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ペトリコールに融けるふたり  作者: 白い黒猫
救いの手を求めて
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姉妹の定義

 結局、期待をしていた祁答院胡蝶も不発に終わり、私たちはマイちゃんが見つけてくれていたカフェを目指す。

 古民家カフェは住宅街の中にひっそりと佇んでいた。


 同じ“昭和っぽくて古い”といっても、先ほどの祁答院の家とはまったく趣が違っていた。

 こちらは、もともと名家だったという話で、凝った欄干の彫刻に中庭、飾り障子で緩やかに仕切られた店内……なんともお洒落な空間だった。


「ね、素敵でしょ?」


 そんな言葉が聞こえてきそうな顔で、マイちゃんが得意げに笑いかけてくる。

 祁答院の家から歩いて十分ほどの距離とはいえ、夏の午後の日差しは容赦なく、店内に案内された頃には私たちの身体はすっかり汗ばんでいた。汗を拭きながら、ふうと息をつく。

 私はアイスコーヒー、マイちゃんはアールグレイのアイスティーを頼み、それにおすすめの季節のタルト──桃と枇杷のタルトをそれぞれ注文した。

 二人で別のスイーツを選ぶのは、あとでシェアして楽しむためだ。

 テーブルに置かれた水をひと口飲んで、ようやく一息つく。


「にしても、祁答院……この時期に水も出さないなんて、ありえないですよね。人道的にどうなんですかって感じです!」


 マイちゃんはぶつぶつ言いながら、また水を飲んだ。


「それに、今までの霊能者とは“それっぽく見せようとするポイント”が明らかにズレてたよね。占い師ならともかく、あの濃すぎる化粧ってどうなの」


「ね。神がかり的な霊能者っぽく見せたいなら、むしろノーメイクか、してても“メイクと気づかれないレベル”であるべきよね~」


 さっきの祁答院でのやりとりを思い出し、二人してなんだか笑ってしまう。


「それにしても、私たちを“双子の姉妹”って! どう見たって似てないでしょ」


「でも私、ちょっと嬉しかったですよ〜。姉妹なんて。ナオコお姉様って呼んでいいですか?」


「ええ〜? 同い年でしょうに! むしろ私の方が三ヶ月年下よ?」


 マイちゃんと付き合うようになってわかったことだけど、私たちは同じ年。

 私が11月生まれで、マイちゃんは八月生まれ。そして、どちらも“11日”生まれ。

 お互いに私の方が年上と勘違いして話していたので、その関係をひっくり返すことができず、今でも口調はそのままだ。

 私の言葉に、マイちゃんは顎に手を当てて「うーん」と考えるような可愛い仕草を見せた。


「双子って、後から生まれたほうが“お兄ちゃん”とか“お姉ちゃん”になるって言うじゃないですか?

 それに、どう見てもナオコお姉様のほうがしっかりしてて頼りがいあるので、お姉様で決定!」


 そんなふうにキッパリ言って、マイちゃんはニッコリと笑った。

 そのタイミングで、注文していた飲み物とタルトが運ばれてきて、話は自然とスイーツの方へと移っていった。


「枇杷って、あんまり食べたことないから新鮮な気持ちです」


 二人でタルトをシェアしながら、甘くて優しい時間を堪能する。

 窓の外では、パラパラと雨の音がし始めた。どうやらまた降ってきたようだ。


 二人でしばらく、静かに雨を見つめる。


「こうなるなら、もっと快適な天気の日にループしてくれたらよかったのにね……こんな不安定な天気の日じゃなくてさ」


 マイちゃんが、ぽつりとつぶやく。


「だよね。四月とか五月? 秋もいいな。紅葉とか見放題だよ。二人で毎日お花見とかできる!」


「いいな~それ! 二人で気ままに花巡り……あ、もしかして、新幹線とか使えば、雨から逃げられるんじゃ?」


 その発想はなかった。


「……マイちゃん天才。旅行しちゃう?」


「いいですね~姉妹で仲良く旅行! 温泉では、お姉様のお背中を流させていただきます♪」


 ……もう完全に、私は“姉”として確定してしまったようだ。

 苦笑しながらも、私はおとなしく頷いた。


ニコニコしていたマイちゃんだけど、突然真剣な表情になり私を見つめてきた。

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