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14 二人で居る未来【大人表現有】

この頁は【大人表現有】です。

問題のない方のみ続きをどうぞ。

14 二人で居る未来【大人表現有】




 気が付くと陽はすっかり暮れていた。


「ツキ、家に入れ」

 久々に聞いた気がするタイちゃんの声。

「突っ立ってると蚊に刺されるぞ」

 話しかけられてるのは分かるんだけど……。

「……」

 蚊取り線香は残りわずか。

 このままだとアタシの美味しい血液は奴らの夕食になっちゃうこと間違いなし。

 けれど脳はループエラー状態で、次の行動に移る信号を送るのを放棄しちゃってる。


「お前、大丈夫か?」

「うん…」

 タイちゃんもさすがに変に思ったみたいで。

 サンルームから出てくるとアタシの手を引いて家の中に回収してくれた。


「…何かあったのか?」

 あ。

 珍しくも心配そうな顔。

 そのせいかリビングに移動しても離れようとしない。

 このところアタシに近寄ろうとしなかったのにね。


「…大丈夫だよぉ…。

キスされてビックリしちゃっただけだから…」

 安心させなきゃって、目を合わせようと顔を上げたら…。


 タイちゃんがアタシを睨んでた。

 射殺すことができそうなほど鋭く。

 あまりの形相にアタシは思わず息を呑む。

 本能的な恐怖に体が竦む。


 ドンっ!

 突然に強い力で腕を引かれて、アタシは勢いあまって壁にぶつかる。

 痛いよ、タイちゃん!

 でも抗議をさせてもらう間なんてなくて…。

 両肩を壁に押さえつけられてしまった。

「許さない」

「な…っ」

 何が、と問うよりも早くタイちゃんの長い指が乱暴にアタシの顎を掴んで上向かせる。

 気付いた時には噛み付くように唇を塞がれてた。


「…っ…」

 実際に噛み付かれた。

 タイちゃんの犬歯が当たったみたい。

 下唇にピリっと痛みが走ったから。

 正に喰いつかれたかのような激しさ。

 勢いに呑まれてアタシは現状を把握しきれない。


 だって。

 せっかくタイちゃんへの気持ちを自覚したところだったのに。

 せっかくヨウちゃんとは未遂で済んだのに。

 事もあろうか恋敵に唇を奪われちゃうなんて!!

 しかも女の人………、どーいうこと!!??


