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10 美人来襲

10 美人来襲




 タイちゃんが笑っていた。

 包み込むように優しい顔で。


 初めて見たよ。

 タイちゃんの怖くない笑顔。


 その人がとっても大事なんだね。

 その人がとっても好きなんだね。


 二人が並んでいる姿を見てドキリとした。

 あのヒトの肩にタイちゃんの手が触れたのを見て、何故だか心臓が早鐘のように鳴った。


 軟らかそうな栗色の長い髪。

 長い睫に彩られたパッチリの目。

 女性らしい丸みと長い手足。


「貴女が月ちゃん? これから長いお付き合いになると思うの。宜しくね」

 優しい声色。

 艶やかで色っぽい唇は紅くて。


 大人の女のヒト。

 特徴のないアタシからしてみたら理想的な、というか別世界の人のよう。


 ダイパパが言ってた。

 あのヒトは一族の遠縁に当たるんだって。

 望まない縁談話しが持ち上がったのを相談したくて訪ねてきたんだって。


 ヒロ兄が言ってた。

 昔、ヒロ兄の婚約者に名前が挙がったことがあったんだって。

 結局はヒロ兄が恋愛結婚を望んだこともあって縁ができなかったんだって。


 ヨウちゃんが言ってた。

 あのヒトはタイちゃんの初恋の相手なんだって。

 その頃のタイちゃんは小さかったから相手にはされてなかったみたいだけど。


 驚きだよ。

 俺様なタイちゃんにも初恋はあったんだね。


 小さいタイちゃんは、本当は自分が婚約者になりたかったのかなぁ?

 今ではすっかり大人の風貌のタイちゃん。

 二人で並んでもお似合いになった事、タイちゃんも自分で気付いてるよね。


 それにしても。

 タイちゃんてば本当にメンクイだったんだね。

 普段から美人さんと仲良いけど、あのヒトが初恋じゃ理想が高くなっていく訳だね。

 彼女ができない訳だよ。


 驚きだよ。

 俺様なタイちゃんでも初恋の人は特別なんだね。


 夕暮れの庭先。

 二人は立ってた。


 見てしまった。

 あのヒトとタイちゃんがキスしてた。


 今までだって、たぶん他の女のコたちともキスしてたと思う。

 アタシとも挨拶代わりだったしね。


 けれど。

 意味は違う。

 きっと違う。


 あのヒトはアタシと違ってタイちゃんのサプリじゃない。

 栄養補給にならないのにキスするのは……。

 そこに感情があるから。


 タイちゃん、蕩けそうに優しい顔で口付けてた。

 本気で好きなヒトにする時は、そんな顔するんだね。

 重なる二つの影を見ていられなくて、アタシは気がつくとその場を離れてた。


 どうしよう……。


 本気で好きな人が居るなら、アタシとキスなんかしてて良いのかな?

 良い筈ないよね。


 今までと同じ関係で良いのかな?

 良い筈ないよね。


 たとえ理由があっても。

 そんなの間違ってる気がするの……。


 二人はこれからどうするんだろう。


 アタシはこれからどうするんだろう。


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