契約的で一線を引いている溺愛が癖になる
「デートで行きたい場所はどこかあるか?」
「えっ……うーん。ルーイは?」
「特にこれと言ってない」
キスをしたり、一応セックスをしたりと互いに触れ合った関係性とはいえ、私とルーイの距離感はまだまだぎこちないものだった。
表面上では、私のことを溺愛してくれているような言動をとるものの、まだまだ本当に愛が深まったかといえばそうではない。
私とルーイの距離感は、お互いに好きだと自覚し合った程度のものだった。つまり、付き合うという形式になっただけというもの。
だから、私はもっとルーイの愛を心から感じ取りたいし、ルーイもそれは同じことだろう。それだから焦れてデートと言い出したのだ。
だって、ルーイってば、初めは強引だったのに、キスはあっさりと触れるだけで、執拗に舐め回すようなことはしてこなかった。本気で私の身体に侵略してこようとしない。
それは、初めは、ルーイの恋愛魔法の実験台になるということで納得しなかったものの、今ではそこで一線を引かれているような気がして、とても寂しい気持ちになっていった。
そうだ。ルーイは魔法の実験台として、私に一線を引いた上で恋愛している。そこに彼が持つ独特の冷徹さもあり、私はそこに隙間風がつんと吹いていくような寂しさを感じるようになっていた。
だからだろうか。もどかしさやもの寂しさ。なんなの。もっと私のことを本気で好きになろうとしてくれてもいいのに。どこか契約的で一線を引いている溺愛。愛しているのに、愛しきれないそんな感覚でする恋愛には少し気疲れするものがあったがそれはそれで癖になってゆく。
「アリア。デートに行く時のドレスはもう決まったか?」
「どんなドレスがいいと思う? ルーイ」
「それは……アリアの好きにしたらいい」
こんな感じで、どこかそっけない。私と本当に恋をする気なら、私のドレスはこんなものがいいんじゃないか、ということくらい提案してくれてもいいのに。あまり踏み込んでこない。もしかして、ルーイは、不器用であまり女性の扱いに慣れたタイプではないのだろうか。
「好きにしたらいいってーー。じゃあ、この白と紫のドレスにしようかな」
「ああ」
何よ、そのああって適当な返事。自分が好きな女性が着るドレスに関心がないのだろうか。やっぱり本当に自分の恋愛魔法の研究がしたいだけなのか。それとも本当に私の魔法による反応を楽しんでいるだけなのか。彼の反応はいまだに掴めないけれど、そんなところが、矛盾してはいるものの、私の心を絡め取ってゆく。
「ドレスはーー。あまり可愛すぎないものの方がいいな。そのさっぱりした白と紫のドレスでいい」
こんな風にして、会話を適当にした後にさらっと一言言う感じが私の心をするっと絡めとっていったりする。
「さて、行くか」
そう言って玄関にさりげなく出してくれたのは、ヒールが低めの靴だった。彼なりに私が転ばないように歩きやすいように気を遣ってくれたのだろうか。履いてみると、サイズもちょうど良い。いつの間に私の靴のサイズを調べていたのだろう。
「すごい。履きやすい靴!」
「ああ。その方は一応、足や足首に刺激を与えない設計になっているものを選んだ」
いつの間に私の靴のサイズを調べて新調してくれていたのだろう。しかも、素材まで選んで。何気ないところが繊細で気が利くから、ドキッとしてしまう。不器用なのか器用なのか分からない。
ルーイは、私の右手を握って、一緒に歩いてくれた。街中を2人で歩き始めると、街中の人々に注目された。誰?この美青年はと、人々はルーイの方を見てゆく。ルーイはそれくらい、黒髪がサラッとしていて清潔感があり、冷徹な瞳にピンク色の透き通った唇がとても美しく、誰が見ても整った顔立ちで一目置かれる姿をしていた。
「アリア、俺はあまり、街中を歩くことに慣れていない。いつも黒いローブを着て歩いているから、こんなにたくさんの人に見られるのは気が散る」
「そ、そんなこと言ったって……」
あなたのその綺麗な顔はみんなが注目する素晴らしいものなのよ。もっと自信を持って堂々と歩いてほしいのに、どうしてこんなところでシャイな表情をするんだ。
「まあ、いいだろう。今日は気にせず、アリアが楽しめるように好きに街を歩き回ろう」
シャイな顔をしていたルーイだったが、本人もこんな姿勢では情けないと思ったのだろう。私をリードし始めた。少し歩いていくと、綺麗なジュエリーやネックレス、指輪が並んでいる店の前を通った。私はついついその店の前で立ち止まってしまった。
「気になるのか? 自由に見ていいぞ」
「……。うん」
こんな素晴らしいジュエリーやネックレスを見ることはあまり無かったので、私の気分は高まっていた。私は、この店に入り、少し眺めてみることにした。ルーイはこう言う場所に付き合うことを嫌がると思っていたが、全然嫌そうにしていない。それどころかとても興味深そうに見ていた。