 ぺチャリと卑猥な音が上がってる。

「…や…ぁ……ん…ん…っ…」

 深い繋がりに酸欠に陥りそう…。

 あんまりにも激しくて、どう呼吸していいか分からなくなってくる。

「…は…ふ…ぅ……」

 吐き出す息が熱くなる。

 少し隙間が開いても、また直ぐに角度を変えて深く侵食してくる。

 くちゅって練りまわされて…。

 アタシの下唇も舌も一緒にタイちゃんに食べられちゃってて。

 ジュッて強く吸われる度に切ったところがピリピリ痛む。


 もぉ何がなんだか……。

 そんな状況下でアタシのオツムは正常に働いてくれる筈もなく。

 結果。

 タイちゃんとの久々のキスに、アタシの理性は呆気なく崩壊しちゃった。


 頭がボーっとしてしまうほど、タイちゃんとのキスは気持ち良かった。

 体が共鳴するかのように喜んでる。

 ピチャピチャって口の中を舐め回される度に頭の中が融けてく感じ。

 ホントに融けて耳から出たらどうしよぉ。

 それでなくても「脳みそ足りない」って、タイたゃんに言われてばっかなのにぃ…。

 顔が熱くなって、体も熱くなって…。

 とにかく全部が溶けちゃいそう。

 小さな胸の奥もバクバク早打ちでウルサイったらない。


 もともとタイちゃんのラトにアタシが選ばれたのも、この相性の良さのせい。

 一族の中でもダントツだろうって。

 お互いの血が呼び合うんだってダイパパが言ってた。

 現に初めて会った日もそうだった。

 アタシたちは互いの特別な匂いを感じて酔っ払いそうになったくらいだから。


「…ん……」

 ビクリとする体。

 タイちゃんの吐息が濡れた唇にかかって、スーとした感触にまで感じてしまう。

 零れる唾液を、唇を、舌で何度も舐められて。

 アタシの唇は柘榴みたいに紅く膨らんでるに違いない。

 なのに…もっともっとって思っちゃう。

「タイ…ちゃ…ん……」

 顎を開放したタイちゃんの手は、アタシの肩から腕へと撫でるようにゆっくり伝ってゆく。

 やがてアタシの掌に行き着いた大きな掌は、その丸ごとを包むようにギュッと握ってくる。

 その間もタイちゃんの舌はアタシの舌を吸っていて……。


「…ふ…ぅ…」

 手も唇も拘束して。

 それでも足りないのかな。

 両の手をそれぞれ壁に縫いつけて。

 終には体までもがタイちゃんの大きな体で壁へと縫いつけられてしまった。

「ツキ…」

 名前を呼ばれると心が震える。

 ジワジワと熱に脳が侵食されてる。

 爪先立ちで縫いつけられて辛い体制の筈なのに、体の身動きがまったくとれない。

 ピタリと重なって。

 隙間なく胸もお腹も重なって……。

 その時になってタイちゃんの心臓も凄い早さでドクドク言ってるのにアタシは気付いた。


「血の味がする…」

 ブレスの合間にタイちゃんが溜め息のような呟きを零した。

「お前の唇、甘い……」

 言われてアタシは思わずハッとした。

 突然に思いだした。

 あのヒトの言葉がフラッシュバックした。


『大地がアナタのキスは甘いって言うから試してみたくなったの』


 そうだ。

 流されてすっかり問題を置き去りにしてたよぉ。

 あのヒトとタイちゃんとアタシの関係をハッキリさせなきゃ!!

 キスしてる場合じゃないよ!!

 まずは告白するって決めたのに…。

 ちゃんとタイちゃんに自分の気持ち伝えて。

 決着つけて。

 全てはそれかれじゃないと前に進めない。


「た…タイちゃ……」

 唇の角度が変えられる隙に名をよんで、今更ながらにもがいてみる。

 でもタイちゃんの力は凄く強くて、アタシの体はビクともしない。

 しょうがなく……。

 本当にしょうがなく、アタシは思い切ってタイちゃんの唇に歯を立てた。

「つっ…」

 ガリッと嫌な感触。

 広がる仄かな鉄の味。


 アタシの唇はやっと開放された。

 ゴメンね、タイちゃん。

 痛かったよね?


 案の定、タイちゃんはムッとした表情。

「また…俺を拒むのか」

 キスは止めてくれたけど体はまだ開放してくれなくて。

 上から不機嫌な視線が下される。

「アタシだってタイちゃんを拒みたくないよ」

 近い視線を必死で受け止めながら、アタシは精一杯を言葉にする。

 拒めるくらいならどんなに気持ちが楽になるか知れないよ。

 だからちゃんと伝えなきゃ!


