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13 タイマン勝負

13 タイマン勝負




 ヨウちゃんに頑張る宣言をしたものの。

 アタシは未だにタイちゃんに告白できずにいた。

 全然顔を合わさないって訳じゃないけど、なかなかタイミングが無い。


 しょうがないよね。

 タイちゃん、あんまり家に居ないんだもん。

 もしくは。

 あのヒトと一緒なんだもん。


 ふぅ……。

 日課となってる花壇の水撒きをしながら思わす溜め息が漏れちゃう。

 元から少なそうなアタシの幸せ残量が益々減少していくなぁ…。

「どーしたもんかなぁ…」

 夏の夕暮れ空に虚しい呟きが霧散していく。


「迷っているのなら、私が大地をもらってもいいかしら」

 後ろから艶のある声。

 アタシは思わず垂直跳びしそうなほど驚いた。

 振り向くと予想的中の人物が近づいてくるところ。

 サンルームから出て来たのかミュールを履いてる。

 なのに全然気付かなかったよぉ…。

 ここの一族は皆して足音とかしないんだもん。

 心臓に悪いよぉぉ。


「タイちゃんは物じゃありませんよ?」

 近くに立たれると花の香りがホワンと漂う。

 ここに咲いてるカサブランカと同じ香り。

 オトナの女性って感じ?

「ありきたりなお返事ね」

 対してアタシからは井草の匂いがしてるだろうなぁ。

 蚊取り線香を足元で焚いてるから。


「ふふ…。

 月ちゃんは優しいのね」

 薄っすらと口角を上げて笑む様は何だか少し怖い。

「自分は物扱いされてるのだから、相手も物扱いすればいいのに」

 な、なんかサラリと失礼な事を言われた気が…。

 その上、瞳が笑ってないんですけどぉ?!

 もしかして怒ってます??

 アタシ、そんなに悪いこと言った?!


「あの…ですね…、イイコぶるつもりないんですが…。

 ご存知の通り、アタシには選択権もなければ所有権もないんです」

 背中に冷や汗をかきながら、アタシの置かれた現状を説明してみたり…。

 夕方になっても依然蒸し暑くて寒いわけないんだけど…。

「そう。

 じゃあ、もらっても文句言わないのね?」

 あうぅ。

 ピシャリと言われてしまいました。

 もう言い逃れできるような雰囲気じゃないよぉ。

 アタシは意を決して顔を上げる。

 女は度胸だぁ!!


「我がままが許されるなら……。

 タイちゃんの気持ちを考えなくて良いのなら…。

 アタシは誰にも彼を…あげたくありません。

 …独り占めしたいですぅ……」


 言った…。

 言ったよ、アタシ。

 とうとう他人に言い切ってしまいましたぁ…。


 なのに。

「そんなに大地のことが好きなの?」

と更なる追撃が!!


「な、内緒です!」

「誰にも盗られたくないのに、まだ内緒なの?」

 ぅぅぅ……。

 美人の笑顔は迫力あり過ぎで泣きそうですぅ。

 綺麗な顔に迫力のある笑みを貼り付けてますぅ。

 どこまで追い討ちしてくる気なんでしょうか?!

 もうそろそろ開放してくれないと脳の処理許容量超えそうですぅ…。


「ま、まだ本人に告白してないから、他の人には内緒です!」

「私は言えるわよ、好きであること。

 隠そうとは思わない。

 好きって言葉を出し惜しみなんてしないわ」

 あぅぅぅっ。

 心臓がギュッて痛いよぉ。

こ のままじゃ、タイちゃんに告白する前に止まっちゃうよぉ。


 気が付くとアタシはプルプルと震えてた。

 怖いんだか。

 悔しいんだか。

 悲しいんだか。

 何を言い返したら良いのか分からなくて俯いて立ち竦む。


「月ちゃん」

 唐突に腕に触れられて一瞬ビクッとなる。

「イジメ過ぎちゃったわね」

 まったくですぅ。

 逃げずに此処に居るだけで褒めて欲しいくらいです。

 こういうの馴れてないんです。

 田舎の山奥で数人の老人に囲まれて数年前まで暮らしてた身としては、若い人とのというか、他人とのコミュニケーションのとり方、まだ学んでる途中なんですぅ…。


「顔、上げて?」

 ……あれ?

 刺々しい雰囲気が消えた…?

 お怒りが解けたのかな?

 

恐る恐る視線を上げると、そこには以外な事に少し楽しげな瞳。

「あの…」

 アタシが何か言うよりも先に、

「私、貴女が嫌いじゃないわ」

 言いながら綺麗な指先がアタシの頬に触れる。

 ゆっくりと滑るように頬から唇へ移動して……。


「可愛い唇ね」

 美人に褒められても褒められた気がしないのって、何でなのかなぁ。

 トホホな気分になるのはアタシの修行不足?


 目の前には、垂涎の美貌。

 形の良い鼻。

 パッチリ二重で。

 睫バサバサで。

 瞳がキラキラしてて。

 唇はプルンとしてて。


 ………あれ?

 近すぎない?


「!!!!?????」


 気付いた時には既に遅し。

 真っ赤な唇はアタシの唇に重なってた。


「あら。本当に甘いわね。

 さすがウサギさんね」

 何?

 何が起こったの??

「大地がアナタのキスは甘いって言うから試してみたくなったの」

 き、キスされたぁ!!??

 え?

 な、何で!?

 新種の嫌がらせ???

「お礼に一つ教えてあげる。

 女は自由に生きて良い生き物なのよ

 勿論、月ちゃんもね」

 女の人だよね?

 ホントは男とかじゃないよね?

 だって唇、ふにょんて柔らかかったもん。

 男の人と違ってメチャやわやわでぇ。

  なんかフルーティだったなぁ…。

………て、そういう問題じゃなくてぇ!!!!

「ご馳走さま。」


 パニックを起こしてるアタシは、置き去りにされたことにも気付かずに呆然。

 頭がグルグルして。


「ツキ、いつまで水撒きしてるんだ」

 タイちゃんに声をかけられて、やっと現実に帰還した。


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