を図ろうとするどころか知らんぷりを決め込むつもりらしく、視線は明後日の方向だよぉ。
アタシは深い溜め息をつかづにはいられない。
「嘘つき!!」
美少女がビシッとアタシを指差して更に激昂する。
「私、見たのよ!! 二人がキスしているところ!!」
うわーん、タイちゃんの馬鹿!!
だから所かまわずキスしないでって言ったのにぃぃぃ!!
「あれは…、その…、タイちゃんが勝手に……」
口を滑らせた途端に、美少女から般若に彼女が変身してしまった。
うわーん、アタシの馬鹿!!
火に油を注いじゃったよおおお。
もう修復不可能。
彼女の右手がグーを作って振り上げられたのを合図に、アタシは思わずタイちゃんをその場に捨てて 脱兎のように逃げだした。
タイちゃんに「置いていくとはイイ度胸だ」って後で散々と嫌味言われたけど、痛いのヤなんだから仕方ないでしょ!
「タイちゃんのせいで酷い目に合ったよぉ・・・」
頬に氷嚢を当ててくれるタイちゃんに、一応は苦情を述べてみる。
手当てしてくれるくらいなら、最初から庇ってよ。
でもやっぱり全然悪いと思ってないみたい。
だって、
「俺が表に立ったら、明日から闇討ちされる日々だぞ」
ってサラリと怖いことを言う。
その上、
「アレはお前が当然受けるべき闘いだ。それぐらいイイ思いしてるだろ?」
ってサラサラと宣った。
イイ思いって、イイ思いって、もしやアレのこと?!
いやぁぁ!!
怖くて考えたくないよぉ……。
次からは女のコが近づいてきたらダッシュで三十六計だ!!