「アイツに…、太陽に義理立てか?」

「ヨウちゃん?」

一瞬、何を言われてるのか分からなかった。

「何でヨウちゃんが出てくるの?」

 本気で訳が分からなくて、アタシにしては珍しく怪訝な表情で逆に聞き返してしまった。

タイちゃんの顔付きが苦々しいという感じに変る。

「お前、ヨウを選ぶつもりだろ?」

 少し剣呑な色を潜めて確認するように問われて、やっとアタシはどう意味なのか察した。

 ヨウちゃんに乗り換えたのかって聞かれたのか……。

 想像してない質問だったから、直ぐにわからなかったよぉ。


「選ばないよ。

 ヨウちゃんは受け入れてくれるって言ってくれたけど……。

 ちゃんとお断りしたもん」

「…なら何で拒むんだ」

 分からないって顔をしてるタイちゃん。

 そうだよね。

 今までが今までだもん。

 ちゃんと話さないと、ただダメって言われても分からないよね。


「前にも言ったけど…。

アタシは今までみたいな関係、続けられない」

「お前は何をそんなにこだわってるんだ」

 少しウンザリしたようなタイちゃんの声。

 でももうアタシは黙ってられない。

 もう気付かないフリできない。


「アタシは知ちゃったから…。

タイちゃんに女のコとして見てもらいたいって自分の気持ち、知っちゃったから。

だから一つ一つハッキリさせていかないとダメなんだってやっと気付いたの」

 できるだけ一生懸命タイちゃんの瞳を見つめる。

 気持ちを分かって欲しいから。

 アタシは一つ大きく息を吐き出して…。

 意を決した。


「タイちゃんにとってアタシは力を与える獲物でしかないの、自分でもわかってる。

 それがアタシが独り生き残ってしまった宿命だもん。

 神也の家にとってだって、子孫繁栄のためだけの存在だってわかってる。

 独りでは生きていけない、弱いアタシに拒否権ないの分かってるよ」

 なんか言いながら泣きそうなってくる。

 タイちゃんは何も言わずにアタシの次の言葉を待ってくれてる。


「でも、アタシにも心があって、恋心もあって。

 やっぱり好きなヒトには好かれたい。

 好きなヒトに利用対象にしか見られないのは悲しい」

 泣かないで最後まで!

 最後まで、ちゃんと伝えなきゃ。


「最終クエスチョンです。

 タイちゃんにとってアタシは何?」


「随分と今更な質問だな」

 鼻梁に皺を寄せてタイちゃんは面白くなさそうに揶揄する。

 うう…。

 心が折れちゃいそうだよぅ…。


「タイたちゃんにとってアタシが獲物でしかないなら…。

 子孫を残すためだけのパートナーなら…」


 頑張れアタシ。

 頑張れ!!


「心が壊れてしまう前にいっそ屠って欲しいの」

「ツキ…何を…」

「アタシは心がない触れ合いは、もう耐えられないから!!

 かといって他の人に自分を捧げることができないから…」


 頑張れ!!


「アタシは…タイちゃんが好き!

 好きなの!!」


 言い切った。

 言い切ったよぉ…。

 途端に力が抜けて。

 アタシはフニャりとタイちゃんに倒れかかってしまう。

 き、緊張したぁ……。

 なんかもう、できることならこのまま気を失ってしまいたい…。


「お前はバカか…」

 ヒドイよ、タイちゃん…。

 一生懸命の告白だったのにぃ。

 でも言葉とは裏腹に、タイちゃんの声は何だか柔らかい。

 いつの間にか背中は壁から開放されてて。

 代わりにタイちゃんの腕がアタシを抱きしめてくれてた。


「月、ゴメンな…」

 安心をくれる腕の中。

 ぐったりとしたアタシの耳もとでタイちゃんの声がする。

 もう怒ってないみたい。

 少し低くて心地よい美声。


「俺は恋という感情がよく解らない」

 ははは……。

 これってフラレてるんだよね、アタシ。

 瞬殺ですかぁ…。

 ぐすん。


「お前は俺の前でしか泣かないと思ってたのに、アイツの前で涙を見せた。

 自分からキスもしてた。

 だから太陽を選ぶつもりなのかと思った。」

 アタシが大泣きした時、タイちゃんどっかで見てたんだ…。

 カッコ悪いところ見られちゃったなぁ。

 やっぱりメソメソするもんじゃないね。

 久々に泣いたから、知恵熱出して寝込むハメになったし。


「俺はお前がヨウに触れられているのを見て怒りで体が震えた。

 あの時、初めて自分の中のドス黒い感情に気がついた」

「…タイちゃん…?」

「月。

 お前を俺以外の誰かに触らせたくない。

 最後の血の一滴まで渡したくない」

 タイちゃん、それって凄い独占欲だね。

 恋愛感情じゃないのは悲しいけど…。

 でもちょっと嬉しいかな。


「我がままでゴメンな」

 アタシの事を慰めるように、タイちゃんが頬を摺り寄せてくれる。

「いいよ、もう。

 タイちゃんの我がままなんて馴れてるもん」


 なんとなく結果は分かってたもん。

 でもちゃんと自分の気持ち全部言えたから悔いは無いの。


 もうタイちゃんに手を繋いでもらえなくなっても。

 怖い夢を見た夜に抱きしめてもらえなくても。

 二人乗りで一緒に学校に通えなくても。


 たとえ今ここで屠られたとしても。


「ツキ」

 静かな、とても静かな声でタイちゃんがアタシの名を呼ぶ。

 そして唇に触れるだけのキス。

 たぶん最後のキス。


 なのに…。


「ツキハナ」


 本当の名前を呼ばれて弾かれたように顔上げた。

 タイちゃんは声と同じく静かな瞳でアタシを見つめてた。

 その色は何故だかとても暖かくて……。


 月華。

 アタシがお母さんから付けてもらった大事な名前。

 それを教えたのも、呼ぶ事を許してるのも……。

 タイちゃんだけ。


 なんで気付かなかったんだろう。

 あの事件の時。

 死にそうになったところをタイちゃんに助けられてから。

 アタシにとってタイちゃんは大事な人で…。

 無意識の内に一生の人って決めてたんだ。

 こんな簡単な事にも気付かないままで…。


 それに、もう一つ思い出した。

 名前が記憶の箱を開ける鍵だったかのように、一つの言葉がアタシの中に蘇る。


 タイちゃんが言うように、アタシ、本当にバカだ。

 大量の出血で意識を失いそうなアタシに言ったタイちゃんの言葉。

 あれは……。


「『名前を呼んでしまったら、もう屠れない。

 それはもう愛しい存在でしかない』

 あの時、俺はお前にそう言った。

 思い出したか?」

「タイちゃん、アタシ…っ…」

 名前を呼んだだけで、気持ちがいっぱいなって。

 我慢していた涙がポロっと零れて。

 一粒ながれたら止まらなくなっちゃって。

 もう次の言葉が紡げなかった。

「ふぅ…っ…ぅ…」

「俺はお前の全てを自分の物にしておきたい。

 その対価が俺自身だっていうなら払うしかない」

 優しく背中をポンポンされたら、涙、止まらなくなっちゃうよぉ。


「でも…心は…、タイちゃん…気持ち…?

 無理は…いやぁ…っ」

 自分が好きの気持ちを変えられなかったから。

 気持ちって意志とは違うものだから。


「心配するな」

 涙を指で拭ってくれながらタイちゃんはキッパリと言い切る。

「ツキと出会って以来、お前以外に執着はないから問題ない」

「だっ…て…」

「ちょっと懐かしかっただけだ。

 恋心は追々に育てていけばいいだろ?」

「うっ…う…っ…」

 安心して気が抜けたのか、もうアタシは涙を止める気力もなかった。


「ツキ。

 一族のためでなく俺のためだけに傍に居てくれ」

「タイひゃ…ん……うぁぁぁ…ん…っ…」

 一族の繁栄のためでなく、自分のためにと言ってくれたタイちゃん。

 その気持ちが嬉しくて、嬉しくて。

 アタシはもう堪え切れずに大泣きした。

 子供みたいに声を上げてボロボロに。

 涙の滝の向こうでは、タイちゃんが優しい笑みを浮かべて見つめてくれていた。


「月華。

 俺のラートーナとして傍にいてくれ」

 それはあの時、気を失う前に聞いた、夢の入口で聞いた言葉。

 今日は両目を開いてしっかりと相手を見つめ返す。


 アタシは涙を自分のTシャツで拭って。

 返事の代わりにタイちゃんの唇に誓いのキスを贈った。


 この日、タイちゃんとアタシは、ずっと一緒に生きていくって約束したのでした。


END


大地と月の約束シリーズ1「タイちゃんとアタシ」終了です。

タイとツキの出逢いに触れないまま書きすすませて頂きました。

理由についてはブログでの後書きをご参照のほど。

また続編やら番外やらが載っております。

諸々に興味のある方は、のぞいてみてやって下さいませ。

この後に、ブログでは時系列的にまだ目次を作れない番外を少しUPさせて頂きます。

いま少しお付き合い頂けたなら幸いです。

ご拝読ありがとうございました。

ももいろハート

http://mankaisakura.blog54.fc2.com/

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